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No tech No life 企業博物館に行ってみた Vol.3 街の神話・サーキットの伝説をつくった二輪の名車
日本を代表するオートバイ・メーカーのひとつ、ヤマハ発動機。静岡県磐田市の本社に隣接して設けられた「コミュニケーションプラザ」には、そんな同社が創業以来生み出してきた名車の数々が展示されている。〔タイトル写真:第一号製品のYA-1(右)と、初のオリジナル設計YD-1(左)〕
(文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの)作成日:08.09.18
初号機・初参戦で国内最大のレースに優勝
 四輪車同様、今では世界でもトップクラスの評価を得ている日本のオートバイ。しかし、ヤマハがオートバイ業界に参入した1950年代、その品質はまだ世界には及ばなかった。一方で戦前からのブランドである「陸王」や「メグロ」も含め、当時、日本のバイクメーカーは150社を超え、激しい販売競争により淘汰が始まっていた。

 オートバイの開発は、楽器のヤマハ(当時は日本楽器製造)の一部門で始まった。戦前、ヤマハは楽器製造の木工技術を買われて、初期には木製だった飛行機のプロペラ製造に着手。後に金属製に変わってもそれを手掛け、プロペラの可変ピッチ機構などで機械製造の技術を蓄積した。
 その技術を生かすため、ターゲットにしたのがオートバイだったのだ。厳しい時代だからこそ、優れた製品を作れば後発でも十分対抗できると判断したという。こうして1955年に生まれたのが、「ヤマハのバイク初号機」、YA-1である〔写真1、2〕
「お手本としたのは、ドイツ・DKW(デーカーヴェー)社のRT125という車種。YA-1の発売を機に、1955年7月、モーターサイクル部門が独立し、ヤマハ発動機となります」(コミュニケーションプラザ館長 伊藤太一氏)

 会社設立からわずか10日目の7月10日、YA-1は当時二輪業界最大のイベントだった「第3回富士登山レース」に参加、初挑戦・初優勝の快挙を成し遂げる。続いて3カ月後の「第1回浅間高原レース」でも1位から4位を独占。国内2大レースを制覇し、一躍バイクメーカーとしても名を上げることになる。
 YA-1は性能だけでなく、当時黒一辺倒だったバイクの常識を覆した、えび茶とアイボリーのモダンなカラーリングと、仕上げのよさでも、当時の日本の二輪業界に一石を投じた。大卒初任給が1万円強という時代、その年収以上の13万8000円もする“超高級車”だが、「赤トンボ」の愛称で親しまれ、1957年末の生産打ち切りまでに約1万1000台が送り出された。「オシャレで、速い」という今につながるヤマハの評価は、この初号機から始まっていたと言える。
写真1
▲写真1
写真2 YA-1の燃料タンク横には、高級感ある七宝焼のロゴマークが付けられている。
▲写真2
YA-1の燃料タンク横には、高級感ある七宝焼のロゴマークが付けられている。
写真3 ヤマハ初の4サイクルエンジン搭載車、XS-1(1970年)。「ペケエス」の愛称で親しまれた。
▲写真3
ヤマハ初の4サイクルエンジン搭載車、XS-1(1970年)。「ペケエス」の愛称で親しまれた。
ツーリングマシンの理想を追求したGTS1000A
 今回ナビゲーション役をお願いしたのは、コミュニケーションプラザ館長の伊藤太一氏。1974年にヤマハ発動機入社、以後約15年間、レーシングマシンを手掛け、その後はスポーツモデルを中心に市販車の開発に携わってきたという経歴の持ち主。そんな伊藤氏に、手掛けた中で最も思い出深いマシンとして挙げてもらったのが、1993年に発売したGTS1000Aである〔写真4〜6〕

 バイクは四輪車以上に、乗り手が一体感を味わえる存在。それだけに趣味性が高く、用途による種別だけでなく、発売される地域の“お国柄”によっても機構やデザインは変わってくる。35カ国に60工場をもつヤマハ発動機は、それぞれの市場に合わせたモデルを開発しているが、GTS1000Aも、特にヨーロッパを意識した輸出専用車。水冷DOHC5バルブ並列4気筒、排気量1000ccの大型車だ。

伊藤太一氏
伊藤太一
ヤマハ発動機株式会社
広報部 コミュニケーションプラザ館長
「スポーツタイプを基本に、ツーリングマシンとしての性能をとことん追求したのがこのモデルです。ヨーロッパでの規制を見越して排ガスをクリーンにする三元触媒を搭載。燃料噴射装置と、当社では2車種目となるアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)を装備し、前輪は通常のテレスコピック・サスペンションではなく、片持ち式のスイングアームタイプを採用。独特の前輪サスに合わせて、フレームも“Ω(オメガ)シェイプ”と名付けた特異な形状のものになっています。カウルも、そのフレームの機能美を見せるようにデザインされているんですよ〔写真6〕

 高速ツーリングでの抜群の安定性を実現するために、考えられる機構をすべて注ぎ込んだとも評されるGTS1000A。いろいろな意味で、ヤマハらしいこだわりが際立つ、個性的なマシンと言える。
「世界のファンに、わが社の技術をアピールすることはできたと思っています。もっとも新機軸を盛りすぎて高価になってしまい、販売は振るわなかったのですが……(笑)」
写真4
▲写真4
写真5
▲写真5
写真6
▲写真6
数々の栄冠を勝ち取ったレーシングマシンたち
 会社設立10日目にしての初栄冠以来、ヤマハ発動機は積極的に国内外のレースに参加。ライバルメーカーと世界トップを懸けてしのぎを削り、今季も8月現在、ロードレース世界選手権、モトクロス世界選手権でコンストラクターとして首位の座にある。

 そんな半世紀の歴史を振り返る名車たちもまた、館内にずらりと顔をそろえている〔写真7〕
「1968年に登場したロードレーサー、RD05A〔写真8〕は、選手権のレギュレーションが変わり250ccクラスでは2気筒以下と制限される前の最後のマシン。2ストローク、V型4気筒エンジンを搭載しています〔写真9〕
 この年のロードレース世界選手権250ccクラスでは、特にストレートで強みを発揮、ライダー、メーカー双方にタイトルをもたらした殊勲車である。

 1980年代後半に活躍した鈴鹿8耐用マシン、YZF750〔写真10〕は、水冷4ストロークDOHC、5バルブ4気筒エンジンを搭載、当時新記録の205周を記録したことでも知られる。

「わが社はコンストラクターとしては1984年から耐久選手権に本格参戦していますが、最初はマシントラブルなどで勝てなかった。しかし1987年、鈴鹿8耐で初めて優勝を飾ったのがこのマシン。その後88年、90年と、YZF750は3回の優勝をもたらしました。当時はちょうど8耐の人気が盛り上がってきたころ。お客さんも15万人なんて入って、あの熱気はすごかった。
 レーシングマシンには、とにかく“勝つ”ための技術と工夫をとことん注ぎ込む。若い人も、チームも、そして会社全体も盛り上がる一体感がたまらない。一方、市販車では要求される機能要件は異なり、しかも量産という最大の難関がある。設計の重点はだいぶ違います。しかし、レースに勝つために編み出された技術がそのまま、あるいは少し形を変えて入っていくこともある。そして、形にならないスピリットのようなものも……。私自身そうでしたが、技術者もそのキャリアの中でレース部門と市販車部門とを行き来することがあります」
写真7
▲写真7
写真8
▲写真8
写真9
▲写真9
写真10
▲写真10
常に「走る美しさ」を追い求めるバイク開発
 コミュニケーションプラザには、オートバイ、スクーター以外にも、ボートや船外機などのマリン製品、F1用を含めた自動車エンジン、レーシングカートやスノーモビルなど、ヤマハ発動機が手掛けてきたさまざまな製品が置かれている。
 そんな中には、「日本初の本格的グラントゥーリズモ(GT)」と評される1960年代の歴史的名車、トヨタ2000GTの姿も〔写真11〕。実はトヨタ2000GTは、トヨタ自動車とヤマハ発動機の共同開発、生産がヤマハ発動機で行われたというのは、知る人ぞ知る話。超高級車らしく、その製造はほとんどハンドメイドで、インストルメントパネルを含めて本木目の内装は楽器のヤマハ(当時は日本楽器製造)が担当している。

 またここでは、期間をおいてさまざまな企画展も開催されている。今年の11月22日まで開催されているのは「のぞいて見よう!モノづくり」展。会場入り口で迎えるのは、部品一点一点まで分解された同社のバイクTDM900〔写真12〕。さらに、エンジンやフレーム、エキゾースト、ホイール、カウリングなど、各部分に分けて工程が細かく解説され、現在のバイクがどんな構造をもち、どう作られるかがわかるよう展示されている。

 館内を一巡し、入り口に戻ってくると、やはり目につくのは同社の第一号であるYA-1と、それと並んだ現行の代表的モデル、YZF-R1〔写真13〕
「最速スーパースポーツ」をコンセプトとするYZF-R1は、4バルブ・水冷DOHC並列4気筒998cc、初代モデルが1998年に登場。1クラス下の軽量車体に最高クラスのエンジン出力を誇り、現在も各社が開発競争を繰り広げている「スーパースポーツブーム」の火付け役となったマシンである。その力強く、鋭いフォルムを見ると、50年余りのバイクの進化がまざまざと見てとれる。

「個々のモデル、機能はどんどん進化してきています。高い操縦性、安定性に裏打ちされた走行性能と、それを実現するためのさまざまな新しい機構。併せて、わが社はデザインも非常に重視していますから、私が現役当時も、デザイナーと激しい議論をすることはしばしば(笑)。
 とはいえ、『美しく、速く』というひとつのコンセプトは変わっていません。当社のバイクづくりは、意外に伝統を大事にしているところもあると思います。ただ、バイクに限らず、今の“モノづくり”はCADのせいもあるのか、個性が薄れがちなところがあるかもしれません。その対象が好きで好きで、熱い思いでモノを作る……そんな先達たちの歴史があるこの場所を、みなさんにぜひ見てほしいですね」
写真11
▲写真11
写真12
▲写真12
写真13
▲写真13
見学情報
ヤマハ コミュニケーションプラザ
公開・非公開の別
公開
公開時間
平日
第2・第4土曜特別開館日
9:00〜17:00
10:00〜17:00
利用できない日
第2・第4以外の土曜、日曜
利用料
無料
所在地
〒438-8501 静岡県磐田市新貝2500
電話番号
0538-33-2520
HPアドレス
http://www.yamaha-motor.co.jp/profile/cp/
最寄駅
JR 磐田駅
取材協力
ヤマハ発動機株式会社
次回予告 次回の掲載は10月16日、「誰もが電話を“携帯する”までの歩み」(仮題)です。
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ 根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
RD05Aの「部品みっしり感」〔写真9〕がたまらない! 分解してみたくなる! 絶対元どおり組み立てられなくなるけど……と思いながら見学を進めていったら、別車種ながら見事に分解された姿が〔写真12〕。分解・組み立て心をそそる企業博物館です。ほとんどのバイクが動態保存(走行可能な状態にレストア)されているのも素晴らしいところ。毎年定期的に走行会が行われるそうです。

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