組織・地域・利害を超越して立ち上がったネットワークの真実

震災スクランブル支援で見えてきた「エンジニア」の存在意義

3.11 東日本大震災から早半年が経過した。未曽有の災害に直面し多くの尊い犠牲者、そして今なお避難生活を強いられている被災者を救うため、多くの人たちが震災当日から活動を開始した。今回、そうした組織の枠を超えて復興のために立ち上がったエンジニアたちの活動について、振り返ってみたい。

2011年9月14日

「Hack For Japan」「sinsai.info」など、震災発生後各地でコミュニティ活動は活発化

3.11の東日本大震災後、被災者の救出や支援のためにいち早く立ち上がった人たちの中には、ITエンジニアも多い。個人として活動するケースもあれば、会社や組織の枠を超えて多くのエンジニアが参加し、知恵と技術を出し合って被災者に役立つアプリを開発&リリースするケースもあるなど、全国各地で震災当日から活発に行われてきた。
例えば震災からの復興を継続的に支援するための、IT開発を支えるコミュニティとして誕生した「Hack For Japan」。“自分たちの開発スキルを復興のために活かしたい”という純粋な思いを持つエンジニアたちが結集し、“ハッカソン”と呼ばれる短期間でサービスとしての一定水準に仕上げていくプログラミング会合の場を定期的に開催することで、さまざまなアプリ・サービスをリリースしている。
そのほかにも震災わずか4時間後に公開された復興支援サイト「sinsai.info」では、サイト構築や運営に百人単位のエンジニアがTwitterを介して集い支えていたり、同じように「日本Androidの会」などのような組織や団体も震災後、いち早く全国のエンジニアに呼び掛けて被災者支援のためのアプリ開発に尽力している。
このように数多くの組織、また企業の枠を超えたエンジニア個人の自主的な活動は全国規模で短期間のうちに展開されたわけだが、今回はその中で2つ、具体的な事例として紹介したい。

事例1:面白法人カヤック×Fandroid EAST JAPANが目指す「仙台Androidブランド化計画」の全貌

Android開発案件を仙台に持ち込むことで、東北エンジニアを支援

(画面中央)
面白法人カヤック 
企画部 クリエーター
野崎錬太郎氏
(画面右)
ファンドロイド・イーストジャパン 特別協力・アドバイザー
伊藤利憲氏(宮城県産業技術総合センター 商品開発支援班班長 研究員)
(画面左)
ファンドロイド・イーストジャパン
佐藤 慧氏(株式会社ディー・エム・ピー デジタルマーケティング部門プランナー)

「Fandroid EAST JAPAN」のロゴ

ユニークかつ斬新なアプリやWebコンテンツ開発を展開している面白法人カヤックは、大震災後の今年5月〜8月までの期間限定で「仙台支社」を立ち上げ、東北のエンジニアたちと一緒にAndroid向けアプリの開発に取り組んだ。その理由について、同社のクリエイターで仙台支社長であった野崎氏は、このように語る。
「カヤックとして、被災地を支援するためのベストな手段は何か?徹底的に社内で議論した結果が、先月まで期間限定で設置した仙台支社の立ち上げでした。仙台をはじめとした東北地方のITエンジニアの皆さんは今回の震災で、受注していた案件がストップするなど、仕事をしたくても仕事がないという状況。そこで『つくる人を増やす。』という経営理念を掲げている当社ができること。それは当社の案件を担っていただくことで、業務委託という形で少しでも支援できるのではないかと考え、Android開発案件を仙台に持ち込んだのです」

このような経緯で仙台支社を設立したわけだが、実は仙台を含めた東北地方在住のITエンジニアやデザイナーの多くは、Android向けアプリの開発経験がない人が多数を占めていたという。
「元来、東北にはメーカー向けの組込ソフトウェア開発の案件が多いという特性があって、JavaやC言語で受託開発するエンジニアの人材が多くいます。JavaやCが使えるということは、Androidのアプリ開発にもそのスキルを応用することができる。しかしこれまでは受託案件に追われて、Androidのような新しいフォーマットに挑戦するチャンスがなかったのです。そこで今回の震災を機に組込案件の受注がガクッと減って困惑していた時、カヤックさんから今回のプロジェクトのご提案をいただき、“エンジニアやデザイナーが中心になってAndroid向けアプリ開発に取り組むことで東北の新しい産業に育て、復興に役立てるはず”と確信しました」(「Fandroid EAST JAPAN(FEJ)」メンバーの伊藤氏)

仙台から世界に通じるAndroidアプリと人材輩出を目的「Fandroid EAST JAPAN」を設立

(上から)仙台のエンジニアが開発したFandroid アプリ「タンシェルジュ」&「脳波SPORTS」(※「脳波SPORTS」は、FEJが取り組んでいる脳波計測デバイスを用いた、研究のテストケースとして開発されたもの)

一方、Android向けアプリ開発を東北で進めていく上で、大きな障害が立ちはだかった。その障害について伊藤氏と同じく「FEJ」メンバーである佐藤氏は“横のつながりがないこと”と指摘する。
「特にAndroidのようなWebアプリを開発していく場合、エンジニアだけではプロジェクトとして成立しません。プランナーやWebデザイナー、ディレクターなどの各メンバーが一つのチームになって動く必要があるわけです。しかし東京のような大都市と違い、東北の場合はそれぞれクライアントから二次請け、三次請けで個別に案件が下りてきます。その結果、案件を離れた“横のつながりが希薄化している”という実態が、Android開発を進めていく上での大きな障害になっていたのです」
そこで今回、カヤックが仙台支社を立ち上げた動きと連動して、仙台・東北在住のエンジニア・クリエイターを横断的にまとめる組織として結成されたのが「FEJ」だった。

“仙台から世界に通じるAndroidアプリと人材輩出”を掲げて設立された「FEJ」は現在、30社の企業・団体と約50名の仙台・東北在住技術者が集まる組織となっている。結成後、仙台市からはアプリ開発による復興予算として1,800万円が計上されたり、また宮城県庁を通じて交流のある米・シリコンバレーの著名な研究所から無償でAndroidアプリ開発に関連する技術の提供を受けるなど、FEJを立ち上げた効果は早くも現れている。
その成果として、FEJ開設から3カ月間で6本のAndroidアプリを開発。しかもそのうちの2本は、カヤック仙台支社から受注した案件ではなく、純粋な「仙台生まれのアプリ」である。
その一方、FEJの技術者メンバーにも大きな影響を与えているという。
「エンジニアをはじめさまざまな職種のメンバーがアイディアや意見を出し合う等、定期的にブレスト会議を開くことでこれまでの組込開発とは全く違う新しい挑戦ができる喜びや興奮を、多くのメンバーが実感していますね。それにAndroidアプリ開発に関連する最新技術やデザイン事例を勉強会で学べる機会が増えたことで、日に日にメンバーの開発スキルは上がっています」(伊藤・佐藤氏)
FEJとしては今後3年間で技術者を100名に、Androidアプリを100本リリースすることを目標に活動していくという。

事例2:震災翌日に立ち上げた、被災者支援情報マップ

被災地救援ぽーたるまっぷ

3.11の東日本大震災の翌日、日本学術振興会特別研究員PDの山口欧志氏は「被災地救援ぽーたるまっぷ(旧炊き出しまっぷ)」という、被災者を支援するために必要な情報(炊き出し場所・無料公衆電話・病院・給水所など)を地図上で紹介するサイトを立ち上げた。
「震災後、twitterをチェックすると“被災者のための情報をチェックできるツールが欲しい”といった要望が多数ツイートされていました。そこで多くの被災者がいち早く有益な情報をチェックできるマップ形式のサイトがあればと考えたのが、被災地救援ぽーたるまっぷを立ち上げたきっかけです。特に震災直後は情報が錯綜していたためか“デマ”も多く、きちんと情報を整理する必要性を感じていました」
ただし彼はエンジニアではなく、考古学や文化遺産の調査をする研究者だ。その彼がなぜ震災当日というスピードでサイトを立ち上げることができたのか?そこには、ネットを介して通じた多数のエンジニアの存在があった。

「まずGoogleマップを利用して最低限の情報を記載した炊き出しまっぷを私一人で立ち上げた後、twitterで協力を募ったのです。その結果、Googleのエンジニアをはじめ、個人のエンジニアの方も含めて全国の皆さんからまっぷの管理等で協力を得ることができました。そして、炊き出しまっぷの立ち上げ後に生じたニーズに合わせて被災地救援ぽーたるまっぷを作成したのですが、その際もエンジニアの方や一般の方々の助力を得られたのです」
具体的には、ほかの似たようなサイトにある情報をそのまま「被災地救援ぽーたるまっぷ」に掲載できる機能や携帯電話で検索できる機能、またこれまでの情報をアーカイブ化することで、今後の被災地支援ノウハウに活かせるようにするなど、被災者にとって本当に役立つ情報を簡単にチェックできる有益なサービスをたった数日で実現できたのだ。

ただし、そのスピード感を達成できたのは、自前での開発にこだわらず「SaaS」を活用したことも大きい。山口氏と同じく「炊き出しまっぷ、緊急避難場所(東日本)」のころから運用管理やマニュアルの保守に関わっている平田氏によると、「被災地救援ぽーたるまっぷは、Googleマップ等の既存サービスを積極的に活用することで、被災地の方々に素早く情報を提供すると共に、地図情報をKMLという標準的なデータ形式で公開したことで、被災地を支援するWebサービスの開発者からも一定の評価を得ることができた」と指摘している。

「とにかくエンジニアの皆さんがそれぞれの専門分野のスキルを活かすことで、驚くほどスピーディに開発・リリースできました。今回改めて、エンジニアの皆さんの持つパワーの大きさに気づき、ただただ感謝していますね」(山口氏)

むすび

震災から半年が経過したが、まだ復興への道のりは非常に長く険しいのが現実。その中で今回紹介したケースのように、各々が持つエンジニアならではの力を存分に発揮することで、“エンジニアだからできる支援”を実践している。
何より、会社や組織の枠に縛られずに、「エンジニア一個人として何ができるか」という視点でそれぞれが考え、すぐ行動に移したのだ。今回のケースをきっかけに、エンジニアとして働く意義を見つめ直してみてはいかがだろう。

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