プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「一流のサッカー選手は、自分の哲学を持っている。それが勝負を分けるんです」北澤豪さん(サッカー解説者)
きたざわ・つよし●1968年、東京都生まれ。小学校1年生からサッカーを始め、中学時代は読売サッカークラブ・ジュニアユースに所属。修徳高校サッカー部で全国高校サッカー選手権や高校総体に出場。87年本田技研工業に入社後は、日本代表チームをキリンカップ優勝に導いた。91年読売クラブ(現東京ヴェルディ)入団。J1リーグ戦264試合、日本代表国際Aマッチ59試合など、数々の成績を残した。現在はサッカー解説者として、日本テレビ系、「NEWS ZERO」、「情報ライブ ミヤネ屋」などに出演。JICAオフィシャルサポーターだけではなく、(財)日本サッカー協会の理事、国際委員、広報委員、フットサル委員としてサッカーのさらなる発展・普及活動に努めている。
2014年5月21日

FIFAワールドカップ2014ブラジル大会の
日本代表メンバー23人が発表になった。
実力者ぞろいの日本選手の中で、
代表に選ばれる人に共通点はあるのだろうか。
自らも代表経験のある北澤氏に
自身のキャリアを交え、話を聞いた

悔しい経験を積み重ねてはじめて、最悪の状況を乗り越える力を得る

日本代表に選ばれるのは、どんな人なのか。ひと言でいうと、監督がやりたいサッカーに当てはまった人、です。実力だけで言うと、今回選ばれなかった選手にも選ばれた23人よりうまい人はいる。だから、選ばれなかったことで自分を否定したり、自分を捨てる必要はない。代表に選ばれることだけがすべての評価だという勘違いはしてほしくないですね。

私も98年のフランス大会の時、代表選手からはずされて、ひどく悔しい思いをしました。納得はいかなかったけど、それで自分を否定しようとは思わなかった。サッカーを辞めようとも思いませんでした。最悪の状況からどうやってモチベーションを保ち続けたのか。よく聞かれますけど、実はこういった状況には慣れているんです。私は小さいころから悔しい思いをたくさんしているんですよ。肝心な場面でボールをとられた、PKをはずした、なんてことからはじまって、寝られないような悔しい思いを何度も何度も重ねてきました。それこそ、高校を卒業して入った本田技研の社会人チームにいたときは、人の何倍も練習をしているのに、2年間レギュラーになれなかった、なんてこともありましたしね。

これは私だけじゃないですよ。トップで活躍する選手は、みんな小さいころから悔しい思いを積み重ねてきている。昨日今日ででき上がった精神力じゃないんです。だから、どんなことがあっても前を向く姿勢を崩したりしない。自暴自棄には陥らないんです。

もし、精神力を鍛えたい人がいたら、スポーツをすればいい(笑)。スポーツじゃなくても、いろんな場所に行っていろんなことに挑戦して、「うまくいかない経験」をいっぱいしてみる。嫌というほど悔しい思いを味わってみるんです。その積み重ねが後になって、最悪の状況で一歩踏み出す勇気につながっていくんです。

プラスを伸ばすだけではプロとは言えない。マイナスがないことが必須条件

よく一流の選手の共通点を聞かれますが、簡単に言うと、「変態」であること(笑)。何があっても、どんなときでもモチベーションが下がらない。並の精神力じゃないなと思います。そういう姿を見ると、ある意味で変態だな、とつくづく思います。

海外に行くとわかりますよ。海外は設備が整ってなかったり、食事が合わなかったり、やっぱり日本と違うわけです。でも、一流の選手は、環境が変わっても全然平気。不満を言うことなく、高いモチベーションを保っていられるんです。

私が初めて海外に行ったとき、「北澤って、文句ばっかり言ってるよね」とチームメイトから言われました。周りの選手を見ると、どんなひどい環境でもすごく楽しそうにやっている。その時に気付いたんですよ。飯がまずいとかね、一流の選手でそんなこと言うやつはいない。結局、環境でモチベーションが下がるヤツは二流ってことです。

環境だけではないですよ。プロになるまで、そしてプロになってからも、監督やコーチ、先輩から、あそこが悪い、ここを直せ、といろんなことを言われます。それこそ、「お前、ほんと下手くそだな」とかボロクソ(笑)。それでも自分を卑下することなく、冷静にマイナスとして受け入れられるか。前向きっていうのは、「モチベーションを下げずにマイナスを受け入れる力」のことを言うんですよ。

冷静にマイナスを受け入れたら、次は弱点を潰しにかからなければいけない。プロでやっていくにはマイナスがあってはダメ。自分の強みはもちろん伸ばしますが、弱点を埋めることも必要なんです。私も、本田技研にいた時、たまに試合に出してもらえると、できなかったところを分析して、夜、密かに練習を重ねる、なんてことをいつもしていましたよ。

そうやって若いころは、弱点のない確かな土台をつくっていく。そうしてはじめてチームに必要とされ、「自分のサッカー」ができるようになる。プロはそうやって前進していくんです。

日本の選手は海外に出て強くなったと言われます。その理由は、自分の弱点を客観的に見る機会が増えたからでしょう。海外ではもっとはっきり自分のマイナス面を指摘されます。厳しいですよ。ストレートに「ここが悪い、だから使わない」って言われるんですから。それでも受け入れ、マイナスの部分を修正していくことで、世界レベルの強さを身につけていくんです。


変化の激しい時代と言われているが、
実は、サッカーの世界も同じように、
激動の時代を迎えているという。
「変化」がキーワードの時代に、
生き残れる人の条件とは何なのだろうか。

自分の哲学を持っていないと、結果は出ないし、面白い仕事もできない

変化が激しい時代だと言われていますが、これはサッカーの世界でも同じです。サッカー選手もトレンドをいち早く察知して、それに合わせて変化していくことが求められています。今回、ザッケローニ監督も「複数のポジションができる人材」を中心に代表選手を選んでいました。変化の時代におけるリーダーは、状況をいち早く察知して、指示をどんどん変えていかなくてはならないんです。ザッケローニ監督は、だからこそ、自分の考えにいち早く対応できる器用な人材を重用したのでしょう。いってみれば、気が利く存在。変化の時代には、そういう人材が求められるんですよ。

そんな器用な人材になるには、何が必要か。意外かもしれませんが、自分の核となる哲学が必要なんです。確固とした核があるから、変えてもいい部分が見えてくる。自分の哲学はしっかり守りつつ、変えていくべき部分は時代に合わせてどんどんリニューアルしていくことが大切なんです。私の今の仕事である、サッカー解説者でもそうですよ。時代や視聴者のニーズに合わせて変化していかないと。そのためにはやはり、自分の哲学を持っていることが重要なんです。

哲学があれば、自分の言葉に責任を持つこともできます。今回も日本代表や先発メンバーの予想をしてほしいなど、さまざまな要望がありました。自分の意見を言うのって、やっぱり大変なことなんです。外した選手から恨まれることもあるわけですからね。でも、信じられる哲学があるからこそ、意見をはっきり言い切れる。嫌われるのも怖くなくなるんです。

今回の代表選出の発表で、私はザッケローニ監督に哲学を感じました。彼は、自分が選ぶ基準、自分のビジョンをきちんと表明したうえで、その哲学に基づいて選手を選んでいた。その姿勢はすごく立派だと感じました。哲学があることはリーダーの必須条件です。自分が進みたい方向が明確に示せるし、必要なものを明らかにできる。だからこそ、人もついてくるし、大胆な戦略もとれる。勝負に出られるんです。もちろんそれは、リーダーに限りませんけどね。どんなポジションの選手にもやはり必要なことなんです。

仕事って、自分の哲学を表現していく手段だと思うんです。画家が絵という手段を通じて自己を表現するのと同様に、サッカー選手はサッカーを通じて自己を表現していく。私も解説を通じて、哲学を表現している。これはどんな仕事でも同じでしょう。仕事を通じて自己表現していくことに、働く意義があるし、やりがいにつながっていくんだと思います。だからこそ、若い人たちには「自分の哲学」を持って欲しい。仕事のスキルだけを磨いて「手段」だけあっても、表現するものがなければ仕事が面白いはずはありません。自分の哲学を表現できてはじめて仕事は面白くなる。いい仕事っていうのも、その先にあるのだと思いますよ。

information
北澤豪 写真展2014
「Football for the World〜〜サッカーを通して世界を撮った軌跡〜」

元サッカー日本代表で、現在サッカー解説者の北澤豪氏は、これまで、(公財)日本サッカー協会理事および国際委員として、フィリピン、ラオス、カンボジア、ブラジルなどさまざまな国に出向き、サッカーの普及活動を行ってきました。JICAのオフィシャルサポーターとしてもザンビア、シリア、イスラエル・パレスチナ自治区、ヨルダン、パラグアイなど、さまざまな国を訪れています。今回、その活動および東日本大震災での活動を記録した写真展を、2014年5月31日(土)〜6月6日(金)まで 東京・六本木の東京ミッドタウンにて開催します。初日の5月31日(土)には、キックオフイベントも開催。
詳しくは、facebookページ(http://facebook.com/kitazawa.photo)にて

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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