【“創発的破壊”で日本を元気に 3】“ズタズタ”になっていい

一橋大学イノベーション研究センター教授、季刊誌『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、六本木ヒルズにおける日本元気塾塾長を兼任し、“イノベーション”における日本の第一人者として活躍する米倉誠一郎氏。第一線で活躍する経営者を数多く育て上げてきた米倉氏に、日本の未来をつくる、イノベイティブな教育改革、リクルーティング改革のビジョンについて聞いてきました。

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■これからの大学が必要なものは何でしょう?

大学の学部教育に関して言うなら、学部名で専門を決めてしまうより、バラエティーに富んだ教養のための授業をいろいろ取れるのがよいと思っています。4年間は哲学や文学、歴史など、まんべんなくまずは学ぶ。そして、一度就職してから、30歳前くらいになったときにどういう風になっていたいのかを考えて、職業専門学校としての大学院を専攻するというのが理想的と思っています。

また、世界の学生を集めるためには「9月入学」などと議論されていますが、4月入学や9月入学はまったく関係がないと思っています。やっぱりコンテンツ、すなわち授業です。面白い授業をやらないと生徒は来ないですよね。大学教授に優れた先生がいて、学生に面白い人がいて、素晴らしい先輩がいれば、何月入学だって人は来ます。

■学生にはどのような指導を?

「学生の時に何したらいいんですか」と学生によく聞かれるのですが、「何でもいいから本を読みなさい」とまずは答えます。覚えていなくてもいいから文学の乱読です。それから「映画を観なさい」と。アカデミー賞の歴史は100年もないんです。ということは、100本の映画を観れば、そのすべてを観ることができる。あとは「音楽を聴きなさい」。でも、インターンだけはやめなさいとも言いますね。一生働くんだから、なんで学生の時に働くのかが僕にはよく分かりません。学生の時は学生にしかできないことをやれと言いたい。

■学生の就職活動について、思うところは?

人事が変わらなきゃダメですよね。4月採用を取りやめて、通年採用にして、いい人間がいつでも来るようにしたらいいとある交流会で提案したら、「そんなことしたら、いい人材が採れなくなってしまう」と言われました。しかし、これまでいい人材が採れていたら、失われた20年はなかったんです。自分たちがやってきた採用が一番いい方法だと思い込んでしまっている。

■なぜ4月じゃないとダメだと?

人を採用したいというより、大学の名前と、そこそこ成績がいい人を採りたいからです。でも、成績が良いことと、地頭が良いことは違う。

受験勉強は大事です。良い大学へ入学したいのに、「受験勉強すらも越えたくないというなら来なくていい」というハードルを作ることは大事です。いい学生を採りたいから、ハーバード大学やオックスフォードがハードルを下げるなんてことは、ありえないです。厳しいからみんな入学したがる。その地頭のいい人材を大学で徹底的に解放してやる。

残念なのは、今まで日本の大学は勉強もそうですが、発想を解放してこなかったから、採用担当も成績よりも大学名で採用する。すなわち、就職も高校の時の実力で評価されているのと同じです。でも、大学の受験勉強で鍛えられるのは基本的に、暗記したり、与えられた問題を素早く解くという情報処理能力。大学がやらなければならないのは、暗記する能力や知識を使って、自分で問題を立てて解決策を考える、あるいは誰も考えつかなかった新しいことを考える、それが元来の大学教育です。

与えられた問題をすばやく解く情報処理能力は、もちろん不可欠です。でも、問題のないところに問題を見出し、その解決案を考える“情報創造力”がこれからの日本には必要で、そういう人材こそがイノベーションを起こす。それをさせないままの大学では、「日本の大学では安心できない」ということになりかねません。

■グローバル人材を育成するために必要なことは?

日本がいけないのは、英語“を”勉強させるからです。英語“で”勉強でさせない。いまや世界の主流を占めているのは、ノンネイティブのイングリッシュスピーカーたちです。すなわち、英語を母国語としない人たちによる英語による社会経済活動なのです。したがって、日本人も中国訛り、インド訛り、あるいはアラビア訛りの英語に慣れておく必要がある。昔ながらのネイティブアメリカンを雇って、流暢な英語の授業をやらせるのではなく、例えばインド工科大学の優秀な卒業生を雇用して、専門講義例えば経営組織論について英語で授業をしてもらう。そういうことをしていかないとグローバル人材は育たない。

英語を教えるというよりも、英語で教える。そこを早く変える事が大事だと思います。

■日本は世界の中で、どういう国でしょう?

日本はすごく豊かで平和な国です。人生で一生懸命頑張って豊かになって一番素敵なことは、自分の選択肢が増えることです。そして、それが一番の豊かさです。

手元に自由に使っていい100万円があるとします。毎日ラーメンしか食べられなかったら、豊かとは言えませんが、フレンチしか食べなかったとしても、全然豊かとは言えません。今日はフレンチを食べて、明日はラーメンを食べて、明後日はたこ焼きを食べて…。こうした選択肢が多くなることを豊かというのです。しかし、いまの日本人を見ていると、とても豊かとはいえない選択肢の中で暮らしている。だからこそ、この豊かで平和な日本にいる学生諸君にはあわてるなと言いたいですね。何のために寿命が長くなっているのか。

なのに学生の望みは今3つしかありません。1)大企業に行きたい、2)大企業に行きたい、3)大企業に行きたい、の3つです(笑い)。われわれは何のために豊かになったのかをもう一度考え直さなければいけません。

「すごく面白いことを思いついて、シリコンバレーへ行って起業しようとしたら、ズタズタにされてきました。先生、僕、やっぱり弁護士になりたい」。そういう話を聞くと、ああ、いいなあと思います。

ズタズタは大事です。チャレンジして、ズタズタにされて、「やっぱり、自分は下積みからいきます」、「ビジネスは向いていないので教師になります」、「世界で闘うために、留学します」。それでいいんです。挫折して、また一からやり直してみて、またやりたいことができたなら、今度はそれをやればいいんだから。

だから、あわてることはないのです。目標はひとつじゃなくていいし、いろんな生き方があるから楽しいんです。

■日本の“未来”は今後どうなっていくのでしょう?

たかだか、ここ20年くらいですよ、「日本人は内向き志向で、和を尊重し、競争は苦手」と日本人が口にしているのは。日本人にとって和はもちろん大事ですが、その和を乱し続けてきたのも日本人です。アメリカやヨーロッパの家電業界、自動車業界を破壊し、一時はコンピュータやIT機器でも業界秩序をぶち壊していた。みんな日本企業です。したがって、「日本人はおとなしい」というセルフイメージと、諸外国から見た日本のイメージとではものすごいギャップがある気がします。

ですから、大丈夫! ニッポン人は全然大丈夫です。よって、大丈夫だと思っている人が、大丈夫だと思っていることをやり始めないといけない。学生や子どもは社会の鏡なんです。大人がそういうことを言っているから、社会がどんどんそうなっていくわけです。だから、僕は大丈夫だと思っているし、そう行動していきます。

日本は課題山積といいますが、冷静に考えれば、問題はどこの国だってあるんです。中国が抱えている問題だって、アメリカが抱えている問題だって、ロシアが抱えている問題だって、みんな深刻でみんな大変。自分たちだけがいいってことはない。その中で頑張っているんだから、結構、日本はすごいんじゃないかなって気がします。

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3回に渡ってお伝えしてきた【“創発的破壊”で日本を元気に】。いかがでしたか。米倉氏はその著書『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社刊)の中で、「今の時代にあって、カリスマ的リーダー待望論は敗北主義である。そんなリーダーを待つのではなく、一人ひとりが変革の主役となれることに二十一世紀の意味がある」と綴っています。

世の中を変えたいという想い。イノベーションを起こしたいという想い。ズタズタになっても、一からまた出直してやるんだという想い。そのチャレンジ精神と情熱こそ、イノベーションを起こす一番の原動力なんですね。

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取材・文:山葵夕子

※リクルートキャリア運営「次世代リーダーサミット」 2014年1月21日記事より転載

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