研究者から臨床医、そして実業家… キャリアチェンジの達人・窪田良氏に聞く “理想の自分”になるための仕事術

先日、『「なりたい人」になるための41のやり方』を上梓した窪田良さん。そのタイトル通り、研究者から臨床医、そして実業家と様々なキャリアチェンジを繰り返して何度も自己実現を果たしてきました。「キャリアチェンジを繰り返すことで理想の自分に近づいていく」という考え方は、アメリカでは当たり前だといわれています。今回は「ウォール・ストリート・ジャーナル」から「世界を変える日本人」に選ばれた窪田さんに、キャリアチェンジのコツをアドバイスしていただきます。

 

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▲窪田 良氏

アキュセラ・インク会長、社長兼CEO。慶應義塾大学医学部客員教授。慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。研究医時代に緑内障原因遺伝子「ミオシリン」を発見し須田賞を受賞。眼科臨床医として虎の門病院に勤務、緑内障や白内障などの執刀経験を持つ。2000年に渡米し、ワシントン大学で助教授として勤務。02年にアキュセラ・インクをシアトルの自宅地下室で設立。2014年、東証マザーズに上場した。現在、「飲み薬による失明の治療」を目指して創薬事業に乗り出している。加齢黄斑変性など、さまざまな眼科治療薬を開発している。

逃げるキャリアチェンジはダメ。どんなことでもいいから「達成」して次にいく

――窪田さんは、眼科の研究医として勤務した後、若くして緑内障原因遺伝子であるミオシリンを発見されました。将来の地位は確約されたも同然だったにもかかわらず、臨床医としての腕を磨くために虎の門病院に勤務された。そこで治療法のない眼の病気をわずらう患者さんを目の当たりにし、世の中にない新しい治療法を研究するために渡米。勤務先であるワシントン大学の研究室で発見した独自の細胞培養技術をもとに、起業を決意されました。

 窪田さんがすごいのは、ここでさらに新天地を見出したことです。シアトルの自宅でバイオベンチャー企業アキュセラ・インクを設立し、当初は創薬支援事業でスタートしましたが、数年後にビジネスモデルとして成長の限界に直面し、事業としては全く異なる創薬へと舵を切りました。そして現在は、飲み薬による失明の治療を目指していると。

 キャリアチェンジのお手本のような人生を歩んできた窪田さんですが、キャリアを変えることの意味は何でしょうか?

窪田 人それぞれですが、迷っているなら騙されたと思ってやってみるのもあり、それがキャリアチェンジだと思います。同じところで働き続けてみてそれがベストだと思うならわざわざ変える必要はないでしょう。しかし、少しでも違和感を感じているとしたら、キャリアチェンジを考えてみてもいいと思うのです。最初の試み(就職)で必ずしもその人の人生にフィットするとは限りません。次の試みで「やってみたら違った」というのであれば、それはそれでいいのです。大企業からベンチャーに転じて「違った」と感じたのなら、その時点で大企業の良さが見えてくるわけですからね。肝心なのはマッチングです。

また、隣の芝生が青く見えることについて自分がどう納得するかということ。いずれにしても、「やってみる」ことが必要で、それができて初めて自分の人生を納得することができるわけです。私は、それこそがキャリアチェンジの意味だと考えます。

――キャリアチェンジにタイミングというものはあるのでしょうか?

窪田 個人差はあると思いますが、元の組織で「ひとまとまりの達成」があることが条件ではないでしょうか。お客さんを獲得したとか、自分なりの数値は達成したといったように、確固とした達成を持って他に移るべきです。それさえあれば、「この人は単に飽きっぽい人ではない」と評価してもらえるでしょうし、自分自身がフワフワしているとキャリアチェンジしても成果は出せないと思います。

――窪田さんのようにハッキリとした成果を出してキャリアチェンジするのが理想ですね。

窪田 まあ、それがベストだと思いますが、そこに至るまではやりたくない仕事もたくさんあったんですよ(笑)。毎日、試験管だけ洗うとか、胃が痛くなるようなことをたくさんしてきたのですが、ある段階で「どうやって日々の仕事におもしろみを出していくのか」が大事だと気づいたんです。単調な仕事、つらい仕事をどうやればおもしろくさせるか。その工夫がないとダメです。ゲーム性と言い換えてもいいかもしれません。仕事ですから、好きなことだけをやるわけにはいきません。また、つらい仕事も含めていろんなことを試すからこそ、好きなものが見えてくると思うのです。

――ゲーム性というのはおもしろい視点ですね。

窪田 ゲーミフィケーション(Gamification)ともいいますが、動機付けを自分で見つけていくことが大事です。子どもの頃、勉強が嫌いで45分勉強したら15分はマンガを読んでもいいと自分で決めたことがありました。どんな仕事も面白いことばかりではありません。本当に面白いものを見つけるためには工夫が必要ですし、そのために冒険は続けていかなくてはならないのではないでしょうか。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

人間なんていつ死ぬかわからない。そう思えばリスクも取れる

――眼科医になり、ベンチャーでは「失明する人をなくしたい」という大きな目標にたどりついた窪田さんですが、もうひとつの大きな行動原理が「世界にインパクトを与える人になる」というものだったそうですね。

窪田 親の転勤のためアメリカで小学生時代を過ごしたことが大きいですね。その当時から「日本人が世界でどう見られているか」という問題に関心が芽生えたのです。日本にいた頃は、日本は四季もあって美しくて治安もいいし、すばらしい国だと何となく感じてはいたのですが、アメリカで生活をする中で、必ずしも海外で同じように受け取られているわけではないと知り、固定観念が崩れたのです。

どんな事象でも見る方向や角度が違えばまったく違うものになるし、自分の常識なんて広い世界から見れば大したものではないと気づくことができました。もちろんアメリカの価値観も世界の中で見れば全体の一部ですし、グローバルの規模で異なる価値観を持つ人同士がどうやってつきあえばいいのかと思うようになったのです。

――そこからグローバルな何かを目指すという目標ができたわけですね。そして、比較的早い段階でその目標を達成した、と。

窪田 目標を達成したとは思っていません。ただ、他人からは「どうしてそう生き急いでいるのか」といわれることが少なくありませんでした。僕は、どんなときでも今日が最期の日かもしれないと思って生きてきました。だからこそ、その日にできることは全部やろうという気持ちになれた。明日はもうないと思えば、リスクを取ることができるのです。決してネガティブな意味ではないのですが、「はかなさ」のようなものは常に僕の人生の中にあるのです。

 

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

失敗を怖れて何もしないのは、緩やかに下降線をたどること

――著書の中に「失敗をするべきだ」という趣旨のことが書いてありましたが。

窪田 それは間違いないと思います。失敗ゼロの人生より、無数の失敗で鍛えられた人生の方がはるかにおもしろい。長い時間軸の中で「失敗してよかった」というときは必ずやってきます。オセロのように失敗でもマスを埋めていきさえすれば、最終的に大逆転できるかもしれません。

――最近の若い人は失敗を怖れる傾向が強いと思います。やはり不安が大きいからなのでしょうか?

窪田 確かに何をやるにしても不安は付きものですよね。でも「やってみる」ということを繰り返し試してみてほしい。やってみたら意外と大丈夫だったなんてことはこの世にたくさんありますよ。でもそれはやってみないと気づけない。小さなことでもいいから少しずつ試す。案ずるより産むが易しというぐらいですからね。それを心掛けていけば少しずつ視野が広がるはずです。小さな一歩をベビーステップといいますが、変わっていく自分をワクワクしながら見る感覚ってとても大切なんです。それが重なって自分は大きく成長できるし、世界は広がる。

僕は人間の想像力には限界があると思っているんですよ。そして、経験はしばしば想像を凌駕する。もちろん、食べてみたらおいしくなかったなんてことは山のようにあるわけですが、逆にいえば食べてみないと新しいおいしさには気づけないじゃないですか。

――どんなことでもリスクを取らないとリターンはないということですね。

窪田 何にせよ、感動つまり心の起伏は人生を豊かにします。雨の日が続くからこそ晴れの良さがわかるわけで、マイナスの経験、つらい経験があれば、良かったことがあったときさらに嬉しいでしょう。僕はよくおめでたい性格だといわれますが、人生のマイナスポイントは感動を引き立てる前奏なんじゃないでしょうか。それから――ここが大事なのですが――人生なんて失敗だけで終わることはまずありません。だとしたら失敗を怖れている暇なんてないのです。

――しばらく前に大きなトラブルに見舞われたそうですね。創業したベンチャー企業が乗っ取られるところだったとか。

窪田 一度はCEOを解任されましたからね。ただ、それも失敗だとは捉えていないのです。私が作った会社をそこまで欲しがるぐらいなんだから、自分のやってきたことは認められたのだという実感になりました。むしろ、投資家から信任されたことで求心力も高まりましたし、この経験を通して人生の幅が拡がったんじゃないかとすら思えてきたぐらいです。

――ものすごく前向きですよね。

窪田 そもそも「失敗は良くない」「避けるべきだ」というのは極めて日本独特な価値観なんです。失敗を怖れて現状維持を続けるなんて、明らかにマイナスです。もう一度いいますが、肝心なのはどの時間軸で見るかということ。失敗した直後は落ち込むでしょうが、長い人生の中では必ずそれを活かすときがやってくるのです。

――安定性を求めるのは間違い?

窪田 いえ、安定性は重要なモチベーションだと思いますが、チャレンジしないという選択では本当の安定にはなりません。リスクを取らなければどんどん失っていくということに気づかないといけません。また、日々の生活の中で繊細な感覚を身につけていくことも必要です。感覚を研ぎ澄ませていけば、自分の変化に気づくことができますから。

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『「なりたい人」になるための41のやり方』

窪田良・著 

研究者として華々しい業績を残した後、臨床医として活躍、その後競争の激しいアメリカでバイオベンチャー、アキュセラ・インクを創業し日本で上場――あらゆる成功を手中に収めた窪田良氏が豊富な経験を元につづった「なりたい人」 になるためのノウハウ。彼が提言する「41のやり方」は単なる観念論ではない。すべてが実体験に基づく極めて実践的な理論だ。人生の進路を変えたいと望む人にとって力強いアドバイスになるはずだ。サンマーク出版刊

取材・文 田中裕

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