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東芝セミコンダクター&ストレージ社 今期も大規模キャリア採用を継続
成毛社長が語る、東芝半導体技術とそれを支える人財像
2015年度までの中期経営計画のもと、創造的成長を続ける東芝グループ。その中核事業の一つが、半導体とストレージ。昨年、セミコンダクター&ストレージ社社長に就任した、成毛康雄氏に今後の技術展開と、それに伴って求められるエンジニア像を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/伊藤理子 撮影/刑部友康)作成日:14.04.23
スマホの先にウェアラブル、さらにエンタープライズ需要が広がる

──東芝セミコンダクター&ストレージ社(以下、S&S社)はNAND型フラッシュメモリ(以下NAND)を中心とした事業展開を進めていますが、メモリ製品の需給バランスなど、足下のマーケットについてはどうご覧になっていますか。

 目下のコンシュマー領域でのNANDの主力市場といえば、携帯、スマホ、タブレットといった携帯型情報デバイスです。なかでもスマホはメモリをよく使う製品です。ただ、世界市場の4割を占めるといわれる、いわゆる“中華スマホ”は、ほかのハイエンド製品に比べると部品点数やメモリの容量が小さい。台数が増えるのはうれしいですが、メモリ需要を急速に伸ばすものではありません。
 とはいえ、全体のメモリ需要は高く、マイクロSDカードがよく売れています。今後はウェアラブル端末などが増えてきて、そちらの需要の伸びも期待できます。
 一方、エンタープライズ領域ではやはり、クラウド・コンピューティングやビッグデータといったトレンドを背景に、データセンターの需要が伸びています。いずれは、データセンターで使われていたHDDがNANDに置き換わる日も来るでしょう。中長期的にみればまだまだ、メモリ市場の伸びは期待できます。

──国際競争の分野では、海外メーカーとの競合が熾烈ですね。

 従来、微細化技術により大容量化とコストダウンに対応してきましたが、露光技術の進歩の遅れもあって、さらなる微細化が難しい状況となってきています。しかし当社はその微細化の限界を極めるべく、現在量産中の「A19nm」(いわゆる1Ynm)から1Znmへともう一段進めることで競争力を高めていきます。
 同時に3D化についても注力していきます。当社には「BiCS」と呼ばれる独自の3次元構造技術があり、今後の市場動向をにらみながら、量産を目指して量産技術の確立を行っていきます。
 私たちには、常に世界の最先端技術をリードしてきたという自負があります。そのための研究開発や設備投資は一瞬たりとも止めることはないのです。

 ちなみに、当社のような国内にクリーンルームと製造工場を持ち、開発と量産を一体的に行っている企業にとって、業績に影響を与える要素として為替問題は重要です。円高に振れていた時代に苦しみながらもそれを乗り切ってきた。昨今の円安傾向は、非常に強い追い風になっています。

成毛 康雄社長
東芝セミコンダクター&ストレージ社
成毛 康雄社長
アプリケーション技術やソリューション開発に力を入れる

──メモリは単体で使うというより、コントローラーと一体化したり、アプリケーションの形で使われたりすることが多いですね。その意味での応用開発を一貫して手掛けているという点も、御社の強みだと思いますが……。

 その通りですね。例えばNANDの特性を最大限に引き出すことができるインターフェイス規格にeMMCがありますが、東芝のeMMCは世界各国のスマホメーカーのフラッグシップ機種、ほぼすべてに採用されています。その高い特性が評価されたためです。NANDで競争するライバルメーカーの端末にも東芝製eMMCが入っているんですよ。
 さらにeMMCの高速版であるUFS(ユニバーサル・フラッシュ・ストレージ)規格についても、これに対応する製品を開発しており、業界をリードしているという自負があります。
 eMMC、UFS、あるいはSSDといった製品を開発するうえでは、顧客のニーズが現在どのようなものであり、今後はどのように進むのかを、きちんと予測しなければなりません。私たちの製品をお客さまに知ってもらうために、大手のユーザーのところに乗り込んで私どもの製品の展示会を開くという活動を国内外で展開しており、これが大きな成果を生んでいます。
 そうした市場戦略のなかから、新しいソリューションが生まれることもあります。例えば近接無線転送技術「TransferJet™」に対応したmicroUSBアダプタモジュールなどもそうですね。

──東芝はグループとして、ヘルスケアの事業分野にも注力されるようですね。こうした領域へのメモリ・ストレージ技術の応用も期待できます。

 例えば、ブレスレットのように腕に着けて運動量を計測するウェラブル端末などが考えられますね。センサで取得したデータをフラッシュメモリに記憶し、さらに無線で飛ばし、ストレージに蓄積する。この全体にわたって、S&S社の技術は貢献できると思います。

ユーザーのニーズを敏感にキャッチできるエンジニア

──今年度も大規模なエンジニア中途採用を行うとうかがっています。その狙いは何でしょうか。

 一つにはNANDの微細化、さらに3次元構造化といった新しい技術開発に伴う人財です。これが中途採用の中軸になることはこれまでと変わりないのですが、今期はさらに、ディスクリート半導体や、システムLSI、センサといった製品群、そして車載向けやエンタープライズ向け製品など応用分野にも力を入れます。
 応用分野というのは、言い替えれば技術の組み合わせですね。先ほどの「TransferJet™」やウェアラブル端末の例で挙げたように、センサ、メモリチップ、無線、ストレージといった要素技術を組み合わせて、新しいソリューションを提案できるエンジニアに期待しています。マーケットを深掘りするためにも、業界内外でノウハウを積み上げてきたエンジニアが必要になります。
 例えば自動車業界向け製品開発はこれからの重要課題ですが、そこでは車載デジタルカメラの画像認識や画像処理技術で東芝の技術を活かしていきたい。画像関係のチップ開発の経験のあるエンジニアが東芝で活躍できるチャンスだと思います。
 あるいは、メモリ・ストレージ製品のエンタープライズ展開では、データセンター向けのシステム開発をしていたような人も十分活躍の余地があるでしょう。
 これからのグローバル展開の中で、エンジニアの出身地を日本だけに限るというのも、無理があります。特にさまざまなデジタルデバイスのセットメーカーはアジアの広く存在するので、アジアでの経験のあるエンジニアということになると、もはや国籍にこだわる必然性はないですからね。

「BiCS」開発をもう一歩前に進めるために必要なキャリア人財

──3次元NANDや微細化技術の開発に、キャリア人財はどのように貢献できるでしょうか。

 BiCSでセルを縦に積むと、その分、工程が長くなり、設計も複雑になります。従来の平面技術以上にさまざまなチャレンジをしなければなりません。例えば、半導体開発はつねに欠陥との闘いですが、メモリが多層化されると、それだけダストなどの欠陥の検査が難しくなります。検査のためのツールはありますが、それのチューニングは簡単なことではありません。こうしたデフェクト・コントロール技術では、製品検査のエキスパートの経験が存分に活かされると思いますよ。
 また、微細化技術では、いまリソグラフィによるパターン形成技術の進化が停滞しているなどといわれます。EUV(極端紫外線露光システム)が求められているのに、これがなかなかうまくいかない。これをブレークスルーするために、私たちはキヤノンさんと提携して、「ナノインプリント」技術を開発しています。
 また、構想段階ですが、EUVを実現するための新しい光源として自由電子レーザーを用いるという研究もあります。そもそも、10nm以下の世界では、原子単位のコントロールが必要になります。つまり究極の微細化技術を私たちがモノにするためには、より専門性の高い物理系の技術者が不可欠なのです。

プロジェクトを「まとめられる」能力

──個々の専門能力や知識が必要なのはいうまでもないことですが、それらを踏まえたうえでエンジニアにはどんなスキルを求めますか。

 ひと口でいえば「まとめられる人」ですね。私たちの製品開発では、プロセス開発、回路設計、量産技術など、工程の異なる人々が協力し合わないと、よいものはつくれません。それぞれの工程の専門家たちを、誰かが束ねる必要があるのです。私はこういう立場の人を、「小隊長」なんて呼んでいるんですが、コミュニケーション能力が高く、いわゆるプロジェクト・マネジャー的な能力を持つ人財ですね。これがいま不足していることはたしかです。

──東芝で働くことはエンジニアにとってどんな意義があるとお考えですか。成毛さんのご経験を踏まえて、最後にお話しください。

 前向きの失敗は許される会社です。たとえ倒れたとしても「前向きに倒れよ」と若いころよく言われました(笑)。それと、これはS&S社の特徴かもしれないですが、“行儀作法”の良し悪しはあまり問わないですね。多少、通常のフローとは違っていたとしても、率先して行動する人こそが重用されます。横串でさまざまな技術を持つので、組織の管理の仕方も部や課の単位にしばられないプロジェクト型が多いと思います。そのなかで個人が自由に動いている、そんなイメージがあります。
 私たちが狙うのは常に世界一の技術開発です。それを実現するために、社内に開発要素はたくさんあるし、それらを伸ばすための投資は惜しまないつもりです。そういう場所で、自分の半導体技術をもっと伸ばしたいという人にはぜひ来ていただきたい。何か、技術以外の制限があって、自分の開発が思うようにできない、というようなことは、ここではまずないと考えていただいていいと思います。

東芝セミコンダクター&ストレージ社 社長 成毛 康雄氏(なるけ・やすお)

東京工業大学理工学研究科博士課程修了、1984年東芝入社。四日市工場長、メモリ事業部長などを歴任したのち、2013年6月に東芝執行役上席常務およびセミコンダクター&ストレージ社社長に就任。

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