「女性の活躍推進」に黄信号!?年間500社超の人事部取材から見えたこと

年間500社以上の企業の人事部、人材開発部門に取材を行い、企業の人材採用や、人材開発についての現状に詳しい中央大学大学院客員教授の楠田祐氏。最近、企業を訪問する中で感じるようになった、「女性人材活用における気になる傾向」を危惧しているという。多くの人事部門を見続けてきた氏が危惧する傾向とは。詳しく聞いてみた。

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楠田 祐氏
中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授/戦略的人材マネジメント研究所 代表 
大手エレクトロニクス関連企業など3社を経験した後に、人材開発・育成を手掛けるベンチャーを立ち上げ社長業を10年経験。2008年に企業への人事戦略アドバイスを行う戦略的人事マネジメント研究所を設立し、2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究するほか、多数の企業で顧問も担う。著書に『破壊と創造の人事』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

育休復帰後の女性社員が、数年で辞めてしまう例が増えている

「人」は会社の要。すなわち、企業の成長や経営戦略にも関わる重要な役割を担っている人事部門では、常にさまざまな課題を抱えています。
 近年よく耳にする課題としては、60歳以上の雇用、バブル世代の活用、グローバル化を担う人材の確保などが挙げられますが、最近「これは根が深いのでは」と感じているのが、女性の管理職登用など「女性の活躍推進」についての課題です。

 内閣府発表の「女性の労働力率」グラフを見ると、結婚・出産期に当たる年代にグラフが落ち込み、育児がひと段落したころに再び上昇するという、いわゆる「M字カーブ」を描いています。

<女性の年齢階級別労働力率の推移>

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(出所)内閣府「男女共同参画白書 平成25年版」
(備考)総務省「労働力調査(基本集計)」より作成。「労働力率」は、15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合

 このM字カーブの「山と谷の差」が、近年縮まりつつあると言われています。産休・育休の充実により、出産を機に退職を選ぶ女性が減り、育休取得後に復職する率が高まったことが、要因の一つとして挙げられます。これ自身は、非常にいい傾向と言えます。
 ただ、気になるのは「その後」。近年、多くの企業で、「育休明けで復職した後、1~3年で辞めていく女性社員が目立ち始めている」というのです。

 このような課題を抱えている企業に対してヒアリングを続けていくと、2つの傾向が見えてきます。一つは、「育児と仕事を両立する女性社員を区別しすぎていること」、そしてもう一つは、「男性社員による密かな抵抗」です。

働く母親への「必要以上の配慮」がモチベーションを下げる結果に

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 一昔前には、時間の融通が利かないママさん社員を閑職に追いやるなどして「差別」する企業も少なからず見受けられましたが、近年ではまずありません。ただ、その代わりに「区別」が増しているという印象を受けています。

「区別」とは、子を持つ女性社員への「必要以上の配慮」を指します。育児との両立は大変だろうからと、本人のそれまでのキャリアや意思とは関係なく、比較的楽な部署に配属し、負荷があまりかからない業務を任せるという企業が増えています。それは、人事からすれば差別によるものではなく、「女性に優しい企業」を目指す一環なのですが、どんなに楽な部署であっても経験のない部署で一から仕事を覚えるのは大きな負担です。しかも、必要以上に簡単な仕事ばかりを任されていては、身に付くスキルにも限界があります。同年代の「区別されていない」社員に比べると、どうしても評価に差がついてしまい、その明らかな差に愕然としてやる気を失ってしまう…というケースが増えているようです。最近では「マミートラック問題」と言われ、よくメディアでも取り上げられていますが、出産前はバリバリ仕事に取り組み、キャリアを追っていた女性社員に特に多く見られる傾向であり、非常にもったいないと感じますね。

「男性社員による密かな抵抗」は、安部政権による「女性の活躍推進」の方針を受けて強まってきた流れ。
 政府が、2020年までに女性管理職の比率を30%にするとの数値目標を掲げたことで、「このままではポストが減る」と危機感を覚えた男性社員が、「今のうちにポストを押さえておきたい」と上司に働きかける。そして、「女性より男性のほうが使い勝手がいい」と考える男性上司側がそれに応える…という傾向が、一部企業ではありますが、見て取れます。
 
 これらの課題は全て、人事部へのヒアリングでつかんだものです。しかし、「女性社員がそもそも少ないから」「予算がないし、本腰を入れて取り組む時間がないから」などと言い訳をして、課題解決になかなか動こうとしない人事が意外に多いのです。もちろん、課題に真摯に向き合い、経営陣に働きかける優秀な人事はそれ以上に多いのですが…。やらない理由ばかり挙げて、「自分の任期中は何とかごまかしておきたい」という後ろ向きな人事トップの会社に明るい未来はないと、私は思います。

「働く環境を変える」という選択をするならば、次の2つは確認を

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 これを読んだ女性社員の中には、「ウチの会社、まさに当てはまる!」と思った人もいるでしょう。自分の生活リズムに合わせて安定的に働きたいという人は、そのまま働き続けるのもいいかもしれません。自ら手を挙げて賛同者を募り、改革に動くのも、もちろんありでしょう。
 もっとキャリアを積みたい、結婚・出産後も活躍したいという人は、「転職して環境を変える」ことも一つの手段です。ただ、その際には同じ轍を踏まないように事前に企業を見極めることが大切。私がお勧めする見極めポイントは、次の2つです。

●社長が「自分の言葉」で、女性の活躍推進の方針を語っているか
「女性の活躍推進」は、今やどの企業も経営戦略の中で謳っていますが、企業のトップが話しているか否かで、その確度は変わります。
 どの企業においても、「鶴の一声」の効果はてきめんです。企業のトップである社長が全社員に向けて、自分の口から会社の方針を発信している企業は、トップの声が社員一人ひとりに浸透し、根付いている可能性が高いです。
 テレビや雑誌、新聞等のインタビューや、講演会のもようなどをチェックしてみるといいでしょう。自社ホームページに載っている年頭訓示などでも◎。その際、社長の代わりに経営企画部の社員がシナリオを書き、社長は話しているだけというケースもあるので、定型文ではなく、文章から「熱さ」を感じられるかどうかをチェックしてください。音声を含めた映像データがあれば、より掴みやすくていいですね。

●男性の育休取得率が増えているか
 男性社員が育児休暇を取ったり、定時で帰ったりすることに対して風当たりが強い企業はまだまだ多く存在します。
 上司に育休取得を申請したところ、「え、奥さん育休中じゃないの?お前、ヒマなの?」とか「評価が下がるけど、いいの?」などと、「パタハラ(パタニティー・ハラスメント:男性の育児参加を妨げるような言動)」を受けたという男性社員の声をよく聞きます。「制度を設けたものの、現場の圧力が強く、ほとんど使われていない」「くるみんマーク(厚生労働省による子育てサポートの証)が欲しいから、人事部の社員で実績を作った」なんていうケースもあるようです。
 そんな企業に転職しても、ますます女性が「区別」されるだけ。そもそも、男性の育休は、妻が専業主婦の場合や育休中でも取れると定められています。「奥さんが専業主婦のくせに」などというほうが無知なのです。

 キャリアアップ転職を志す際は、企業ホームページや面接の場などで、これら2つのポイントを確認してみましょう。上記の条件を満たす企業は少なくとも、男性・女性、子供がいる・いないにかかわらず、社員一人ひとりを尊重する「本当の意味での社員に優しい企業」である可能性が高いでしょう。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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