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復興支援サイトsinsai.info クラウドJAWS-UG ITで復興を支援!ボランティア・エンジニアが動いた
 東日本大震災の発生直後から、エンジニアたちが次々とボランティアに立ち上がった。彼らの共通した思いは「技術の力で被災者を支援したい」。このITを使った活動は大きな成果を上げ、新しい手法として注目を集めている。震災から3カ月、彼らの活躍の詳細と今後の動向を取材した。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/平山諭、高橋マサシ) 作成日:11.06.13
sinsai.info JAWS-UG
震災後4時間で立ち上げた復興支援サイト、エンジニアが集結 クラウドを使ったインフラ復旧、ユーザー会が動き出した
sinsai.info 震災後4時間で立ち上げた復興支援サイト、エンジニアが集結
 東日本大震災の発生が14時46分。その後4時間もたたない18時27分に公開された復興支援サイトが「sinsai.info」だ。このサイトの構築や運営は、実は百人単位のエンジニアに支えられている。Twitterを介して集まった彼らは、「作業に魅力を感じる」「優秀なエンジニアばかりで刺激になる」と明るく語る。
Twitterをきっかけにエンジニアが続々と結集
 3月11日14時46分に東日本大震災が発生。その直後からOSMFJのメンバーが動き出した。代表理事の三浦広志氏(現sinsai.info副責任者)がクライシスマッピングをつくる呼びかけをし、副理事長の古橋大地氏は背景地図の作成に必要な、衛星画像や航空写真の調達に動く。事務局長の東修作氏は、評価用としてインストールしていたUshahidiの公開作業に入った。このUshahidiをプラットフォームにして18時27分、個人サーバで一般公開されたのが「sinsai.info」である。古橋氏はこう語る。
「3月19日にOSMFJのシンポジウムを予定していました。そこで日本版のクライシスマッピングチームの組織化を発表するため、メンバーのひとりがUshahidiも試験運用をしていたのです。それを急きょ完成させ、最低限の準備をしてリリースしたのが『sinsai.info』です。Ushahidiはハイチ大地震の復興支援でも使われ、高く評価されているプラットフォームです。僕らはこのプロジェクトに関わった経験があるので、各自が自分のやるべき分野を理解しており、それですぐに行動できたのです」

 しかし、すぐにアクセスが集中してサーバを移すことになった。当日の夜にはジオメディアサミットの主催者でもあるメンバーの関治之氏(現sinsai.info総責任者)が加わり、彼の会社のサーバに移行する。関氏の参加が少し遅れたのは、「帰宅に時間が掛かったからです。僕ら3人は帰るのをあきらめました(笑)」(古橋氏)。
マッピングチームリーダー 古橋大地氏
マッピングチームリーダー
古橋大地氏
 だが、彼らだけではsinsai.infoの開発と運営は難しくなってきた。13日には関氏がTwitterでボランティア募集を呼びかける。
「sinsai.infoのサーバ技術者のリソースが足りません!Ubuntu、EC2、Ushahidiに詳しい方、info@osmf.jpにご連絡いただけましたら幸いです」
 人脈の広い関氏のこのTweetは多くのエンジニアに伝播していく。その後、10人、20人とエンジニアのボランティアが増えていく中に、現開発チームリーダーの上野和風氏がいた。彼は関氏にこう返信している。
「EC2,Ubuntuであればある程度はわかりますので是非お手伝いさせてください」
参加当日から徹夜でサーバ移行
開発班リーダー 上野和風氏
開発班リーダー
上野和風氏
 上野氏は大手企業の研究員で、論文も書けばコードも書くというエンジニア。震災後から「家で悶々としていた」ところにTwitterでエンジニア募集を知り、13日から参加することになった。
「エンジニアですから、被災地に行くより大きな貢献できると思ったのです。私の参加時でアクセスは3万規模。サーバが落ちそうになっていて、Ushahidiにはまだ不具合があり、日本語での検索もできませんでした。参加当日から徹夜(笑)。Twitter、スカイプ、チャットなどでほかのエンジニアとコミュニケーションを取りながら、毎日徹夜で改良作業を続け、1週間後にはサーバが落ちることも減ってきました」
 サーバはクラウド(AWS)に移行させた。10人くらいがかかわり、サーバを借りて仮想マシンをつくって、ソフトをインストールして、テストして、DBの設定をして………などの作業だ。このようにエンジニアたちはオンラインで作業を続け、震災から1週間後の18日には、初顔合わせのオフラインミーティングが開かれた。そこには現在インフラ班と法務班のリーダーである嶋坂紀隆氏もいた。主に金融系のシステムを扱うネットワークエンジニアだ。

「15日の朝にTwitterで友人に活動を手伝ってよと言われ、スカイプのチャットに呼び出され、Yammerというメンバー用のSNSを用意したから入ってよと。こんな経緯でオフラインミーティングに行ったら、いきなりトラブルが発生したんです」
 18日当日にGoogleのCrisis Responseサイトからsinisai.infoへリンクが貼られた。ユーザーがアクセスするとKMLファイルが呼び出されるのだが、地図データのファイルが大きいためにアクセス過多になっていた。そこで急きょ、負荷分散のためのCDNサーバをYahoo! JAPANに設置してもらうように決めたという。
「この当時に経験したプロジェクトは一般的に、メンバーの中の1〜2人が課題を発見したり、皆を引っ張っていくのだと思いますが、全員がそんな人ばかり。どれも『えいや』の作業なのに、普段より断然仕事が進んだことが衝撃でした(笑)」(上野氏)
「振り返るとここまでがsinsai.infoの立ち上げ期。ここから3月一杯は開発が中心で、4月からは運用にシフトし、APIを相互に提供するなどほかとの連携も始まりました。5月14日にシンポジウムが開催されたので、今後は新たな動きが始まると思います」(嶋坂氏)
このスピード感、「アジャイルより早いんじゃない?」
 エンジニアが増え、しだいに大所帯になってくると、プロジェクトの進捗管理にはRuby on Railsで開発された「Redmine」が使われるようになった。業務が発生すると公開され、希望者がその「チケット」を取っていく形だ。こうすることで「誰が、いつまでに、何をやるか」が共有される。嶋坂氏はその管理やカテゴリー分けなどを担当している。
「あれもこれもやりたいという人がいて、チケットを取っても手に余ってしまうケースもありましたが、そんなときは周りが『お前、大丈夫かよ』って厳しい目で見たりもする(笑)。でもそれは少数派です。スキルによって自然と階層が出てきますが、皆が互いをカバーし合うようになりました。Redmineは一般公開しているので、外部の人から『やってないじゃん』みたいなチェックも入るんです(笑)」

 Redmineが使われた理由はRuby系のエンジニアが多かったからだそうだが、SNSの「Yammer」もチャットの「Lingr」も、多分に個人の趣味が反映されていたようだ。
「一度、『誰だよLingrを使い始めたのは?』となったら、14歳の中学生、ソラ(sora_h)君が『僕です』。でも、彼はLingr for Androidをつくってくれたからいいだろうみたいな、ゆるい感じ(笑)。それに新しい環境が出てくると皆が『使ってみよう』となって、むしろ楽しんでいました。もちろん私もです」
法務班リーダー、インフラ班リーダー 嶋坂紀隆氏
法務班リーダー、インフラ班リーダー
嶋坂紀隆氏
 古橋氏も同意する。彼にとってもRedmine、Lingr、Yammerは初体験であり、開発ツールも次々と生み出されていった。しかし、参加しているエンジニアにスキルがあるため、マニュアルなしにとりあえず使ってしまうのだそうだ。
「やりながら覚えていく状態が何とも心地よいんです。阿吽の呼吸で好き勝手やって、ツールもどんどん変わっていく。ダメ出しもありますが、勢いがあるので皆がそれに乗っかっていく感じで、それがまた楽しくて。『これ、アジャイル超えてんじゃない?』という声もありました(笑)」(古橋氏)
お金を払っても得難い経験ができる場所
 会議の議事録にはGoogle Docsを使っていた。見ていると他人が書き変えていくのがわかるので、チャットのようなスピード感で進んだという。これにより会議が変わった。最初の数回は通常のスタイルだったが、誰ともなく「無駄な時間をかけたくない」となり、予め要点を議事録にまとめたり、SNSで議論をしたものを残す形になったのだ。
「会議は基本的にこれらを確認するだけで、そこから次の議題を提案していくようになりました。これに慣れたPM系の人たちは、『この仕組みを自分の仕事に持っていきたい』と真剣です(笑)」(嶋坂氏)
「議論をしない会議は初めて。意見があったらSNSで投票するなどもありましたが、長くは続けません。ほとんどオンラインでしたが、フラットな大部屋で皆が作業している感じでしたね」(古橋氏)

 こうして数々の効率的な開発プロセスが、メンバーの中から生み出されていった。それ以外にもエンジニアとしての充実感は多かったようで、例えばアプリ開発。趣味でアプリを開発するエンジニアは多くても、サーバや運用の環境が整っていない場合もある。だが、sinsai.infoにはその環境があり、しかもユーザーである被災者、家族、支援者たちに役立ててもらえるのだ。
sinsai.infoの地図
sinsai.infoの地図
「お金を払っても得難い経験ができます。私も知らないプログラミングツールを2つほどここで覚えましたし、皆がマニアックなので勉強になるんです。例えばDBの設定には詳しいつもりでしたが、この中にいて素人だと悟りました(笑)」(上野氏)
 5月14日現在、Redmineには89人のメンバーが登録、それまで447チケットがあり、335取られているという。トップは上野氏で50チケットだった。
「データ班」は1万件以上のレポートをチェック
 開発や運用以外にもやるべきことは多い。法学部出身の嶋坂氏は、インフラ班とともに法務班の班長もしている。個人情報保護の対策やガイドラインの整備、レポート削除対応の目安の策定、参加者名簿などへのアクセス権の管理、ボランティア参加者の同意書の取りまとめなどを行っている。
「なんとなくなっちゃっいました。大学同期の司法修習生と国際弁護士の外国人の方と3人で分担し、国内の弁護士さんにも無料で協力してもらっています。こうしたボランティア活動で法務部門があるのは珍しいと思います」

 また、「データ班」には、Twitterなどレポートのデマや重複をチェックする「モデレータ」がいる。当初はTwitterの情報は有用だったが、徐々にデマやスパムであふれてくるようになったという。これらを逐一チェックしてきたのが彼らであり、そのうえで掲載するという「ひと手間」がサイトの質を向上させているのだ。レポートの数は1万件以上におよび、「技術では協力できないけど、入力やチェックならできる」というエンジニア以外の若者たちも数多く参加している。
「今回の震災でソーシャルメディアが役立ったと言われますが、2つの視点があると思います。ひとつはSNSで集まった情報を集約してメディアにする、もうひとつはボランティアを集める。後者は非常に役立ち、sinsai.infoにも優秀なスタッフが集まりました。しかし、前者は初期は使えたものの、デマの比率が高くなった今では難しくなっています。正直、さばききれないのです」(古橋氏)
メンバーから「天才」と呼ばれる中学生プログラマ、sora_hさん
sora_h(福森匠大)さん  sora_h(福森匠大)さんは14歳の中学生で、Rubyのコミッター。ギークハウスチャットのSkypeルームで、OSMFJからのメッセージを見てsinsai.infoに参加した。メールで活動の内容を聞くと……。
「TwitterのStreaming APIで,震災関連のハッシュタグが入ったtweetsをリアルタイムに取得,データベースに追加するクローラをつくりました.また、議論などで使うLingr用のbotを設置し,Redmineからissueのタイトルを取得したり、議論内容のメモなどをする機能なども.あとはスマートフォン向けUIで位置情報を取得し,デバイス周辺の情報を表示するように」
 参加してからずっと開発班で、リリースマネージャもしているというsora_hさん。こうしたボランティア活動は初めてだろうが、参加してどう思ったのか。
「いや,OpenSourceSoftwareへの貢献もボランティアなので普通ですね.参加してというか、これは単純に自分が楽しいのでやっているだけ」
 困ったことがあったかと聞くと、「特には.とりあえず自分ができることしかやってないので」という答え。これからsinsai.infoでやっていきたいことをこう語る。
「長期的運用に向けてまたいろいろ体制を整えたい感じですね。一部のメンバーのアクティブ率も下がっていますし」
 将来がすごく楽しみなハイパーエンジニアである。恐るべし。
「sinsai.infoをエンジニアのアピールの場に!
 sinsai.infoは今、新しい段階に入りつつある。インフラやソフトウェアなどは、基本的に企業の無償協力なのだが、震災から3カ月がたち、今後は「廉価だが有償」になりそうだという。そのため、現在はOSMFJの一部事業という扱いだが、今後は出資を受けられるNPO法人などに変える案もあるという。
「お金もうけは望みませんが、継続できる環境をつくりたいです。また、仕事を持っていなかったり、『仕事療養中』のコアメンバーもいますから、収入のない人にペイできる仕組みも用意したいですね。そのための一案はここを自己PRの場にしてもらうこと。特にエンジニアのスキルはよくわかるので、仕事につながる声の掛け合いは、大いにやってくれと言っています」(嶋坂氏)
「sinsai.infoを通じた雇用促進です。ここには被災地のエンジニアの方もいますが、実に優秀で技術力が高い。sinsai.infoのコミュニティを会社との出会いの場にしてもらいたいです」(上野氏)

 同時に上野氏はsinsai.infoの資産活用を考えている。例えば、ソースコードのほかのサービスへの転用だ。Ushahidiをベースにした位置情報型プラットフォームは商業利用にも展開できる。sinsai.infoでは優秀なエンジニアが集まり、この機能の強化やユーザビリティの向上を続けているとも言える。有償でビジネスに使ってもらえば企業は間接的な復興支援ができるし、sinsai.infoにもよいフィードバックが期待できるという考えだ。
「ハイチ大地震のUshahidiの情報は、1年以上たった今でも続いています。今回の震災の規模を考えると数年は続くのではないでしょうか。これからもできるだけ長くsinsai.infoを続けたいと思っています」(古橋氏)
 5月14日現在、sinsai.infoの登録メンバーは延べ人数で300人超、そのときどきで外から協力したエンジニアなどが100人以上、「マッパー」と呼ばれる地図作成の協力者が少なくとも600人、合計で1000人超がボランティア参加している。
3月30日のオフラインミーティング。中央が三浦広志氏
3月30日のオフラインミーティング。
中央が三浦広志氏
5月14日に開催されたsinsai.infoのシンポジウム
5月14日に開催された
sinsai.infoのシンポジウム
OSMFJ:  一般社団法人オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OpenStreetMap Foundation Japan)。イギリスで始まった一般参加者が地図を作成する「OpenStreetMap」の活動を支援する団体。sinsai.infoの地図にはこのOpenStreetMapが使われている。
クライシスマッピング:  自然災害や人為による危機的状況において、関係する情報を地図に表示して、間接的に現地の救援や復興を行う作業。
Ushahidi:  2008年にケニアの大統領選挙後に起きた暴動の際に、民衆の声を収集するためにつくられたオープンソース型プラットフォーム。2010年のハイチ大地震や2011年のニュージーランド地震のときにも、Ushahidiによる復興支援サイトが立ち上がった。
ジオメディアサミット:  位置情報と連動したコンテンツを持つ「ジオメディア」の普及を推進するカンファレンス。
AWS:  Amazon Web Services。Amazon.comによるクラウドコンピューティングを中心としたサービス。
KML:  Keyhole Markup Language。地理空間情報を表示するために開発されたXMLベースの言語。Google EarthやGoogle Mapsに使われている。
JAWS-UG クラウドを使ったインフラ復旧、ユーザー会が動き出した
 震災の影響でサーバが落ちる、Webサイトにアクセスが集中して表示されないなどが数多く見られた。こうした事態を救ったのがクラウドだ。通信インフラが使えなくなる事態の中で「落ちなかった」と改めて注目された。その代表とも呼べるAWSのユーザー会「JAWS-UG」の活動は、日本赤十字社のサイトも「救出」していた。
札幌から鹿児島まで、全国支部のメンバーが立ち上がる
 数年前から日本にも普及し始めたクラウド。だが当初は、「大事なデータを預けられない」「セキュリティは大丈夫なのか」といった懐疑的な声も多く聞かれた。そんな中で、JAWS-UGはAmazonのAWSのユーザーグループであり、そのコアメンバーは日本への導入当初からクラウドを使い始めた先駆者たちである。JAWS-UGの代表であり、クラウド利用促進機構の理事でもある竹下康平氏はこう語る。
「活動のきっかけは北陸支部のTwitterでした。金沢市でドリームガレージという会社を経営する相羽さんが、『被災した石油会社のサーバがアクセス過多でダウンし、こうしたサイトが多く見られる。何とかしなければ』とつぶやいていました。クラウドを使えばサーバを移行させるのは難しくないと気付き、復旧活動を始めたのです」
 アマゾンのエバンジェリストである玉川氏に無償提供の依頼をすると、数分後に「やりましょう」という返事。震災後に発足した鹿児島支部を含め、JAWS-UGは札幌から鹿児島まで全国に支部を持つ。そのメンバーに被災地支援の輪が広がった。

 活動は地震や震災で被害を受けたり、アクセス過多で十分に機能できないサーバを、クラウド基盤を利用して復旧させること。また、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)をインフラ付きで提供したり、CMSで被災地の対策本部などからの情報を集約するといった、無償のサポートだ。
JAWS-UG代表 一般社団法人クラウド利用促進機構 理事 竹下康平氏
JAWS-UG代表
一般社団法人クラウド利用促進機構 理事

竹下康平氏
「基本的な活動はクラウドへの移行です。キャッシュを取ってサーバを立てて、ミラーをつくっていく。あるいは、サーバ管理者からコンテンツを受け取ってWebブラウザに展開するなどです。また、クラウドを使うと簡単にクローンがつくれるので、CMSを仕込んだ『種』を置いておき、情報発信したい人はサーバを立ててその種からクローンをつくって、CMSを使ってもらうような形です」
 災害対策に業務として支援したアマゾンの動きは早く、JAWS-UGにも電話会議システムを貸してくれたという。これを用いて毎晩遠隔会議をし、「こんなサイトのダウンを知った」「こうした依頼がきている」などの情報を集め、復旧先を決めていったという。チーム名は「タイガーチーム」。
「スプレッドシートをつくり、1行ごとにプロジェクトを管理して、全国の支部でシェアしました。地域はさまざまでも同じ場所にいる感じでしたし、互いにクラウドの技術がわかるので『こんなことできるよね』などの提案も活発でした。2〜3時間は話していたでしょうか。20人以上がテレビ会議に参加していたこともあり、わけがわからなくなったこともあります(笑)」
日本赤十字社のサイトのクラウド化とシステム構築
株式会社サーバーワークス 営業部 部長 羽柴 孝氏
株式会社サーバーワークス
営業部 部長

羽柴 孝氏
 AWSが使われるようになったサイトは先のsinsai.infoを始め、「ゆれくるコール for iPhone」、募金サイト「JustGiving Japan」、エリア別救済支援情報サイト「SAVE JAPAN!」など数多く、復旧は1日、長くて2〜3日で済んだという。復旧先には日本赤十字社のWebサイトもあった。担当したのは株式会社サーバーワークスで、営業部長の羽柴孝氏が当時をこう語る。
「震災翌日の12日にJAWS-UGに復旧チームができ、われわれは13日から参加しました。すでに日本赤十字社のサイトが見られないとTwitterで知り、実際に確認していました。その後、日本赤十字社のコンテンツ担当者と接触できて、14日の午後いちばんに訪ねたのです」

 同社では高速CDNを使ったAWSの「Amazon CloudFront」を利用した、新しいクラウドのサービスを、3月17日にリリース予定だった。このサービスを無償で提供するようにしたのだ。日本赤十字社のサイトを調べると移行に問題はないとがわかり、その日の夜に環境を整えて、15日の夜遅くに完了させたという。
 並行して、日本赤十字社から義援金の事前登録システムをつくりたいという相談があった。義援金には受領証を基本的に発行する。そのためには登録と入金の照合が必要になるのだが、阪神・淡路大震災のときは手作業で対応していたという。今回の震災は被害の大規模化が予想されたため、一刻も早いシステム化を望んでいたのである。
「要件をヒアリングするといけそうだと思ったので、上司の了解を取って無償で構築することになりました。PMとプログラマが1組になって計2組が対応し、とにかく完成を急ぎました。1組目が24時間働き、交代して2組目がその後の24時間を対応。私は2組目のPMを担当しました。14日にスタートしてリリースが16日の朝でした」
被災地に行って見えてきた、今後のクラウドの活用法
 インフラやサーバの復旧など緊急性の高いニーズは、2週間もすると急速に落ち着いてきた。竹下氏は「急場をしのぐ段階は4月頭くらいまで」だったと振り返る。毎晩行われていたタイガーチームの会議も2日に一度、1週間に一度となり、4月の半ばに終了したそうだ。
 ただ、復旧から復興に向けて、新しい支援ができるのではないかと竹下氏は考えている。5月中旬に被災地を回った経験からのものだ。
「情報社会学会の情報支援プロボノプラットフォームに参加して、3日間で気仙沼、南三陸、陸前高田、大船渡などの、自治体や災害対策本部を訪ねました。私たちは全部で3チームあり、1チームは10人ほど、途中で他のチームと合流して情報を共有しました。足を運ばないと見えてこない、現場のニーズを知りました」
JAWS-UGのホームページ
JAWS-UGのホームページ
 例えば、ある市役所では電話の内線が復旧していなかった。そのため、別の部署の担当者が受けた場合には、一度切って再度電話してもらうか掛け直すようになる。これでは電話を掛ける市民や関係者も、電話を受ける多忙な職員も二度手間、三度手間になり、時間のロスや混乱が生じてしまう。
「EC2にPBXのソフトがあるので、クラウド上に配置したらどうかと思いました。通信キャリアさんの外線とどうつなげるかの問題はありますが、調べたらアメリカでは使っている事例がありました。また、自治体には内線を引きたくても交換機を置く場所がない、負担する費用が十分でないなどの事情もあるでしょう。クラウドならルーターをつなげば内線が使えるようになるのです」
 被災した自治体には仮庁舎で業務を行っているところもある。いずれは本庁舎に移るわけだが、クラウド上に交換機がある形なら、設備の取り付けや取り外しも必要がなくなる。竹下氏は「やりきった感じはまだない」と語る。
「JAWS-UGはクラウドコンピューティングに高い技術力を持っていて、それを使えば、今までできなかったことができると考えています。この業界の人、特に初期から足を突っ込んでいる人たちは、クラウドというより技術に対して貪欲で、利益の前に『とりあえずやるぞ』が多いですから(笑)」
JAWS-UGの勉強会
JAWS-UGの勉強会
 羽柴氏も、今後は復興に向けて、引き続き技術で支援をしていきたいという。
「クラウドやAWSにかかわるのは好奇心が強い人だと思います。私は多少技術のわかる営業ですが、2008〜2009年の正直安定していない時期でも(笑)、クラウドはいけると思っていた。この将来性に飛びついた人には、震災後に『何とかしよう』とした人が多かったと思います」
 JAWS-UGの支部は急激に増えており、登録制でないため代表の竹下氏でも正確な数を把握できないほどだという。ただ、地方の1支部にはコアメンバーが5名ほどおり、勉強会には約80名が参加するそうで、「女子部」があることも特徴。また、理事を務めるクラウド利用促進機構には、震災前の3倍の問い合わせが殺到しているという。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
sinsai.infoの古橋さんは私の友人であり、次の記事でも協力してもらいました。「被災地がんばれ!今すぐ役立つWebマップ特集」。今回取材したエンジニアの方々、活動を楽しんでいたのがとても印象的でした。仲間と一緒に好きな技術に触れて、しかもそれが人の役に立つからなんですね。正直、うらやましい。

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