「1ミリの溝」から、夫婦関係が壊れる前に知ってほしいこと――山口拓朗の「夫婦円満法」

今年で結婚20年目。2度の離婚危機を乗り越えて、今ではお互いが相手を認めて応援し合い、それぞれのビジネスを発展させている山口拓朗さん、朋子さんご夫婦。拓朗さんは文章の専門家として、これまでに著書を10冊以上出版。奥様の朋子さんは主婦の起業を支援するオンラインスクール「彩塾」の塾長として、これまでに600名以上の門下生を輩出。2016年から夫婦そろって中国での講演をスタートさせるほか、「夫婦コミュニケーション」をテーマにした講演活動にも力を入れています。

そんな山口拓朗さんが自身の経験から編み出した「夫婦円満法」を公開するこのコーナー。第4回は「『1ミリの溝』を埋め続ける夫婦円満術」です。

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「話すことがない」や「知り尽くしている」の危険性

「妻の気持ちがわからない」「夫の気持ちがわからない」——男女を問わず、パートナーに対して、そんな思いを抱いている既婚者は少なくありません。なぜお互いの気持ちが見えなくなるのでしょうか? 答えはいたって単純です。気持ちを伝え合っていないからです。つまりは、言葉によるコミュニケーション不足です。

なかには「結婚生活も長くなると、とくに話すことがない」と言う人もいます。あるいは、「うちはお互いに相手のことを知り尽くしているから心配ない」と豪語する方も。話すことがない? 知り尽くしている? それは本当でしょうか?

人が人の気持ちを理解することは、思いのほか難しいものです。本心・本音ともなればなおのこと。完全に理解することは不可能である、と言ってもいいでしょう。このことは、赤の他人であれ、身内であれ、そう変わりはありません。そういう意味では、「妻(夫)の気持ちがわからない」と答える人のほうが、「妻(夫)の気持ちはわかっている」という人よりも軽症(マシ)といえるかもしれません。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

1ミリの溝を軽んずることなかれ

筆者にも苦い記憶があります。キャリアウーマンだった妻は、出産と同時に専業主婦になりました。仕事を辞めた当時、「専業主婦も楽しそう!」とワクワクしていた妻を見て、私はすっかり安心しきっていました。ところが、数ヶ月後、妻は産後うつになってしまったのです。この原因の一端は、夫である私にありました。育児に忙殺され、次第に沈んでいった妻の感情の変化に気づかなかったのです。当時、出版社に勤めていた私は帰宅も遅く、休日出勤も常態化。妻とゆっくりと会話をする時間がもてませんでした。「社会と切り離されたかのようで寂しかった……」という妻の気持ちに気づいたのは、ずいぶんあとになってからでした。

このときに得た教訓があります。それは、人の気持ちは日々変化している、ということです。“日々”どころではありません。毎時間、毎分、毎秒、人の気持は刻々と変化し続けています。自分も然りです。昨日と今日の自分はまったく同じではありません。価値観も信念も好きなことや嫌いなこと、目標や夢、悩み事、ありとあらゆるものが刻々と変化し続けています。夫婦関係で大事なのは、そうしたお互いの変化を見逃さずにシェアし合うことなのです。

もちろん、言葉を使わずに観察しているだけでは、相手の気持ちを知ることはできません。相手の気持ちを知る唯一の手段は、会話をして「お互いの心のうちを伝え合う」こと。それ以外にありません。人間関係では、言葉によるコミュニケーションが最も重要です。この「言葉で気持ちを伝えるコミュニケーション」を怠ると、遅かれ早かれ夫婦間の溝が広がってしまいます。

仮に、その日に1ミリの溝ができたら、1週間後には7ミリ、1ヶ月後には30ミリ、1年後には360ミリ、10年後には3600ミリ(3メートル60センチ)にまで広がる計算です。多くの人が、取り返しがつかないくらい溝が広まってから、はたと気づくのです。「妻(夫)の気持ちはいつ変わったのだろうか?」「昔の妻(夫)と別人じゃないか」と。

決して劇的に変わったわけではありません。多くの場合、日々、じわじわと溝が広くなっていっただけの話です。“塵も積もれば山となる”です。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

その日に生まれる1ミリの溝を埋めよう!

もしもあなたが夫婦関係をキープしたいなら、いえ、より良好な夫婦パートナーシップを築きたいなら、その日に生まれる1ミリの溝(=変化)について、ふたりで一緒に語り合う必要があります(肯定的に受け止める方向性で)。そうすれば、溝は埋まります(=変化の受け入れ完了)。翌日、また溝が生まれたら、その溝について語り合えばOK。それをくり返していく限り溝は広がりません。

しかし、その日の溝を埋めることができなければ、その溝は、明日、さらに広がる危険性を秘めています。1ミリの溝を埋めることは容易でも、1メートルの溝を埋めることは容易ではありません。埋めるためには、相当な度量と覚悟が必要となります(ハードな交戦へと突入する確率も高くなるので……)。

不仲な夫婦がしばしば「妻(夫)は昔と変わってしまった」ということを言います。しかし、これは実に奇妙な見解です。なぜなら、人は毎日、毎時間、毎分、毎秒——変わり続けているからです。つまり、“変わって当然”の生き物なのです。

逆にいえば、人は常に変わり続けているという前提を受け入れることができれば、その夫婦には希望の灯が見えてくるでしょう。お互いの変化を知るためには、会話によるコミュニケーションしかないと気づくからです。

◆今日はどんな出来事があったか?
◆何が楽しかったか?
◆何がつまらなかったか?
◆何が腹立たしかったか?
◆何が寂しかったか?
◆何が悲しかったか?
◆何に感動したか?
◆何に感謝したか?
◆何をしたいと思ったか?
◆何を買いたいと思ったか?
◆何が食べたいか?
◆どこへ行きたいか?
◆気になったニュースはあるか?
◆何か目標はあるか?
◆何か夢はあるか?
◆何かしたくないこと(やりたくないこと)はあるか?

このように、伝え合うアプローチ(内容)は一つではありません。お互いに、質問したり、質問に答えたり、伝えたり、相談したり、報告したり、提案したりしながら、その瞬間の気持ちを確かめ合うことが大切です。これが“その日に生まれる1ミリの溝”を埋める作業です。

妻に突然の退職宣言。いったい何がいけないのか?

たとえば、あなたが会社を退職して起業しようとします。ある日突然、「明日、退職届を出すことにした」と伝えたとしたら、妻はがく然として「なにをバカのことを言ってるの?」と猛反発するのではないでしょうか? このエピソードの核心は、退職する・しないうんぬんではなく、退職して独立する意図を、そのときまでパートナーに「まったく伝えていなかったこと」です。

一方で、何年も前から、妻に「世の中には、会社員だけでなく、起業という生き方もあるよね」という話をしたり、「同僚で独立起業した人がいてさ〜」というエピソードをシェアしたり、「こんど起業の勉強会に参加してみようと思うんだ」と興味がある旨を伝えたり、「しっかり準備して1年後に独立しようと思っている」と進路を打ち明けていたりすれば、妻から猛反発を受けることはなかったかもしれません。

妻側も、そのつど自分の気持ちを相手に伝えていく必要があります。「起業するよりも、会社員のほうが合っているんじゃない?」「起業したら私も何か協力したいなあ」「起業するのはいいけど、○○が心配なの」「起業後の家計についてだけど〜」などなど。そのつど、自分が感じていること、考えたこと、意見、主張、提案などを伝えることによって、お互いの気持ちを深く知ることができるのです。こうしたやり取りこそが、「日々生まれる1ミリの溝」を埋める夫婦円満術です。

変化を伝え続ける重要性は仕事も同じ!

さて、勘のいい方はもうお気づきでしょう。「その瞬間の気持ちを相手に伝える習慣」の有用性は、仕事のシチュエーションでも変わりません。人間関係でトラブルに見舞われがちな人は、こまめなコミュニケーション、つまりは会話が足りていないのです。刻々と変わる状況や情報、気持ち、感情などを伝えていない。あるいは、相手の声に耳を傾けていない。その結果、両者の溝がじわじわと広がり続け、やがて、修復不能な状態に陥ってしまうのです。

一方、仕事がデキる人ほど、「その日に生まれる1ミリの溝」を軽視しません。自分に起きた変化を、上司、部下、同僚、取り引き先、お客様などに伝える手間を惜しみません。彼らは、いずれ大問題に発展しかねないキケンな芽を、そのつど摘むことによって、スマートかつ効率よく仕事を進めていきます。そうなれば、当然、周囲の信頼も勝ち取りやすくなります。

自分自身の変化を伝えられる人は、他人の変化にも敏感です。その人が上司であれば、部下に適切な声がけをしながら、常に“部下の変化”の把握に努めているはずです。その結果、「その日生まれる1ミリの溝」を埋め続けていくことができるのです。

不思議なもので、自分にとって身近な人との関係性が改善されると、そのほかの人間関係も改善へと向かい始めます。もしもあなたが、周囲の人と良好な人間関係を築きたいなら、まずは夫婦間や親子間で、自分の気持ちを素直に伝えることから始めてみましょう。日々、伝え続けていくうちに、公私を問わず人間関係における誤解やトラブルが減っていくはずです。

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著者:山口拓朗

『残念ながら、その文章では伝わりません』著者。

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伝える力【話す・書く】研究所所長。「伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するコミュニケーション術」「売れるキャッチコピー作成」等をテーマに執筆・講演活動を行う。最新刊の『残念ながら、その文章では伝わりません』(大和書房/だいわ文庫)のほか、『「また会いたい」と思われる!会話がはずむコツ』(三笠書房/知的生き方文庫)など著書多数。起業家の妻・山口朋子と「対等な夫婦パートナーシップで幸せな人生を作る方法」など夫婦関係の築き方をテーマにした講演も行っている。『世帯年収600万円でも諦めない! 夫婦で年収5000万円になる方法』(午堂登紀雄、秋竹朋子著)にも夫婦で取り上げられている。

山口拓朗公式サイト
http://yamaguchi-takuro.com/

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