国内有数のモバイル・プラットフォームを運用するDeNA社が、ITエンジニア向けに広く公開する「DeNA Technology Seminar」。東京・代々木で開催されたセミナーの会場には、170人のエンジニアが参加。Ustream や Twitter を通して実況され、セミナー後の懇親会も盛り上がりを見せた。
(取材・文/広重隆樹 編集/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:10.07.23
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今、インターネット業界で、ソーシャルアプリ・サービスを支えるエンジニアが知りたいことは何か。その関心に応えるために、ディー・エヌ・エー(DeNA)がITエンジニア向けに広く公開する「DeNA Technology Seminar」。
今年3月に開かれた第1回セミナーは、「インサイド・ソーシャル・プラットフォーム特集」と銘打ち、モバゲー・オープンプラットフォームとmixiアプリの裏側についての講演がメインだった。そのときも参加募集開始後、瞬時に定員が埋まったが、それは今回も同じ。応募者の殺到を予想し、会場をDeNA本社ではなく、外部の貸し会議室に設定したが、それでも足りずに、急遽座席を追加したほどだ。
スパイダー テクニカル・システムディレクター
斯波 健徳氏 「MySQL の使いこなしという意味で、DeNAのエンジニアのレベルはきわめて高い。プラグインやストレージエンジンの開発を通して、 MySQL がもつ可能性を引き出していくという点では、互いに方向性を共有する同士的関係だ。今回は参加者と交流できてよかった。Spider について寄せられた質問に、これからできるかぎり答えていきたい」 |
DeNA システム統括本部 IT基盤部
樋口 証氏 「他のITエンジニアと同様に、私自身がプラットフォームのシステムパフォーマンスをいかに向上させるか、ボトルネックをいかに解消するかで毎日格闘している。DeNAのMySQLの活用ノウハウは世界にヒケをとらないという自負がある。その一端を公開することで、今後もOSSコミュニティの発展に寄与していきたい」 |
日本オラクル MySQL Global Business Unit テクニカルアナリスト
奧野 幹也氏 「DeNAは巨大サイトで MySQL を実際に活用し、さまざまなノウハウを提供してくれる希有な企業。スーパーなエンジニアたちの現場での体験談が聞くことができて、私自身今回のセミナーを堪能できた。これからも力を合わせて、MySQLのコミュニティを盛り上げていきたい」 |
これほどまでにエンジニアの関心が高いのは、国内有数のモバイル・プラットフォームを運用するDeNA社の技術的バックグラウンドを垣間見たいと考える人が多いからだろう。第2回目のテーマもずばり「MySQL特集」。MySQLは言うまでもなく、世界で最も普及しているオープンソース・データベースで、大規模なトランザクションを処理するサイト構築には不可欠のものだが、実は、DeNAはコミュニティ版MySQLを徹底して使い倒し、独自の拡張技術を開発することなどを通して、その可用性を高めてきた、日本を代表するユーザー企業の一つだ。 日々、業務で MySQLに触れているデータベース・エンジニアはもちろん、より高速で堅牢なソーシャル・プラットフォームを構築したいと考えるエンジニアにとっては、DeNAに蓄積されたMySQLハックの数々、あるいはMySQL技術の最新動向を知るまたとないチャンスだったのだ。 MySQLの実践的パフォーマンスチューニングのノウハウやTips の一部はこれまでも、DeNAのエンジニアブログなどで公開されてきたが、今回は、MySQLをより高速化させる「handlersocket plugin」を書いたDeNAシステム統括本部IT基盤部の樋口証氏が、スピーカーの一人だ。
さらに、今回のゲストスピーカーである二人の著名エンジニアにも注目が集まった。 |
会場はTKP代々木ビジネスセンター。ほとんどの参加者がセミナー後の懇親会にも参加。じゃんけん大会などで盛り上がった。 |
Spider Storage Engineは、複数のデータベースサーバーにあるテーブルを束ねて一つのテーブルのように見せるストレージエンジンで、アプリケーションを改修せずに、データベースだけで Database Sharding(データベースの分割)を可能にしているのが特長だ。実質的に斯波健徳氏が一人で開発している。斯波氏はスピーチの冒頭で、クラウド環境で増え続けるサーバーを管理し、トラフィックの増減に対応して伸縮自在のクラウド環境対応RDBを構築できる、そのメリットを強調した。
著名な動画配信や広告配信サービス、大手出版グループのサイトに実装され、パフォーマンスが劇的に改善した例も具体的に紹介された。Spider は他のMySQL関連プロダクトとの提携にも熱心で、すでに MySQL関連のオープンソースプロダクトの一つである、MariaDBにもバンドルされる予定であることが報告された。
DeNAの樋口証氏はGNU/Linuxの利用は1993年からという強者。2005年にはIPA(情報処理推進機構)の「未踏スーパークリエータ」の一人に認定されている。DeNAに転職してからはIT基盤部でシステムのパフォーマンス最適化や障害の分析、ミドルウェアの開発などに従事してきた。自身が開発した「handlersocket plugin」を、「MySQLの非SQLなインターフェイス」と呼ぶ。このプラグインにはTCP/IPでリクエストを受けて、ストレージエンジンを直接たたいたり、独自プロトコルを話すなどの特長があり、そのことによって、単純な参照クエリで数倍から10倍程度にパフォーマンスが高まるという。
またSQLパース処理をせず、リクエストを集約実行するため、CPU処理やディスクIOが少なく、また独自プロトコルで通信するためネットワーク消費も少ない。樋口氏はこうした性能向上を定量的に分析したベンチマーク結果を数値やグラフで示したが、その様子はあたかも情報処理系の学会発表を聞くような趣さえあった。
そのあまりの高度かつ精密な講演内容に、「handlersocket pluginすっごい。濃かった。おなかいっぱい」と Twitter でつぶやく参加者もいた。それを、仕事中にタイムラインで流し読みするエンジニアの中からは、「ああ、面白そうだ、行きたかったな」という声もしきりに上がる。
最後に登壇したのが、オラクルの奧野幹也氏。個人的には「フリーソフトウェアこそギークの歩く道」だと信じ、「漢(オトコ)のコンピュータ道」というブログで、OSS(オープンソースソフトウェア)についての私見や、MySQLの Tips を公開している人だ。今回も会社を代表してではなく、個人としての参加とことわりを入れるものの、講演の内容は「MySQLの5.5の新機能」。MySQLに“漢の道”を捧げている様子がよく伝わる魅力的なスピーチだった。
MySQL5.5はInnoDBの改善、UTF8への対応など新機能が「てんこ盛り」。「全体に正しい進化の方向を示しており、日本人待望のUTF拡張も喜ばしい。性能だけでなく利便性が向上している」と評価した。長年にわたる MySQLサポートの経験を踏まえ、「トラブルへの対策は唯一MySQLをよく知ることしかない。仕様を理解し、ソースコードを読み解け。データベースだけでなく、OSに詳しくなることも上達の秘訣」と述べるあたりは、MySQLに限らず、ソフトウェアの開発・運用すべてに通じるサジェッションであり、会場のエンジニアからも深い共感を得ていた。
最後に奧野氏が入魂の一作と自負する著書『エキスパートのためのMySQL運用+管理トラブルシューティングガイド』(技術評論社)の紹介があり、セミナー後の懇親会ではじゃんけん大会の勝者2名に同書がプレゼントされた。
今回のDeNA Technology Seminarを企画したDeNAの山口徹氏は、こう語る。
「セミナー第1回はウェブアプリケーションを作る側に焦点を当てたが、DeNAの技術はそれだけでない。プラットフォーム構築・運用にも相当な蓄積があることを、ぜひアピールしたくて、第2回を企画した。今回のスピーカーの話を聞いて、MySQLのここ数年の進化の様子、大規模なトランザクション処理における有用性があらためて伝われば幸いだ」
ブログやTwitterでの発信だけでなく、こうしたオープンな形でセミナーを開催することについては、
「互いがネットでブログを読み合うような関係の人が多く、初対面という気がしないのではないか。それでも、実際に会って生の話を聞くことで得られることは多いはず。懇親会でさまざまな人と交流を深めることも、エンジニアのステップアップには有益だ。DeNAのOSSコミュニティへの貢献はまだ十分とはいえず、これからさらに、こうしたセミナー形式やエンジニアブログを通して、ノウハウや Tips の還元を行っていきたい」
と語っている。
セミナーに参加したエンジニアには、DeNA の同業者、競合とも言えるソーシャル・アプリの開発者やプラットフォームの運用担当者も多く見られた。情報収集に熱心で感度の高いエンジニアたちだ。その前でも惜しげなく自社のノウハウを公開する姿勢は、OSSコミュニティでは当たり前の姿とはいえ、好感がもてる。
「一度、誰かがハマったトラブルは積極的に公開することで、次の人がハマらないようにする。そうやって業界全体のスキルを底上げしていくことが大切」と言う山口氏の言葉が印象的だった。
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