回復?低迷?現状維持? 注目キーワードで読み解く

2010年秋、雇用はどうなる?

2008年のリーマンショック以降、現在も世界的な不況が続いている。日本においても、株価の低迷や円高、財政不安に加えて日中関係複雑化の兆しが見られるなど、先行きはあまり明るくなさそうだ。一方で転職市場はどうだろうか。全求協によるデータから読み解くと、「求人件数は上向き傾向のまま止まっている状態」にある。今年の春ごろには「2010年秋には景気は回復する」と語っていた人材コンサルタントも多かったが、今後はどうなるのだろうか…?そこで、これから年末にかけての経済状況、雇用の動向を読み解くキーワードをもとに、経済と人材のプロに分析してもらった。

2010年10月27日

<ADVISER>

保田隆明氏
リーマンブラザーズ証券会社、UBS証券会社で投資銀行業務を経験した後、ワクワク経済研究所を開業。財務戦略アドバイザーのほか、経済・金融分野においてテレビやラジオ、雑誌のコメンテーター、執筆などで活躍。現在は准教授として小樽商科大学ビジネススクールにてコーポレート・ファイナンス、小樽商科大学にて財務管理論を担当する。

菅野宏三氏
伊藤忠グループの人材サービス会社で部長コンサルタントとして人材紹介業務を担当。独立後は大学などの就職ガイダンス講師や、厚生労働省はじめ地方労働局、商工会議所などでも講師を勤めた経験を持つ。その他、新聞や雑誌、テレビなどのコメンテーターとしても活躍。

キーワードから雇用拡大が期待される市場を探そう

 ズバリ結論からいうと、この秋から冬にかけての景気の動向は、回復傾向がいったんストップした「踊り場」の状況が続くとの見通しが濃厚だ。エコポイントは延長したものの、自動車減税の打ち切りといった政策の反動から、年明けに二番底が来るのではという見方もある。もちろん昨年の同時期に比べるとかなり回復しているとはいえるが、まだまだ不安定な状況は続きそうだ。そんな中、全求協によるデータから読み解くと、「求人件数は上向き傾向のまま止まっている状態」にあるという。これは、求職者にとっては朗報だろう。では、こうした景気の中で雇用の拡大が期待される市場はどこなのか?そのヒントを読み解くキーワードを、一つずつ見ていこう。

ビジネストレンドに詳しい保田氏に聞く

覚えておきたい「雇用がプラスになる」キーワード

【ソーシャルゲーム】
外でお金を使わなくなった日本人にとって、最も安価なレジャーとして定着しつつあるソーシャルゲーム。ブロードバンドの普及、パケットの定額料金制といった普及のための土壌が揃っているうえに、開発側にとってみれば追加で初期投資を行う必要がないため、今後も市場の拡大が見込めます。採用のニーズも生まれやすいはずです。米国のジンガという企業がウノウという日本企業を買収したというニュースがあったように、海外企業の進出にも注目です。

 
【共同購入サイト】
SNS(ソーシャルネットワーク)の中でも一番盛り上がっているのが「共同購入サイト」。短期間のうちに50〜60社が進出しているところも注目に値しますが、最も肝心なのは、これまでネットではなかなか売れないと思われていたものが流通し、人気を呼んでいる点です。最近の一番わかりやすい例だと、スーツがバカ売れしていることでしょう。スーツを作るには採寸が必要なので、これまではネットで販売をするのは非現実的でしたが、共同購入サイトはクーポンを売って来店させるモデルなので、従来はネットで売れなかったものも売れます。
また、運営会社に注目すれば、急激な拡大にともなって、商品を仕入れてくる営業職が足りなくなっていますから、ここに雇用の芽はあるはずです。
 
【iPad】
キーワード的には「出版」「教育」でもいいかもしれません。iPadの登場が「産業革命以来の革命」であるかどうかは別としても、少なくとも大きな変革をもたらす可能性を秘めているのは事実。斜陽産業といわれていた出版業界において電子書籍は明るい話題で、出版社の中でもネット人員は少しずつですが増加傾向にあるようです。また、本をスキャニングして電子書籍化する人も増えていることから、スキャナーなどの周辺機器産業も盛り上がりを見せ始めています。
使われ方として今後成長が見込めそうなのが、学習塾などの教育現場や、老人ホームといった高齢者への普及です。つまり、B to Cのビジネスだけでなく、例えば学習塾が一括購入したiPadを生徒に貸し出すといった「B to B to Cのビジネス」に拡大していくというわけです。特に高齢者の場合、いきなりは使いこなせる人は少ないでしょうから、用途に合わせたソフトの開発が進んだり、コンサルタント的な人材のニーズが高まる可能性は十分に考えられます。「iPadの売り上げが頭打ちか」といったニュースがありましたが、むしろこれから違う方向に伸びていくと考えるのが正しそうです。その先に雇用の拡大があるのです。
 
【BOP(Bottom Of Pyramyd)】
ピラミッドの底辺、つまり「貧困層向けビジネス」です。これまでは「ビジネスは先進国で」というのが経済活動において基本でした。少なくとも貧困層を多く抱える国々にはビジネスチャンスはないと思われていましたが、ここ最近、ヨーロッパ企業を中心に進出し始め、BRICSの次の市場として注目されるようになってきています。
ポイントは、「細かくバラして安く売ることができる商品を持っている点」と、「生活に密着した商材(衣食住)である点」。味の素が1gずつ小分けして販売したり、フマキラーが蚊取り線香を一巻きずつバラ売りしたり、ネスレがチョコレートを一ピースずつ販売するといったビジネス方法をイメージすればわかりやすいはず。衣食住に関わるメーカーの海外進出という点で、この秋だけとはいわず先々注目しておきたいキーワードです。
 
【手元流動性】
わかりやすくいえば、企業が手元に現預金を抱えている状態のことです。不景気なのになぜそんなことが可能かといえば、それは単純に投資をひかえたからです。その分のお金を手元に置いておこうということです。
なぜキーワードとして挙げたかといえば、企業はその手元のお金を使って何かしらの動きをとる可能性があるからです。それが経済の動きを読む一つの目安になるはずです。ニュースなどで「手元流動性が上がった」「内部留保も厚くなってきた」などという言葉を聞いたら、企業が次の一手に動く可能性があるということです。まずは投資の復活である可能性が高いですが、その次は高い確率で次は雇用の復活だと考えていいでしょう。知っていて損はない言葉の一つです。
 

忘れてはいけない「雇用がマイナスになる」キーワード

【採用の遅効性】
景気と採用の関係性について説明するキーワード。景気が回復しても、雇用を復活させ、給与を上げるという次のステップを入るまでに、だいたい半年くらいのタイムラグがあるという意味です。つまり、景気が回復したからといって、すぐに雇用が増えるというわけではないのです。
ここからわかることは、回復産業の場合、景気が戻ってから雇用が復活するまでに相当時間がかかるということ。実感値として、待てども待てども…となるのには、理由があったのです。
しかし、これを逆手にとって考えると、この不況時に狙うべきは「新規産業」だということがいえるわけです。企業が新規事業を開始する際は、最初の1、2年は持ち出し前提で、まずは採用を先に行うのが通例。景気に連動するタイムラグもないため、これは単純に雇用機会の創出として期待できるということです。
 
【円高と金利】
現在の円高がなぜ起こっているのかといえば、ひと言で言えば外的要因による影響です。ギリシャショックを機に、欧米諸国の金融機関が抱える不良債権への懸念が高まり、欧米に対する景気の見通しが悪くなった。結果、ドルやユーロが売られ、相対的に景気の浮き沈みの度合いが小さい円が買われた。消去法なのです。だから、決して明るい話題ではありません。
円高は日本にとってはネガティブな影響をもたらすことが多いです。なぜなら、基本的に日本は輸出型の産業が強い国だからです。一方、金利から何がわかるかといえば、「金利が低い=単純に景気が悪い」ということ。基本的なものですが、この2つの数字は、雇用の動向を見極めるためにも注目しておきましょう。

人材コンサルタント・菅野氏に聞く

覚えておきたい「雇用がプラスになる」キーワード

【ネット企画】
「ものが売れなくなった」というニュースをよく聞くと思いますが、売れなくなったわけではありません。買い方が変わったというべきでしょう。この流れは今に始まったことではないですが、市場の拡大はいっそう進みますから、早めの一手が必要かもしれません。ネットでものを売るためのコンテンツの企画職や、その仕組みを具体化するシステムエンジニアやネットワークエンジニア、仕入れ的役割を担う営業職・バイヤーのほか、ビジネスプロデューサーなどチャンスは拡大中です。
 
【中国人観光客】
ポイントは「中国人のお財布」です。中国から日本に観光でやってくる人の数は、日に日に増加しており、この秋以降もさらに伸び続けるはず。かつては銀座界隈でブランド品を現金でポンポンと購入、なんてイメージがあったかと思いますが、最近はさらにエスカレートし、「日本に別荘を持つ」のがトレンド。中国人相手に、日本人が買い控えしている高級品を売るという流れは、まさに旬でしょう。不況のあおりを受けたといわれる不動産業界ですが、例えば中国人向けに中国語のHPを作る、商材を絞りこんで販売するなどといった顧客層を絞っているところは、実は人が足りずに困っているというもっぱらの話です。
また、中国にかぎらず「外国人向けに日本をPRする」という視点は、業界を問わず、爆発的に雇用を生み出す可能性を秘めているため、注目です。
 
【エコ化】
次世代自動車、省エネ、リサイクル…全体的なトレンドとして、「環境に配慮」「エコ化」というキーワードが注目されているのはご存知のとおり。今に始まったことではありませんが、産業の転換期を迎えているわけですから、求人ニーズはなくなるどころか増える一方です。開発者となるとそう簡単ではありませんが、営業や広報、次世代自動車のモーター・バッテリーといった部品にまつわるエンジニアや、工場業務の作業者、LEDに切り替えるための取りつけ作業員といった求人ニーズは日に日に高まっています。
 
【癒やし】
不況による「ストレス社会」が延々続き、人が疲れきっています。自殺者が3万人越えとは、異常事態でしょう。そんな中で企業に目を向ければ、アロマやマッサージなどの「癒やしビジネス」以外にも、既存の業界で癒やしをもっと取り入れようという流れが活発です。雇用の芽としては注目しておいて損はないでしょう。アロマセラピストやカウンセラー以外にも、介護福祉士、臨床介護士といった有資格者は重宝されますから、目を向けてみるのもいいかもしれません。
 
【語学力】
ここ最近、「外国語が話せる人」を求める企業が増えてきています。生産拠点を中国だけでなく、インドネシア、カンボジアあたりに移す企業が増えており、そのパイプ役がほしいという流れです。リーマンショック以降に大きなリストラを行ったことによる「いびつな揺れ戻し」といえるかもしれませんが、例えば「海外に行って、営業とバイヤーと現地調査を全部任せられる人材が欲しい」といったかたちでニーズに表れています。こうなると、ポイントは外国語が話せることになります。もちろん英語は当然のこと、中国語やタイ語、韓国語といったニーズが急増中。勉強する価値は大アリです。 
 

忘れてはいけない「雇用がマイナスになる」キーワード

【消費者無視の経営】
求職者が時代を先読みして企業の見極めや求人探しを行うのと同じで、企業にも消費者のニーズを読む力が求められる時代。消費者の声に耳を向けない(向けられない)企業は、今まで以上に淘汰されていくでしょう。ニーズをつかめる商品・サービスが提供できなければ顧客は離れ、企業としての成長も見込めず、雇用を生み出すどころか、あっという間に倒産なんてことは十分に考えられます。
例えば、デフレによってワンコインランチ化の流れは避けられません。一方で、値段が下げられずに中途半端な高級指向を打ち出す飲食店。あなた自身、道を歩いていて、「こんなもの誰が買うんだろう」と思うものはありませんか?実際、そう思われるものはなかなか売れないご時世なのです。自分の心の声に耳を傾けるだけでも、世相は十分にわかるはずです。
不景気ゆえに、手当たり次第応募したくなる気持ちもわかります。しかし、あえて今だからこそ、企業の体質、商品やサービスの方向性をよく見極めることが大事です。

雇用はなくならない。探し方が大事!

「日米ともに政策のすべてが期限切れ。年明けに二番底が来る可能性は否定できない」と保田氏が語るように、少なくとも景気の回復はもうしばらく先になる可能性が高そうだ。一方、肝心の雇用面については、「リーマンショック直後の極端なリストラの反動で、企業の採用意欲は近い将来、必ず高まってくる」という人材コンサルタントの見通しもある。今、われわれに求められるものは、自分から率先して求人を探しにいく力。今回紹介したキーワードをヒントにするのはもちろん、何か芽がありそうだと感じたら、業種・職種の枠にしばられずに根気よく探すこと。見えていないだけで、あるところには必ずあるのだ。

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EDIT
高嶋ちほ子
WRITING
志村 江
ILLUST
もりいくすお

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