自分を裏切ることが人生で最大の裏切り
あなたはとてもいい人なんですね。ご両親に「継いでほしい」と言われると、一緒に住んであげたいと思い、「都会で仕事をする」という奥さんにはそうさせてあげようとする。でも、自分以外の人のことばかり目を向けていないで、あなたが本当にやりたいことは何なのか、あなた自身の中に目を向ける癖をつけたほうがいいと思います。人生、最大の裏切りは「自分を裏切ること」。自分を裏切ってまで、やりたくないことをやっても幸せにはなれませんから。
僕も以前は、人にどう見られているか、人気商売ということもあって、外にばかり意識が向いていました。「今日の試合は良かった? 悪かった?」って100人に聞いても、それぞれに意見が違う。何をしても褒めてくれる人もいれば、何をしても文句を言う人だっている。それに対して一喜一憂するのは無意味だと気づいたんです。社会人としてある程度人に好感を持たれることは必要ですが、「この人に好かれよう」となってしまうと、その人に力を奪われてしまうんですね。
それは、恋愛だって同じ。特定の人に「あなたしかいない」と押してしまったら、相手は引いてしまいます。逆に自分の主軸を持ちながら「嫌われてもいいや」と、切り捨てる覚悟を持ったほうが好かれたりする。誰でも、遠い存在だと思う相手ほど魅力を感じてしまうものなんです。だから、一緒に暮らしているときは有り難みがわからなかった家族だって、離れて暮らして会えなくなると「親孝行しておけばよかった」となるじゃないですか。そう考えると、あなたも嫌われたくないという思いを手放して少し周りの人と距離をおき、自分に目を向けると解決法が見えてくると思うんです。「山にこもって農業を」というのは、現実逃避したい気持ちもあるんじゃないでしょうか。
家業を継ぐことが親孝行とは限らない
ご両親と同居して、経営が傾いているという旅館経営に手を出すより、そこは実務や経営に強い人にアウトソーシングするとか、経営コンサルタントに相談するなどして、ご両親をフォローしてあげたらどうでしょう。エンジニアのあなたがやりたくない経営をすることで、おじゃんにしてしまう可能性だってあるわけですよね。ご両親はあなたから気にかけてもらいたいんですよ。決して家業を継ぐことだけが親孝行じゃないと思います。親には親の人生が、自分には自分の人生があるのですから。僕の親も自営業ですが、「自分の人生に失敗したときが継ぐときだから」と言ってありますよ。
でも、奥さんとはパートナーですから、よくコミュニケーションを図って、近郊の農地を借りて週末だけのガーデニング的な農業から始めるとか、少しずつでも一緒にやってみるようにしたらどうでしょう。田舎に引っ込まなくても、都心から通勤に1時間半もかければ、農業ができる所に住めますよね。ただ、田んぼや畑を持って本気で農業に取り組むのは大変ですよ。今のあなたは「都会で会社か、田舎で農業か」と、白黒どちらかに決めようとしている感じですが、答えは白か黒かではなく、グレーゾーンを探ることにあるはずです。