【AKB48・秋元康×くまモン・小山薫堂】日本を代表するヒットメーカーの「企画力での勝ち方」(後編)

AKB48の産みの親、秋元康氏(作詞家、秋元康事務所)と、くまモンの生みの親として知られる小山薫堂氏(放送作家、N35, Inc)が登壇した新経済連盟会員交流会講演会『企画力で勝つ!』。前編に引き続き、後編をお届けします。

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企画には抗生物質と漢方薬がある

秋元企画というのはたとえると抗生物質と漢方薬の2種類あります。漢方薬でじわじわと効いていく企画と、「これはすぐに結果を出さなければいけないんだ」という抗生物質とあるわけです。咳やくしゃみを早く止めたいんだという抗生物質と、体質改善しなきゃいけない漢方薬。その両方をどうやって使うかというのは考えます。でも、昔は薬という考え方じゃなくて、おもしろければいいんじゃないのという考え方でした。

齋藤:ベースはおもしろいことをやりつつ、やっぱり当てたいというときと、おもしろいことやりたいというときが、いったりきたりということでしょうか?

秋元:歳をとると、自分の中のおもしろいかおもしろくないかという基準が一番大きくなります。あとは責任ですよね。

齋藤:その責任というのは当てなきゃいけない責任ですか。

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秋元そうですね。当てなきゃいけない。それはいろいろ託されるわけだから。昔はね、ある種、外野なわけですよ。たとえば番組つくるのでも、プロデューサーがいたり、ディレクターがいた。僕ら放送作家ですから。それがだんだん託されるようになると、それは考えなきゃならないなと思う。昔は会議室にいても、若い作家のひとりだったけど、チーフになり、自分が企画構成をやるようになると、あまり冒険できなくなってくるでしょ。小山さんも。

小山:そうですよね。だから、最初に戻りますけど、僕が思うのは、自分が楽しいのか、誰を幸せにするのか、それは新しいのかと、考えます。毎回自分が楽しいやつだけだと、ダメだと思うんですよね。でも、たまに(自分が楽しいだけという企画を)入れておかないと、それもまたダメになるんです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

自分が面白いことを続けていると型ができてくる

小山:企画を立てるときに、日本最初の天気予報というのをいつも思い出すんですよ。今って、それこそピンポイントで天気予報がわかりますよね。品川プリンスホテルの明日の天気とか、東京ドームはどうなのかとか。でも、日本最初の天気予報って、日本全国の天気予報なんですよね。日本全国の天気予報で、初めて気象庁の前身が発表しているわけですよ。明日の天気、おおむね晴れるがところによって風あり、みたいなね。日本全国の天気を(ひとまとめにして)予報されても困るじゃないですか。でも、その日本全国の天気を予報するという行為があったからこそ、100年経った今、ここまで進化している。

たとえ最後までつくりあげることができなくても、自分が一歩踏み出せることを企画しておけば、後世になって役に立つこともあるなら、完璧でない企画でもやってみようと最近思うようになったんです。今までは、完成されていなくちゃいけないなとか、すぐに儲けもなくちゃいけないなと思ったんですけど、最近はとりあえず、一歩踏み出しておいて、失敗したとしても、意味があるんじゃないかなと思うようになりましたね。

齋藤:おふたりには何か託してみようと思わせる何かがあるんですよ。

小山:最近、自分でおもしろがってやっていることに、湯道があります。お茶の道が茶道で、お風呂に入るというのが湯道。銭湯も好きですし。

なんで湯道をやろうと思ったかというと、フランス人と結婚した僕の知り合いが、旦那を連れて箱根の温泉に行ったんですね。それで旦那さんに「まず男湯に入ったら、きれいに体を洗ってから湯船に入りなさい。日本はそういう国なんだから」と言ったらしい。で、旦那さんが男湯の脱衣所へ行くと、いっぱいシンクがあったから、これだと思って、そこで体を洗ったらしいんです。脱衣所で体洗って、中に入っていったら、中で洗っている人がいて、恥をかいたと(笑)。

確かに外国人にとって、(日本のお風呂文化は)あまりにもミステリアスですよね。一方、お湯って、ものすごく日本にとって観光資源じゃないですか。飲める水を沸かして、人がそこに入ることができるっていう、こんな幸せな国ってあんまりないですよ。そういう湯道を始めておけば、千利休が現在千利休であるように、400年後に開祖として僕の名前が残るんじゃないかなと。で、湯道を始めて、仲間を集めているんです。

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齋藤:なるほど。自分がおもしろいと思っていることを続けていくと型ができてくると。

小山:そうですね。湯道は、ふたつ目的がありまして。ひとつは子供への教育。湯塾というのをやりたくて、人にいかに迷惑をかけずにお風呂に入るかというのを銭湯で教えてもらえるようなのをやったら面白んじゃないかなと。学びであると同時に、日本の伝統や手仕事を守るような湯道を開発していくというのをやってみようかと思って始めました。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

企画を引っ張るキーワードは「もったいない」「勝手にテコ入れ」

齋藤:小山さんの興味を持つ分野は、割と昔からの文化とか、若干文化的、スノビッシュ的なところが強いのかなという感じがあるんですけど。

小山:いや、そういうわけではないんですけど、いつも自分の中の企画を引っ張るキーワードは「これもったいない」ではあります。「勝手にテコ入れ」とも言っているんですけど、世の中のもったいないなと思うものを、勝手に自分で、自分だったらこうするのになと、価値の底上げをします。そうやって妄想しているうちにできるチャンスをもらったりとか、自らチャンスを見つけたりすることができるます。たとえば、今の伝統工芸。みんな一生懸命にやっているのに、今ひとつうまくいかないところもあるので、これをもっと海外の人にわかりやすく、くっつけられないのかなあなどと考えます。

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秋元:薫堂くんはやっぱり漢方薬なんですよ。ジワジワ効いてきて、本当に何十年、何百年後に、湯道というのが広まって、「昔、薫堂くんって人が言っていたよね」ということになると思うんです。でも、クールジャパンもそうですけど、伝統工芸のものを海外に広く紹介しようとしても、何かきっかけがないと(外国人は日本にやって)来ません。だから、僕はそこに抗生物質が必要で、まずそれが見たいんだ、それが欲しいんだというものをつくっていかなきゃいけないと思っています。

今、ニューヨークで忍者のミュージカルをつくっているんですけど、それも忍者がそのミュージカルで当たって、それが日本に来るきっかけになってくれたらいいなとか。昔は往来に香具師がいて、香具師の人たちが往来を歩く人たちの足を止めるために「蛇が飛ぶよ」ってダミ声で言っていたそう。すると、「え、蛇は飛ばないでしょ」って思いなから、みんな足を止め、なになにって近づいてくる。僕は、今必要だと思うのは、この「蛇が飛ぶよ」というキーワードだとおもうんです。僕は、この「蛇が飛ぶよ」というのは、常につくらないといけないと思っていて、そうしないと、みんなどんどん慣れてきてしまうし、刺激がなくなってしまう。

記憶に残る幕の内弁当はない!ヒットする企画のポイントは”あの”

秋元僕の企画のポイントというのは、まず記憶に残る幕の内弁当はないということ。たとえば会議で、僕がいくらこの一品で勝負しようと言っても、肉を食べられない人どうするんですか。お魚食べられない人はどうするんですかとどんどん増えて、結局幕の内弁当になってしまう。だから、一品でいいんだと。そうではなく、僕は世の中に対して、梅干しだけの、日の丸弁当を出したいと思う。まさか高級な、世界一おいしい梅干しだけの日の丸弁当が出るわけないと思っているところに出すからヒットするのです。でも、「梅干しだけしかない日の丸弁当はかわいそうだから、お魚やお肉を入れましょう」と入れるから結局は幕の内弁当になってしまう。これだと絶対に記憶に残らない。みなさんも今まで食べた幕の内弁当で、うまかったものなんて覚えていないでしょう。でも、あのうなぎ弁当とか、あの釜飯とか、あのカレーとかは、覚えられるじゃないですか。

それから、「あの」がないといけない。たとえば「おくりびと」というタイトルは、思い出せなかったりするけど、「ほら、あの死んだあとの、あの映画」とか、あのがちゃんとある。だからヒットする。「あの秋葉原でいっぱいいるグループ」、それがAKB48。経営とはちょっと違うかもしれませんが、コンテンツの差別化を考えると、「あの」がついているかついていないかの差はものすごく大きい。

自分に何ができないかがわかると、できることが見えてくる

齋藤:おふたりとも、プロデューサー的な要素と、ともすればビジネスマン的な要素と、脚本を書いたり、作詞をしたりという作家性の高い要素の、両面をお持ちだと思うんですけど、その辺りの使い分けはどうなさっていますか。

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秋元:薫堂くんはすごいビジネスマンだと思います。フレームとして、ちゃんと会社も経営しているのに、そこにいやらしさがでない。本当にいやらしくないんですよ、この男は。まあ、女の子にはいやらしいかもしれないけど。でも、基本的にはちゃんと考えているんですね。僕らの仕事で難しいと思うのは、画家と画商を兼ねること。つまり、自分で作品をつくって、それで値段をつけて、ここでこういう風にしようというのは、できないわけですよね。でも、僕の場合は、たまたまそういう人がいなかったから、自分でつくッテ、そうせざるを得なかった。けれど、自分ですべてをやるということは、よくないなと思います。クリエイティブとプロデューサーを分けるとか、自分の中ではそういう気持ちがあります。

齋藤:そういうときは立場を使い分けるんですか。

秋元:使い分けるというより、自分には向いてないと思う仕事は人に振ります。ビジネスもそうなのかもしれないですけど、自分に何ができないかがわかると、できることが見えてくると思うんですよね。自分はなんでもできると思うんじゃなく、これは得意じゃないなとか。たとえば僕がアーティスト系の作詞をする場合は、僕の名前は出さないんです。秋元康という名前で、プロデューサーや作詞と出てしまうと、強すぎる。だから、その時は違う名前にします。薫堂くんはそこのところどうですか。

小山:経営というほど、みなさんの前で言えるほどではないですけど。

秋元:でも、レストラン経営しているじゃない。

小山さっき、記憶に残る幕の内弁当はないとおっしゃいましたけど、下鴨茶寮の幕の内弁当はすごくおいしいです(笑)

秋元:下鴨茶寮を買った男です。すごいでしょ。放送作家で、京都の名旅館を買う人がいるなんて。あれを買って、11億だけ?13億? それを経営して、そこのブランドのついた商品をいろいろ展開している。それもすごい規模ですよ。

齋藤:コッポラも来てましたもんね。

秋元:だから、すごい経営者なんですよ。「おくりびと」のぬいぐるみを着た、商人なんです。確かにくまモンでは一千も取っていない。でも、くまモンの中には、この経営者がいるんです。下鴨茶寮が。

小山ちょっとやめてください。僕がせっかく築き上げてきた「いいひとイメージ」を崩すのは。

秋元:くまモンはちゃんと取ってないと言っているじゃない。

齋藤:下鴨茶寮もかなりリスク取っていますよね。

秋元:プロデューサーとビジネスマンと作家を兼ねられていて。

小山:僕もちょっと話していいですか。僕は20代のころから老後のことばかり考えていまして、20代で番組をつくっていたときも、老後にこれは面白かったと浸りながら観られる番組をストックしたいという気持ちでやっていました。で、60歳を過ぎたら、仕事は書くことだけにしぼったら、すごく素敵な老後になるだろうなと思っています。

秋元:老後を考える放送作家なんていないですよ。そんな守りにまわるような。でも、そこが薫堂くん、新しい。

齋藤:老後は今も考えています?

小山:僕は常に考えていますね。

齋藤:秋元さんは?

秋元:僕は考えてないです。面白いことできたらいいなということしか考えていない。なんかいろんな貯蓄とかもしてそうだよね、薫堂くん。

齋藤:すごいそっちに持っていきたがりますよね(笑)

小山:(秋元さんは)自分の資産を隠すために、いつも僕をダシに使う(笑)

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取材・文 山葵夕子 写真 ヒダキトモコ

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