東京大学大学院在学中に、
仲間5人とチームラボを創業。
東京スカイツリーの壁画など、
テクノロジーとアートを融合した作品や、
斬新なWebサイト制作で注目を集め、
代表の猪子氏は「日本のスティーブ・ジョブズ」と
言われるまでになった。
彼はなぜ、”ウルトラテクノロジスト集団”
チームラボを立ち上げたのか。
イノベーションを起こせそうな会社がなかったから、自分で作った
起業した理由はいくつかあるんですが、一番大きいのは、自分の住んでいる社会が未来も豊かであってほしいと思ったからなんです。チームラボの創業は2001年。その時の日本は、豊かであったとは思うんですけど、このまま行くと衰退してしまう危機感があった。じゃあ、日本が国際的競争力を身につけるためには、どうしたらいいか。テクノロジーと文化を育てることが必要なんじゃないかと。この2つが育てば、日本の産業に高付加価値をつけることができますから。僕はそれにコミットしたいと思ったんです。そして、インターネットが出てきたことで「新しい世界」が始まるなって思っていました。でも、いざ就職するときにイノベーションを実現できそうな会社がパッとイメージできなくて。だから、自分で会社を作りました。
まあ、ずっと友達と一緒にいたかったというのもありますけどね。それに現実問題として、僕を入れてくれる会社もなかったんです(笑)。昔から時間が守れなくて。創業当時、お客さんとの打ち合わせに1時間遅刻して、1時間怒られ続けたこともありましたよ。今日の取材だって30分押しでスタートしているでしょ(笑)。昔からそんな調子だったから、採用面接なんてとてもとても。
グローバルで競争するには、エンジニアの地位を上げることが必要
当時、日本ではプログラマーの社会的地位が低かったんです。でも、海外では違う。プログラマーが企業のトップになって活躍していました。日本だって、競争力があった時代は経営者がエンジニア出身だったでしょう? 本田宗一郎とかもそう。グローバルで稼ぐことができる競争力のある企業っていうのは、エンジニアがトップじゃなきゃだめなんですよ。自分でモノを生み出す力がある人がトップに立たないと。だから、エンジニアだけで会社を作ってやろうと思ったんですよ。社内全員エンジニアで、そんなメンバーでソフトウェアを作ったら、すごいことになるぞと。
それで、張り切って検索エンジンとかレコメンドエンジンとかを作ってみたんだけど、1円にもならない。まあ、大した技術力もなかったですからね。同時にアート作品も作ってみたんですけど、やっぱり1円にもならなかった。そんなとき、昔の同級生からお店のWebサイトを作ってほしいと依頼があって。
その店に打ち合わせに行かなくちゃならないのだけど、全員エンジニアで外部の人とコミュニケーションが取ることが苦手で。当時は「社員はエンジニアのみ、文系を入れたくない」というカルトに近い信念があったから、文系には交渉上手なイメージがあるものの、いれるわけにはいかない。それで、しょうがなく自分が表に出てお客さんに会いに行ったんです。本当は表になんか出たくなかったんですけどね。エンジニアのアーキテクチャー(設計)なりたかったんだから。そのお店のドメインを考えたのが、人生初のプランニングです。
エンジニアだけで始めたチームラボは、
「作っても1円にもならない」状態から
大躍進を遂げ、13年経った今、
従業員300人ほどの企業に成長した。
国内外問わず、多くの企業から
ソフトウェアやウェブ開発の依頼が
舞い込むという。
仕事をする上で猪子氏が、
一番大事にしてきたこととは、何だろうか。
最大限の価値を出すためには、「触媒」が必要
ずっと守ってきたのは、「最大限の価値を出す」ことですね。価値を出すとは、「お客さんが抱える本質的な問題を解決する」ことです。そのためには100パーセント力を注ぎます。逆に「価値を出す」以外のことは削り落としたって構わない。おなかが空いてどうしようもないときは、お客さんとの打ち合わせ中に突然お弁当を食べ始めたりすることもありますよ(笑)。だって腹が減った状態では、最大限の価値を出すことはできないでしょう? それは逆にお客さんに失礼だと思うんですよ。
最大限の価値を出すために、必要なものは3つあります。それは、「技術」と「クリエイティビティ」と「触媒」です。
技術はスキルと言ってもいい。スキルは専門知識を学べばどんどん積み上がっていきます。これは努力すればできる領域です。ひたすら勉強すればいいんですから。それなのにやらない人が多いですよね。
2つ目のクリエイティビティ、これは、ストックオプションなどの金銭的なモチベーションを与えても向上しません。単純労働なら、目の前のニンジン、つまり報酬を与えることでモチベーションが上がるのですが、知的労働ではむしろ下がる。これは科学的にも証明されていることです。
じゃあ、どうしたらいいか。そのために必要なのが、「触媒」なんです。触媒って、わかりますか? 化学の実験で習ったと思いますが、化学反応を促す物質のことです。自分自身に変化は起きないのですが、周りの物質同士の化学反応をどんどん促す。クリエイティビティを育てたかったら、そういう触媒のような人をそばに置くといい。チームラボでは、ほとんどのプロジェクトに、触媒力のある人をカタリスト(触媒)という職種名で置いています。カタリストは文系もいます。そのカタリストたちが、マネジメントやスケジュール管理、お客さんとのコミュニケーションを請け負うんです。社内のエンジニアとデザイナーとの話し合いの場を設けることもあります。わかりやすくいうと、野球部の女子マネージャーみたいな存在です。そういった人を置くことによって、チーム内のクリエイティビティを向上させ、価値の高いアウトプットを出しやすい環境を作っているんです。
常識を捨て、感じることを肯定することでクリエイティビティは育つ
もうひとつクリエイティビティを向上させる方法を挙げるとすれば、「常識を捨てる」ことですね。常識は自由な発想を妨げます。僕は、もともと昔から常識に興味がないんですけど(笑)。でも、多くの人は常識におかされていますよね。だから、まずは徹底的に常識を否定してみることから始めたらいいと思う。まずは、常識を抽象化して考えてみたらいいんですよ(編集部注:抽象化=物事の本質を抜き出してみること)。常識を抽象化したときに矛盾があったり、整合性が合わないことがあったりしたら、即、否定する。
その代わりに肯定すべきことは何かと言ったら、それは「自分が感じたこと」です。感じたことは、全面的に肯定する。それがクリエイティビティを育てるんですよ。それなのに多くの人が、感じたことそのものに気づけなくなっている。好きなこともわかんなくなっているでしょう? 例えば、趣味の欄に「映画鑑賞」と書く人って多いけど、そういう人に限って、週に1回も観ていなかったり。そもそも「趣味というカテゴリー」から選ぼうとしているしね。毎週欠かさず買って読んでいるのは、「少年ジャンプ」だったりするのに、趣味の欄に「ジャンプ」とは書かない。好きなことすら、嘘をつくようになっているから、いつの間にか何にも感じない人になっているんです。不感症ですよ。
自分の感じたことをそのまま言うと、ひどく叩かれることもありますよ。僕なんか、この前テレビ番組で「結婚制度はいらない」って言ったら、むちゃくちゃ叩かれましたから。でも、そういうのはしょうがない。世の中にはいろんな人がいるし、いろんな考えを持っている人がいて当然だと思うから。
でも、クリエイティビティを育てたいと思ったら、まずは感じることが大事です。そしてそれをすべて、自分のなかで肯定することから始めたらいいですよ。
東京都現代美術館にて発表
2014年6月7日より、東京都現代美術館(東京)で開催中の「ミッション‐宇宙×芸術‐コスモロジーを超えて」にて、人工衛星の実物大模型に高さ19mの滝をプロジェクションマッピングする新作「憑依する滝、人工衛星の重力」を発表(8月31日まで)。http://www.team-lab.net/all/art/satellites-gravity.html
2014年7月17日からは、Pace Gallery(アメリカ・ニューヨーク)にて『teamLab: Ultra Subjective Space 』を開催、デジタルアート作品6作品を展示(8月15日まで)。http://www.team-lab.net/latest/exhibition/pacegallery-ny.html
2014年7月19日からは、「香川ウォーターフロントフェスティバル 」(香川)にて、海水を噴き上げてつくり出す巨大なウォータースクリーンにプロジェクションマッピングを実施(8月8日まで)。http://www.team-lab.net/latest/exhibition/kagawa_water_front_fes.html
http://www.team-lab.net/
- EDIT/WRITING
- 高嶋ちほ子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 川上尚見
自分の「こだわり」を活かせる企業に出会うために、
リクナビNEXTスカウトを活用しよう
リクナビNEXTスカウトのレジュメに、仕事へのこだわりやそのこだわりを貫いた仕事の実績を記載しておくことで、これまで意識して探さなかった思いがけない企業や転職エージェントからオファーが届くこともある。スカウトを活用することであなたの想いに共感してくれる企業に出会える可能性も高まるはずだ。まだ始めていないという人はぜひ登録しておこう。