• TOP
  • アーカイブ
  • 平均年齢約60歳、男性職人のみ、10年連続赤字で倒産寸前の町工場が新卒採用を決断。「銀ロウ溶接女子」が社内コミュニケーション活性化を促し会社復活の起爆剤に

平均年齢約60歳、男性職人のみ、10年連続赤字で倒産寸前の町工場が新卒採用を決断。「銀ロウ溶接女子」が社内コミュニケーション活性化を促し会社復活の起爆剤に

株式会社佐藤製作所
取り組みの概要
創業66年の町工場。今の常務である佐藤さんが入社した2014年時点では、平均年齢約60歳の「おじさん職人」ばかりだった。会社の業績は右肩下がりで10年連続の赤字、昇給もボーナスもなく、不平不満ばかりが飛び交う社内。社員のモチベーションダウンにより、納期は遅延が続き、不良品も多発するという絶望的な状況にあった。次世代を担う若い人材、特に女性社員に入ってもらうことで社内の雰囲気を変えようと、佐藤常務主導で会社史上初の新卒採用に踏み切り、人事制度や労務環境を一から見直し、新卒採用に絞ってアプローチしたことで、2015年以降継続的に若手社員の採用を行うと共に、離職者ゼロを実現。 はじめは反発していたベテラン職人たちも、若手がまじめに仕事に取り組む姿を見て徐々に意識が変化、暗かった職場に笑顔と会話が生まれるようになった。社内コミュニケーションが活発化したことで仕事もスムーズに進むようになり、ミスや不良品発生率、納期遅延が激減し業績もV字回復に。
取り組みへの思い
はじめは、業務改善などを提案しても頭ごなしに否定されるのが辛くて、「未来に向けて一緒に頑張ってくれる仲間が欲しい」と思ったのがきっかけ。職人のほとんどが60代以上であり、今後たとえ赤字が解消できても、若い人を採用しないと事業継続そのものが難しいとの危機感もありました。 若手、特に女性社員が入社したことで、社内の雰囲気はがらりと変わりました。今まで不平不満しか言わなかったベテラン男性職人が皆笑顔になり、社内に前向きな雑談が生まれ、コミュニケーションも円滑になりました。女性視点での新規事業や業務改善策も次々と生まれ、業績の安定に繋がっています。 (常務取締役/佐藤 修哉さん)
受賞のポイント
1.男性中心な町工場の職場環境を打破するため、積極的に女性社員の採用を進めた 2.若い世代の仕事に向き合う姿勢から、ベテラン社員の意識改革、コミュニケーション改善につながっている 3.モノづくりに興味のある女性が働きやすい職場として、新卒での女性の応募希望者が増加

10年連続の赤字 会社の雰囲気を変えるため、新卒採用を決意

佐藤製作所は、従業員数20名ほどの町工場。佐藤さんの祖父が立ち上げた町工場だ。

銀ロウ付け、アルミロウ付け、ハンダ付けといった金属加工の仕事で高い技術力を持ち、創業以来、大手メーカーから労せず仕事が舞い込む状態が続いていた。

しかし、2005年ごろから業績が徐々に悪化。佐藤さんが入社した2014年には、10年連続の赤字にあえいでいた。

佐藤さんが入社したのは、そんな最中だった。実のところ、会社がこのような状況にあるとは入社するまで全く知らなかったという。

佐藤さんが初めに感じたのは、社内の雰囲気の悪さ。社員同士の会話が一切なく、職場も工場もシーンと静まり返っていた。たまに口を開いたと思えば、会社や社長に対する悪口ばかり。「この会社には未来がないから辞めたほうがいい」と何度も言われたという。

そして、徐々に見えてきたのが業務管理、売り上げ管理のずさんさ。

製造業にとって、不良品を出さないこと、納期を守ることは基本中の基本だが、毎週のように不良が頻発し、納期遅延も当たり前という状態だった。しかし、それを職人や役員に指摘すると、「自分は悪くない。指示する側が悪い」などと猛反発されてしまったという。

また、問題が発生すれば、全て佐藤さんが1人で客先に出向いて謝罪するという事が毎日のように繰り返し起きていた。

製品の売値もどんぶり勘定で決められていて、コストを考えると原価割れしているものがいくつもあった。しかし、これも「今までこの価格でやってきたんだから」と言われて終わり。現状を問題視する人がいない以上、自分1人で改革するしかない…と佐藤さんは腹をくくった。

唯一の頼みの綱は、銀ロウ付けという自社独自の技術。それ以外は、原価管理や製造管理、人事、労務、経理、営業、作業場の整理整頓…すべてを改善しなければならない。

まず行ったのは、価格交渉。全取引先を回って、これまでどんぶり勘定で決めていた数千点の部品について、一つひとつ価格の再交渉を行った。仕入れ値などをすべてオープンにして、今までの値付けが間違っていたこと、価格を再検討いただかないと事業継続が難しいことを正直に伝えることで、既存顧客から了承をもらうことに少しずつだが成功した。

そして、不良品を出した職人には、当事者意識を持ってもらうためにクライアント先に同行してもらうことを徹底。そのうえで、原因と再発防止のレポート提出を必須にしたことで、「問題を起こすと顧客にこんなに迷惑がかかるし、自分の手間もかかる」と実感してもらうようにした。しかし、大きな反発や否定意見が社内全体から生まれ、全くスムーズにはいかなかった。

同時に、新規取引先の拡大にも注力。ホームページで自社の強みである銀ロウ付けを前面に打ち出すなどして、集客を強化した。「銀ロウ付けでは競合が少ないことはわかっていたので、銀ロウで検索してたどり着いたクライアントを逃さず獲得する」(佐藤さん)姿勢で売り上げを少しずつ伸ばし、早期に赤字解消のめどは立った。しかし、社内の雰囲気はなかなか変わらずに、孤立した状況は依然として続いていた。

「そんな中、なぜこの業界や弊社には女性社員がいないんだろう?とふと疑問に思ったんです。技術職メインの会社ではあるものの、営業や広報、品質管理・納品管理などは、女性にも活躍してもらえる仕事であるはず。そもそも、技術仕事をしたいという女性も絶対にいるはずだと考えました。ベテラン男性ばかりのどんよりした職場に若く、やる気のある社員が入ってくれれば、雰囲気が変わるのではないかとも考え、新卒社員、特に女性社員を採用することを決意しました」(佐藤さん)

常務取締役/佐藤 修哉さん

独自の技術をフックに、ものづくりに興味を持つ若者の心をつかむ

佐藤さんは入社以来、赤字解消のためにさまざまな展示会や商談会などに積極的に足を運び、情報収集したり人脈を作ったりしていたが、ある展示会で知り合った人が、都立産業技術高専のインターンシップ担当者だった。その人に、「新卒採用をするならば、うちの学校のインターンシップ説明会に参加してみませんか?」と誘われたことが、採用活動の初めの一歩となった。佐藤さんが入社して半年超が経った、2014年夏のことだった。

同校はものづくりのスペシャリストを養成する学校として知られ、インターンシップ説明会にも有名メーカーをはじめさまざまな企業が参加していた。そのような有名企業が多い状況で佐藤さんが説明会を行った150名の学生の中、4名の学生がインターンシップに応募してくれたという。

「うちのような全く無名の小さな工場に、いきなり4名の学生がインターンシップ応募してくれたことで、手ごたえを感じました。皆、当社の銀ロウ付けに興味を持ってくれたようで、もっと広くPRすればさらに多くの学生に注目してもらえるのではないかと思いました」(佐藤さん)

しかし、社内では、「誰が面倒を見るの?」「やったところで、どうせ若者なんて来ない」「時間の無駄だ」など、全員がインターンシップに大反対だったが、会社の将来を考えればやらない選択肢はなかった。

初のインターンシップは、5日間のプログラム。叔父である専務取締役を巻き込み、1日目は会社説明会とディスカッション、2~4日目は現場での溶接体験、そして最終日には仕入れ先企業への見学ツアーというプログラムを設計した。参加した4名の学生からは、「ものづくりを体験することができ、他の企業との関わりも見ることができた」と好評で、そのうちの1名はその後入社し、現在、現場でナンバー2の腕をもつ若手ロウ付け溶接職人になり、後輩の指導を行っている。

「彼に翌年以降のインターンシップのサポートをお願いする事で、また若い人が増えるという、いい循環ができ上がりました」(佐藤さん)

人事制度や職場環境を一から見直し、女性も働きやすい土台を作る

こうして若手社員は徐々に増えたものの、当初は女性からの応募は少なかった。おじさんばかりの町工場に応募するのはためらわれる…という女子学生の気持ちも理解できた。

そこで着手したのは、女性受け入れの土台作り。懸念を少しでも減らすべく、人事制度や職場環境の抜本的な改善に着手した。

これまでは土曜日は隔週出社で、祝日の出勤も多かったが、土日祝日を完全休みにして残業もゼロに。産休育休制度や生理休暇も新設した。さまざまな道具が乱雑に置かれた古くて汚い工場も、職人の反発を招かないよう、全員が帰宅した後の夜間に佐藤さんがほぼ毎日、1人でこっそりと掃除をして、放置されていた道具や材料も少しずつ処分していった。

「残業ゼロに関しては、『生産が間に合わなくなる』と経営陣からの猛反発を受けました。しかし、モチベーションが低いままダラダラ働いているから不良品が増え、納期も遅れているので、勤務時間を短くしても問題ないことはわかっていました。全役員から大反対を受けながら、無理やり残業ゼロを敢行しましたが、時間の制限ができたことで皆が集中して目の前の業務に取り組むようになり、結果的に納期遅延が減り、不良率も下がりました」(佐藤さん)

同時に、自社の強みを前面に押し出した求人票を新たに作成。他社が定型フォーマット通りに募集要項や会社概要を記す中、フリースペースを使って「銀ロウ付け」をドーンと大きくアピール。ものづくりに興味を持つ学生たちに「銀ロウって何だろう?この会社は何をしているんだろう?」と目を止めてもらうよう工夫した。併せて、残業ゼロであり定時で帰れること、都心にあり交通の便もよく転勤もないことなどもアピールした。

女性社員の活躍で社内が活性化し、業績もアップ

これらの取り組みにより、女子学生からの応募も徐々に増加。2015年から2022年までの間に4名の新卒女性が入社している。2023年4月入社予の新入社員2名は、いずれも女性だ。2015年からこれまで6名の新卒女性の採用を行っている。

最初に入社した女性社員は技術職希望。ベテラン職人は当初どのように接していいのかわからず、戸惑っていたというが、若い女性がまじめに一生懸命仕事に取り組む姿を見て、皆の意識や仕事への姿勢も徐々に変化していった。

2019年に入社した女性社員は、管理業務を担当。彼女は納期管理や品質管理が得意で、ベテランの職人にも臆せず意見し、お尻を叩けるタイプ。彼女の頑張りにより、製品の不良や納期遅延がさらに減少した。

そして、2020年にはサレジオ高専のデザイン科を卒業した佐々木さんが入社。これまで佐藤製作所に無かった広報の仕事、さらに営業、管理、現場作業などを幅広く担当している。

「佐々木さんの発案で広報部門を新たに立ち上げ、『銀ロウだより』という広報物を自らデザイン、発行、取引先に発送しています。この効果もあり、新規顧客獲得や既存顧客からの取り引き拡大にもつながっています。彼女はコミュニケーション力も高く、わからないことがあればベテラン社員にどんどん質問し、懐の中に入って行く。彼女が入ったことで、社内コミュニケーションがさらに活発化したと感じます」(佐藤さん)

佐々木さんは学生時代、将来はものづくりに関わる仕事に就きたいと考えていた。学校の掲示板で佐藤製作所の求人を知り、銀ロウ付けという技術に興味を持ったのが応募のきっかけだという。

「ベテラン職人が多い町工場ではありますが、すでに若手社員もいたのでギャップを感じることはありませんでしたね。ベテランの職人さんたちも、質問すれば丁寧に教えてくれるし、一緒により良い方法を考えてくれるので頼りになります。何より、ものづくりの現場はとても楽しい。広報の仕事を任されていることも嬉しいですが、自分がロウ付けした製品が出荷されていくのを見ると、ものづくりに関われている喜びとやりがいを感じます。中小企業の町工場は、若い女性には働きづらいというイメージがあるかもしれませんが、当社のようなケースもあるのだと広く発信し続けたいですね」(佐々木さん)

広報・営業担当/佐々木 彩佳さん

やる気を失っていたベテラン職人が笑顔を取り戻し、若い社員と笑顔で雑談を交わす…佐藤さんが入社したころには考えられない光景が広がっている。活気に湧く社内を見渡しながら、佐藤さんはこう話す。

「これまでは不可能だと思われていた、町工場における安定した新卒採用や女性採用、女性職人の育成、そして離職率の低い職場作り。当社がそれを実現し続けていることで、同業他社から相談を受けることや、メディアからの取材依頼なども増え、ポジティブな効果が広がっていると感じます。今後は、同様の課題を抱えている町工場や中小企業に対するサポート事業を検討するなど、ものづくりの現場の活性化に貢献できたらと考えています」(佐藤さん)

(WRITING:伊藤理子)

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第9回(2022年度)の受賞取り組み