お客様の言うことを先輩に伝えるのが、あなたの仕事
家具の販売に限らず、人からお金をいただいている以上、すべてがサービス業だと思いますが、どこでも「お客様の視点に立つ」と言いながら、ほとんどがお客様の立場からものを見ていないのが現状だと思います。あなたが先輩に言われた言葉は、その現状を言い表しているのです。
例えば、ホテルでは、接客をしない管理職や料理長が決めたメニューを「売る」ことが仕事だと思っているし、自動車メーカーでは、デザイナーが考えた一押しの新車を「売る」こと自体が目的になっているから、お客様の目線なんて入っていない。旅館では、伝統的な老舗の味をお客様の好みや体調を知らずに一方的に出す。どれもすべて同じことです。
そういう意味では、先輩よりもあなたのほうが正しいのです。「選んであげる」なんて考え方は論外です。ただし、一生懸命説明をする前に、お客様の好みとか、家の雰囲気や広さ、間取りや予算など、お客様のあらゆる要望を聞いて、自分が住むつもりになって一緒に家具を選ぶべきだと思いますね。多くの場合、そのリサーチが圧倒的に欠けているんです。
それでお客様の求めている物が、万一、自社製品でなければ、希望に合う商品を扱っている家具屋さんを紹介してあげるくらいの気持ちになるべきだと思います。そうすることで、そのときは売れなくても信頼関係ができて、将来必ず、その方はあなたのいいお客様になってくれる。それがサービスというものです。だから、あなたの本当の仕事は、先輩の言うことを聞くことではなく、お客様の言うことを聞いて先輩に伝え、お客様の目線を大事にしていくことなのです。
サービスに100点満点はありません
僕には、自分がサービス業を極めようと思うきっかけになった先輩がいました。その先輩には、商品知識を習得することよりも、お客様がどういう人で、どういうことを求めているか、入店された瞬時に判断できることこそが、サービス業の原点であると教わりました。そのためには、料理やワインのことを徹底的に覚えておくのは当たり前のことで、その上で、街で流行の物をいろいろ見たり、視界に入るすべての人がどんな人で、どんな行動をするか、常に考えろと言われたんです。
つまり、「人の気持ちを察するために、あらゆる情報を収集しろ」ということ。サービスすることにおいてはそれが重要で、会社からの商品情報だけを説明して物を売るというのは、大きな間違い。それでは単なる作業で、「この人だからこそ」という付加価値がついて、はじめてサービスと呼べるのです。よいサービスというのは、買う側が採点するのであって、提供者自らがサービスの良し悪しを言うことはできないと思います。