プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

「のだめ音楽会」は僕が出したファンレターがきっかけだったんです

茂木大輔さん(オーボエ奏者、指揮者)
もぎ・だいすけ●1959年、東京都生まれ。高校生のときにブラスバンド部でオーボエを始める。国立音楽大学卒業後、ミュンヘン国立音楽大学に留学し、ギュンター・パッシン氏に師事。87年、シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団に入団。90年に帰国。NHK交響楽団の首席オーボエ奏者となる。著書に『拍手のルール 秘伝クラシック鑑賞術』ほか多数。『のだめカンタービレ』の原作に取材協力、ドラマではクラシック音楽監修もつとめた。また、企画、指揮の立場で「茂木大輔の生で聴く"のだめカンタービレ"の音楽会」を全国で開催している。
2008年10月6日

NHK交響楽団の首席オーボエ奏者として
活躍する傍ら、指揮者、エッセイストなど
仕事の幅を広げている。
最近では、ドラマ『のだめカンタービレ』の
クラシック音楽監修者としても知られている。

プロになれるなんて、思ってもいなかった

音楽大学に進んだのは、ほかにやりたいことがなかったから。高校のときにブラスバンドを経験して合奏が楽しくなって。「今日も明日も合奏だけしていたい」と思ったんですね。

それこそ4年後や10年後なんて全く考えてなかった。プロになれるとも思っていませんでしたし。親には、教職課程を取ることを前提に音大行きを許してもらったんです。

レベルの高い合奏を楽しみたいと思っていましたから、入学する前の夢は、「上手なメンバーだけで演奏したい」でした。でも、さすがは音大。入学して3日でその夢は叶えられた。そして、急速に世界が広がっていくんです。

ブラスバンドよりもはるかに繊細で表現力のあるオーケストラの存在を知ったのもその一つ。ベートーベンもシューベルトもブラスバンドでは演奏できませんからね。混じって演奏してみて、やっぱり感動しました。

それともう一つが、ジャズとの出会い。従姉妹の御主人に前衛音楽の作曲家(当時。現在の久石譲氏)がいて、彼の影響でインドやアフリカの音楽、即興音楽やロックでもプログレのさらにその先の音楽みたいなものに興味を持つようになった。入学してすぐに即興音楽集団を作って活動を始めたんです。部屋を暗くしてローソク立てて音楽を聞いたりとかしてましたね(笑)。

でも、そのうち方法論に行き詰まってしまった。そのとき仲間の一人が薦めてくれた音楽に、前身が痙攣するような衝撃を味わうんです。山下洋輔さんのジャズでした。以来、山下さんの追っかけになって、あちこち聴きに行きました。それで自分でもフリージャズをやるようになるんです。

当時はオーケストラにもフリージャズにも、両方面白みを感じていました。でも、最終的には教員になるんだろうなと思っていたんですよね(笑)。子どもが好きでしたし。

医学部を出ると医者になるのは、ごく普通ですが、音大を出れば音楽で食べていけるのかというと、そんなに簡単ではないんです。むしろ、お金をもらって演奏するのは、夢みたいなことだった。ものすごく難しかったし、できたとすればすごいことだった。ところが僕は幸運にも、大学2年の終わりころから音楽で仕事をするようになるんです。後に他のオーケストラと合併する、新進気鋭の売り出し中のオーケストラに所属もして。

でも、プロとして活動を始めて愕然とするんですね。やりたいことをやっているなんて認識はない。そもそも演奏水準についていくのが大変。とんでもない数のレパートリーを、素知らぬ顔で当たり前のように演奏できるのがプロですから。また、譜面が読めて楽器ができても演奏ができるわけではない。経験しないとわからない感覚というものもある。実際、本番中に譜面のどこをやっているのか、わからなくなってしまったこともありました。

でも、できるようになるしかない。プロですから。それこそ恥をかきまくりました。練習場から泣いて帰ったこともあった。演奏会を止めかねない状況に陥ることもあった。悔しかった。そうやってだんだん慣れ、力を付けていく一方で、ジャズ熱がますます高まっていたりもして(笑)。オーケストラやりながらバンドも、なんて考えていましたね。そんなとき、ドイツから帰ってきた知人の話を聞いて、留学したいと思うようになった。実は理由のひとつは、フラれたこともあったりするんですけどね(笑)。


ドイツ留学が実現したのは、
伝説のオーボエ奏者と言われる人物と
日本で出会い、指導してもらえたことだった。
この留学が、後の茂木氏の
キャリアを大きく変えていく。

1週間で髪の毛が真っ白になるほどの特訓を受けた

ドイツで留学生活が始まると、先生からは教わるだけでなく、仕事も提供してもらいました。そのひとつが、女性オーボエ奏者と組んでのツアーでした。そしてこの女性から、僕は徹底的にしごかれたんですね。日本のオーケストラも大変でしたけど、それとは比べものにならないレベルの厳しさでした。クラシックの本場で、しかも一流の演奏家たちと一緒に演奏する。その意味を痛感しました。想像もしていなかった指摘の連続。1週間後に妻に会ったとき、「なんでそんなに髪の毛が白くなっちゃったの?」って言われましたよ。

何度もへこたれそうになりました。ただ、やらないわけにはいかなかった。「もう嫌だ、帰る」という言葉は出かかっても出なかった。もしかしたら自分に才能みたいなものがあったとすれば、人生全体につながる場面を本能的に知っていた、ということだったのかもしれません。「この場面は耐えよ」という声がどこからか聞こえてくるんです。

実際、耐えて良かったと思う。それから世界中をツアーで回りました。ソ連、チェコ、ポーランド、さらに日本。そして1年も経たないうちに、どうして以前はあんなバカな吹き方をしていたのか、と思うようになりました。よくぞ彼女は言ってくれたと。実際、言うのって面倒なんですよ。それを彼女は、わざわざ言ってくれたんです。

実力があるのに花開かない人、才能があるのに真価を発揮できない人は、この世界にも本当にたくさんいます。では、花開く人とそうでない人とは何が違ったのか。僕は、運だと思っています。運は平等にめぐってくるんです。問題は、運が来たとき、うまくつかめるか。じゃあ、つかめる人はどういう人かといえば、いつも願っていた人だと思うんです。

熱烈に強烈に願う。僕も、ドイツに行きたい、現地のオーケストラに入りたい、NHK交響楽団に入りたいとずっと願っていました。そういう意識は、思いも寄らない言葉や行動に必ず出てくるんです。だから人に伝わる。「船の舵」と僕は呼んでいますが、舵はいきなり180度舵を切ると、船は転覆してしまう。でも、日頃からゆるやかでも方向を決めておくと、気づかぬうちに願う方向に向かっているんです。

オーボエ奏者でありながら、指揮もするようになったのは、曲を解説したかったから。曲に関する知識があると、クラシックは俄然面白くなる。それを僕はドイツで知りました。だから、曲を解説しながら音楽会をやってみたかったんですね。やってみると、喜ばれるようになって。

そしてその後に出会ったのが、マンガの『のだめカンタービレ』でした。僕たちの世界をこんなに楽しく、しかも誠実に取材して細部までリアルに描いてくれていることに感動しました。

それでファンレターを出したんです。すると、原作者から僕の本は全部読んでいたと連絡が来た。そしたらドラマをやるとき、専門家が一人現場にいないと困るということになって。さらに「のだめ音楽会」にまで活動が広がって。自分がやりたかったことと、のだめ世界との出会いがシンクロしたということだったと思います。

仕事のポリシーは、最後の瞬間まで直すこと、直前でも変えることです。本の文章、演奏会の曲順、演出…。まわりは大変で申し訳ないとも思うんですが、最後まで発想を新鮮にしておきたいんです。そもそも一番魅力的な瞬間は、最後に思いついたもの、という事象は歴史上に数多い。ベートーベンの「運命」にも、最後の練習の後にベートーベンが直しを入れた一小節があります。さて、それはどこか。有名な「運命」も、そんなことを想像しながら、聴いてみてもらえたら、と思います。

information
『仙台クラシック・フェスティバル』
10月11日(土)、12日(日)、13日(月)

1公演45分のステージが地下鉄沿線の4施設9会場で3日間行われる。全101公演。しかも1公演につき1000円均一というチケット価格。国内外で活躍する音楽家はもちろん、谷川俊太郎氏や俵万智氏など、音楽以外で活躍する著名な文化人など約57組600名が出演。すべての公演が3歳以上の子ども入場可能。家族で楽しめる第3回を迎えるクラシック音楽のお祭りに茂木氏が初登場。
日程:10/13(月)11:30〜12:15(パート1)、13:45-14:30(パート2)場所:仙台市青年文化センター/C.シアターホール、出演:茂木大輔(指揮とお話)、仙台市民交響楽団 ※ブラームス1番を大解剖します。
http://sencla.com/

EDIT
高嶋千帆子
WRITING
上阪徹
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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