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発見!日本を刺激する成長業界16 先進技術の宝庫、スマートハウス開発の舞台裏
エネルギー消費量がごく少ないスマートハウスが今、注目を浴びている。建築関連技術だけでなく、太陽電池などのエネルギーデバイス、省電力技術、さらにはITと、多彩な技術の集大成だけに、転職を目指すエンジニアにとっても見逃せないフィールドのひとつだ。
(取材・文/井元康一郎 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:11.03.07
世界的な低炭素ニーズの高まりを背景に急成長の見通し
 民生分野において、住宅は自動車と並ぶエネルギー消費量のツートップ。クルマがEV化されているように、住宅もここにきてエコ化へと大きく動き始めている。その中でも最先端とされるのは、エネルギー消費量を実質ゼロ、ないしそれ以下にすることを目指した「スマートハウス」だ。
 今後、コストが下がるにつれてスマートハウス市場は急ピッチで拡大していく可能性が高い。富士経済研究所は2020年には2010年のおよそ8.6倍、18兆5000億円の巨大市場へと成長すると見ている。
 このスマートハウス、太陽電池や燃料電池、EV、省エネ家電、さらにはIT技術を生かしたHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)といったさまざまな分野の技術の集大成だけに、他業界への波及効果も大きいものとなるだろう。
スマートハウス関連製品・システムの世界市場(海外、国内別)(2010年は見込み、2011年以降は予測)
トステム住宅研究所/エネルギー収支をプラスにする驚異の次世代住宅
 CO2排出量実質ゼロをめざすスマートハウスが住宅各社から提案される中、株式会社トステム住宅研究所はCO2排出量マイナス30%を目指した「ネクストプラス」を試作した。太陽電池の電力さえ余るという超エコを実現するためのアイデアとは。
創エネ住宅「ネクストプラス」は夢でなく、既に実現可能な段階に
ネクストプラスのリビング。右奥の壁に「スマートウォッチ」、左奥には「ペレット暖炉」がある
ネクストプラスのリビング。右奥の壁に「スマートウォッチ」、左奥には「ペレット暖炉」がある
 今、究極のエコ性能の実現を目指すエコ住宅、スマートハウスが注目を集めている。人気映画「男はつらいよ」の舞台として知られる東京の下町、柴又の一角に建つ「スーパーサステナブルモデル住宅NEXT+(ネクストプラス)」は、そのスマートハウスのひとつ。開発したのはアイフルホームのブランド名で知られるトステムグループの研究開発会社、トステム住宅研究所だ。
 外観をぱっと見ただけでは、最近増えつつある太陽電池を屋根に装備したエコ住宅、ソーラーハウスと大きな違いは感じられない。だが、実は太陽電池のエネルギーだけで家の電力をまかない、さらには余剰電力が出ることを目指したのだという。まさに「究極のエコ性能」を追求した、最新鋭のスマートハウスなのだ。開発を手がけた高橋司郎所長は語る。
「今日、住宅メーカー各社がこぞってCO2排出量実質ゼロを実現する、スマートハウスの技術提案を行っています。ですが、われわれは目標をさらに高いところに置き、年間で太陽電池の発電量が家の電力消費量を30%上回るレベルを目指しました。言うなれば、CO2を吸収する森林のような家です」

 ネクストプラスの屋根に設置された太陽電池の出力は6.93キロワットの大型タイプで、年間の発電量を約7000キロワット時と想定している。かなりの発電量だが、太陽電池を大型化するだけでは、平均で年間1万2000キロワット時前後という家庭での電力消費量をまかなうことはできない。そこで家庭内での消費電力を削減するための工夫をあらゆるところに盛り込み、消費電力量を年5000キロワット時あまりまで抑制した。このことにより、太陽電池の発電量が3割余る「創エネルギー」住宅の実現への道がひらかれるというのが、トステム住宅研究所の提案だ。
 ネクストプラスのもうひとつの特徴は、既に普及段階に差しかかっている技術を主体としていることだ。スマートハウスといえば、超ハイテクな未来技術を惜しみなく投入して究極のエコ性能を実現する半面、価格のほうも現時点では「青天井」というイメージがある。高橋氏は、ネクストプラスはそういった夢の住宅とは違うと言う。
「もちろんわれわれも、LED照明やHEMSなど、高価なハイテク技術も使っています。しかし、その多くは普及可能なもの。市販住宅に展開していきたいと考えている技術を、ネクストプラスで試しているのです。ネクストプラスは試作ゆえ価格はありませんが、仮にこのレベルのものを実際に市販する場合、1坪あたりの単価は高価でも一般ユーザーに買っていただける水準を実現できます」

 省エネ家電やハイブリッドカーは多少高価ではあっても、消費エネルギーの少なさゆえにランニングコストは安く、価格が下がるにつれて加速度的に普及していく。ネクストプラスの商品力はそれらのエコ商品と似ている。エコ化による節約効果は実に「20年で1000万円以上」にもなるという。この試算は現時点のもので、エネルギー需給の逼迫によって電気代が上昇すれば、さらに効果は拡大する可能性もある。
 住宅のエコ化やスマートハウス化は、新たなエンジニアニーズを生む可能性があると高橋氏は言う。
「住宅づくりそのものは、ある程度確立された世界です。しかし、スマートハウスは建物本体だけでは完結しません。有機ELなどの次世代照明、電力、IT、冷熱など、広範囲の技術が使われ、さらに壁面緑化や雨水利用など、自然の力を使う工夫も求められるようになっています。他分野のエンジニアが活躍できる余地は、今後も広がっていくと思います」

 スマートハウスの開発は、今までになかったモノづくりでもある。高橋氏はアイデアがスキルに劣らずに大事であるとも言う。
「アイデアに職種やスキルは関係ない。そこで大切なのは、見たり聞いたりした技術やアイデアを否定しないで、肯定から入ることです。それらを素直に試してみて、それで是々非々を判断するくらいでないと、次世代の家はできません。自分の思い込みにとらわれない視野の広いエンジニアならば、最初は住宅の知識がなくても、勉強していくうちにできるようになると思います。実際、我々のオフィスでも心理学、デザイン、マーケティングと、住宅分野以外の人材が企画に携わっています」
 ネクストプラスなどのスマートハウスづくりは、非住宅分野のエンジニアにとっても、きわめて興味深いものとなりそうだ。日本国内で約20兆円ともいわれる巨大な住宅市場。スマートハウスはその市場において、ハイエンドクラスから徐々に浸透していくものと考えられている。ネクストプラスはそんな時代の実現を目指した住宅なのだ。
高橋司郎氏
キッズデザイン研究所
執行役員所長
高橋司郎氏
テクノロジーとアイデアの両立が究極のエコを実現する
「スマートウォッチ」(右)と「ERIAモニター」
「スマートウォッチ」(右)と「ERIAモニター」
「ペレット暖炉」と廃材燃料の木質ペレット
「ペレット暖炉」と廃材燃料の木質ペレット
 究極のエコ性能を目指したネクストプラスには、数多くの技術とアイデアが盛り込まれている。実際に見るとわかるが、先端技術から人間の知恵までをフル動員した「創意工夫」ぶりに驚かされる。
「太陽電池など、再生可能エネルギーで得られる電力には限りがあります。その電力を余らせるスーパーサステナブルを実現するためには、住宅側の省エネルギー化を徹底的に進める必要がありました」
 リビングルームの壁には時計が設置。リングの部分に仕込まれた緑、黄、赤の3色の光でエネルギーの使用状況を知らせる「スマートウォッチ」だ。
「電力消費を監視・制御するスマートメーターについては議論を重ねました。そこで出てきたのが、住宅内でも目をやる頻度が特に高い『時計』に表示機能を仕込むいうアイデアでした」

 省エネ目標に対し、実際の消費電力が多いか少ないか、状況を30分単位でモニタリングして表示する。緑なら十分にエコ、赤なら使い過ぎだ。さらに細かい情報はスマートメーター本体の「ERIAモニター」に表示されるが、こちらも液晶に映し出されたキャラクターが笑っていればエコだ。エネルギー使用量が増えるにつれて表情が曇っていくなど、ゲーム感覚でエコを楽しめるという。

「アイフルホームのメインユーザーは子育て世代のファミリー層。ゆえに、スマートメーターを単なる自動監視だけでなく、環境教育機会にも使えればいいという思いもあったんです。実際、人間の節約意識はエコを実現するうえできわめて重要です。照明や空調を自動調節した場合、エネルギーの節減効果は1割程度にすぎません。しかし、エネルギー使用量を見て、我慢できる部分は我慢しようという行動を人間が起こせば、その1割が3割程度にまで拡大します」

 エネルギー節減、低CO2の工夫は枚挙にいとまがない。エネルギー消費の中で大きな割合を占める暖房の主力は、エアコンではなくバイオマスエネルギーを使う「ペレット暖炉」。廃材チップ燃料である木質ペレットは燃やせばCO2が出るが、植物の光合成の段階ではCO2が酸素と炭素に分解されるため、CO2排出のない「カーボンニュートラル」とみなされるのだ。その熱を家全体に拡散させるため、部屋を仕切る壁や引き戸の上部に、欄間のような開口部を設けるなどの工夫も盛り込んでいる。
 屋根には太陽電池のほか、容量460リットルの「太陽熱利用エコキュート」が備わる。夏ならば触れないくらい熱いお湯が自然に沸き、冬でも給湯に使うエネルギーを大幅に節減できる。太陽熱温水器は古典的な技術だが、自然エネルギーを使うため、エネルギー節減効果はかなりのものだ。
 窓は断熱効果を大幅に高めた次世代スタンダードウィンドウ「サーモスH」。室内の照明はLED照明を基本としつつ、「低価格化技術が登場しはじめた」という有機EL照明を一部導入。さらに屋上や壁面を緑化することで真夏の熱気の遮断性を高めたり、森の木漏れ日のパターンを研究して作られた「フラクタル日よけ」を庭に設置して輻射熱を備えたり……と、使われる技術、工夫に限りはないようだ。スマートハウスはエンジニアのアイデアを生かせる、創造性豊かなジャンルなのだ。
背面の壁は、吸湿性を持って部屋内の湿度を一定に保てるレンガ「ミラクルすこやかブリック」
背面の壁は、吸湿性を持って部屋内の湿度を一定に保てるレンガ「ミラクルすこやかブリック」
スマートハウス登場で非住宅分野のエンジニアニーズ急拡大か
省エネルギー志向が住宅を住建専門からアセンブリー産業に変えた
 世界で高まる低炭素や省エネルギーのニーズを背景に、エコ住宅の需要が急拡大している。新築物件にエコ化を義務付けるという動きもあるが、それ以前に「そもそもエコ性能の低い家は、既に人気がなくなっている」(大手住宅メーカー関係者)という状況で、住宅メーカーはこぞってエコ性能の強化に血道を上げている。実際、最新のエコ住宅は真夏でもごく弱い冷房で快適性を十分に確保でき、静粛性も高いなど、素晴らしい商品力を持っている。

 スマートハウスはさしずめ、そのエコハウスの最先端分野。ネクストプラスの例を見てもわかるように、そこには従来の住宅関連技術とは畑違いとも言える情報通信や電子、バイオ技術などが使われている。また、照明、冷熱・空調、断熱材、空間設計などの従来分野も、住宅以外の分野のノウハウを積極的に取り込んでいく動きが加速している。
 情報通信、電子、材料など多彩な技術を取り込んだアセンブリー産業の代表例として自動車がよく挙げられるが、今後は住宅も建築技術を基礎としながらも、アセンブリー産業へと大きく変化していくことは確実だ。
家作りのアイデアがあればチャンスが生まれる!?
 住宅のアセンブリー産業化は、非住宅分野のエンジニアにとって大いなる転職機会の拡大となるだろう。住宅メーカーは歴史を持つ名門企業が多く、待遇も悪くないだけに、転職先としては意外な「穴場」と言える。
 人材ニーズについて、「われわれとしても欲しい技術分野はあるが、率直な話、自分のスキルやノウハウを次世代の家づくりに役立てられるアイデアを持つエンジニアならば、誰にでも可能性があると思う」と、トステム住宅研究所の高橋氏は語る。
 とりわけニーズが高いのは情報通信と電気関連。情報通信はスマートハウスの中核技術である「HEMS」づくりに必要不可欠なため、特にニーズが高い。それに付帯して、家電デバイスの消費電力や屋内外の温度、照度を知るためのセンサー技術も重要。これらに関するスキルを持つエンジニアについては、今後門戸が広がっていく可能性が高い。

 それらに負けず人材ニーズが高いのは、エアコンや冷蔵庫などの省エネ家電や照明、太陽電池、EVやハイブリッドカー、リチウムイオン電池パック、燃料電池など電気を扱うジャンル全般のエンジニアだ。
 スマートハウスやエコ住宅の三要素はエネルギーを作る「創エネ」、エネルギーを蓄える「蓄エネ」、エネルギー消費を減らす「省エネ」。それらと関わる技術、商品開発の経験を持つエンジニアは有利だ。ほかにも建築材料に使われる高分子材料、金属材料、植物性材料など、素材系のエンジニアも研究開発に携われるチャンスは十分にある。今後の人材募集などの動向を注意深く見守ったほうがよいだろう。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
いい家です! 建坪を聞いて驚くくらい広さを感じますし、随所に施されたエコ技術が、何というか、かわいいのです。しかも、それぞれの機器が変な自己主張をしていません。少々ほめすぎかもしれませんが、仮の値段を聞いて、本気で買おうと思いました(笑)。

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