【人事の課題を“歌”に!?】年間500社超を訪問する人事ジャーナリストがCDデビューした理由

 年間500社以上の企業の人事部、人材開発部門に取材を行う中央大学大学院客員教授の楠田祐氏。『内定力』『破壊と創造の人事』など著書も多く、人事ジャーナリストの肩書も持つ。リクナビNEXTジャーナルでも昨秋、ワーキングマザーの就労環境の整備不十分などを理由に、「女性の活躍推進の流れに黄信号が点っている」と警鐘を鳴らしている。

 その楠田氏が先月、なんとCDデビューを果たした。収録曲のタイトルは『ワーキングマザー』『育児休暇促進のうた』『フィードバックで成長できるさ』『あゝそれが役職定年』など。企業が抱える人事的な課題を歌にして、自らアコースティックギターを奏で、歌う。なぜ氏はこのような活動を始めたのだろうか?

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楠田 祐氏
中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授/戦略的人材マネジメント研究所 代表 
大手エレクトロニクス関連企業など3社を経験した後に、人材開発・育成を手掛けるベンチャーを立ち上げ社長業を10年経験。2008年に企業への人事戦略アドバイスを行う戦略的人事マネジメント研究所を設立し、2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究するほか、多数の企業で顧問も担う。著書に『破壊と創造の人事』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。6月に著書と同名のCD『破壊と創造の人事』をリリース。楠田氏のオフィシャルウェブサイト  http://www.ks-hr-label.com/

■人事の課題は、ビジネスパーソン全員の課題。多くの人に認識してもらいたいと考えたとき、思いついた方法が「歌」だった

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 楠田氏は、2009年より年間500社超もの人事部門を訪問し続ける一方で、人事担当者向けのセミナーも精力的にこなす。企業の人事の課題を知り尽くし、人事担当者との人脈も幅広い。しかし、楠田氏はそれに課題感を覚えていたという。

「人事担当役員や人事部長、現場の人事担当者などと会う機会はものすごく多いのです。でも、人事の課題は人事のものだけでなく、働くビジネスパーソン全てに関係するものです。ビジネスパーソンに広く人事の課題を認識してもらうことが、課題解決の第一歩。そのために本も書きましたが、やはり人事もしくは人事に興味のある人にしか手に取ってもらいにくい。どうすれば、より多くの人に伝えられるのだろう…と常に考えていました」

 そんなとき、たまたまローリング・ストーンズのDVDを観る機会があった。2006年、一晩で150万人もの観客が集まったブラジルのコパカバーナビーチの無料コンサートの模様だった。そのとき「これだ!音楽という方法ならば、多くの人に興味を持ってもらえるかもしれない!」と思い立ったという。

 楠田氏が作った曲の歌詞を、一部紹介しよう。企業を訪問し、現場で見聞きした現状をまとめたものだ。

『ワーキングマザー』(作詞・作曲/楠田祐)

夕べは あまり 寝ていない 夜泣きと オムツ変えて 私寝不足
今朝も手作り お弁当を作って 保育園に 子供を連れていく
夕方4時になったら 私は保育園に迎えに行くのよ
ワーキングマザー 子育てをしながら
ワーキングマザー 私は働いているのよ

私が4時に帰ったあと 職場のみんな あとは宜しくね
5時になったら 部長が戻って来る その時 この書類を渡しておいて
6時になったら電話があるから 明日の10時に折電するって伝えて
ワーキングマザー 職場のみんなが協力してくれる
ワーキングマザー 顧客もわかってくれてる

8,568通り、あなたはどのタイプ?

■現場の社員へのインタビューをもとに歌詞を作成。課題解決のヒントも盛り込む

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 楠田氏は10代のころからエレキギターを弾いていて、大学時代は毎晩「六本木のディスコ」で生演奏をしていたほどの腕前。そこで、自作の曲を広く伝えるために、音楽経験のある企業の人事を集めてバンドを組み、2011年ごろからライブ活動を始めた。しかし、「バンドだと音が強すぎて、肝心の歌詞がオーディエンスに伝わらない」と感じ、アコースティックギターで一人で演奏するという今のスタイルに落ち着いた。

 これまでに作った曲は50曲以上にのぼる。

「曲を作ろう!と思って作ったことはありません。日々、企業の人事部門を回る中で、『これは皆が認識すべきだ』という課題にぶつかったとたん、歌詞と曲がどんどん頭に浮かんでくるんです。なので、曲作りは大体、仕事の合間に突発的に。1曲あたり、大体30分~1時間くらいででき上がってしまいますね」
 
 例えば、先の『ワーキングマザー』の歌詞は、企業でインタビューしたワーキングマザーたちの声が元になっている。仕事と育児の両立で疲れ切っているワーママが多い中で、両方ともバリバリこなして輝いているワーママも存在する。その両方の視点を歌詞に組み込むことで、「両立が大変なのはワーママ共通の悩みであり、仲間はたくさんいる。一人ではない」というメッセージ、そして「うまく両立している人は、勤務時間中は仕事に集中し、その後は周りを信頼し、感謝をしながら仕事を任せている」というノウハウを伝えようとしている。

 アルバムに収録されている『育児休暇促進のうた』は、男性社員が育児休暇を取ったり、定時で帰ったりすることに理解がない企業の多さを憂い作った曲だ。「赤ちゃんの世話を 夫婦一緒に行えること 夫婦で子育て行うことで 成長の喜び共有」と歌う。

「育児休暇を申請したら、『奥さん、専業主婦だろ?なんでお前が休むの?』『評価下がるよ』などと言われたという例は枚挙にいとまがありません。そもそも、男性の育休は、妻が専業主婦の場合や育休中でも取れると定められているのに、です。少しでも男性の育休取得に対する意識が上がればと思い、育休を取った男性の目線で歌詞を書きました」

 その他、『インターンシップに行こう!』は、大学の就活セミナーで講演したときに、何人もの学生に「インターンシップなんて、ホントに役に立つんですか?」と質問されたのがきっかけ。『フィードバックで成長できるさ』という曲では、周りからの厳しいフィードバックにムカっとしたという若手ビジネスパーソンの声を受けて、「自分は自分のことを客観的に見ることができない」「フィードバックしてくれる人がいるから成長できる」と、フィードバックの大切さを歌詞に乗せている。 

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■タワーレコードのインストアライブで、通りすがりの人が歌を聞き、CDを買ってくれた

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▲迫力あるライブの模様。オーディエンスの半数は人事以外の人だ

 現在は企業訪問のかたわら、1年に4~5回ペースでライブを行っている。CD発売を記念し、タワーレコード6店舗でインストアライブも行った。

「ライブに来てくれる人は、初めは顔見知りの人事担当者ばかりでしたが、その人が社内の別部門の人を連れて来てくれるようになり、最近では半数以上が知らない顔ということも。インストアライブでは、たまたま通りかかった人が歌を聞いてくれて、CDも買ってくれた。一般の方にメッセージが伝わったことが、何より嬉しいですね。これからも地道に活動を続けていきたいです」

 すでに、セカンドアルバムが今年12月に発売されることが決まっている。来年6月には3枚目をリリースする計画だ。

「CDを出すことが目的ではなく、CDはあくまでメッセージツール。私の曲をきっかけに、自分が置かれている環境にもっと関心を持ってもらいたい。ビジネスパーソン一人ひとりの関心が高まれば、必ず課題は解決すると信じています」

 今の目標は、FMでラジオ番組を持つこと。
「ラジオなら、意識しなくても聞くでしょう?人事担当者を招き、人と組織について語り合い、最後にその日のテーマに沿った僕の歌を流す。例えば営業車に乗って客先を回っている若い人が、運転中に何気なくつけたラジオを機に、自分の働く環境について考えてくれるようになったら、嬉しいですね」

▼楠田氏に「女性人材活用」についてインタビューした記事はこちら。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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