データからアプリ開発を支援する逆マッシュアップという新発想 |
|
Mashup Awards 9のTech総研賞は |
|
常に変化するWebテクノロジーをマッシュアップし、斬新な発想でWebアプリを提案する「マッシュアップアワード(MA)」は、今年で9回目を迎えた。ますます沸き立つマッシュアップの世界。頭脳とセンスに磨きをかけた460作品が集まった。 (取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/馬場美由紀 撮影/佐藤聡) 作成日:13.11.22
|
■店の検索・推薦・予約までを全自動化するスマホアプリ「1Click飲み」に栄冠
今回で9回目となるメディアテクロノジーラボ主催の「マッシュアップアワード」(Mashup Awards=MA)は、2013年11月12日、いよいよベルサール渋谷ファーストでの最終プレゼンと授賞式を迎えた。昨年と同様「TechCrunch Japan」とコラボし、「TechCrunchTokyo 2013」との共催だ。
8月末から全国で繰り広げられたMashup Awards 9(MA9)予選には、400チーム・460作品が応募。高校生・大学生からの応募は珍しくないが、あるチームには9歳の女の子がデザイナーとして参加するなど、参加者のすそ野の広がりを感じさせた。
昨年から加わったハードウェア作品も今年は5倍に増え、また地域が抱える課題を市民が解決する「Civic Hack」作品も30件を数えた。それに応じて今年は部門賞を新設。優秀賞、テーマ賞、メディアパートナー賞、協力企業賞のほかに、「アンダー18」「ハードウェア」「Civic Hack」など7つの部門賞の表彰も行われた。
マッシュアップに対する企業の関心も年々高まっており、各企業が提供するAPIは270を越えた。応募作品でよく使われたAPI にはFacebook、Windows8/8.1、楽天商品検索、Twilio for KDDI Web Communicationなどがある。
すでに事業化されているプロダクトも多数参加。技術力の向上、完成度の高さは目をみはるばかりだ。参加者のプレゼン手法も年々洗練されている印象で、今年はプロモーションビデオを制作するチームが目立った。「アンダー18」部門賞を受賞した高校生が受賞スピーチで「これが縁で株式会社を起業しました」と話すと、会場からは大歓声。マッシュアップとビジネスイノベーションがつながった瞬間だ。
最終プレゼンを受けて、今年は来場者全員の投票によって最優秀賞を選出。ワンクリックするだけで、店の検索、推薦、そして予約までを全自動的に行えるスマホアプリ「1Click飲み」(ガリとマチョ作品)がグランプリ(賞金200万円)を獲得した。
ぐるなびWebサービス、Facebook API、Twilio APIのマッシュアップ作品で、開発期間はわずか1カ月。とりわけユーザーの意向を受けた合成音声が自動的に店に電話をかけしまうという、意表をつく大胆さが会場からの喝采を浴びた。
「1Click飲み」(ガリとマチョ)決勝プレゼンと受賞シーン
■データ所有者が主導権を握ってアプリ開発──“逆マッシュアップ”という提案
独立行政法人理化学研究所
同横浜研究所生命情報基盤研究部門長
豊田 哲郎氏
Tech総研も毎回、エンジニアの開発支援につながる作品にメディアパートナー賞を授与しているが、今回は「LinkData.org」を選んだ。データからアプリへ”逆方向”にマッシュアップする新発想のアプリ開発支援ツール。「逆マッシュアップ(Reverse Mash Up)」という新しいソフトウェア工学の技法を提唱している。
開発にあたったのは、独立行政法人理化学研究所の豊田哲郎氏(同横浜研究所生命情報基盤研究部門長)と、同情報基盤センター・リサーチアソシエイトの下山紗代子氏。早速、授賞式会場でインタビューを試みた。
──「逆マッシュアップ」というのは聞き慣れない言葉ですね
豊田:“逆マッシュアップ”はもともとバイオマス工学分野の研究を円滑に進めるため、私たち理化学研究所で考案した技法です。従来の“マッシュアップ”は、人が提供するデータを、自分でプログラムを書いてアプリにするもの。一方で、研究者は逆に、自分の実験で得たデータを、人が作ったプログラムで処理しています。つまり、研究者は、マッシュアップの逆を円滑に進められるようにすることを望んでいたわけです。
オープンデータやオープンガバメントの流れの中で、科学研究者だけでなく、国や行政の担当者も著作権や特許の制約なしにデータを再利用して欲しいと考えるようになりました。できれば自分たちでアプリを書ければ、オープンガバメント推進という施策を目に見える形で示せる。ただ、これまではそれを簡単にする方法がなかったのです。
──データ所有者が主導権を握るということですか?
豊田:そうです。LinkData.orgではデータ所有者の主導で、クラウドの中にアプリのインスタンスを簡単にForkできるようにしています。そこに自分のデータをAPI化して挿入すれば、誰もが簡単にデータベース・アプリが作れます。
例えば、秋田県横手市の情報政策課がLinkDataでアプリを開発した事例があります。ゼンリンのNAVI開発キットに含まれるAPIを使った、地域の道路混雑度がわかるアプリです。(2013.11.22現在はゼンリンデータコムのAPIのサービスが一部中断されているため、本文中のリンク先のアプリが正常に動作しない)。従来は自治体がオープンデータを出してもプログラマがアプリにするまでそのデータは活用されることはありませんでした。地方自治体の職員が、プログラマを介さず自らの手でデータからアプリを作成したのは、おそらく全国で初めてかもしれません。
さらにこのアプリをマッシュアップして、防災や観光データを入れ込み、新しいアプリを開発することもできます。LinkData.orgは自分のデータと既存のアプリをマッシュアップするプラットフォームというわけです。
■オープンデータでつながる文化を、日本から発信する
独立行政法人理化学研究所
情報基盤センター・リサーチアソシエイト
下山 紗代子氏
──研究所外にこのプラットフォームを展開しようと思ったきっかけは?
豊田:やはり東日本大震災ですね。オープンデータを活用して復興支援に役立てることができないかと、下山紗代子が工夫してLinkData.orgというわかりやすいシステムを開発しました。また、私(豊田)は、企業やアカデミアの有志と連携して「つながるオープンデータChallenge(通称、LOD Challenge)」という活動を立ち上げ、分野をこえて日本全体としてのオープンデータ運動を推進してきました。
──システム開発ではどのような苦労がありましたか?
下山:これまで理研内部の情報システム構築に携わってきましたが、誰もが使えるWebシステムを公開するのは初めて。心がけたことは、非エンジニアの人にわかりやすい、使いやすいシステムであること。Excelは使っているが、マクロはめったに書かないというレベルの人でも、テンプレートに従ったExcelファイルをアップロードするだけで、自動的にAPI化できるようにシステムを設計しています。データ変換、アプリ生成、さらにいえばアイデアの結合が自動的に行われるわけです。
──今回、初めてMA9に参加してどんな印象をお持ちですか?
豊田:そもそも私たちの技法を「逆マッシュアップ」と名づけたのは、MA9への参加がきっかけなんです。MAのメンバーにも受ける名前にしようと(笑)。ただここは、私たちがいつも触れているアカデミアの学会とは相当雰囲気が違いますね。私たちがふだん出合えなかった人々と交流ができました。今回、Tech総研賞ということで私たちの技術面に注目していただいたのも大変ありがたいことです。
MAはデータ所有者、プログラマ、APIを提供する企業との出会いの場にもなっています。LinkData.orgがめざすのもまさにそこ。この三者がコラボするプラットフォームは世界にも例がない。日本発のものとして、これからグローバルに展開できればと考えています。
このレポートを読んだあなたにオススメします
感情解析、画像認識、空席検索、電話、tab、天気予報APIをお試し
MA史上初の女子向けMeetUp開催!初めてのAPI体験☆
Tech×女子5人のユニット“Quintech(クインテック)”と、リクルートのメディアテクノロジーラボ(MTL)が…
学生・社会人の枠を超え、競技プログラマの世界一が決定!
CODE VSが示すプログラマに必要な戦略と問題解決能力
7月21日(日)、六本木「ColoR」で、アルゴリズム活用力とコーディング技術を競い合うプログラミングコンテスト「CO…
Rubyユーザやインフラエンジニアも必見、mrubyのススメ
mrubyを知るとRubyがもっと楽しくなる!
mruby、名前だけは聞いたことがあるけれど組込みエンジニアではないから自分には関係ないと思っているRubyプログラマ…
過去の写真の加工、カラー版、別の漫画タッチが実現するか
漫画カメラが進化する!あなたの欲しい機能が追加?
スマホアプリの「漫画カメラ」。エンジニアなら知っていますよね? 私もユーザーのひとりですが、まだ知らない人に教えると…
成果発表は4時間超え。47人連続LTによるアピール合戦が炸裂
開発者100人が腕を競うPHP Matsuriハッカソンに潜入!
日本最大級ハッカソンイベント「PHP Matsuri」が11月3日〜4日の2日間、福岡で開催された。PHP開発者が全国…
広める?深める?…あなたが目指したいのはどっちだ
自分に合った「キャリアアップ」2つの登り方
「キャリアアップしたい」と考えるのは、ビジネスパーソンとして当然のこと。しかし、どんなふうにキャリアアップしたいのか、…
あなたのメッセージがTech総研に載るかも