求める人材が採用できない、育成の成果が見えない…

人事部長100人が打ち明ける「人事部の課題」2012年版

少子高齢化、グローバル展開の加速などで、日本企業の経営環境は激変しつつある。そんな中、企業の要である「人」を司る人事部の責任者・人事部長の抱える課題は深刻化しているようだ。そこで、人事決裁権を持つ「人事部長」100人にアンケートを実施。今、感じている「人事上の課題」を、アンケートで洗い出した。

※アンケート実施時期:2012年1月25日〜26日 調査対象:企業の人事部長もしくはそれに相当する人事決裁権を持つ立場の人100人 協力:楽天リサーチ

2012年2月1日

【100人アンケートで明らかになった人事部の課題】
人事部長が課題に感じているのは「人材採用」と「人材育成」

今感じている「人事上の課題」は何ですか?(複数回答)

「今、自社で感じている人事上の課題は?」という問いに対し、65%の人が「人材採用」、59%の人が「人材育成」と回答。労務管理、人事評価、人事異動・配置といったほかの業務と大きな差がついた。
自社の事業方針や社風に合った有望な人材を広く集める「採用」の仕事、そして社員一人ひとりの職務領域やミッションレベルに合わせてさらにスキルを伸ばす「育成」の仕事は、企業の将来を左右する重要なミッション。一方で、グローバル展開の加速などで、日本企業を取り巻く経営環境は急速に変化している。この激動の時代に、自社に合った採用、育成を進める難しさを痛感しているようだ。

【人材採用】「メンバー層・グローバル人材採用で意図した人材が集まらない」

「人材採用」に関して最も課題に感じていることは何ですか?

「課題を感じている」との意見が最も多かった「人材採用」分野。その中でも多かったのが「会社が求めている条件やスキルを持った応募者が集まらない」との声だ。
小規模集団のため、特定の分野に偏らない広い知識を備えた人材を集めたいが、難しい」(IT・通信)、「独創性、やりたいことを持って応募する者が少ないと感じる」(IT・通信)など、会社が求めるものとのギャップを感じる声が聞かれたほか、「会社の次世代グローバルリーダーが集まらず、海外進出において課題」(メーカー系/素材・医薬品他)、「中国進出にあたりグローバルなスキルを持った人材が集まらない」(不動産・建設)と、海外でのビジネス展開に伴う採用の悩みも目立った。
なお、課題に感じている人に対して、どの層で「意図した応募者が集まらない」のかを聞いたところ、メンバー層が58%と最も多かった。「将来的に会社のリーダークラスに成長する可能性のある人材の応募がない」(不動産・建設)など、次世代を担ってくれる層が足りないことが課題のようだ。また、リーダー層、マネジメント層の不足を挙げる声も各11%あった。
業界や職種によっては、深刻な人手不足に悩む企業も多いようだ。「業務拡張に伴い作業量が増えているがそれを処理できる人材がいない。同業者間での共通問題でもあるようだが、打開策が見つからない」(不動産・建設)、「内定を出しても同業他社へ取られるケースが多い」(不動産・建設)、「なかなか求めるスキルを持つIT技術者が集まらない」(IT・通信)などの声があった。なお、「意図した応募者が集まらない」職種で最も多かったのはサービス・販売系職種(13.9%)だった。

【人材育成】「メンバー層の育成効果が上がらない」ことが課題に

「人材育成」に関して最も課題に感じていることは何ですか?

「人材育成」というテーマでの一番の課題は、「育成しているもののうまく効果が出ない」というものだった。
責任感がない。使われているという意識を変えることができない」(IT・通信)、「仕事の複雑化と多様化の中で、キャリア形成とモチベーションの維持がうまく育成できていない」(自治体)など、「人事として努力しているものの成果が出ない」ジレンマを感じる声が多かった。
なお、「育成しているもののうまく効果が出ない」という意見の多くは、メンバー層の育成について(50.0%)だったが、リーダー層も10.0%、マネジメント層も13.3%となった(残り26.7%は「役職問わず」という意見)。また、リーダー層、マネジメント層においては「最適な育成手法が見つからない」(メーカー系/素材・医薬品他)、「そもそも管理職を目指そうとしない人が多く、管理職が退職しても適当な人材を補充できない」(運輸)との声が聞かれ、管理職の育成や強化に悩む現場が少なくないことが明らかになった。
また、「育成が進み現場の戦力としてやっと使える人材になった時点で転職されるとそれまでの投資がすべて無に帰す。業界全体の課題だが、生涯の仕事として設定しにくい現状を変革するのも困難」(サービス)など「育ったところで辞められてしまう」辛さを挙げる人や、「人事の業務が多忙なため、人材育成および人材育成方法の改善に時間を割きたくても割けない」(IT・通信)といった人事決裁者ゆえの切実な声も聞かれた。

【労務管理/人事評価/人事異動・配置】においても人事決裁者の苦悩が

【労務管理】労働時間超過のほか、コンプライアンスやパワハラ対応など課題は多岐に

「労務管理」に関して最も課題に感じていることは何ですか?

「労務管理」分野で最も多かった課題は「労働時間の超過が多い」こと。
業務量に対して人数が少ないため、どうしても時間超過となってしまう」(サービス)、「残業時間が多くなり、日中の仕事の効率が落ちてしまうことが危惧される」(メーカー系/素材・医薬品他)、「成果が見えにくいため、労働時間が冗長になりがち」(IT・通信系)、「顧客との打ち合わせが平日の勤務時間内に設定しづらいため、休日出勤といった対応をせざるを得ない。その分を振り替え休日にしたいが、他業務の対応もあってなかなか難しい」(不動産・建設)など、労働時間の長さを憂いつつも会社や業務の事情でなかなか対応策が打てないでいる人事部のジレンマを感じさせる声が多かった。
「労働時間の超過が多い」ことに票が集まったが、それ以外は意見が分散した。「有給休暇の取得率が低い」(4.0%)という意見のほかには、「パワハラ、セクハラ対応が課題だが、個人の問題意識が低い」(医療)、「コンプライアンスの意識の低さに係る不祥事の多発。自社の情報をすぐに同業他社の人間に言いふらす社員が多い」(サービス)など社員の意識を問題に挙げる企業があったほか、産休や育休、介護休暇の取得率が低いといった声もあり、労務管理が抱える課題が多岐にわたっていることが示された。

【人事評価】グローバル化進行で「外国人従業員の評価が課題」との声も

「人事評価」に関して最も課題に感じていることは何ですか?

「人事評価」では、「評価制度が現場でうまく機能していない」「評価制度が会社の現状と合っていない」の2項目がトップに。
成果による歩合制を取り入れているが、査定に時間が掛かる割に社員のモチベーション向上につながっていない」(IT・通信)など評価制度の効果が出ていないとの意見や、「現状の制度では上からの評価だけで、下から見える問題点を共有できず、『組織の癌』が発見できない。360度評価を導入すべきか悩んでいる」(金融・保険)といった「現状改革のためにはどんな評価制度が適当か悩む」声が聞かれた。
次に多い声は「評価方法が明確になっていない」こと。「評価の基準や採点方法に詳しい人材がいない」(IT・通信)、「評価後の展開があいまい」(サービス)などの声があった。
なお、「外国人社員の評価判断が難しく、納得させるのに時間を要する」(不動産・建設)との声も。グローバル化進行に伴い「外国人従業員の評価」は今後の人事の大きな課題となりそうだ。

【人事異動・配置】本人の希望と受け入れ部署との意思の相違に悩む声が多い

「人事異動・配置」に関して最も課題に感じていることは何ですか?

「人事異動・配置」では、「各部門の人員希望とマッチする配置転換ができていない」という現実を課題とする声が多かった。
特定の人物はどの部署でも欲しいといわれるが、いらないと言われる人のほうが多く配置に苦しむ」(学校)、「本人の希望に対し、受け入れ側のニーズや問題がありすぎて、うまく配置できない」(流通・小売)、「人事配置の基本は適材適所であるが、適材と考え配置しても人間関係などでうまくいかないケースが多い」など、本人と受け入れ部署の狭間で悩む人事の苦悩が浮かび上がった。
次に多かった「本人が希望するキャリアパスを踏まえた配置ができない」においては、「人数が少ないうえに職場がばらばらであり、かつ業務が専門化されているので交替できない」(IT・通信)、「部署の社員が硬直化していて、人事異動が機能しにくい」(メーカー系/素材・医薬品他)といった声が挙がり、組織自体の硬直化や流動性の低さが、社員のキャリアパスを阻害していることへの危惧が感じられた。

【専門家の意見】少子化、グローバル化、そして人事部門の硬直化が課題の背景。
現場を理解し、早期に次の一手を打てる「戦略人事」が求められる

中央大学大学院 戦略経営研究科 客員教授 戦略的人事マネジメント研究所代表/楠田 祐氏

中央大学大学院 戦略経営研究科 客員教授
戦略的人事マネジメント研究所代表/楠田 祐氏

年間300社以上の企業の人事、人材開発部門を訪問するという中央大学大学院客員教授の楠田氏は、「課題とする声が多かった人材採用に関しては、少子化の影響で次世代を担う若手層の採用難易度が増したことが大きな要因」と語る。
特に理系人材の減少は著しく、製造業の人事は人材確保に苦労しています。そもそもの人数が少ないので、希望のスペックを持った人材が集まらないのです。今後も減る一方であるのは目に見えているため、最近ではアジア圏の優秀な若手を採用する動きが出始めていますね。就職難が続く中国では、優秀な若手人材があふれています。インドにもIT知識に長けた若手が大勢います。現地の若手を採用して日本で育成し、ゆくゆくのアジア展開の際に先陣を切ってもらう…というシナリオを組んでいる企業も少なくありません。この流れは理系にとどまらず、文系人材にも広がりつつあります」
外国人採用の動きが本格化すれば、採用の基準設定や、採用後の育成・評価における課題が新たに発生するだろう。アジア圏での採用経験がある人事、アジア圏の言語に強い人事は、今よりさらに評価される可能性がある。

人材育成に関する課題の多さに関して、楠田氏は「人材開発部門に対して、『研修の事務局』という位置づけからの変革が求められていることの表れ」という。
事業を取り巻く環境が急速に変化する中で、会社の事業展望や計画を理解し、そこから逆算して必要な人材を育成する計画が組める『戦略人事』の必要性が増しています。例えば『5年後にアジア全域に進出しビジネスを軌道に乗せる』という会社の事業計画があるならば、そこから逆算して『いつまでにこの部門で何人、リーダーを育成して現地に送り込む必要があるから、このスケジュールで研修を打つ必要がある』などと具体的な策を打つことが重要です」
そもそも、研修後の行動がどう変わったのかまで追いかけているケースがほとんどないのが問題、と楠田氏は話す。
「研修後の現場での行動変容をとらえたうえで、次にどんな育成プログラムが必要か策を練ることが必要なのに、それができていない『人事マニア』が増えていると感じます。人事こそ、積極的に他部署と関わって意見交換したり、あえて一度人事から離れて別の部署を経験して『現場を肌で理解する』ことが重要。人事部メンバーを3〜4年に1回ジョブローテーションすれば、今の人事部が抱える課題の多くを解消できる人材が育つと、私は考えています」

中央大学大学院 戦略経営研究科 客員教授
戦略的人事マネジメント研究所代表/楠田 祐氏
1998年に人材開発・育成企業サイバックスを創業、2007年より会長。08年に企業への人事戦略アドバイスを行う戦略的人事マネジメント研究所を設立。年間300社以上の企業の人事、人材開発部門への訪問を行っている。近著に『破壊と創造の人事』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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