【楠木建氏インタビュー】真のリーダーに求められる3つの資質とは?

経営者、マネージャー、プロジェクトリーダーなど、会社組織において「リーダー」という立場に立つ人に求められる資質とは何か、真のリーダー像とはどういったものかについて、一橋大学大学院教授 楠木建さんにお話を伺いました。

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くすのき・けん:一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授

<プロフィール>

1964年、東京生まれ。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。主な著書に『「好き嫌い」と経営』(東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)など。

真のリーダーは「アウトサイドイン」な思考をしない

僕が大学院で担当している「競争戦略」という分野は、個々の事業を責任持って動かすリーダーのために存在しています。

ここでいうリーダーとは社長や役員といった役職、職位に関わることではなく、商売を動かして利益を作るという責任を果たせる、そういう構えで仕事をしている人のことを指しています。担当者が「あなたの仕事はここからここまでです。KPIがこれです。いつまでに達成しなさい」という仕事の与えられ方をするのに対して、リーダーにはそれがありません。構想、戦略のストーリーを自ら作り、動かしていくことがリーダーの仕事であると考えます。

個々の事業、商売のかたまりの中で、「これを丸ごと動かして、これだけ稼いできます」という人たち。そういうリーダーのために存在するのが競争戦略です。

競争戦略というのは本当にケースバイケースで、よく「成功する企業の共通点」「成功するリーダーの共通点」を聞かれるんですが、「こうすれば成功する」っていうパターンというのはないと思うんです。今いろいろな会社のお手伝いをしていますが、本当に千差万別ですね。

ただ、失敗する会社の共通点というのはあります。トルストイの「アンナ・カレーニナ」に「幸せな家族はみな一様に幸せであるけれども、不幸な家族はそれぞれに不幸である」っていう有名な書き出しがあるんですが、商売はこれの逆だと思っていて。成功する会社、事業というのは千差万別ですが、うまくいかない事業、会社には共通点がある。

それはなにかというと、リーダーが「アウトサイドイン」な思考であるということ。

人間のタイプとして、良いことも悪いことも外生的な要因と考える人と、内生的な要因と考える人といると思うんですが、リーダーが前者であった場合には事業がうまくいかなくなるケースが多いです。アベノミクスが、とか、円高が、とか、外部環境の変化が要因のひとつになるケースは当然あると思いますが、自分の考え方、受け止め方として、環境のせいにしないということは大切です。環境のせいにしてしまうと、その後のアクションが何も生まれないですから。

戦略を作る時にも同じことがいえます。アウトサイドインの考え方をしている人というのは、まず外部でうまくいっている企業を調べて、良さそうな要素をつまみ食いして、「はい、これがうちの戦略です」としてしまう。インサイドアウトの考え方は、まず自分として「こういうものがいいんじゃないか」というのがあり、その上で外部環境を見に行く。決して外部環境を見るのがダメだという話ではなく、スタート地点の問題、物事の受け止め方の問題です。

たとえば、昨今の流れを受けて「グローバル化せざるを得ない」っていう言葉を聞くことがありますが、必ず突っ込みを入れるのは「誰に頼まれたんですか?」ということです。商売の一番最初のコンセンサスというのは自由意志の原則なんです。王様や誰かに強制されたものではなく、自分の意思でやるものなんです。

もちろん、どちらも成功・失敗はあるでしょうし、一概に良い・悪いは言えないのですが、「こういう商売がしたい、こういうことがやりたい」という構想から考えていくことは大切なポイントと言えると思います。

堀場製作所というところの堀場厚(ほりばあつし)社長はすばらしい経営者なのですが、彼の経営に関する座右の銘は『嫌ならやめろ』なんですよ。これは従業員に言っているわけではなく、経営について言っているのですが、まさに商売の本質だと思っています。経営者が内側から「やりたい」と思うものがあって初めてスタートするはずなんです。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

真のリーダーは建設的な消去法を持っている

ただ、僕は大学を卒業するころ、大人に「君は何がやりたいんだ」「やりたいことをやりなさい」と言われて、こんな不親切なアドバイスがあるか! と思ったんですよ。20年ちょっとしか生きていなくて、経験にも限りがある中で、やりたいことなんてわからない。

「君の好きなことをやりなさい」「夢を追究しなさい」そういう人に限って、夢と言いながら自分の欲を話すんです。「世界一の●●になりたい」とか「世界をまたにかけるビジネスマンになりたい」とか。「やりたいこと」を考えると、すぐ欲が出てきちゃうんですよ。でも、夢と欲は別物で、欲は自分の方を向いていますが、夢は自分以外の誰かを向いているものだと思っているんですね。

仕事というのは、自分を向いた事ではなく、誰かのためにならなければいけないんです。当たり前のことを言いますが、誰かに価値があって、誰かが儲かって初めて自分が儲かる。そこが趣味と大きく違うところです。

でも20~30歳くらいでは、「やりたいこと」と言われても、やっぱり欲くらいしかわからないんですよ。ただ「こういうことはしたくない」っていうのは、それくらいの年齢でも結構はっきりしてきているんです。

僕自身、学生時代のいろいろな生活の断片から感じていたのが、チームで何かをやろうとすると、どうも調子がでないということ。チームワークがダメというか、一人でやれることの方が調子が出るんです。且つ、あまりハイテンションな仕事ではない方がいい。

そうやって考えていって、非営利の今の仕事に辿り着いたんですが、学生の頃に考えた「何が嫌か」という自分への理解というのは、相当正しかったと思います。今でも変わりませんからね。

なので「やりたいこと」があればもちろんいいんですが、なかなかそれが見つけられない場合、何をしないかを決める、というアプローチもあるのではないかと思います。建設的な消去法というのもあるんじゃないかと思うんですよね。

適正とか、向き・不向きというのは確かにありますが、事前には絶対わからないものだと思います。事後的に、滑って転んで初めてわかるものですね。自分のことは自分にしかわからないですが、そう簡単にわからないのも自分なので、やはり経験が大切だと思います。先ほどの「したい・したくない」の判断も、結局は経験からしか学べないですから。

なので20代、30代くらいのうちは「やりたいこと」を見つけるために経験を積む期間、と割り切ってしまってもいいのかもしれません。

また、自分自身に対してもそうですが、リーダー的な立ち位置の人は自分の部下に対して「やりたいこと」を聞くのではなく、「やりたくないこと」以外のものにチャレンジできる環境、経験できる環境を用意してあげた方がいいのではないでしょうか。

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真のリーダーは「位置エネルギー」に固執しない

また、マネージャーやリーダー的ポジションに就いている人が気をつけなければならないのは、「運動エネルギー」と「位置エネルギー」を履き違えてしまうこと。「運動エネルギー」は、やりたいことや仕事に取り組む際の熱量を指すのに対して、「位置エネルギー」はポストやステータスに対する熱量を表します。「私は代表取締役社長である」と肩書きを誇示するのは位置エネルギーですし、担当レベルでも「私は外資系コンサルタント社員である」という「状態」にこだわりがある人をよく見かけます。

起業家とかを見るとわかりやすいですが、起業家はみんな自分で動いてって人が多そうに見えますけど、実際は位置エネルギーだけの人たちも結構いるんですよ。「起業家であることが幸せ」とか「俺は起業家だぜ」といったふうに。企業の上場の例が一番わかりやすいですけど、上場する企業は、「『上場企業である』という状態が欲しい人」なのか「上場して資金を調達してそのお金でやりたいことがある人」なのかで視点の高さが全然違うでしょう。仕事のジャンルに関わらず、どの業界にも位置エネルギーに満足している人は多いと思うんですよね。

逆に運動エネルギーがあれば、位置エネルギーなんて構っていられないんですよ。「経団連の会長」はすごい位置エネルギーなのかもしれませんけど、そこで何やりたいか、何やっているかっていう方が大事なのは言うまでもない。位置エネルギーに固執すると、人間ろくなことがないんです。いつかは必ず運動エネルギーも位置エネルギーも失われるんですけど、位置エネルギーを失った人は、みんな寂しそうですよ。失われたショックが大きいみたいで。それだけポストやステータスに頼っていたのでしょうね。

先ほどの仕事と趣味の話ではないですが、位置エネルギーというのは自分に向いたものなんです。そして、自分のためだけのものっていうのは長続きしないんです。ここ、本当によくできているなと思うんですけど、やっぱり人間は人のためになっていないと長続きしないんですよ。

投資銀行とかで毎日忙しく働いて、給料を高くもらって、45歳くらいでアーリーリタイアをする、なんていう人たちは結構いますが、だいたい5年もすれば「ちょっと調子がわるくなっちゃった」なんていって戻ってくる人も多いですよ。アーリーリタイアして、あとは自分のためだけに時間を使う、なんていっても、やっぱり誰か人のためになっている時に一番人間は喜びを覚えるものなんです。自分を向いてやるよりも。それはもう、人間の本性なんですよね。

監修:リクナビネクストジャーナル編集部

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