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東芝セミコンダクター&ストレージ社のメモリ事業部門が展開するNAND型フラッシュメモリとその応用製品開発。2次元から3次元へと向かうパラダイムシフトのなかで、キャリア入社者への期待がますます高まっている。吉川進メモリ技師長に、最新技術の開発状況と、そこで求められるエンジニアの要件を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/伊藤理子 撮影/刑部友康)作成日:14.04.23
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半導体のプロセス開発から、それを組み込んだ最終製品までを手掛ける、世界でもまれな垂直統合型メーカー、東芝セミコンダクター&ストレージ社。なかでもNAND型フラッシュメモリを中心に、メモリ製品を開発するのがメモリ事業部だ。
同部の開発者たちは、現行の平面(2次元)チップにおいて微細化限界を次々に乗り越えてきた。現行のA19nm(1Ynm)のデザインルールはさらなる微細化が進み、1Znm(10nm台プロセスの第三世代)によるチップが2014年度には出荷予定だ。ギガバイトあたり世界最小のチップサイズを開発するという方針は今後も堅持される。スマホ、タブレットなどのコンシュマー需要、クラウド、ビッグデータなどのエンタープライズ需要を背景に、2015年度の計画では、NAND型フラッシュメモリの出荷ビット数が2012年度の3倍になることを予想するなど、業績は好調に推移している。
さらに、東芝は2Dから3Dへと移行する技術のパラダイムシフトにも果敢に挑んでいる。「BiCS」と呼ばれる3次元構造の次世代NANDメモリは、先行的な開発投資がようやく実を結びつつある。当然、3Dメモリでも世界との競争は必至だが、ここでも常に「世界一」を目指すと東芝の姿勢は変わらない。
活発なメモリ需要と旺盛な生産意欲を支えるために、東芝は2012年度から本格化した、メモリ事業部門におけるエンジニアのキャリア採用を、2014年度もさらに拡大する構えだ。
東芝セミコンダクター&ストレージ社
メモリ技師長 吉川 進氏 |
「NAND型フラッシュメモリの生産数量をさらに押し上げるために、四日市工場の新しい製造棟が今年夏にも完成します。当然、そこには技術者が必要です。また、3次元NANDの技術開発も大詰めを迎えており、それを加速化するための人財も必要です。さらに、SSDやコントローラ一体型のメモリモジュールなど、応用製品の技術開発においても、異業界を含めさまざまな経験者の知恵が求められている。メモリに関するあらゆる分野で人財が欲しい。そのための人財採用を今年度も続けます」
「開発プロジェクトは一つの大きな船のようなもの」だと、吉川氏は言う。 |
NAND型フラッシュメモリの開発経験を持つエンジニアは、東芝以外にはほとんどいない。キャリア採用のエンジニアは、その多くが“異分野”からやってくる、ともいえるのだ。
「私自身が入社以来ずっと担当していたのは、DRAMでした。DRAM事業から撤退したときに、NANDに移った、いわば社内転職者です。DRAMもNANDも大きく半導体設計という意味では同じ技術。トランジスタ、金属配線、加工技術などはそのまま活かすことができました。開発対象は変わっても、自分の経験の中で活かせるものが必ずあるはず」
と、吉川氏は自分の経験を振り返る。
例えば、NANDの特性を最大限に活かすためには、それを制御するコントローラの技術が不可欠だ。コントローラ自体、一つのSoC(システム・オン・チップ)なので、NAND以外の半導体設計の技術がそのまま活かせる。ファームウェアを書くという点でも、あらゆるエレクトロニック・デバイス設計との共通項がある。
「半導体を作る側ではなく、それを使う側にいた人たちの経験も重要です。例えばスマホやPC、デジタルデバイスのセットメーカーにいた人は、どうやってメモリモジュールやSSDなどをそこに組み込むかを考えてきたはず。そうしたユーザーとしての経験は、私たちがメモリ応用製品を企画し、開発するうえで、大変貴重なものになります」
これまで平面構造しかなかったNANDチップに、数年後には3D構造の製品が加わることになるだろう。現在、PCのストレージとして使われ出した数十GBクラスのSSDが、気づいてみれば中身はすべて3次元NANDに置き換わっているという事態が、早ければ2〜3年後には起こるかもしれない。こうした、これまでのパラダイムを覆すような先端技術に、転職者の経験がどのように活かせるのかも関心事の一つだ。
「3Dメモリといっても、露光技術、加工技術などのベース技術は、従来のNANDメモリと基本的には変わりません。半導体をやってきた人には、なじみのあるものです。もちろん、電子をどのように貯めるかといった点ではメモリの構造が違います。あるいはプロセス開発でも、これまでメモリの微細化のキーを握るのはリソグラフィーでしたが、BiCS構造の3次元メモリでは積層したセルを縦に貫く、一種の“穴開け”技術が重要になります。そうした違いは、入社後に勉強していただく必要はあります」
セルの多層化にともなって、製造段階でのダストの管理についてはより繊細な神経を使う必要が出てきた。クリーンルーム環境での測定・検査・品質保証の経験が求められるゆえんである。
「2次元から3次元に変わっても、容量拡大とコスト削減を同時に追求するという課題は変わらず、これは永遠に続いていきます。半導体工場、あるいはデバイス開発の現場で品質向上とコスト削減の努力を続けてきたエンジニアの経験をぜひ私たちも活かしたい」
このように転職者の経験の応用可能性が広がれば広がるほど、“NANDやSSDのことはよく知らない”“3次元メモリについて知識がない”というのは、東芝への転職に尻込みする理由にはならなくなる。
とはいえ、東芝は外からみれば巨大な組織だ。転職しても、単にその歯車の一部になってしまうのでないかという危惧を抱くエンジニアもいるだろう。転職者の経験が、東芝の技術開発のスタイルと融合するためには、組織としてそれを活かす体制や風土があるかどうかが重要だ。転職者たちの不安を払拭するように、吉川氏はこう断言する。
「東芝には、転職者を含む技術者のための社内教育の制度は充実しているし、転職者の意見を傾聴する風土はもともと強いものがあります。私もメモリ部門のリーダーとして、各部署のマネジャーには、転職者の経験を活かすために最大限の努力を払ってほしいとつねづね言っています。生え抜きのエンジニアはどうしても自分たちの成功体験にこだわってしまうきらいがありますが、それを打破するためにも、転職エンジニアがもたらすインパクトが欠かせないのです」
吉川氏が自身の経歴を語るところでも出てきたことだが、東芝が半導体メモリの世界で生き残ってきたのは、これまで社内技術者たちがドラスティックな技術転換を重ねてきた結果でもある。異なるもの、新規なるものへの挑戦はいわば東芝エンジニアのDNAともいえるものだ。さまざまな経験が混じり合い、一種のケミストリー(化学反応)が起こることを歓迎する風土は、東芝の技術そのものともいえるのである。
1986年入社。半導体技術研究所、半導体デバイス技術研究所でメモリ技術開発に従事、以降、メモリ事業部、四日市工場で先端メモリの製品開発を経て、2013年より現職。
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