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スマートフォン向け開発チームを率いる
ドワンゴ外国人エンジニアが語るイノベーションの現場
「ニコニコ動画」「dwango.jp」などインターネットコンテンツ配信ビジネスが活況を呈するドワンゴ。そのシステムを支えるエンジニアの中には近年、外国籍の人も増えてきた。彼らが文化の壁を越えて活躍できる理由は何なのか。Leonard Chin氏に話を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:11.11.24
遊牧するエンジニア──ふらっと来日。エンジニア勉強会が転職のきっかけ
Leonard Chin氏
モバイル事業本部 企画開発部
アプリケーション開発第一セクション
セクションマネージャー
Leonard Chin氏

 Leonard Chin氏、31歳。シドニー生まれの中国系オーストラリア人だ。名門ニューサウスウェールズ大学ではソフトウェア工学を専攻したが、卒業後すぐにIT企業に就職する気はなかった。
「長い人生のことだから、ちょっとの間はPCから離れ、体を使う仕事をするのもいいんじゃないか」

 そう考えて、日本にやってきた。愛知県の中学校で外国語指導助手として教壇に立った。彼の日本語力の基礎は、教員仲間や生徒たちとの会話で培われた。しばらくするとソフトウェアの世界に戻りたくなった。自分のコンピュータと日本語の力を腕試しするつもりで中小SIerに2年間勤務。Javaを使った情報システムなどを作っていた。

 ドワンゴのことはまだ知らなかった。初めて知ったのは自主的にRuby on Railsの勉強会に通うようになってから。Railsの勉強会にドワンゴの社員も参加していたのだ。2007年、ニワンゴ(ドワンゴ子会社)が、ニコニコ動画のサービスを始め、2ちゃんねるのスレッドで「2ちゃんねらー限定」とした求人活動を始めて話題になっていた頃だ。

 ちなみにRubyを仕事で使っていたわけではない。特に切羽詰まった学習の動機があったわけでもない。ただ、「Rubyは日本で生まれた言語だから、日本にいる間こそ学べるチャンスは多いだろう」という判断からだった。Ruby関連のイベントの際の同時通訳などもかって出て、オープンソースのコミュニティに貢献するようになった。

 ドワンゴへの転職は2008年3月のこと。他の会社の真似ではない独自性のあるサービス。しかも大規模なユーザーを持っているので、技術的にも学べることが多いかもしれないと思ったのだ。エンジニアとしての可能性をここまで伸ばしてくれる会社だとは、正直そのときは思っていなかった。

 入社後、主にコンテンツの権利を持つ権利者向けに、コンテンツが違法にアップロードされていないか、権利を侵害していないかをチェックできるシステムを開発した。その頃はまだ動画の内容を、タグづけされたキーワードでチェックするぐらいのことしかできなかったが、今は権利者が登録した楽曲や映像であれば、それと同じコンテンツが別の人によってアップロードされていないか、自動的にチェックすることもできるようになっている。また、動画アップロードシステムやアフィリエイト広告の効果測定システム、ケータイサイトのダウンロード状況を管理するシステムなどの開発にも関わっていた。

 現在関わっているのは、Androidスマートフォン向けの音楽配信サイトの構築、さらにAndroidアプリの開発にも関わる。スマートフォン対応の波が、ドワンゴにもやってきている。Leonard Chin氏は社内では「レオさん」と呼ばれみんなから慕われている。いまやスマートフォン開発部隊のリーダー的存在だ。

 エンジニアとは本来、ノマド(遊牧民)的な存在かもしれない。腕に覚えある技術で働く場所を自由に選択しながら動く人たち。その移動は軽々と国境をも越える。エンジニアの勉強会で人と知り合い、それをツテに転職し、自分のキャリア領域を広げてきたという点でも、レオさんのキャリアはノマド的だ。そんな外国籍の社員が最近のドワンゴにも増えてきた。

スマートフォンへの移行は、「イノベーションのジレンマ」の最適例かもしれない

 レオさんの仕事をもう少し詳しく紹介しよう。いまメインの仕事は、音楽配信専門サイト「dwango.jp」のスマートフォン対応だ。
「スマートフォン搭載のWebブラウザの機能が劇的に進化しています。しかもレンダリングエンジンWebKitが、 iPhoneでもAndroidでも使われますから、これをデファクトとして考えることが必要です。それに伴ってWebKitが解釈するHTML5、CSS3、JavaScriptがスマートフォン対応のWebサイト構築の必須技術になってきました。まずはそれに対応させることが欠かせません」

 画面サイズと画面ナビゲーションの違いという点も、モバイルサイト構築の重要ポイントだ。ガラケー(フィーチャーフォン)は矢印キーが、PCではマウス操作が基本だが、スマートフォンの場合はタッチで画面を遷移させる。さらに細かいことを言えば、カーソルがボタンの上に来たときに、ボタンの絵が変わるようなマウスホバーボタンの設計なども、PC/ガラケー/スマートフォンでは見え方を変えなければならない。さらにスマートフォンに搭載されるさまざまな表現力機能の向上もある。それを効果的に利用するためにはどうしたらいいのか。サイトの設計を根本的に見直さなければならない時期なのだ。

 これまでガラケーの進化に合わせるように対応を続けてきたモバイルサイトも、スマートフォン登場の前では、その対応への努力がムダになる日が来るかもしれない。それがいつどのように起こるのか、エンジニアとしては見通しを立てておくべきなのだ。
「あえて言えば、スマートフォンとガラケーの関係は、WindowsPCやMacintoshなどのGUIインターフェイスと、MS-DOS時代のCUIインターフェイスの違いといえるかもしれません。それぐらい劇的な変化だと私は思っています」

 最近の若いエンジニアはもしかすると、MS-DOSに触れたことがないかもしれない。しかし、確かにレオさんの言う通りだ。スマートフォンの登場は、Webブラウザのインターフェイスという意味でも、大きな革命だったのだ。スマートフォンはガラケーに比べれば図体も大きく、バッテリーの持ちも悪い。メールを書くとき、ガラケーのキータッチに慣れた人には使いにくいかもしれない。しかし、一見、後退のように見える変化が、長い目でみると決して後戻りではなく、時代を切り拓く大きな進化だったということはよくあるのだ。

 こうした変化を見通す羅針盤として、レオさんはある本のことを語る。 「ハーバード大のクリステンセン教授が書いた『イノベーションのジレンマ』という本があります。そこには、優れた特色を持つ商品を売る巨大企業が、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かず、新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業の前に力を失う理由が説明されています。ガラケーとスマートフォンの興亡の歴史って、まさにこのジレンマじゃないですか。きっと、スティーブ・ジョブスはiPhoneを世に送り出す前に、あの本を読んでいたんですよ(笑)」

 この本はビジネススクールの教科書みたいな本で、日本でも一時よく売れたが、むろんレオさんは原語で読んでいた。UIの細かい技術的な話をするかと思うと、一方ではビジネス書をさらりと引用して、産業の歴史の変化のなかに自分たちの仕事を位置づけてみせたりする。この人は、ただものではない。

IRCで交わす社内コミュニケーション。情報発信する人にこそ情報は集まるという原則

 Android向けネイティブアプリの開発も、いまレオさんの仕事の一部になっている。
「Androidマーケットは、iPhoneとApp Storeがやっているような、シームレスなアップデートの仕組みがまだできていません。せっかくデベロッパーの側がネイティブで書いて、機能をどんどん追加しているのに、ユーザーが積極的にアップデートしてくれないという困った問題があります。

 また、大きなサイズのコンテンツだと、ネイティブよりはWebアプリのほうが有利という面もある。Webアプリとネイティブアプリ、どちらもメリット、デメリットがあるので、私たちはいまハイブリッドの形で出すようにしています。ドワンゴのアプリでも、「美人天気」などは完全ネイティブだけどこれは珍しい例ですね。しばらくはハイブリッドでの提供がメインになってくると思います」

 スマートフォン対応では他にもいくつかの課題がある。ガラケーの利便性は有料コンテンツのダウンロードにキャリア課金ができたこと。しばらくの間はスマートフォンからはできなかったので、別の決済方法に頼らなければならなかった。しかし、最近のAndroidスマートフォン・キャリアはキャリア課金に対応しつつある。サイト側もそれに対応させることが必要になる。

 音楽配信という意味では、AppleのiTunesサイトは「dwango.jp」の強力なライバルになる。とりわけ、iPhoneユーザーのiTunesとの親和性は高い。そちらにユーザーを引っ張られないように、「dwango.jp」サイトの魅力を訴求する必要がある。

 チャンスが多いのはむしろAndroidのほうだ。Android端末で「dwango.jp」を訪れるユーザーを意識して、着うたフル、コール(着信音)、デコメ、年賀状など、Android向けコンテンツを増やしてきた。まだ試行段階だが、今後はコンテンツを拡大していく。
「つまり、スマートフォン向けサイトはまだ始まったばかり。日々改良の連続なんです。でもそういう渦中にいるエンジニアの表情ほど、活き活きとしていることってないですよね」
 と、レオさんは言う。確かに彼の表情は、本人も言うように「仕事を遊びのように楽しんでいる」笑顔だ。

 ドワンゴのスマートフォン対応チームは、コンテンツ制作やサーバーサイドのエンジニアを含めると今のところ総勢20名の所帯。今年の新卒もいれば、前職がゲーム会社、大規模SIer、趣味でスマートフォンアプリを書いていた人など、キャリアは多様だ。

「みんな趣味趣向もバラバラ。それは各自のデスクに飾っている写真やフィギュアの趣味を見ても分かる(笑)。まるでカオスですよ。でも、これが楽しい」

 レオさんの案内でエンジニアのオフィスを少し歩いてみた。カオスというのはあくまでもコミュニケーションの社会性のことで、オフィスそのものは整然とパーティションで区切られ、意外と静かだ。

「入ってみて分かったけど、ドワンゴという会社は、チーム内はもとより、他のチームとのコミュニケーションもすごく活発な会社。そのスピードも速いから、最近はメンバーとの連絡は、メールでも電話でもなく、もっぱらIRC(チャット)です。分からないことは何でもチャットで聞きまくる。分かる人は率先して教える。情報をたくさん出す人にこそ、情報が集まるというのは、ITに限らずビジネスの原則ですね」

モバイル事業本部 企画開発部 アプリケーション開発第一セクション セクションマネージャー Leonard Chin氏

1979年オーストラリア・シドニー生まれ。大学卒業後来日し、外国語指導助手を経て中小SIerに勤務。2008年、オープンソースの勉強会がきっかけでドワンゴに転職。コンテンツ権利管理システムなどの構築を経て、現在はスマートフォン対応チームのリーダー。

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