プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

日本の職人は、人生の先を考えて仕事をしている。

アレクサンダー・ゲルマンさん(現代美術家)
アレクサンダー・ゲルマン●1967年生まれ。90年代から、ニューヨークを拠点にグラフィックデザイナーとして活躍。企業のブランディングに定評があり、100本以上のCMやプロモーションビデオを制作した。イエール大学、マサチューセッツ工科大学メディアラボの客員教授などを歴任。ニューヨークアートディレクターズクラブ賞、米国グラフィックアート協会賞などを受賞。著書『Subtraction』は4カ国語に翻訳され、ベストセラーとなった。38歳でビジネス界を引退した後は、現代美術家として活躍。日本の伝統工芸とコラボレーションした作品で話題となっている。
2009年10月21日

広告のアートディレクターとして
世界的に活躍。今では当たり前となった
企業の「ブランディング」を
確立させたのが彼である。

シンプルなもののほうが、力がある

38歳でビジネス界から引退するまで、自分の事務所のことを「ブランディング・カンパニー」と呼んでいたほど、たくさんの企業広告を手掛けていました。

ブランディングをする上で有効な表現手法として用いていたのが、「ミニマリズム」(シンプルなデザイン)です。

このデザイン手法を確立したのは、20代後半のとき。年代で言うと1990年代前半になります。しかし、シンプルさの有効性に気付いたのは、その数年前。まだ私が大学生のころです。

当時は、表現方法は、コンプレックス(複雑)であるほうがいいとされていました。コンプレックスな表現のほうが、創造性に富んでいると思われていたんです。

私はさまざまな作品を見て、いろんな角度から分析していきました。その結果、シンプルなもののほうが力があることに気付いたんです。デザインの中心にあるのは、コミュニケーション(いかに明確に伝えるか)です。シンプルなものは、コミュニケーションに対しても、力を発揮します。そこで、私はシンプルなデザインで企業のブランディングをすることを思い付きました。

世の中は複雑です。企業の考え方もまた複雑ですよね。いろんな人の思惑が入り組んでいますから。それをシンプルに表すためには、複雑なものの中から、「本質」を探し出さなくてはなりません。医者がさまざまな方法で患者の症状を知り、病気の原因を知るようなものでしょうか。

本質を見極める作業は難しいように思えますが、私は次のような方法で行っていました。まず第一に、全体像を知ること。知識不足は誤解のもとですから、何一つ欠けることなく、すべてを網羅することが大切です。そのためには、質問をする前に勉強をし、情報をしっかり手に入れておくこと。順序立てて答えがもらえるように、質問を整理整頓しておくこと。そして一番重要なのが、質問をする際に先入観を持たないことです。

すべての情報が集まったら、本質的だと思うものを抜いてみる作業をします。そして、それが抜けた後どうなるか、さまざまな組み合わせを試してみるんです。何度も何度も繰り返し検証してみるといい。

その間、頭をフリーにしていくこと。一切の判断をしてはいけません。プロセスの間は、先入観や主観、偏見を持たないことが大切なんです。

例えば、新しい航空会社のブランディングを例に挙げてみましょう。その会社を使って旅をするためには、何が大切か。機内食の質なのか、飛行機の性能なのか、飛行時間が短いことなのか、客室乗務員のサービスなのか。さまざまな要素がありますね。まずは、先入観を持たず、それぞれの情報を集め、一つ一つをじっくり吟味していきます。そして、いちばん重要なものが機内食だと思ったら、それを抜いてそのほかの要素を組み合わせ、成り立つかどうかを考えてみる。大切なのは、本質を見据えて、そのプロセスを繰り返すことです。


ニューヨークの近代美術館から、
『世界で最も影響力のあるアーティスト』と
評されたゲルマン氏。
商業デザイナー引退後は、
日本の伝統工芸に興味を抱き、
職人とコラボレーション。
「漆器のチェス」を制作した。

日本人は、創造力に誇りを持つべき

38歳で広告のアートディレクターを引退したのは、もうこれ以上は欲しいものはないと思ったからです。デザイナーとしては素晴らしいキャリアを手に入れたし、知りたいことも何一つ残っていませんでしたから。これからは、好奇心の赴くままに生きようと思ったんです。

引退後、日本の雑誌でクリエイティブデザイナーをすることになり、日本の伝統芸能を知りました。知れば知るほど興味深くて、どんどんのめりこんでいった。

外国人からすると、日本の伝統文化は「とても非効率で理にかなっていないもの」に映ります。例えば、奈良の墨職人を訪ねたときのことです。新聞紙をひいた大きな箱の中に墨を入れて乾かすのですが、新聞紙を毎日交換しなくてはなりません。なんと彼らは6カ月間もの間、毎日毎日その作業を続けるんです。墨はすでに乾いているのに、なぜ彼らは続けるのか。最初は何かの儀式かと思いました。彼らに問うと、「表面は確かに乾いている。けれど、芯の部分はまだ乾いていない。このまま出荷してしまったら、100年後にヒビが入るかもしれない。100年先でももつように乾かすのだ」と。自分の人生の先を考えて仕事をしている。素晴らしいことです。アメリカ社会では、安く、早く生産することをよしとしてきましたから、これには驚きましたね。

日本の伝統文化は、新しい文化と「共存」している

今度、『ポストグローバル』という本を上梓します。私は、これからの社会は、ユニバーサルなシステムやモデルはなくなり、それぞれの地域の歴史、地理、文化の多様性を重視する社会となると思っています。経済は土地固有の産業資源をその土地の人々が活用する、自立したローカル経済が基盤となるでしょう。そのためには、個々が自立してお互いに認め合う社会でなくてはなりません。

しかし、アメリカやヨーロッパには、「共存」という考え方がそもそもない。白黒をはっきりさせる文化ですからね。対して、日本の伝統文化は、新しい文化と「共存」している。例えば、同じ土地に、江戸時代の文化が残っている一方で、携帯電話をはじめとする現代のテクノロジーが生み出す文化もある。さらに、地域文化も存在する。これは世界的に見て非常に珍しいことなんです。私はこのことを世界に広げたいと思った。漆器でチェスを作ったのは、そういう意味があるんです。

日本の文化は、前の時代の文化を踏襲しつつも、それぞれの時代のエッセンスを加えながら形成していきますよね。この点も素晴らしいと思う。

日本人は歴史や伝統に興味を持たない人が増えているようですが、それは非常にもったいないことだと思います。アメリカは歴史が浅いですが、日本には誇るべき歴史がある。これは本当に素晴らしいことなんですよ。

伝統文化に限らず、日本人は自分たちの物づくりの技術をもっと誇りにしていいと思います。日本人の創造性は目を見張るものがあります。よく日本の文化は「コピー文化だ」という言われ方をします。でもそれは違います。そもそも文化はいろんなものの影響を受けあって成り立っているものなんです。日本の文化はコピーではなく、他からの影響を受けて生み出された新しい文化です。創造性、好奇心、寛容さ、正直など、日本人のいいところはたくさんあります。こういった強みを大切にしてほしいと思いますね。

information
『ポストグローバル スーパーデザイナーが見る日本』
アレクサンダー・ゲルマン著
グローバリー・ローカル・メディア編・訳

NYの近代美術館、クーパーヒューイット国立デザイン博物館、パリの国立博物館などに作品が所蔵される現代美術家ゲルマン氏の新刊だ。20世紀の経済学者たちは、ユニバーサルな経済と政治モデルを提示した。しかし、それが失敗したのは、個々の文化の持つ重要性と影響力を軽視したためだとゲルマン氏は言う。現在社会は「ローカル」に関心を持つことこそが重要だと。世界的ベストセラー『Subtraction』で現代のデザイン界を牽引してきたゲルマン氏が語る「新・日本論」。日本の経済回復のヒントがたくさん記された本だ。
2009年10月30日発売。PHP研究所刊

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
サギサワケン

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