タブレット端末の電子ペーパー、デジタル一眼レフの開発用基板

電気エンジニアの発想力がデジタル機器の進化を拓く

電気・電子系エンジニアの活躍の場がますます広がっている。その事例をタブレット端末で用いる電子ペーパーと、デジタル一眼レフカメラの開発工具基板の開発で紹介したい。対象となる製品はどちらも会社を代表する人気ブランド。すでに開発部隊の中心メンバーとなっている若手エンジニアたちだ。

2011年2月2日

電気・電子系エンジニア

タブレット端末用電子ペーパーの回路設計/富士通フロンテック

世界初のカラー電子ペーパーを採用した端末「FLEPia」

富士通フロンテック

富士通フロンテック株式会社
公共システム事業本部
電子ペーパー事業部
プロダクト開発部
上野裕史さん(右)

電子ペーパー事業部
パネル開発部
平野貴裕さん

FLEPia

現在発売されているFLEPia

 iPadやGALAPAGOSといったタブレット端末が各社から続々発表されているが、B to B用途を中心に一昨年発売されたのが、富士通フロンテックの「FLEPia」(フレッピア)だ。その特徴はモニタ画面に世界で初めてカラー電子ペーパーを使用したこと。その回路設計を担当したひとりが上野裕史さんだ。大学工学部電気電子工学科を卒業し、2000年に入社した。


「最初は野球場のスコアボードや競馬場のスクリーンなど大型パネルの表示システムを担当していて、電子ペーパーを始めたのは2005年からです。FLEPiaでは端末のシステム設計、他部署と連携した仕様決め、回路の設計、デバッグ、試作の基板作り、評価など一連の工程を担当しました」
 
電子ペーパーのデモ機が開発され、形になってきたことでFLEPiaの事業化へとつながった。基本的な原理は富士通研究所が開発したが、それを製品化するには相当のレベルアップが必要だったという。また、ほかのタブレット端末ではパネルやICを他社から購入する場合も多いが、FLEPiaは自社製。社内で連携することで、材料や温度を変えたときなどの特性がすぐにわかり、制御の方法などをさまざまに試せるという。
上野さんはFLEPiaの完成後、次世代機に搭載予定の電子ペーパー用回路を開発。従来製品よりもコントラスト比は3倍、画面書き換え速度は2倍になり、世界最高水準のカラー表示とスムーズな画面切り換えが実現できるという。

電力のタイミングを微妙に変えて消費電力を削減

電子ペーパー

新しい電子ペーパー

電子ペーパー

新しい電子ペーパー内の3枚の液晶パネル

この電子ペーパーの中には青、緑、赤の3枚の、表示メモリ性のあるコレステリック液晶パネルが積層してある(写真)。青、緑、赤の特定の波長の光を各色の層ごとに反射する特性を使って、カラー表示する仕組みだ。1枚が約0.25ミリの薄さで、積層しても1ミリ以下。一般的なカラーフィルター方式と比べて、より明るい表示ができるという。
 
「液晶にはいろいろな電圧を掛けますが、3枚は同じタイミングで画面を切り替えるので、必要となる電力も同じタイミングになります。そうすると使う電流が多くなるので、消費電力を抑えるなどのために、各色のタイミングを数マイクロ秒の差でずらしました」
 
電子ペーパーの特徴のひとつは、描画にしか電力を使わない低消費電力。だからこそ、消費電力を抑えることが長時間使用を実現させるのだ。上野さんのこのアイディアは現在特許を出願中である。
「最初は目標の半分にも行きません。それでも少しずつ消費電力を減らしていって、目標に届いたときには、『やった!』です(笑)」

同期入社の「電気屋」と「パネル屋」が語る将来の夢

FLEPia

2011年度発売予定の新型FLEPiaのデモ機

FLEPiaの電子ペーパー用パネルを開発したひとりが平野貴裕さんだ。大学理工学部電気工学科を卒業して入社した彼は、上野さんと同期入社で、年齢も同じ34歳。当初は液晶のモジュール開発をしていたが、上野さんと同時期に電子ペーパーの担当となった。
仕事はパネルの材料の選定、設計、開発、全体のプロセス管理や評価、製造部隊との連携などの全般だ。富士通研究所と協力して、研究員と共に材料やプロセスなどの問題点を洗い出し、改良を続けていったという。
「液晶も初めてのことで戸惑いましたが、電子ペーパーになってガラスがフィルムになりました。素材の変化で開発がこれだけ違うのかと驚きました。でも、設計通りにならないことを調整して、材料や材料の変更幅を変えたりして、しだいに方向が合ってくる。そこが面白いんですよ」
 
次世代機用の電子ペーパー用パネルも彼が開発した。現在の機種もそうだが、平野さんのパネルを上野さんが動かしているような形だ。
「3色の色ごとに材料は変わりますし、製造工程も色により一部変えました。本当は3つとも同じように作りたかったのですが、そうすると駆動の時に崩れる色があるとわかったからです。それに、上野が共通で駆動させたいというものだから(笑)」

今後にやってみたいことについて二人はこう語る。
「ポスターでも電車の中吊りでも、掲示されている紙という紙を、全部電子ペーパーに変えたいですね」(上野さん)
「屋外は野ざらしになるので、パネル屋としてはその体力をパネルにつけないとならない。まずは室内から行こうよ(笑)」(平野さん)

次世代デジタル一眼レフカメラの開発用基板/ニコンシステム

「D40」以降のすべてのデジタル一眼レフカメラに貢献

ニコンシステム

株式会社ニコンシステム
第2システム本部
第1開発部
池谷美香さん

基板

昨年夏に開発したコンパクトデジカメの開発用基板

小さいころからラジオの組み立てなどが好きだった池谷美香さん。大学は理工学部の電気電子工学科に進んだ。卒業後は派遣会社に就職して、ニコンシステムで働くようになる。もちろん、カメラ好きだ。
最初の仕事は、実験用基板の回路設計とFPGAの内部論理回路の設計。LVDS(低電圧差動シングナリング)の信号をはき出す回路と受け取る回路の、要求速度が実現できるかどうかを実験するための基板だったという。
「大学の研究室では半導体の材料がテーマでしたので、回路設計は専門的に学びませんでした。ただ、大学時代に測定機メーカーでアルバイトをしていて、回路には触れていました。その経験が多少なりとも役に立ったと思います」
 
この仕事を3カ月ほど続けた後、現在の仕事でもある、主にデジタル一眼レフカメラを対象とした開発工具の開発に移った。これはCCDなどのセンサーからのデータを取り込んでPCに渡すための基板で、仕事の内容は同じく基板とFPGAの回路設計。ここで試され、完成された技術が、数年先の次世代機に実装される。まさに最先端技術の要素開発だ。
「1つの開発工具の開発期間は3カ月〜半年ほどです。全体の流れを考えた後、回路図を書いて、部品を選定して、基板を設計します。その基板に製作していただいた後に、テストやデバッグを行い納品します」
ヒット商品である「D40」以降のすべてのデジタル一眼カメラには、彼女が担当した要素技術が活きている。「世界のニコン」を支えるエンジニアなのだ。

独自のアイディアで信号の伝送速度と設計の自由度が向上

基板

上記の基板の差動ライン

D700

池谷さんの技術が組み込まれた機種のひとつ「D700」

彼女の仕事で最も課題となるのが信号の伝送速度。カメラの性能を大きく左右するのはセンサーと画像エンジンで、こうしたデバイスの性能が向上するほど、例えば画素数が増えるに従って、信号の速度アップが要求されるからだ。他社製品との大きな差別化にもつながる。
「大変なのは常に伝送速度を上げていくことと、信号品質の安定です。基板シミュレーションをして、アイパターンが確保できることを確認するのですが、当然、基板シミュレーションと実機ではいろいろなパラメーターに違いがあり、シミュレーション通りにはなりません。実機での計測ポイントもベストな波形観測点ではないので、その辺は経験が必要になるところだと思います」
 
説明は簡単にできても、実は非常に困難な高速伝送技術。加えて、ニコンならではの製品開発も可能にした。詳しくは企業秘密だが、ある工夫をすることによって信号品質のアップが可能になり、それに伴い伝送速度がより高速化できるようになった。他社にはない特徴で、このためニコンのカメラは、より自由な配線レイアウトで設計できるようになったのだ。
これほど伝送速度が求められるのは、デジタルカメラなど一部の製品くらい。PCでももちろん伝送速度は重視されるが、メモリや回路を組み込む空間はデジカメに比べると余裕がある。高速なデータ伝送と共に、限られたスペースでの機構設計を可能にした功績は多大だ。
 
「基板のシステム設計はトータルバランスを考えます。例えば、センサーのスピードは決まっていますので、それに合わせて信号の伝送帯域を調整するなどです。FPGAの論理設計はHDLベースで開発しているので、シミュレーションで確認しますが、経験がなかったので最初は戸惑いました。シミュレーションでうまくいっても実際に動かないこともありますし(笑)」

社内表彰の常連、将来は自社ブランドの開発がしたい

池谷さんは同社に来てから1年3カ月ほど後、2006年に正社員となった。彼女が望んだことでもあったが、当時の上司の強い勧めもあった。優秀な人材であることは周囲にも明らかだったのだろう。実際に池谷さんの部署は毎年のように社内表彰を受けており、彼女の発想や実績も大きな要因となっている。
彼女は「この5年ほどで信号の伝送速度は3〜4倍になっている」という実感を持つ。そして、将来の夢を特許の取得と自社製品の開発と語る。上記の高速伝送技術は世界特許を申請中、自社製品開発についてはこう語った。
 
「ニコンシステムブランドとしての製品開発に関与していないので、自社ブランド製品を作ってみたいです。漠然としていて形にはなっていないのですが、いずれ実現したいです。今はまだない技術を実現していく、この仕事が大好きですから」

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