高島敦司さん （仮名・28歳）
	小規模のWeb制作会社で5年間、Webデザイナーとして活躍。デザイン以外にも広く経験を積みたいと転職活動を行い、ビジネスプロデュースから携われるネットベンチャーと、大手コンテンツ会社のデザイン職に内定。いずれも甲乙つけがたく、迷いに迷っている。
	・当初の転職目的から行くと、ビジネスプロデュースという未知の分野を任されるベンチャーに魅力を感じる。しかし、大手に行けばそれだけ世の中に影響を与える仕事に携われるうえ、給与などの条件面もいい。 ・正直、どちらにもメリットとデメリットがある。「嬉しい悩み」と言われるかもしれないが、一生を左右する決断になるだけになかなか絞り切れず、悩み疲れてしまった。

社員数15人ほどの小さなWeb制作会社で、Webデザイナーとしてキャリアを積みました。5年が経ち、今後のキャリアを考えたときに、「マーケティングやWeb設計、プロデュースなど、デザイン以外の経験も積める環境に移って総合力をつけたい」と考え、昨年末より転職活動を始めました。そして、今月に入ってありがたいことに2社から内定をいただいたのですが、どちらの会社も魅力的で…。数日内にどちらかに決めなければならないのに、なかなか決め切れません。内定が出てから2、3日経ったのですが、悩みすぎて疲れてしまいました…。

この「転活悩み相談」が始まって2年以上経ちますが、そのようなお悩みは初めてですね（笑）。ぜいたくな悩みじゃないですか。

自分でも、そう思います。2社からいただけるなんて、ありがたいことなのですが…。考えれば考えるほどに、どちらに行けばいいのかわからなくなって…。

どんな会社に内定をもらっているのですか？

まず1社目は、Web系のベンチャー企業です。社員数は30人程度で、エンターテインメントのWebコンテンツを多数制作しています。今後、ソーシャルメディア対応の新しいコンテンツを生み出していこうとしていて、私にWebデザインはもちろん、新規事業の企画・設計・実行といったビジネスプロデュース的な役割も任せたいと言ってくれています。

ほう。そもそもの転職目的に、ピッタリはまる会社に内定をもらったのですね！で、もう1社、迷っているのは？

大手コンテンツ会社です。ここはWebデザイナー職としての採用で、今までの経験がフルに活かせますが、デザイナー職以外の職務は任されません。ただ、人気企業なので、クリエイターとしてスキルを積んだ人が多数集まっていて、刺激的な環境でデザインの仕事ができそうだというワクワク感があるんです。業績も安定しているし、提示された給与額がそこそこ高い点にも惹かれています。

なるほど。迷う気持ちはわからないでもないですね。ただ、高島さんは、今後のキャリアを考えて、「デザイナーのキャリアを突き詰めるだけではなく、企画やマーケティングなどの上流工程の経験も積みたい」と思って、転職活動に踏み切ったんですよね？ならばおのずと、答えは「ビジネスプロデュースまで任せてくれるベンチャー」になるのでは？

まずは、転職で本当に実現したいことは何なのか、今一度、高島さんご自身が認識することです。そのうえで、どちらを選ぶべきなのか考えないと、いくら考えても心が揺らぐだけですよ。

そ、そうですよね…。

今までの話を聞いていると、高島さんの「転職の目的」は3つ考えられます。まずは、「デザイナー以外の経験を積める環境でキャリアの幅を広げる」こと。次に、「刺激的な仲間が周りにいる環境で、刺激を受けながらクリエイティブを磨いていきたい」ということ。そして、「制度が整った環境で、ある程度の給与も得て安定して働きたい」ということ。

その通りです。

ただ、これらが並列のままでは、迷うだけです。転職の目的が明確になったら、次に優先順位をつけましょう。ご自身にとって、最も重視したいポイントは何ですか？

うーん…。3つの理由とも、正直いって叶えたい目標ではあるのですが…。どれかと言われれば、やはり1つめの「デザイナー以外の経験を積んでステップアップすること」でしょうか。前職で「デザイナーとしてのキャリアだけでいいのか」と悩み、名刺に「デザイナー」という文字だけでなく、マーケティングとか企画とか、プラスアルファの肩書を入れたいとずっと思っていたので。

ならば、やはりベンチャーを選ぶべきではないでしょうか。デザイナーとしての経験、スキルは高島さんの大きな武器ですが、それ以外にも武器と言えるものを持つことで、キャリアアップを図りたいのですよね？…小さい組織にいたから、一度は大きな組織を経験してみたい、という気持ちはよくわかります。でも、いくら刺激的な仲間や尊敬できる先輩がいても、デザイン以外のキャリアが積みにくいとわかっている以上、入社後もまた「デザイナーとしてのキャリアだけでいいのか」と同じ悩みを抱えることになりますよ。どちらの会社を選ぶのが近道か、もう明確では？

確かに…。

先ほど「大手に行けるのは最後のチャンスかもしれない」とおっしゃっていましたが、決してそんなことはないですよ。Web制作会社で5年デザインを手がけ、それをベースにビジネスプロデュースの経験を積む。次の会社で丸3年経験を積んだとしても、高島さんはまだ31歳です。デザインはもちろん、新規事業の企画や立ち上げも担える人となれば、市場価値はとても高い。たとえ2社はベンチャーであっても、「3社目で大手に転職」は不可能ではありませんよ。

なるほど…言われてみればそうですね。目の前の霧が、少し晴れてきました。

こんなことを言うとまた迷うかもしれませんが、大手を選ぶのも一つの選択であって、決して間違っているとは思いません。どんな環境に行っても、自分次第で挑戦できることはいくらでもあるはずですからね。要は、「その会社で、自分の価値をどれだけ発揮してきたか」が大切。自分が関わったことで、会社がどう変わったか、どんな影響を与えられたか、自信を持って語れる仕事をしていれば、次にまた転職することになっても、高く評価されるはずですよ。

わかりました。どこに行っても自分の努力次第なんだと思うと、気が楽になりました。もう一度じっくり転職の目的を考え、選択したいと思います。

もう大丈夫そうですね（笑）。「すぐに決めなければ！」と混乱されたのだと思いますが、そもそも高島さんの中で「これがやりたい」という思いがしっかり定まっていたからこそ、面接でも堂々としたやり取りができ、すんなり内定がもらえたんだと思いますよ。今一度、落ち着いて自分の本当の気持ちと向き合ってみてくださいね。

EDIT

伊藤理子

DESIGN

マグスター

ILLUST

もりいくすお

PHOTO

TAKE

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