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その姿を見て「将来は地元で働きたい」と子どもたちが言った。徳島・神山の古民家で働くスタッフが体現する、新しいワークスタイル

Sansan株式会社
取り組みの概要
田舎の古民家を改装しオフィスとして運用。本社と離れた徳島でも最先端の技術で成果が出せることを証明している
取り組みを始めたきっかけ
地域活性化に取り組むNPO団体の紹介から。創造性を発揮できるオフィスを作りたかった
取り組みを運用する秘訣
2、3泊から常駐まで柔軟な使い方で運用。営業職でもリモートで成果を出せる仕組みを開発
よかったこと
地方でも成果を出せるワークスタイルを体現。地元雇用を生み出し、地元の子どもたちに働き方の選択肢を伝えている

ゼロから価値を作るのがSansan流。前例がなくとも、気にしなかった

神山ラボで働く辰濱さん(左)、團さん(右)

徳島県神山町。徳島市内から車で約1時間の、緑豊かな山あいの町だ。近年この地域に、最先端のIT企業が拠点を構え注目を集めている。その先駆けとなったのがSansanだった。

「クリエイティブな若者」を求める地元の声に応じて

空家となっていた古民家を借り、「Sansan神山ラボ」として使用し始めたのは2010年。現地で地域活性化に取り組むNPO法人からの紹介がきっかけだった。「神山のやり方は面白くて、現地が誘致したい業種を逆指名していたんです。『パン屋がないから来てほしい』といった具合に。そんな中に、若いクリエイターが集まると面白いんじゃないかという声があった。当社はすぐに乗っかりました」。取締役CWO(Chief Workstyle Officer)の角川素久さんはそう振り返る。

目的はエンジニアの生産性向上だった。営業部署とデスクを並べるにぎやかな環境よりも、静かに作業に没頭できる環境を作ってあげたいとの思いがあったという。現地を視察した代表取締役社長・寺田親弘さんの目には、かつて訪れたシリコンバレーの自然豊かな風景と神山のそれが重なって見えた。

全職種が神山へ。「オンライン営業」も実践した

冷暖房がなく、昔ながらの「ぼっとん便所」だった古民家を少しずつ改装。同時にエンジニアをはじめとするさまざまな職種のスタッフが現地へ飛び、2週間から4週間程度の滞在を経験した。最寄りのコンビニまで車で10分。都会の便利さがまったくない環境だからこそ、業務に集中することができたという。社内グループウェアにより、本社とコミュニケーションを密にしながら日々を過ごす。これまでに全職種のおよそ40人が神山勤務を経験してきた。

特筆すべきは、営業部門のメンバーも神山で仕事ができることだ。Sansan独自のオンライン営業システムを使い、対面せずにアプローチからクロージングまでを完結する仕組みが生まれた。商談が短時間で済むというクライアント側のメリットもあり、以降この手法が定着し成果を上げている。「前例のないことでも、目的を持ってチャレンジしてみようという当社の文化を体現できたのだと思います」と角川さんは胸を張る。

神山ラボのすぐ隣には畑が広がる

地元を愛するエンジニア その評判が子どもたちにも伝わる

初めての常駐社員、初めての現地採用

一時滞在用のオフィスだった神山ラボに初めて常駐を希望したのは、オペレーション部・開発グループの團洋一さん。地元徳島の出身だ。田舎暮らしをすること、リモートワークをすることに興味があり、家族とともにUターンした。ラボの敷地内で畑を耕し、地元の農業講習会に出席するなど、神山住民としての生活を楽しんでいる。「僕のような『普通の能力で普通のテンションのエンジニア』でも、ちゃんとリモートワークできるんだということを証明したい」と話す。

Sansan事業部・開発部の辰濱健一さんも徳島出身。徳島市でエンジニアとして働いてきた。神山ラボの現地採用第一号だ。「以前から『神山にIT企業が集まっている』と話題になっていました。徳島でも最先端の技術で仕事ができるということを、この神山ラボから発信していきたいと思っています」と語る。辰濱さんは今年、チームリーダーにも就任。神山ラボにいながらキャリアアップを実現していこうとしている。

2人に共通しているのは、脱・都会のこだわり。エンジニアとしての誇りと、神山という町、田舎での暮らしに対する愛着がモチベーションになっている。こうした姿が、地元へも静かに影響を与え始めていた。

「ずっと地元で生きていく」という選択肢が復活する時代へ

かつて神山の子どもたちは、学校を卒業したら徳島市内か、あるいは大阪や東京へ出て働くことが当たり前だった。親たちも、そうするしかないと考えていた。地元には仕事がなく、やがては消えゆく運命の町なのかもしれないと思っていた。だが、Sansanのように神山をあえて拠点に選び、楽しそうに働くエンジニアの噂を聞いて、子どもたちの考え方も変わってきているという。

「NPOの方々が学校で聞いたところ、『将来は地元で働きたい』と答える子どもが全体の半分くらいになっているそうです。以前はほとんどいなかったんですよ」と辰濱さんは教えてくれた。テクノロジーの進化と、新しいワークスタイルを体現した人々の影響だと考えられている。事実、Sansanの取り組みを参考に神山へ進出する企業が増え、働く場所は増えているのだ。Sansanでも徳島での現地採用には継続して力を入れていくという。

大好きな地元に残り、ノートパソコンを小脇に抱えて都会とコミュニケーションを取りながら働く。数年後には、そんな姿が当たり前になっているのかもしれない。地域が内側から活性化していく、一つの好事例が神山にあった。

神山ラボの雰囲気を再現した東京オフィス
作業に集中できるよう工夫された團さん専用のスペース(神山ラボ)

受賞者コメント

角川 素久 さん

4年前に神山へ進出した際、仲介していただいたNPO法人・グリーンバレーの理事長に『地域貢献なんて考えなくていい。まずは神山でSansanの事業を成り立たせてほしい』と言われ、肩の力を抜いて挑戦できました。まずは自分たちが元気になれるよう全力で取り組み、その結果として地域を元気にできたことをうれしく思っています

審査員コメント

金井 壽宏

地域の古民家を利用して社員に働く場所や労働環境について選択肢を与えただけでなく、都市部の企業が続々と神山に進出し、「神山ブーム」の火付け役となるなど地域活性化に貢献されていることを賞賛すべき点と感じました。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第1回(2014年度)の受賞取り組み