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世界最先端の19nmプロセス技術、SSD・HDDまでの一貫開発etc.
東芝の開発トップが語るNANDフラッシュ技術と採用戦略
東芝が半導体とストレージ事業を中心にエンジニアの中途採用を強化する。同社は世界でも唯一フラッシュメモリからSSD、HDDまで一貫して開発している企業。再び日本が半導体技術で世界をリードするべく、精鋭技術者に向けた熱い呼びかけが始まった。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己・佐藤聡)作成日:13.05.10
NANDフラッシュを支える東芝セミコンダクター&ストレージ社の技術

 東芝の「セミコンダクター&ストレージ社」は、NAND型フラッシュメモリやコンシューマ向けソリッドステートドライブ(SSD)を展開する「セミコンダクター社」と、ハードディスクドライブ(HDD)やエンタープライズ向けSSDなどのストレージ事業を展開する「ストレージプロダクツ社」が2011年7月に統合して誕生した組織。統合には、同社が展開するHDD、SSD、NANDの3つのデバイス事業を一体運営することで、「トータル・ストレージ・イノベーション」と呼ばれる統合的な事業体制を確立し、各製品の開発力向上や販売を拡大する狙いがある。

 同社のメモリ事業で現在主力となっているのがNANDフラッシュメモリ(以下NAND)だ。NANDは1987年に東芝が発明した不揮発性メモリの一種。東芝は困難を極めた量産化技術を完成させ、さらに小型メモリカード規格の標準化を進めることで、90年代半ば以降に始まる本格的な市場拡大をリードしてきた。

 現在はSDカード、コンパクトフラッシュなどのメモリカードに内蔵されるほか、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、ビデオカメラなどの基板上に組み込まれ、記憶媒体として幅広く使われている。NANDの世界市場は2010年に前年比46%の急成長を遂げ、市場規模は200億ドルを超えたが、2014年には300億ドル前後へと成長する見通しだ。NAND技術はこの四半世紀の間に大容量化、低電力消費、高速化、高信頼性、低コスト化などを目指し、しのぎを削ってきた。90年代終盤からは1年で約2倍というハイピッチの大容量化が進んでいる。

 東芝は2007年に米サンディスク社と共同で三重県四日市に300mmウェハー対応の新鋭工場を建設。この四日市工場はNANDフラッシュ生産の世界最大規模を誇る。
「韓国をはじめ世界のフラッシュメモリメーカーとの競争は熾烈で非常な緊張感があります。競争に打ち勝つために、社内に永年にわたり蓄積された技術資産と重厚な技術陣を活用しながら、さらにキャリア採用で獲得した新しい発想の技術者を迎え入れることで、競争力をさらに強化していきたい」
 と、エンジニア採用の背景を語るのは、メモリ技師長の森誠一氏だ。

 メモリの大容量化のためにはチップの微細化技術が欠かせない。現在、四日市工場が量産しているNANDチップは世界最先端の19nmプロセス技術によるもの。2013年度内にはさらに微細化された世代の生産も開始する。また、髪の毛よりも薄い数10ミクロンのNANDチップを16層にわたって積み重ねる積層化などのパッケージング技術もまた、メモリの大容量化に大きく寄与している。

 ただ、半導体ビジネス一般に言えることだが、プロセス技術の進化には多大な投資が必要だ。
「微細化においては投資コストをいかに最適化するかが非常に重要になっています。微細化に伴うプロセスの工程数の増加のミニマイズや、よりコストを意識した調達戦略なども重要です。一方で、従来のメモリカードや携帯電話向けにとどまらず、製品需要の広がりを意識した、多様化戦略も強めています。製品ラインナップを拡大しても、プロセス設備や製造工程は極力共有化することで、コストダウンを図っていく。こうした施策を通し、あらゆる産業分野にNANDを浸透させていくことが、当社の競争優位性を高めることになります」(森氏)

 世界的な半導体サプライヤの企業再編が続く中で、メモリやストレージ事業を他社に譲る企業が増えている。しかし、東芝はNANDからSSD、HDDまで自社で開発する独自戦略を維持し、それぞれの事業を健全に展開している。冒頭で述べたように、さらにこれらを統合することで、他社には真似のできないトータルなストレージ・ソリューションを提供し、データセンタのクラウドコンピューティングなど新たなストレージ需要に応えることができるのだ。

森 誠一氏
株式会社東芝
セミコンダクター&ストレージ社
メモリ技師長
森 誠一氏
NANDの進化により新規市場を連続して創出
コントローラがメモリ性能向上の決め手に
大島 成夫氏
株式会社東芝
セミコンダクター&ストレージ社
メモリ応用技術技師長
大島 成夫氏
横塚 賢志氏
株式会社東芝
セミコンダクター&ストレージ社
メモリ事業部 メモリ応用技術第二部
部長
横塚 賢志氏

 メモリ製品の機能と性能向上において、重要な役割を担うのがコントローラだ。
「最近のスマートフォンを解体してみると、NANDのメモリチップが姿を現しますが、そこにはたいていコントローラが組み込まれています。単体のNANDを使用する場合には、不良ブロックの管理、エラー訂正、論理物理アドレス変換、書き換え回数の平均化などの処理、あるいは低消費電力化の技術が不可欠になりますが、これらの処理を行うのがコントローラ。コントローラの性能を高めることで製品の差異化ができると考えています」
 と言うのは、メモリ応用技術技師長・大島成夫氏だ。

 現在NANDと専用コントローラを一個の半導体パッケージに収納したモジュール「eMMC(Embedded Multimedia Card)」が、携帯電話、スマートフォンといったモバイル機器などによく使われている。さらに、今後はより高速・低消費電力の「UFS(Universal Flash Storage)」インターフェイスの開発が進む。そこにおけるコントローラの重要性は言うまでもない。

 また、一般にNANDの微細化が進むと、メモリの信頼性やデータ転送速度が低下すると言われるが、それを避けるためにもコントローラは重要な役割を果たす。
「メモリセルの酸化膜に電子を注入し、その数の違いで異なった記憶データを取り出すというのがNANDの原理。微細化でセルが小さくなると、電子のコントロールが難しくなり、結果的にそれが書き替え回数の減少などにつながってしまう可能性があります。東芝は、プロセス技術の改善、回路設計の高度化、さらにNANDコントローラ機能の向上でこれらの問題を解決しています。NANDコントローラを自社、つまりメモリ事業部内で開発できるのは、東芝の強みの一つだと考えています」
 と、メモリ応用技術第二部部長・横塚賢志氏も語っている。

 メモリ事業部がいま採用に力を入れるのも、このコントローラ開発に従事するエンジニアだ。
「プロセスなどメモリ単体の研究開発の技術者も必要ですが、重要な分野で今、足りないと感じているのはコントローラの開発技術者。そもそも東芝が自社でかなりの大きな開発部隊でコントローラも作っていることは意外と知られていません。これまで組込み系のソフトウェアやファームウェアの経験のあるソフトウェアエンジニアは、自分はメモリ開発とは関係ないと思いがち。
しかし、実際コントローラはソフトウェア・ファームウェアそのものですから、前職での経験がそのまま活かされるのです。また、SoCやASIC開発の技術者にとっても、コントローラは無縁ではありません。国内でNANDを開発しているのは東芝だけですから、他社の半導体技術者にその経験がないのは当たり前。だからNANDをやったことがないと尻込みされるのではなく、ぜひこの分野に挑戦していただきたいですね」
 と、大島氏は語っている。

ユーザーのニーズを深掘りするアプリケーション開発

 NANDについて、そのプロセス開発から、コントローラ開発、実装・量産化技術と一貫する強力な技術を持つ東芝だが、近年より強く主張されているのは、単体のデバイスだけでなく、それらを組み合わせたソリューション提供という視点だ。

 NANDが広く普及したのは、デジタルカメラなどのデジタルコンシューマ機器やスマートフォン、タブレッドなどのモバイル機器の内部・外部記憶媒体としての需要があったからだが、こうした需要をさらに深掘りするための新製品も生まれている。

 例えば、2011年に発売を開始した、無線通信機能を搭載する世界初のSDHCメモリカード「FlashAir™」もその一つ。デジタルカメラで撮った画像を、Wi-Fiでスマートフォンなどに直接転送し、そこから写真共有サイトやTwitterなどのSNSに投稿・共有できる。

 同様の製品は以前にもあったが、「FlashAir™」では画像データの送受信時のみ無線通信機能が起動するため、対応機器の消費電力を抑えることができるという利点がある。
「私たちはカメラそのものを作っているわけではないが、デジタルカメラには必ずSDカードスロットが付いています。このカードスロットを活用してさらに便利で楽しいライフスタイルを提案するためにはどうしたらよいか、という発想は、メモリカードメーカーならではのものです。現場をよく理解し、隠れた需要を掘り起こすのは、私たち応用技術者の役目。これからの技術者に求めるのも、こうした新製品開発や新しいソリューション提供に向けた提案力です」
 と、横塚氏は語っている。

 しかもその提案先は国内企業だけとは限らない。
「NANDの市場は、欧米先進国はもとより、中国・インドなどの新興国でも急速に広がっています。提携する海外パートナーもこれからますます増えるでしょう。自分たちが生み出したメモリ・ソリューションを全世界で使ってもらえるチャンスなのです。エンジニアにも海外出張、海外駐在の機会は多く、それを通して技術の幅を広げることができます」(横塚氏)

 このように、NANDを応用したアプリケーションを開発し、その市場を広げていくことも、今後採用されるエンジニアに求められる使命の一つだ。専門的には技術マーケティングという領域だが、個々のデバイス開発者にもそうした想像力が求められている。

「これまでは私たちはSDカードをいかに高性能化し、拡販するかということに力を注いできましたが、現在はそれ以外の分野への広がりを強く意識するようになりました。例えばゲーム機、車載機器、データセンタのサーバやビックデータ解析など、NANDや、それを組み込んだSSD、あるいはハイブリッド・ドライブを必要とするマーケットはまだまだ広い。それぞれに最適なアプリケーションを開発し、売上げの拡大と利益率の安定化を進めることが戦略的にも重要になっています」
 と、森氏は言う。

 とりわけビッグデータ解析はNANDの爆発的な需要を促す、新しいキラーアプリとなるかもしれない。現在は、十分な記憶容量を確保できないため、多くのデータは短時間で廃棄されてしまう。例えば、監視カメラの映像は永続的に保存されることはない。ビックデータを活用して予測の精度を上げるには、いままで捨てていたデータを保存しておく必要があり、しかも高速なレスポンスタイムでデータを読み書きできることが必要。そのためにはNANDを利用した新たなストレージ・ソリューションが求められているのだ。

 アプリケーション開発力やソリューション提案力の強化は、セミコンダクター&ストレージ社だけにとどまらず、いまや東芝全体の企業戦略ともなっている。先にも触れた「トータル・ストレージ・イノベーション」をその中核で担うのが、セミコンダクター&ストレージ社のメモリ技術者ということになる。

「四日市工場のNAND生産量は世界一。そこには世界最先端のプロセス装置があり、パッケージング技術があり、しかもそれらは日々進歩しています。NANDはもちろん、それを引き継ぐ“ポストNAND”の技術についても、グループのコア事業としてリソースを重点的に投入しています。半導体技術者としての能力を最大限に発揮し、世界最先端に挑める国内では数少ない環境だと自負しています。そこから『世界市場に向けて日本の半導体技術の力を発信し続ける!』という意識を、全ての技術者が持っている。ぜひ、みなさんにもその仲間になっていただきたい」
 と、森氏は半導体および周辺業界のエンジニアたちに呼びかけるのだった。

SDHCメモリカード「FlashAir™」
SDHCメモリカード「FlashAir™」

株式会社東芝 セミコンダクター&ストレージ社 メモリ技師長 森 誠一氏
1983年入社。半導体技術研究所、半導体デバイス技術研究所でLSI、メモリを開発。2000年よりメモリ事業部で先端メモリの製品開発グループを率いる。2011年より現職。
株式会社東芝 セミコンダクター&ストレージ社 メモリ応用技術技師長 大島 成夫氏
1983年入社。一貫してメモリ事業部で、DRAMやカスタムメモリの設計開発に従事。2008─2011年東芝アメリカ電子部品社に出向。2011年より現職。
株式会社東芝 セミコンダクター&ストレージ社 メモリ事業部 メモリ応用技術第二部 部長 横塚 賢志氏
1987年入社。メモリ事業部にてSRAM、NANDフラッシュの応用技術を担当。1999-2005年東芝アメリカ電子部品社に出向し、NANDフラッシュの市場拡大に貢献。2013年4月より現職。
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