【AKB48・秋元康×くまモン・小山薫堂】日本を代表するヒットメーカーの「企画力での勝ち方」(前編)

 新経済連盟の会員交流会が10月7日(水)、品川プリンスホテル・メインタワーにて開催された。AKB48の産みの親、秋元康氏(作詞家、秋元康事務所)と、映画「おくりびと」の脚本やくまモンの生みの親として知られる小山薫堂氏(放送作家、N35, Inc)が第一部講演会『企画力で勝つ!』のスペシャルゲストとして登壇。映画「おくりびと」や「着信アリ」などを例にあげ、企画力の磨き方について語った。モデレーターは、新経済連盟クリエイティブディレクターの齋藤太郎氏(株式会社ドフ)。

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企画とはサービスである、サービスとは思いやりである

齋藤太郎氏(以下、齋藤):経営にとって企画は重要なファクターで、ビジネスモデルや新しい商売を考え出すときにも必要です。秋元さんならAKB48、小山さんだったら「おくりびと」とみなさんも認識されていると思いますが、企画するうえで一番大事にしていることは何でしょう。

小山薫堂氏(以下、小山):社内ではいつも企画とはなんぞやという話をしています。「企画とはサービスである。サービスとは思いやりである」といつもスタッフには言っています。何を求められているか、何を欲しているかということを、どれだけそれを欲している人々をおもんばかられるかを考えるのが企画ではないかなと。

 企画をするときに自分でいつも問いかけている3つのことがあります。その企画は新しいか。その企画は自分にとって楽しいか。その企画は誰を幸せにするのか。これらの質問を常々問いかけて3つとも当てはまっていたらすごくいい。誰も幸せにしないけど自分はものすごく楽しいからやりたいとか、自分は楽しくないけど明らかに幸せになる人がいるからやろうとか、そのうちのひとつでも当てはまっていたら、それもまたいいです。でも、どれも当てはまらない仕事はやめようというくらいの気持ちでやっております。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

マーケットはあえて見ず、たったひとりから始める

齋藤:(秋元さんは今の小山さんのお話を聞いて)それは違うだろうと思う点はありますか?

秋元康氏(以下、秋元):いえいえ、まったくその通りです。彼は人格者なので、非常に優しく、穏やかに、あの思いやりとかサービスとか、「なるほどな」と思ったんですけど。僕の場合は、薫堂くんみたいに会社を持つようなことをしていなくて、本当に個人作業なんですけども、ちょっと違うのは、僕はとにかくマーケットを見ないことにしています。この10年、20年くらいでしょうかね。昔は僕も世の中の動きとか、人は何を望んでいるのだろうとか、そういうことを考えていたんです。けれど、それをやればやるほど、結局過当競争に巻き込まれることに気づきました。そこにどんな魚がいて、どうなんだとわかればわかるほど、魚群探知機があればあるほど、そこには漁船が集まってしまう。だから、そう(マーケット)じゃないのかもしれないなと思ってからは、とにかく自分が信じるものをやり続けることのほうがおもしろいかなと。

薫堂くんのような人格者じゃないからかもしれないですけど、みんながたとえば校庭でドッジボールをやっているときに、そこからドッジボールに入っても勝てないなという気がするんですね。だから、みんながドッジボールをやっているんだけども、僕は鉄棒をたったひとりから始めて、なんかおもしろいことをやっているうちに、ドッジボールをやっている人たちから仲間に混ぜてほしいと言われるようになるほうがいいかなと考えている気がします。外を見てなくて、自分の中だけでおもしろいものが、どこまで広がるかという、その思い込みと、思いやりの賜物のような気がするんです。決してそれは、すべてがうまくいっているわけではなくて、そんな偉そうなことを言うつもりもなくて、ずっと結局最後まで、夕暮れまで鉄棒ひとりきりだったなということもよくあるんですね。誰も振り向きもしないじゃないかと。でも、その中で、みんなが望んでいるものを探せば探すほど、ダメになるような(気がしている)。

たとえば、今のテレビが視聴者が何を望んでいるか、どうやったら視聴率が取れるかということを考えすぎて、みんなが想像する予定調和を壊せなくなった呪縛に似ているのかなと思うので、まったく見たことがないとか、やったことがないとか、そういうものを追い続けているような気がします。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

勝てないと思うときは、プラスαがないかを考える

齋藤:出だしがそうであっても、AKB48やおニャン子というのは、どちらかというと、みんなの漁船が集まってきている状況じゃないですか。鉄棒仕掛け人、鉄棒の真ん中みたいなところがあります。そのときはどうするんですか。

秋元違うものを考えますかね。でも、同じになっちゃうんですよね。何年か前にこれからはお化け屋敷だなと思って、ニューヨークにつくろうと思ったんですね。ところが準備している間に、ニューヨークもロンドンもお化け屋敷ブームになっちゃって、これはダメだと思ったというようなことはありますよね。だから、急遽変更して、これはやめようというようなことになったんです。

 それがあるとき、お化け屋敷だけだから勝てないんだと寝て起きたらふと気づいた。お化け屋敷にプラスαがあれば勝てるんじゃないかと。お化け屋敷というのは、入り口から入って出口まで目的がないじゃないですか。だから目的をつくればいいんだと思いました。怖いところに行けば行くほど、得することはないかなと思ったときに「そうだ。寿司だ」と、寿司ゾンビというお化け屋敷をつくることを思いついた。怖いところへ行けば行くほど、高い寿司が食べられるんです。ウニとかイクラとか。で、大して怖くないなというときはかっぱ巻き(笑)。そういった仕掛けをあちらこちらに置いておいて、出口交換で、ウニが取れた人は、ウニが食べられるという、寿司ゾンビというのを真剣に電通とやっているんですよ。今やっているところです。それが面白いかなと。

自分のこだわりがあれば、好き嫌いがあって当然

小山:ニューヨークに先月、秋元さんと一緒に行ったんですよ。そしたら秋元さん、タクシーの中で、ずっといろんな人の悪口を言われていたんです。「あいつが嫌だ、こいつが嫌だ」と。それで、突然僕に「で、薫堂は誰が嫌いなんだよ」って聞くんです。僕、嫌いな人ってそんなにいないんです。だから、「あまりいないです」って言ったら、「だからお前はダメなんだ」という。「嫌いな人を言えない人間は、俺たち信用しないから」と言うので、「いや、いますよ。すごく嫌な奴いますよ」と返したら、「じゃ、誰」と。「いや、ちょっと名前を思い出せないんですけど」と伝えたら、「名前を思い出せないというのは、それほど嫌いじゃないんだよ」って言われました。

秋元さんの場合、とにかく嫌いな人がいると。「その人のことを嫌いすぎて、好きなんじゃないかと錯覚することがある」と言うんです。それで年に1回、その人をごはんに誘って、ごはんを食べながら、「やっぱり嫌いなんだ。よし、俺ブレてないなと思うんだ」と言われた時に、なんか秋元さんすごいなと思いました。それくらい自分の思いを守り抜いて、人を寄せ付けないくらいの強い思いをもって、いろいろ企画もやられているんだと思いまして。

僕は誰かに嫌われているなと思ったら、やめようという気になる。企画に関しては、WINWINじゃないとダメだなと思ってしまうタイプなんです。自分だけ儲けていると思われた瞬間に、共感を得られなくて失敗するだろうなと思ってしまうタイプなんです。だから、くまモンも、本当に儲けてないんです。僕は本当に儲けてないんですと言いながら、本当に儲けてないんですけど、そうやっておかないとうまく回らないんじゃないかと思う。でも、秋元さんは、AKBで相当儲けてらっしゃると思うんですよ。それをこう、批判も感じさせないくらいの強い企画力をぶつけるから、いいんじゃないかなと。これが中途半端な企画力だったら、批判されるんじゃないかなと。

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秋元なんか薫堂くんの考え方だと、薫堂くんがいい人で僕が悪い人みたい。僕はWINWINはしてないと?

小山:いや、違います。ちょっと違うんですけども。

秋元:薫堂くんがいわんとしていることもわかるんですけども。嫌いな人というのは、なんだろうな。なぜ嫌いかということが、自分の方向性なんですね。つまり、どんなものでも、「好きでもないです。(でも、)嫌いでもないです」というのは、結局、自分がないから好きでも嫌いでもないじゃないですか。自分を持っていたら、必ず好きか嫌いかはあるわけで、その人が嫌いというのはきっと、自分にすごく似ているか、自分と全く価値観が 違うかのどちらかなんですね。僕はその人に会うくらいだから、きっとその人のことがそんなには嫌いじゃないかもしれないんです。でも、会って実際に話をしていると、どうにもこの人と価値観が違うなと思ったりするわけ。

もちろん僕も薫堂くんみたいにみんなから好かれたいですよ。すごくいいイメージで売ろうとしているんですよ、この男は(笑)。本当は腹黒い。でも、僕は割とどう思われてもしょうがないなと、どこか思っている。それは世の中というのは冗談が通じないんだなというのが分かったからなんですけど。

僕が20代のときにおニャン子クラブが大当たりしたんですけど、その時に「秋元さん、印税ですごく儲かっているでしょ」と言われるじゃないですか。僕は東京生まれで、昭和33年生まれで、「いやいや、儲かってないです。みなさんのおかげです」というのが恥ずかしくて、「いやあ、儲かってますよ」と言っちゃうんですよね。そこでよせばいいのに、「いやいや、あまり儲かりすぎて、おニャン子ホテルを建てたんですよ」と言っていたんですよ。そしたら、それを本気にする方がいるんです。ギャグを言っても、そうやって冗談で言っていたことが、いつの間にか秋元康イコール金マン家とか、お金が儲かっている人とか、計算高いとか、そういうイメージになってしまった。薫堂くんは、そういうドジを踏まないように、いい人のふりをずっとしているんだよね。それは僕も大人だからわかるんですけど、薫堂くんは確かにくまモンでは一千も取っていないんですよ。でも、くまモンをダシにして、違うところからいっぱい取ってる(笑)。そりゃ、そうですよ。くまモンを当てた人ですから。しょせん、同じなんですよ。だけど、そういうことをやるところが、さすがプロデューサー、うまいなと思うんですよね。

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「カルピスの原液」が企画の理想

秋元:スタッフにもずっと言っていることですが、企画の優位性を考えたとき、カルピスの原液をつくらなきゃダメなんです。カルピスの原液さえつくれば、カルピスウォーターをつくりたい、ホットカルピスをつくりたい、アイスクリームのカルピス味をつくりたいというそれぞれの話をいただけて、薫堂くんが言うところのWINWINになる。だけども、この原液がない、なんとなく当たっちゃったものというのは、すぐ同じものをつくられるし、競合が出てくる。だから常にこの優位性は何なのだろうなというところを考えていかなければならない。アイドルをつくるときも、アイドルをつくることはできるんだけど、ならば専用劇場を秋葉原につくろう。365日公演しているアイドルはいないんだろうなというところ、その差別化みたいなところは考えますよね。

確実に当てたいときはバッドを短く持て

秋元:僕は、映画を何本もやっていて、最初の映画「僕は君をすきになる」が大ヒットして、次の映画もヒットして楽勝だなと思ってから、その後、5、6作品続けざまに当たらなかったんです。なぜ当たらなかったかというと、当たろうが当たらなかろうが関係なく、自分のつくりたいものをつくっていたんですね。

それが僕らの仕事ってすごくわかりやすくて、パーティーへ行ったら、「秋元さん、なんかおもしろいことやりませんか」という映画関係者みんなの目が、やる気がないんですよね。明らかに社交辞令。自分に向かって話しているんだけど、違う人を探しているような感じなわけです。で、ああ、こうやってチャンスというのは失われていくんだなというのを知りました。

 それで次こそは当てなきゃいけないと思ったときに、人はどうするかというと、バッドを短く持つんです。当てにいくから長打ではない。AKBみたいなのは、バッドを一番長く持ち、当たらなくても全然いいと思って秋葉原に劇場つくっているんですよ。でも、そのときは、今度この映画がコケると、たぶん俺、映画(が二度と)できないんじゃないかなと思って、そうしてバッドを一番短く持ってつくったのが「着信アリ」というホラー映画なんです。これはホラー映画だから、ある程度の層は間違いなく入る。そこに三池崇史さんという非常に優秀な監督を持ってきて、その当時、まだそんなに有名じゃなかったんですけど、柴崎コウさんが絶対くると思っていたんで(主演を)お願いした。バッドを短くもって、大ヒットはしないけれども、確実に塁に出るというのをやりました。たぶん、薫堂くんの「おくりびと」なんかはバッドを長く持って、薫堂くんがやりたいこと、つまるところ映画をつくるのが好きな人たちが集まってやったんでしょう。あれは当てにいってないでしょう。

小山:いや、まったく当てにいってないです。ただ、賞は獲りたかったんですよね。

秋元:公開からヒットするまで相当時間あったけど、当初はどこも誰も見向きもしなかったもんね。

小山:そうですね。

秋元:外国の賞を獲ったときに、あそこからだよね。

小山:そうです。モントリオール映画祭で賞を獲ったのがきっかけでした。僕、最近、常々思うんですけど、企画って何をつくりたいかというのも大切なんですけど、それ以上につくり上げた企画が誰に出会うかというのもすごく大切な気がするんです。たとえば、(秋元氏が企画し、小山氏が構成を手掛けて失敗した)最大公約ショーとかも、あのときはテレビ局の番組のプロデューサーに出会ってしまったので、その企画が視聴率が取れなくなってしまった瞬間につまらないと思われたんですけど、もし今の時代に「これってネットのコンテンツ向きだな」と思う社長さんに出会って、これで一個つくりましょうよ(と打診を受けて)、ポータルサイトみたいになっていたら、また変わっていたかもしれない。失敗した企画って、たまたま出会った男が悪かった自分の娘みたいな気分で、時々あとになってから追ってしまうんですよね。

後編へ続く

取材・文 山葵夕子  写真 ヒダキトモコ

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