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開発スピードと品質を両立させ、メンバーの成長を促す
DeNAが求めるエンジニアリングマネージャーの「要件」
エンジニア主体で企画から開発・設計、データ分析・運用まで担当するDeNA。そのプロジェクトをマネジメントするのは、自ら開発者でもあり、プロジェクト遂行とメンバーの成長を促すエンジニアリングマネージャー。その仕事ぶりを取材した。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.07.01
同じ上司だったら、常に最新技術にワクワクしている人のほうがいい

 天才肌のスーパープログラマが、たった一人で、しかも2〜3カ月という短期で、モバオクや「Mobage(モバゲー)」の原型を開発した──DeNAにはそうしたツワモノたちの伝説がいくつも残されている。実際、現在の「Mobage」上のソーシャルゲーム開発も、タイトルあたりにかける人的リソースは少ない。基本単位は企画担当1人、システム開発担当1人。もちろん、ゲームの規模が大きくなり、進捗状況次第でチームの人数は増えていくが、それでも少人数開発であることは変わらない。

 現在城戸氏のもとには50名を超えるシステム開発担当者がいて、4つのグループに分かれている。それぞれのグループに4〜5チームが存在し、1チーム1ゲームタイトルを担当している。企画担当も含めるとかなりの大所帯だ。いまでもどんどん増えている。

城戸 忠之氏
ソーシャルメディア事業本部
ソーシャルゲーム統括部システム部
部長
城戸 忠之氏

「開発者自らが、ユーザー目線に立ってプロダクトを設計しているということが前提にあります。その上で、プロトタイプを作っては、その場で試し、手直しを加えていく。自分たちが楽しいゲームを、自分たちで考え、自分たちで作る。だから開発のスピードは驚くほど速い」  と言うのは、大所帯のソーシャルゲームのシステム開発者を束ねる城戸忠之氏だ。ソーシャルゲーム開発エンジニア全体のマネジメントを仕切ると同時に、彼自身がグループの一つのグループリーダーも兼務している。
「DeNAの場合、自分では手を動かさず、マネジメントだけに専念するマネージャーは少ない。自分も開発者であり続けるプレイングマネージャーがほとんどです。それは会社側からの要請というよりも、自分たちの志向性なんです。つまり、マネージャーたちもみんな技術が大好きで、最新の動向に常に関心を持っている。たとえマネジメント業務をするようになっても、プログラマとしての腕を落としたくないという人ばかりなんですよ」(城戸氏)

 スキルや関心は何も業務の内だけに留まるものではない。城戸氏が最近ハマっているのは、Kinect(キネクト)。Xbox360用のコントローラを用いずに操作ができる体感型のゲームシステムだ。そのSDKを自宅のPCに入れて、何やらプログラムを書いている。その前は、プレイステーション3にLinuxをインストールしていたし、Macに AndroidのSDKを入れて遊んでいたりした。
「新しい技術にワクワクする気持ちって、やはりエンジニアに共通するものだと思うんですよね。同じ上司だったら、ワクワクしている人のほうがいいって、たぶんみんな思っていると思うんです」(城戸氏)
 なるほど、この「ワクワク感」というのが、DeNAならではのエンジニアリングマネージャーの要件であるらしい。

ソーシャルメディア事業本部 ソーシャルゲーム統括部システム部 部長 城戸 忠之氏 (43歳)
1989年NTTソフトウェア入社。1999年南場社長がDeNA立ち上げの際に出向、ビッダーズのプロジェクトマネジメントに携わる。自分たちで事業を作ることが楽しくなり、2000年DeNA入社。「みんなのウェディング」「エアーリンク」など、DeNAの数々のプロジェクトに携わり、2011年6月にソーシャルゲーム統括部システム部長に就任。
エンジニアの過保護はいけない。顧客への意識、収益へのこだわりをもたせる
菅原 啓太氏
ソーシャルメディア事業本部
プラットフォームマーケティング統括部
システムグループ グループリーダー

菅原 啓太氏

「私も、実はプログラム・コードを書いている時間って、会社にいるときより、自宅にいるときのほうが多いかもしれない」
 と話すのは、プラットフォームマーケティング統括部システムグループの菅原啓太氏だ。彼が率いる10人弱の開発チームは、「Mobage」に広告を配信するためのシステムの開発・運用がメインの仕事。アフィリエイトを核とするアドネットワークや、広告料金請求システムと自社会計システムとの連携部分の作り込みなども、菅原氏のチームの担当である。

 ゲーム開発ほどの派手さはないが、会員2700万人を擁する媒体の広告価値を高めるためには不可欠のシステム。金銭の移動が伴う上、広告主やサードパーティの開発会社に使ってもらうシステムが中心なので、スピード重視のアジャイル開発というよりは、安定性やセキュリティが重要だ。

 それでも、業務の合間をみては、あるいは自宅に戻ってからも、技術の最新動向を追いかけ、手を動かし続ける。
「マネージャーの重要な仕事にメンバーの教育や評価があります。技術者として同じ土俵に立っていないと、メンバーのスキルの進歩は正確には評価できない。とりわけDeNAのエンジニアは優秀なので、自分が勉強をサボっていると、すぐにキャッチアップできなくなっちゃいます。チームの中で常に一番手である必要はないけれども、エンジニアであることを止めたら、DeNAではマネージャーとしても通用しないんです」(菅原氏)

 菅原氏が挙げるマネージャーのタスクの一つに、「場づくり」というものがある。マネージャーの考え方やメンバーに対する姿勢が、チーム全体のカラーを作っていくというのだ。その意味では、広告配信システムを開発する意義をメンバーたちにきちんと伝え、それに応じた開発スタイルを作っていくことが、マネージャーとしての菅原氏のミッションということになる。 「DeNAはエンジニアを非常に大切にする会社ですが、マネジメントとしてはもう少し厳しく当たる必要もあるのではと感じる部分もあります。私たちのチームは営業部門の中にあって、日々顧客と接し予算を背負って活動している営業の人たちの仕事ぶりを間近に見ているから、特にそう思うのかもしれません。営業マネージャーがメンバーを叱る時なんて、とてもシビアですからね。叱ればいいというものじゃありませんが。私自身、若手のメンバーを育てるためには、もうちょっと厳しくなってもいいかなと思っています」(菅原氏)

 技術に対する真摯な取り組みを通して、顧客からの信頼感を得る。そうした方向にチームを育てることが、菅原氏の目下の課題。先の「ワクワク感」に加えて、「厳しさ」という要素を、DeNAのマネージャーの必須要件に追加しておこう。

ソーシャルメディア事業本部 プラットフォームマーケティング統括部 システムグループ グループリーダー 菅原 啓太氏 (31歳)
金融系のソリューションを行う企業に勤務。2003年Webの仕事を始める。一人でプログラマ、SE、コンサル、Web制作、ディレクターを担当。要件定義から納品まで一人でできるようになり、成長したことを実感。2009年DeNA入社。肌に合ったのはベンチャー感。「ずっと働いているという感覚をなくしたくなかった」。広告部システム部に入社。入社後半年でマネージャーに。
プラットフォームの品質改善やドキュメント管理。SI大手の経験をDeNAに持ち込む

 DeNAの各サービスにはいま、PC、ケータイだけでなくスマートフォンからのアクセスが増えている。米国ngmoco社の買収によるゲーム開発エンジン「ngCore」のゲームデベロッパーへの開放や、中国SNS企業との提携など、プラットフォームの広がりは急速だ。国内だけ、内製アプリだけでビジネスをしていた時代とは、開発手法もまた大きく変わらざるをえない。

「Mobage」のオープン・プラットフォームの品質をどう高めていくか。SAP企業などデベロッパーへのサポートをどう厚くしていくか。そうした課題を背負って、今年1月、日本IBMから転職してきたのが、今回3人目のマネージャー、水島壮太氏だ。前職での経験を活かし、「Mobage」のオープン・プラットフォームにおいて、ディベロッパーのサポートを担当する。
「ディベロッパーからは、「Mobage SDK」や「ngCore」に関する質問が、毎日多数寄せられます。技術的な質問とビジネス的な質問を切り分け、日本語の質問は英語に翻訳し、さらに社内の誰に聞けば最適の回答が得られるかを探し出すのが私たちの仕事。ディベロッパーとの定例会議に営業やコンサルテーション担当と共に出席して技術的なサポートをしたり、ドキュメントの拡充もやっています」(水島氏)

水島 壮太氏
ソーシャルメディア事業本部
メディア統括部プラットフォーム
システムグループ

水島 壮太氏

 プラットフォーム自体の品質改善のために、PDCAサイクルを回してバグの再発防止に努めたり、テストの自動化を図ったりすることなどは、前職での経験が活きている。ゲーム開発ではドキュメントなしでの開発が当たり前だが、そうしたDeNAの開発風土に、きちんとしたドキュメントや成果物管理の手法を持ち込もうというのも、前職での経験からだ。
「内製ゲームだけならアジャイルで行った方がいいと思うんですが、ディベロッパーにプラットフォームを開放するとなると、それでは不十分。ドキュメント品質を高めることがプログラム品質を高める早道だという確信が私にはあります。そうした意識をメンバーに植え付けることもマネージャーとしての役目だと思っています」(水島氏)

 もちろん、マネージャー自身が高い技術スキルを維持することの重要性は、前出の2人と同様に、水島氏もよく理解している。ただ、エンジニアのスキルとは単にプログラムを書けることだけではない。
「開発のためのプラン設計、ロジカルな作業判断、そこにおけるリスク管理、障害発生時の切り分けや対処にあたってのプライオリティの順位付けなども、エンジニアスキルの重要な部分です。それができないと良いシステムは作れないし、プロジェクトも管理できない。そのことを自らが実践して、メンバーに示すことも、エンジニアリングマネージャーの重要な資質だと思うんです」(水島氏)

 一言で言えば、「品質管理への高い意識」ということになるだろうか。
 3人のマネージャーの話から、「技術に対するワクワク感」「顧客や収益を念頭に入れた仕事の厳しさ」そして「品質へのこだわり」という3点をとりあえず抽出することができた。自らがそれぞれについて高い意識をもち、その要諦をメンバーに伝え、人を育てることができる──それがDeNAにおけるエンジニアリングマネージャーの要件ということになる。

ソーシャルメディア事業本部 メディア統括部プラットフォーム システムグループ 水島 壮太氏 (30歳)
学生時代からベンチャー企業の契約社員としてiアプリやソーシャルサイトなどをJavaで開発。大学院卒業後、日本IBM入社。Web2.0の時代でAjax、Webアプリに興味。IBMでは早く安く良質なシステムを提供するためのフレームワークづくりを学ぶ。日本から海外へサービスを展開できるベンチャーで働きたいと思い、DeNAへ。入社後はディベロッパー向けのサポートを担当。
メンバーとのコミュニケーション。マネージャーたちも苦労しながら成長していく

 自らのエンジニアとしてのスキルや、プロジェクト管理の方法をどのように伝えるか。それはマネージャーごとにやり方が違って当然だ。 「1日に1人は必ず顔を見て話すようにしている」というのは、城戸氏。開発チームの単位が小さかった時は、そんなことは意識しなくてもできた。全員が物理的にも短い距離で仕事ができたからだ。しかし、1年前に比べても開発チームの数は倍増している。黙っていると、一日一言も話さずに帰ってしまうメンバーも出てくる。

「会社としての評価面談が年2回ありますが、それだけでは足りません。机の後ろを通りかかったとき『いま、どんな感じ?』と声かけるとか、帰りがけに食事に誘うとか、そういうささいなコミュニケーションでも、ないよりはあった方がいい。自分の仕事をさり気なく見てくれているんだなと思えば、メンバーのやる気も違ってきますから」(城戸氏) もちろん顔を会わせなくても、IT的な情報共有の仕組みはいくつでもある。ただ、それに頼りすぎると、メンバー一人ひとりの表情が見えなくなると言うのだ。

 菅原氏は前職では、一人でプログラマ、SE、コンサル、Web制作、ディレクター業務をこなしていた。それだけの力量があったわけだが、DeNAに入ってからチームワークということを改めて考えるようになった。
「会社の事業戦略を進める上ではもちろんのこと、自分がやりたいことを実現するためにも、一人では無理だということに気づきましたね。だから、今はみんなの力を合わせることに心を配っています。もちろん“なあなあ”意識ではそれは無理。時には自分が技術的にできないことでも、“なんでキミはできないわけ?”と厳しく問い詰めることも、マネージャーのテクニックとしてはアリなんじゃないかな」と笑う。

 そうした詰問をバネに、メンバー一人ひとりのスキルが向上すること、それが組織全体のスキルに転化することを期待しているのだ。水島氏も、現在4人の部下を持つ立場。
「例えばディベロッパーサポートでの回答一つとっても、『なぜこういう回答をしたのか』というプロセスは重視するようにしています。もしそのプロセスに何か問題があったら、自分だったらこうすると、できるだけ具体的に別のやり方を示すようにしています」

 おそらく一度や二度のアドバイスでは、人はそう簡単に成長することはない。人を育てるとは、徒労に終わるかもしれない努力の積み重ねなのだ。こうした忍耐の必要なプロセスを繰り返しながら、DeNAのエンジニアリングマネージャーもまた日々成長を続けているのだ。

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