信頼されると、人は大きな力を発揮するもの
最初に、どうして活力がなく見えるかを考えないといけない気がします。「部下の活力がなくて困っている」という言葉を聞いて感じるのは、「あなたが部下を信頼してないからではないか」ということです。信頼できない人の前で、人間は力を出さないものなんです。逆に信頼されていると、今までにない力まで発揮できる。言葉は悪いけど、「豚もおだてりゃ木に登る」ってこと。それはすごく大事なことなんですよ。
つまり、人はできるかどうか不安に感じていても、評価され、あてにされていると、自分だけで考えているよりも10倍20倍という速度で頭が働く。だからできてしまうんです。フル回転したご当人はとっても疲れるんだけどね。でも、周囲から信頼されて達成できたことに、大きな満足感とか、願いが成就した時の喜びや生きがいのようなものを感じるんだよね。
あなたは多分、上司としてやるべきことをやらないで、成果だけを求めているんじゃないのかな。それで部下がやる気をなくして面従腹背(めんじゅうふくはい)になっている。出世と高収入を目指して努力することは、とてもいいことだと思うけれど、そうなるための部下の使い方、働かせ方というのがあるでしょう。あなたの言葉には、部下を育てるとか、信頼を得るとか、相手の立場に立った視点が全くないんです。だから、自分がやって欲しいと思うことを行動にし、言って欲しいと思う言葉を言う。ぜひそれをおやりなさい。そうするうちに、自分自身が見えてくるし、不思議と部下たちも動き出すようになるんです。
年齢と共に下がる能力と上がる能力がある
もうひとつ、年齢が36歳という点からアドバイスします。「新しいことを吸収する能力」は、年齢と共に落ちていきます。僕は5年で半分になると思ってる。そう考えると、25歳で一だったものが30歳で二分の一に、35歳で四分の一、40歳で八分の一。僕なんて60歳だから恐ろしいことになってるんです(笑)。その事実はきっちり見ないといけない。
ところが一方で、年齢と共に成長していく能力もある。それは「人をその気にさせる術」。いろんな物事を観察し、自分なりに判断し、全体を動かし、自分や周囲に必要なものは何かをいつもシミュレーションする、つまり“仮想演習”する中で培われていくものです。たとえば、30歳の時に35歳に必要なことを仮想演習する、35歳になったら40歳のそれを、というふうに。そうしていると、新しいことを吸収するのではなく、新しいことを生み出し、そのことで人々を自分の周囲に惹きつけるようになっていくんだよね。これは、年齢を重ねないと得られない能力なんです。
この年齢と共に上る「人を動かす能力」のカーブと、落ちていく「吸収する能力」のカーブが、38歳くらいで交差すると僕は思う。交差する前は新しい分野に挑戦するのもいいけれど、その後は人を動かす能力を身に着ける必要があるということです。あなたは部下をその気にさせることができていませんよね。だから、自分がどんな能力を開拓しなければいけないのかに早く気づき、そちらを磨く努力を始めなさい。部下の能力のなさを嘆くのは、自分の能力がないと言ってるのと同じこと。一人で仕事ができる人ほどそうなりがちですが、考え方を変えたほうがいい。あなたが変われば、部下も幸せになるんです。