【ビジネス書編集長が伝授】プロが実践!失敗しない「仕事に効く本選び」

「自分に役立つビジネス書を見つけたい」と本屋へ出向いたり、電子書籍を探したりしても、途中であきらめてしまった経験はないだろうか。事実、毎月何百冊と出る新刊書の中から、今の自分のニーズに合うものを見つけ出すのは至難の業だ。できることなら効率よく、「これは運命的!」と思える良書に出合いたいもの。そこで今回は、実業之日本社学芸出版部ビジネス書編集長の酒井圭子氏にビジネス書選びのポイントについて聞いた。

■実業之日本社 学芸出版部ビジネス書編集長 酒井圭子氏

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(プロフィール)

翻訳小説出版社、ビジネス書出版社などを経て、2009年、実業之日本社へ転職。主にビジネス書・実務実用書づくりに携わる。これまでに通算で担当した書籍は延べ250冊ほど。「著者の哲学・実践を読者に最善のスタイルで伝え、その結果として読者がポジティブに問題解決できる本づくり」をモットーとしている。

STEP1:ビジネス書の種類を知る

 ビジネス書を大きく分けると下記の2種類がある。本を選ぶ際は、今の自分が必要としているのはどちらなのか、まずは整理してみよう。
問題解決型→即効性があり、実務に直結する問題解決型の実用書。例)企画書の書き方、プレゼンテーションの技術、話し方指南書など。
願望実現型→キャリアプラン、ライフプランなど、自分の中長期的な生き方を考え、夢を実現するのに役立つ書籍。例)自己啓発書、英語の学び方など。

STEP2:ヒット作から時流をつかむ

 ビジネス書のブームは5年周期くらいで変化している。即効性の高い実用書のヒットが続くと、その後にリベラルアーツの書籍ブームがくるように、振り子は常に揺れている。
 現在の実業之日本社の売れ筋は、逆境をどう乗り越えるかを指南する『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視!「レジリエンス」の鍛え方』(久世浩司著)だ。『嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎・古賀史健著/ダイヤモンド社)のヒットにも象徴されるように、ここ数年「グローバル」や「勝ち抜く戦略」といった内容の本が多く出版されていた反動なのか、今年は他者と自分を切り離しながら、内省的に自らを見つめていく「ありのまま傾向」とも言える本が売れている。時流を読むなら、こういったヒット作を一通りチェックしておくとよいだろう。

STEP3:20代30代で読んでおくべき本の特色を知る

 20代30代は素直などん欲さが必要とされる時代だ。さまざまな人のビジネスのやり方を見たり聞いたりしながら、自分流を築いていくことが求められている。そのための土台固めとなる本選びのポイントは下記の3つ。これらの本選びをくり返し行っていると、今すぐではなくても、将来的に役立つときがやってくる。

・自分の上司が読んでいる本を背伸びして手に取る
 一緒に働いている上司の思考や関心を知ることで、必要とされる知識をいち早く得られたり、コミュニケーションをうまく図れたりするようになる。
自分の定点観測地点となる書店をつくる
 選ぶのが難しければ、会社や自宅の近所など自分の定点観測地点となる書店を決め、週間ベストセラー1位は必ずチェックするようにするとよい。自分が選ばないジャンルの知識も自然と身につく。
古典を読む
 カーネギーやドラッカ―などの古典は、今出ている本の源泉となっているので、一通り読んでおくと、同じ内容でもより理解が深まる。こうした本は、新刊書の「参考文献」として紹介されていることも多い。

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▲これまで酒井氏が手がけてきた書籍の数々.

STEP4:「グローバル」に対応するため、あえて自分が選ばない情報を得る

「グローバル」の定義は、考え方や世代にかい離がある人たちとコミュニケーションを取ること。すなわち、人種や国籍に拘らず、文化、思想、仕事、哲学を乗りこえていくことを意味する。そう考えるならば、「日本の会社組織こそ、まさしくグローバル社会の象徴」とも言える。年代や出身地、立場によって、得ている情報も違えば、その情報源も違う。日本の会社組織というグローバルを生き抜くためには、あえて情報を選ばないように努めることが大事だ。
 そのために、SNSやニュース・キュレーションは自分カスタマイズの情報しか運んでこないことをまずは知り、キュレーションの対極にあるものを追求していこう。フェイスブックやツイッターのつながりは、どうしても思考や置かれている環境が似通った者同士で偏りがちなので、それ以外のところからいかに情報を得るかが「できる人」「できない人」の分かれ目となる。特に若い世代ほどその傾向が強いので、意識的に「自分が選ばない情報」と触れる機会をつくる必要がある。
 オールラウンドで情報を得られれば理想だが、それが難しい場合はせめて両極の情報を読むように意識する。ネットニュースを読んでいると、自分が選んでいる気になってしまうが、実は選ばれた情報しか手にできていないのが現状だ。今の時代は情報過多ではなく、実は情報が狭くたこつぼ型(外界の状況から隔離されて変化に対応できなくなる、ある分野の領域だけに閉じこもる状態)になっているので、そこに気をつけないと意思決定を誤ってしまう懸念が大いにあるのだ。そういう意味でも、自分の趣味・趣向を考えたら、絶対に行かない書店のフロアを一通りまわってみるといった行為は、バランスの良い情報収集力をつける訓練になる。

「心が落ちているときほど感受性が強くなり、センサーが働くもの。そういうときほど本屋さんへ行ったり、アマゾンで気になるフレーズを探してみたりするといい」と酒井氏は指摘する。

 そんな酒井氏のバイブルとなっているビジネス書は『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(アービンジャー・インスティテュート著 金森重樹監訳 富田星訳/大和書房)だ。

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▲心が落ちてるときこそ、運命の本に出合えるチャンスが…本屋へGO!

 ちょうど仕事で悩んでいる時期に、偶然手にしたそう。仕事でうまくいかないとき、どうしても相手や状況のせいにしてしまいがちだが、「人間関係の問題は、すべて自分が頑丈な『箱』に入ってしまうことに原因がある。過剰に自己防衛して『箱』の中から世界を見ていたら、周囲との共感は築けない。箱から出て、自分の行動を変えて、世界と共鳴しよう」という同書のメッセージに感銘し、現在の職場に転職することを決断した。
 運命の本は偶然見つかるもの。とはいえ、常日頃からセンサーを働かせていないと、人生のバイブルとなるような本にはなかなか出合えない。「偶然からくる必然」を手繰り寄せるために、今日の帰り道、ふらっと近くの本屋へ立ち寄ってみてはいかがだろう。

取材・文・撮影:山葵夕子

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