不況による業績悪化や、先行きの見えない将来に不安を感じて「終の棲家」を求め転職をする“人生アガリ転職”。今回、経験者300人に対する調査を通して、その実態について探ってみたい。 （総研スタッフ／山田モーキン　イラスト／村林タカノブ）作成日：10.09.06

	今回、人生アガリ転職の経験のある25歳〜34歳までの若手・中堅クラスのエンジニア300名に対してアンケート調査を実施した。まず人生アガリ転職をしようと思ったきっかけについて探ってみたところ、大きく分けて「多忙」「業績悪化」「将来への不安」の3つの要因が大きい。

	きっかけ1　“多忙” ・月間稼働時間が400時間を超える日々が続いていて、30歳を迎え人生を考えた（30歳・コンサルタント） ・残業時間が多く先輩が次々とダウンしていく姿を見て、自分はああなりたくないと思ったから（30歳・社内SE） ・多忙で残業は月150時間。周りの先輩もみな結婚できず、離婚者も多数。この状況では自分も結婚できないと思った（31歳・機械設計） きっかけ2　“業績悪化” ・自分が担当していたプロジェクトが業績悪化で中止になり、目標を見失ってしまったため（34歳・機械設計） ・会社の業績悪化による給料カットで将来性が見えなくなったから（25歳・品質管理） きっかけ3　“将来への不安” ・上司からのプレッシャーが強く、長期的に勤務することは難しいと考えた。精神的なゆとりがほしかった（32歳・システム開発Webオープン系） ・非効率に仕事をして周りも改善しようとせず、だらだら長時間仕事をしているのに嫌気がさした（30歳・コンサルタント） ・SI企業で売り上げや利益を追うことに疲れたから（33歳・社内SE）。

	またこのほかにも家族の事情や勤務中の事故、また社長の考え方についていけない等の理由が上がった。 長時間労働による肉体的・精神的限界に加え、不況による業績悪化で職場の人間関係などの環境悪化＆収入ダウンでふと将来のことを考えたとき、急速に不安が膨らんだことで転職を決意する。このような一連の流れが人生アガリ転職の大きなきっかけになっているといえる。

	続いて、エンジニアが求める“人生アガリ転職の条件”とは何だろうか？ その中身を探ってみると「収入アップ」「福利厚生の充実」「業績安定かつ自分のペースで仕事ができる」の3つの要因がみえてきた。

	条件1 “収入アップ” ・収入アップとともに家庭生活と両立できること（30歳・コンサルタント） ・定期昇給額が高く、報酬をきちんと払えること（31歳・システム開発Webオープン系） 条件2 “福利厚生の充実” ・産休育休を経て復帰できること。また時短等の制度があり、なおかつ利用実績もあり共働きや育児と仕事の両立に理解のある職場（30歳・研究特許） ・転勤がない企業（26歳・品質管理） ・資格取得補助が充実していること（29歳・運用保守） 条件3 “業績安定かつ自分のペースで仕事ができる” ・業界のリーディングカンパニーであり、一時請けの仕事でやりがいを感じられるところ（33歳・システム開発汎用機系） ・定年退職後も再雇用が半永続的に続き、会社の規模は小さいながらも業界シェアが大きい会社（31歳・サービスエンジニア） ・会社が安定していて残業がなく、自分のペースで自分に合った仕事ができること（31歳・機械設計）

	収入アップを前提にしつつも、実はそれ以上に求めているのは「自分のペースで仕事ができること」。ひとつの職場でできる限り長く勤務するためには、長時間労働や上司からのプレッシャーを受けることなく、自分のペースを大事にしていきたいという思いが強く表れている。

	実際に人生アガリ転職を目指して活動したエンジニアたちが、最終的に今勤務している企業への転職を決めたポイントはどこにあったのか？その代表的な意見を探っていくと……

	・面接の場で直接、社長から経営方針を聞いて非常に説得力があり、また実績も残しているので信用できた（31歳・システム開発Webオープン系） ・面接官の説得力のある言葉や、自分のスキルと合いそうだと感じたから（34歳・システム開発Webオープン系） ・社員の層が厚くチームとしてしっかりまとまっており、雰囲気の明るい社内の様子を見た（32歳・システム開発Webオープン系） ・待遇面も仕事の状況も本音で話してくれたから（34歳・社内SE） ・わからないことがあればお互いに教え合う風土があることを面接前の社内見学（採用側から提案された）で、直接現場を包み隠さず見せてくれたこと（25歳・機械設計） ・信頼できる上司が保証してくれたことと、こちらの踏み込んだ質問にも面接官が誠実に答えてくれたこと（33歳・機械設計）

	大きな決め手となったのは、「面接官の対応」と「職場の雰囲気」。どんな質問に対しても誠実に答えてくれたり、また本音ベースで熱く語ってくれる面接官との話し合いの中で、信頼関係が芽生えてくるようだ。また、事前に職場を案内してもらいながら実際に現場で仕事をしている社員の様子や雰囲気を肌で直接、感じ取ることで「ここなら安心して働ける」という思いを強くするエンジニアが多い。

	念願の人生アガリ転職をしたエンジニアたちはその後、どのような変化を遂げたのだろうか。複数回答で答えてもらった結果をみると、最も多いのが「仕事内容」。

・仕事内容が大きく変わり、それとともに裁量の要素が極端に増えた（31歳・研究） ・自分の裁量で行えることが増えた（29歳・ネットワーク設計） ・汎用系の開発からWeb系の仕事が増えて、ネットワーク系インフラもできてやりがいがある（32歳・システム開発Webオープン系）

多くの場合、仕事内容そのものが変わったというよりは「自分の裁量でできる仕事が増えた」という回答が目立つ結果に。つまりそれだけ、自分のペースで自分のやりたい仕事ができるようになったと言える。 またほかにも残業時間が大幅に削減されたり、プライベート優先で仕事の予定が決められる、お互いを尊重し合える人間関係になったなど仕事の進め方や職場環境、勤務時間など前職で抱いていた不満の多くが解消されたようだ。

	今後の目標について聞いてみたところ、以下のような回答が寄せられた。

	・自分のペースで仕事ができて大満足。今後は社内情報システム部門を別会社として立ち上げ、他分野への参入を図りたい（32歳・運用保守） ・今後は自分の裁量で動けることを生かして、自分のプロジェクトを自分のペースでやっていきたい（31歳・研究） ・自分の意見を最大限、尊重してくれる職場であるため、生涯この会社で働きたい（31歳・システム開発汎用機系） ・残業が減ったことで趣味に時間を使えるようになり、今後も仕事と趣味の両立を図りたい（31歳・機械設計） ・子供を優先に考えてくれる会社の方針が、自分の向上心をプラスにしていくので、会社のために誠意を持って働きたい（32歳・サービスエンジニア） ・自分のスタイルで仕事をしても実績さえ残せば文句は言われない。今後はその独自性を評価される対象まで昇華させたい（33歳・運用保守）

自分のペースやスタイルに合った仕事ができる充実感を感じつつ、それぞれが目標を持って積極的に日々の業務に取り組んでいる姿勢が回答内容の節々に表れている。 そして最後に「これからの時代、エンジニアが幸せに生きられる職場の条件」について質問してみたところ、半数近くが「安定していて、終身雇用してもらえる職場」と回答している。今回の場合、特に人生アガリ転職を目的にしたエンジニアを対象にしていることもあるので一概にすべてのエンジニアが安定志向であるとはいえない。しかしエンジニアを取り巻く厳しい状況が、より多くのエンジニアを安定志向へと向かわせているひとつの傾向が今回の調査からつかめるのではないだろうか。