【「叱る」で築くwin-winな関係】部下だけでなく上司も成長できる、「叱って伸ばす」のススメ

 今、職場での人材育成においては、「褒めて伸ばす」が主流になっていると言われます。部下の長所を見つけてそれを褒め、不得意なことやミス、失敗は気遣い、フォローする…そんな上司が増えているようです。確かに、得意なことを褒めてもらえたらやる気が出るし、モチベーションも上がるでしょう。ミスをして意気消沈しているときに気遣う言葉を掛けてもらえたら、心が軽くなります。

 しかし、上司として「これが自分の人材育成スタイルだ」という信念を持って褒めているのではなく、消去法的に「褒める」を選んでいる人もいるようです。つまり、自分の個性や権利を主張する若者が増え、少し厳しく叱っただけでパワハラだと言われるリスクや、厳しく接しすぎて部下に嫌われたくないという思いから、弱腰になっている人も見受けられます。

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 そんな中、ここにきて「叱って伸ばす」というキーワードが注目を集めています。『叱って伸ばせるリーダーの心得56』(ダイヤモンド社)の著者である、元小学校教諭の中嶋郁雄さんは、「子供を伸ばすためには叱りが欠かせない」という主張のもと講演会やセミナーで全国を回っていますが、その際に「嫌われたくないという思いから叱れない上司」と、「成長実感を求め、間違いがあれば指摘してほしいと望む部下」の存在と、双方の想いのギャップを知ったといいます。
 これからは、叱りが人を育てる時代。真剣に部下と向き合い、本音で叱れば、部下は「自分を見てくれていて、育てようとしてくれている」と愛を感じ、上司側も、厳しい心で突き放したり、愛を持って叱る過程で人間的に成長できる。つまり、「正しい叱りは、上司と部下にwin-winの関係をもたらす」と説きます。

 今回は、中嶋さんが著書で挙げている「叱りの極意」の中から、おそらく多くのリーダー、マネージャーが感じているだろう「課題」の解決につながりそうなものを、いくつかピックアップしご紹介したいと思います。

叱る前に「ゴール」を先にイメージする

「叱り」にはパターンや流れがあり、その流れを無視した叱り方をすると相手の感情を傷つけたり逆なでしてしまう恐れがある。正しい「叱り」のスキルを習得するためには、次の4ステップを意識することを著者は勧める。
①気付かせる
「○○の件で話があるんだけど」「ちょっといいかな」と声をかけ、上司(あなた)がミスを知っている、自分の行動を不満・不快に感じていることに気づかせる。
②納得させる
「~という理由で、これは君にとってよくないことなんだよ」と、叱られる理由を伝えることで、「自分は叱られても仕方がない」「あのままでは他人に迷惑をかけていたかもしれない」と納得させる。
③反省させる
 ②で叱られる理由を納得させたうえで、「次からはもう大丈夫?」「同じ過ちは繰り返してほしくない」などと伝え、反省を促す。
④改善させる
 最後に「今後の君をしっかり見ているよ」と伝え、改善のための行動を自発的に促す。

 ちなみに、叱ることが下手だったり苦手意識を持っている人は、いきなり③の「反省させる」をやってしまいがち。それは、相手の成長のために叱るのではなく、自分の感情に任せて怒っているから。「今このタイミングで叱ることが、相手の力になる」「この叱り方をすれば、後のトラブルを防げる」と、「叱りのゴール」をイメージできれば、自然と①~④のステップで叱れるようになる。

「4大禁句」に気をつける

 人格を否定するような叱り方は、相手の成長に何の効果もないだけでなく、相手を傷つけ、恨みを買うことさえある。次の4つは、絶対に言ってはならない禁句だという。
①「だから君はダメなんだよ」
 日ごろから、上司(あなた)から「ダメなヤツ」と見られていると感じさせてしまう。
②「何度同じことを言わせるんだ」
 自分はダメな人間なんだと自信を失わせてしまう。
③「この程度のこともできないのか」
「自分の能力を完全否定された」と受け取られる恐れがある。
④「やはり、君には無理だったね」
 最初から期待されていなかったのだと傷つけてしまう。

 何度注意しても同じような失敗を繰り返したり、反省せず鼻につくような態度を取る相手には、つい腹立ち紛れに言ってしまいそうな言葉ではあるが、「思わず口をついて出る言葉」は相手の心を傷つけるもの。周囲で聞いている他の部下の目にも「上司として信頼できる人」とは映らず、批判的に見られる恐れがあるので注意が必要。

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反抗的な態度には「質問」で対応する

 上司の命令や指導に対して、何かと異議を唱えたり、不快な表情でふてくされたりする部下は少なくない。こうした態度は周囲の社員にも良い影響を与えず、組織の秩序を乱してしまうが、頭ごなしに否定するだけでは何の解決にもならない。

 そんな部下を叱るコツは、「質問を振り、考えさせる」こと。
 反抗的な態度は「認められたい」という欲求の裏返しでもあるという。だから、例えば会社の経営方針について「社長の考え方はおかしい!そんな命令に従う必要はない」などと批判的な姿勢を取る部下がいるならば、まずは批判に対して「どうしてそう思うの?」と質問で対応する。それに対して「○○がダメなんですよ!」と突っかかってきたら、「ではどうすればいいかな。君なら、何かアイディアがあるんじゃないか?」と返してみる。
 大切なのは、威圧的にならないこと。あくまで穏やかに、しかし凛とした姿勢で相手に返すことを心掛けよう。

優秀だけど職場の和を乱す社員には、「相手の目線に立つこと」を教える

 優秀ではあるものの、他人と協力したり協調するのが苦手な若手社員が増えている。自分のペースで仕事を進めるので、チームとしての動きが取れなくなり、和を乱すことになってしまう。
 優秀な社員が陥りやすいのが、「相手目線に立てない」こと。自分の主張をするばかりで、相手の話を全く聞かずに意見を通そうと躍起になってしまい、相手が先輩や同僚であれば呆れられてしまうし、取り引き先であればクレームにつながってしまう。
 そんなときは、「相手も、君の言っていることが正論だと分かっているはずだよ。でも、人の気持ちをわかろうとしない人の言葉を、受け入れることができないのが人間だよ」などという叱り方で、相手のことを考えながら仕事を進めることの大切さに気付かせることが重要。仕事は、相手があってこその仕事。相手の様子を観察することの大切さや、相手とのコミュニケーションの必要性を教えるようにしよう。

年上の部下には「頼る叱り方」をする

「年上の部下をどう叱ればいいのか」に悩む人は非常に多い。しかし、叱りにくいからといって、過ちを指摘せず見て見ぬふりをするのはリーダー失格。周囲の部下の信頼も失う結果になってしまう。逆に、「年下でも自分は上司だ。なめられてはいけない」と肩ひじを張りすぎては、「年下のくせに見下しやがって」といういらぬ反発や恨みを買う恐れもある。
 部下と言っても、人生の先輩であることに間違いはない。「敬語」で「相手を頼る」叱り方を心掛けることがポイントだ。「間違っています」「こう変えて下さい」とミスを指摘し、指示をするのではなく、「こう変えたいのですが、大丈夫でしょうか?」「もっといい方法はないでしょうか?」などの言葉で、頼りにしている姿勢を伝えつつ、改善を促す叱り方がベスト。

 とはいえ、大きな失敗をしてしまった時など、厳しく叱らなければならない場面が生じたら、「どうしてもっと早く報告してくれなかったのですか?(信頼していたのに)残念です」と伝えよう。その後はくどくど言わず、失敗のカバーに努めれば、相手のほうが変化し、確認や報告を頻繁にしてくれるようになるはずだ。

周りを非難する部下は、仕事の手を止めてでもその場ですぐ叱る

 基本的には、「叱ろうと思った瞬間に叱ってはいけない」が上司としての鉄則。感情が高ぶった状態では、どうしても人格を否定するような頭ごなしの叱り方になってしまい、前述した「叱りのステップ」を無視した形になってしまうからだ。著者は「まず3秒待って、落ち着いてから叱る」ことを勧めている。しかし、「人を非難する部下」に対しては、例外だ。
 仕事の手際が悪い同僚や、ミスが多くて周りに迷惑をかけがちな同僚に対し、冷ややかに接したり嫌味を言ったりする人は少なくない。しかし、部下の不足を叱咤激励して成長を促すのは上司の役目。同じ立場の同僚による非難は、職場のいじめにつながりかねない。
「デキないヤツがいるせいで、チームに迷惑をかけているんだよ!」「そんな仕事の仕方で、よくやっていけるな!」などと同僚を非難する場面に出くわしたら、「A君、ちょっと来て」と厳しい口調で呼び出し、「人にはそれぞれやり方があるんじゃないか?」「同じ仕事仲間を非難することは許されない」などと上司としての強い意志をその場で伝えることが重要。「自分は絶対失敗しないって言い切れる?」との言葉で、誰でも失敗することをわからせ、自分の言動を反省させるのも有効だ。

 叱った後は、「君のチームを思う気持ちはよくわかる」とフォローを入れ、気持ちが強いあまり非難してしまったのだとその部下を認めてあげるといい。本人のメンツが保てるうえ、周りの社員にはあなたがチーム力を大切にしていることが伝わり、仕事の手際が悪い社員には自覚を促すことができる。

 部下を成長させるのも、やる気を失わせてしまうのも、「叱り方」次第だと気付かされた人も多いのではないでしょうか?相手に真摯に向き合い、心から叱れば、相手の心は突き動かされ、向上心へとつながるのだと実感させられます。

 本書には、相手に合わせた叱り方の原理原則や、困った部下の叱り方などのケーススタディが他にも数多く掲載されているほか、巻末には「便利な叱りワード集」が100ワード紹介されています。「こんなことでへこたれる人じゃないよね?」「君はこの仕事のプロだろう?」「誤解されて終わってしまうよ」など、これなら自分が言われても納得できるし、やる気につながると思えるワードばかり。叱り方に迷い、悩むリーダーには、心強い1冊ではないでしょうか。

参考書籍:『叱って伸ばせるリーダーの心得56』/中嶋郁雄/ダイヤモンド社

EDIT&WRITING:伊藤理子

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