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開発職から転向、エンジニアとしての新たな道を模索 「知財」を武器に未知のキャリアを切り開いたO.Mさん
スキルを磨いた後に転職で活躍の場を広げるキャリアパスを描けるのは、設計や開発、あるいは営業技術に携わるエンジニアだけではない。O.Mさんは企業の知的財産を運用する業務で実力を蓄え、世界的に知られる著名企業に転職した。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:08.08.08
エンジニアを志向したほとんどの方は先端技術に触れ、それを習得して仕事に生かしたいと考えるだろう。そして市場価値の高いスキルを磨き、より活躍できる場や高待遇を求めて転職する可能性を考えるエンジニアが少なくないはずだ。開発職や設計職はもちろん、技術営業やコンサルタントでも相違はないはずだ。ここにもうひとつ、知財業務を担当するエンジニアが加えられる。大学で機械工学を専攻したO.Mさん。就職氷河期で希望の職種に就くことができなかったが、そこで知財に関するスキルを磨き、現在は世界的に有名な電子部品メーカーで活躍している。エンジニアの理想のキャリアパスは単純ではないことが分かる好例といえるだろう。
Profile 大手電子部品メーカー知的財産部門O.Mさん(34歳)
工業系の大学で機械工学を専攻後、新卒入社した住宅設備メーカーで知財業務を担当。その後、機械メーカーで知財に関するスキルをさらに磨き、再度の転職を経て2005年より現職。
転職前 機械メーカーA社
(知財業務担当・30歳)
転職後 大手電子部品メーカーB社
(知財業務担当・34歳)
年収約400万円 給与 年収約600万円
9〜20時前後(残業時間は月に30〜60時間)※ターミナル駅近くで、通勤が楽だった。 勤務時間 9時〜19時 ※残業時間は半分近くになったが通勤時間が倍になって相殺。
最新PCを備えるなど設備環境はとてもよかった。 職場環境 都心から少し外れた立地だけにオフィスが広い。
今回の注目!
知財部門は10人程度。平均年齢30歳くらいで、全員が転職者。雰囲気はよかったが、上司は頼りにならないうえ、ビジネスマンとしてこなれていない人が少なくなかった。 職場の
人間関係
知財部門だけで100人。開発職を10年以上経験してきたエンジニアも所属していて、技術水準の高さを感じた。平均年齢は高めで、40代。
発明の掘り起こし〜特許出願後、権利化するまでを担当。加えて特許調査や他社特許権の回避検討や特許業者との交渉などの知財戦略的な仕事。 仕事の中身 発明の掘り起こし〜特許出願後、権利化するまでが主業務。知財戦略については、他部門と連携しながら進めていく。加えて知財に関する社内のエンジニア教育も担当。
ひとつの案件を、最初から最後まで一人で担当。自在に動くことができた。 仕事の
進め方
さまざまな業務を知財部門内で協力しながら進めていく。技術部門や法務部門などとの調整業務も重要な仕事。
出願中心の知財部門担当社員。 仕事の
役割
知財チームの膨大な業務を協力しながら進めるメンバーの一人。
転職前編 やってみて面白かった知財担当
大学で機械工学を学び、メーカーで生産設備を設計する仕事をしたかった。就職活動時は氷河期に加え、各社とも国内工場の閉鎖や海外への移転を盛んに行っていた時期で、求人自体も少なかった。何とかメーカーに入社したものの、商品企画部門に配属され、希望していた生産設備を設計する仕事には就けなかった。ところが、人生は何があるかわからない。そこで出合った仕事がとても面白かったのだ。ユーザーリサーチやプロモーション活動は楽しかったし、商品企画の作業はクリエーティブだった。後発メーカーであったので、企画した商品が先発メーカーの知的財産に抵触してしまうことは絶対に避けなくてはならず、知財業務にも深く携わることになった。知財というと、地味な業務の上に、法律や手続きなどの難しい部分もあり、敬遠するエンジニアも多く、最初は敬遠しがちであったが、やってみると意外に面白い。仕事は非常に楽しかったが、会社は人員整理を進めるも業績は上がらず、待遇はさらに悪くなる状況。次第に知財の仕事に興味を持ち始めていたのと、待遇の向上を目指して1回目の転職に踏み切った。

2社目の企業は、機械メーカーA社。ここでは希望していた知財部門に配属された。A社の扱う技術は基本技術の特許権を数社が分け合う形で保有している状況だった。それだけに、技術開発と知財のかかわりは重視されていた。与えられた仕事は、特許の出願業務や技術者に張り付き、開発している技術を分析し、特許出願する業務。また、関連技術の特許についての情報収集や対応も任せられた。
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開発しようとしている技術は、すでに他社が出願しているものなのだろうか。
出願していなければ、すぐに出願し権利化を目指す。出願されていたとすれば、相手の出方を見る。権利化を急いでいるようならば、阻止手段を講じなくてはならないし、権利化されていれば、権利を無効化する手段を考えなくてはならない。同時に社内の技術者にも他社権利の存在を知らせなくてはならない。早めに認識していれば、設計の変更で回避できることが多いが、開発の最終段階で、どうしても回避できない場合もある。この場合、交渉してロイヤリティを支払ってでも事業化するのか、権利の問題点を突いて、特許庁へ無効審判請求を起こして、相手と争うのか。あるいは開発を打ち切るのか。
自分の仕事のやり方次第で、事前に問題回避ができて大変感謝されることもあれば、設計変更や開発打ち切りを宣告しなくてはならないこともある。これは技術者と密接な関係をもつ知財マンには大変つらいことだ。技術者の努力や苦労は十分に知っているが上に、何も問題がない状態で開発を完了させてあげたいと日頃から思っていた。

技術理解に機械設計の基礎知識が大いに生かせたこともあったが、こうした知財戦略的な仕事には、モノづくりと同じくらいのやりがいを感じることができた。
しかし3年もすれば、このまま同じ仕事を続けるべきか思い悩むようになった。担当している技術が非常に限定されたものなので、この先はつぶしが利かないと思い始めたうえ、浮き沈みの激しい業界に対する不安もあった。
それなら、知財でどこまで魅力的な転職が可能なのだろう……次の転職を決意するのに、時間はかからなかった。
転職活動編 特許と先端技術を持っている企業を選択
調べていくと、知財エキスパートとして二つのキャリアパスが見えてきた。ひとつは特許事務所に所属して、企業から知財関連の業務を受託する立場へのチェンジ。自分の持つ技術知識を用いて出願書類を書いていくテクニカルライター的な側面がある。また、キャリアを重ねていく過程で弁理士の資格をとれば、自分の事務所を開設できるかもしれないという魅力がある。

もうひとつは、企業の知財部門の枠の中でステップアップする方向。自社の開発内容を権利にしていくことが重要なのはもちろんだが、自社と競合他社との特許バランスを分析し、自社が有利になるように戦略立案していくことも重要な仕事だ。
これまでのキャリアの中で、自分の技術知識と法知識を駆使して、企業での知財戦略を担っていく業務に魅力を感じていたので、こちらを選択することにした。
次に着手したのは、人材紹介のエージェントへの登録だった。大手C社に登録し、自分のプロフィールに加え、仕事内容や勤務地について希望を伝えた。
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すぐに3社の面接が決まった。いずれもA社とはスケールが違う大企業だ。どうやら知財部門の人材拡充は多くの企業が進めているらしい。その中でいちばん入りたいと思ったのは、世界的な電子部品メーカーB社だった。

B社は世界でも最先端とされる素材技術をもち、R&Dの部門もワールドワイドに広がっていることから、グローバルな知財関連案件も多そうだった。知財で生きていくと決めた以上、これほど展望が広がりそうな企業に入れるチャンスがあるのだと実感したとき、自分の考えに間違いがなかったことを確信した。

その後、二度の面接を経て、無事にB社に入社することができた。
転職後編 世界的メーカーの知財戦略を推進
B社の知財部門に入り、A社のときとは比べものにならないスケール感に圧倒された。まず、知財部門の人員だけで10倍。100人のスケールである。対応案件もさまざま。自社の新技術の出願に関することや、他社の特許の出願状況の調査。そして、開発部門に対する特許面での問い合わせに対するフィードバックなどである。いずれもA社で経験ずみだったが、その技術的な内容が高度だったので、かなりの勉強を要した。そこには、世界最先端の技術に関する内容がふんだんにある。エンジニアとしてのマインドが大きく刺激されたのはいうまでもない。
また、転職して数年後には、技術者への知財教育の業務も任された。
開発過程で他社技術調査や開発技術の権利化をきちんと行えば、知財問題が起こることはまずない。B社は知財に関する意識が高い企業であり、技術職に限らず職層ごとに必要な知財教育を盛んに行っている。本来の知財業務とは兼任であるので忙しくなったが、社内のさまざまな部門と人脈が作れるので、中途入社の身には願ってもない機会だと思っている。
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ただ、戸惑ったのは、業務のほとんどをチームで進めていくことである。B社は大企業であり、関連部署も多いので、業務調整に割く時間が増えた。マネジメントがしっかりしているという見方もできるが、比較的自由に業務ができたA社時代をふと懐かしく思うときもある。

それでも、入社早々にB社において重要なポジションに就いていることを感じることができた。縁の下の力持ち的な仕事だが、世界のB社ともなれば、仕事のスケールも大きい。製品に関する知識や、弁理士資格の取得がうまくできれば、社内でのキャリアパスも広くなる。まだまだ学ばなければならない現状に、自分の成長意欲がリンクして、大きな満足感を感じている。
O.Mさんの転職考察 知的財産への重要性が高まりつつある中、エンジニアとしてのもうひとつのキャリアパスがある
転職して良かった点
・知財エキスパートとして仕事の中身が濃くなった。
・収入が大企業の水準にアップした。
・福利厚生が充実。
・残業が減った。
・先端技術に触れられる。
・著名企業なので社会的信用度アップ。
転職して悪化した点
・通勤時間がほぼ倍に。
・仕事を進めるうえで、社内ネゴシエーションが必要になった。
O.Mさんの転職経験を通して見えてくるのは、メーカーの知財部門で技術特許面を担当する社員は技術の中身を知らなければならない紛れもないエンジニア職であること。そして、所属する会社の技術力によって、知財部門でも得られる技術的な刺激が大きく異なるということだろう。先端技術で世界市場をリードしているようなB社のようなメーカーは、知財部門にもエンジニアの興味を引く仕事がたくさんあるようだ。一方で、そこにはまた、小規模企業=ある程度のスキルがあれば任せられる。大企業=膨大な分量の知財業務をチームでこなす、という側面も垣間見える。企業では知的財産に関する戦略の重要性がますます高まっている。O.Mさんの転職経験を参考に、もうひとつのキャリアパスとして考えてもよい人が少なくないのではないだろうか。
今回の転職ノウハウ:今後有望な知財部門。少しでも経験があれば、キャリアチェンジで魅力的な転職も。
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