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マイクロソフト、IIJのエンジニアに聞いた お金、福利厚生じゃないらしい… では働きがいって何?
働きがいのある会社とはどんな会社か。Great Place to Workという団体では毎年、働きがいのある会社のランキングを発表している。そこで上位に位置づけられた会社で働くエンジニアは、どんなところに働きがいを感じているのか。エンジニアが考える働きがいのある会社の定義を探ってみる。
(総研スタッフ/関洋子)作成日:08.05.16
Part1 エンジニアにとって「働きがい」とは?
 今、多くの企業が組織の活性化を図るために注力しているのが、従業員満足度の向上である。従業員の満足度を高める(または不満を解消する)ために、例えば福利厚生の充実を図ったり、オフィス環境をよくしたりなど、いろいろな取り組みを行っている。実はこのような施策は、米国の臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグによると衛生要因的な改善策とみなされ、仕事への動機づけに直接は影響がないとされている。給与を上げること、昇進の機会を与えることなどもしかり。もちろん、給与が多くなったり、昇進したりするとうれしいかもしれないが、それよりもむしろ、公正な評価をされたほうがやりがいになるのではないだろうか。つまり、衛生要因的な施策では、働きがいにつながらないということだ。では、どんな環境なら働きがいが得られるのだろうか。
 そこで働きがいのある職場づくりの研究およびコンサルティングを手掛けているグローバルな研究機関であるGreat Place to Work Institute(GPTW)ジャパンの斎藤智文氏に、働きがいのある会社の定義を聞いた。
「働きがいのある会社とは、経営層を信頼でき、仕事に誇りがもて、かつ仲間との連帯感がもてる会社です。そしてそれらをさらに細かく見ると、5つのディメンションに分かれます」
斎藤智文氏
Great Place to Work Instituteジャパン
斎藤智文氏
 GPTWが提唱する5つのディメンションとは「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」で、「これらの要素が高い企業が、働きがいのある企業です」と斎藤氏はいうのである。 2008年2月にGPTWが発表した「働きがいのある会社2008」の会社で上位にランキングされた会社は、実際にこれら5つのディメンションをどう満たしているのか、見ていこう。
職場に重要な要素
Great Place to Work® (働きがいのある会社)モデル
GPTWの5つのディメンション
©Great Place to Work ®Institute Japan
Part2 エンジニアが求める「働きがい」とは
Case1.マイクロソフト 社員を尊重する姿勢が浸透。働きがいのある企業No.1の源
10年以上前から社員意識調査を実施
 人事本部採用グループ マネージャの高杉満紀子氏は、マイクロソフトが働きがいのある企業NO.1に選ばれた理由を次のように考える。
「まずは自分たちの携わっている製品が、誰もが一度は手に触れたことのある、影響力のある製品であること。次に当社の『ITを使って世の中に役に立ちたい』という経営のミッションが、自分たちの仕事の方向性とマッチしていること。第三に上下の関係なく、社員を尊重して仕事をしていこうという姿勢があること。これらが評価されたのだと思います」
 特に3つめに挙げた社員を尊重するための方策のひとつが、10年以上前から年1回グローバルで行っているのが、社員意識調査である。
「会社の方向性や自身の仕事内容、上司、ワーク・ライフ・バランスなど、さまざまなテーマでアンケートを実施。その結果を見て、マネジャーは組織改善に取り組むのです」(高杉氏)
 その組織改善の方法も決してトップダウンでは行わないという。「押し付けにならないよう、みんなでディスカッションして、決めます」と高杉氏。また社員の声を直に聞くため、日本法人ではネット上に意見箱も設置している。これも社員を尊重するための施策のひとつだ。
高杉満紀子氏
マイクロソフト株式会社
人事本部採用グループ
マネージャ
高杉満紀子氏
キャリアを自身で体系的に考えられる
 社員意識調査に加え、さらによい職場にするために2006年から展開しているのが、「myMicrosoft」という施策である。「パフォーマンスマネジメント」「報酬ポートフォリオ」「キャリア開発」「リーダー育成」「職場環境の向上」という5分野に積極的投資をするというもの。例えば「キャリア開発」では、各仕事に求められるスキルをオンラインで公開することも行っている。「これにより現在の自分の立ち位置もわかるし、目指すキャリアに必要なスキルもわかります。ですから自身のキャリアも体系的に考えることができるのです」(高杉氏)
 また常に挑戦できる環境を用意しているのも、同社の魅力だ。「1カ月に2回は所属長と面談し、進捗状況をみながら、次なる目標を設定していきます。会社の期待もわかるので、やりがいにもつながりますよね」(高杉氏)
  マイクロソフトではこのように働きがいのある職場づくりに取り組んでいる。
マイクロソフト
学生時代からソフトハウスでアルバイトし、開発経験を積む。経済学部卒業後、中堅のIT商社に就職。サーバやルータのサポート職に携わる。ソースコードが読める仕事に就きたいという思いから、98年3月マイクロソフトに転職。
Engineer's Voice1 コマーシャルテクニカルサポート エンタープライズビジネスアプリケーションサポート部 エスカレーションエンジニア
その1 多様性を認める自由度がある 「信頼」
 サポートをするなら、ソースコードが読める会社で働きたいと思いました。それが私のやりがいだからです。転職して10年たちますが、現在もエスカレーションエンジニア(EE)としてExchangeServerやOutlookなど、コミュニケーションシステムにかかわる製品のテクニカルサポートサービスに携わっています。
 10年も同じ仕事をしていると、部下を束ねるリーダー的な立場となり、現場から遠ざかることも珍しくはありません。実際、そのような立場に就いたこともありました。でも私の働きがいは先にも述べたとおり、お客様の問題を解決するため、ソースコードを調べて修正していくこと。そういう技術のスペシャリストとしてずっとやっていきたい、という私の思いをマネージャが尊重してくれ、現在も現場の第一線で働いています。マイクロソフトには多様性を認めようという自由度があるところがいいですね。
その2 よい提案はすぐに取り入れてもらえるところ 「誇り」「連帯感」
 例えばちょっとした思いつきを提案しても、それがよければすぐに取り入れてくれるところもいいところです。顧客との履歴を保存するデータベースはありますが、お客様との話し合いの中で折り返し連絡することを約束しても、それを記録するフィールドはありませんでした。そこでお客様への連絡を忘れないように、Outlookと連携させ、連絡日になるとアラームで知らせてくれるような仕組みをつくったのです。現在は部門全体に取り入れられ、活用されています。
マイクロソフト
中堅SI企業に入社。Windows系アプリケーションの開発に携わる。その後、外資系パッケージベンダーで、コンサルティングからプリセールス、サポート、トレーニングまでなんでもこなすプロフェッショナルサービス職を経て、2004年7月マイクロソフトに転職。
Engineer's Voice2 コマーシャルテクニカルサポート エンタープライズビジネスアプリケーションサポート部 オフィスシステムサーバー
その1 技術力向上が実感できる 「信頼」
 SharePoint ServerなどOfficeサーバー製品のサポートを担当しています。お客様のトラブルや困っていることを聞き、技術的に解決を図ります。お客様からの問い合わせはさまざまです。その中でも自分がまだ携わったことのない問い合わせがあれば、そこからさらにスキルアップにつなげることもできます。そのようなある程度仕事における裁量が認められているところが、働きがいにつながっていると思います。
その2 お客様のビジネスに貢献できるところ 「誇り」
 サポートエンジニアとしての仕事のやりがいは、お客様に直接、感謝される仕事であること。特にマイクロソフトの製品はユーザー数が多いので、そのやりがいはひとしおです。また、自分が見つけた不具合を米国にある開発部隊に報告すると、製品に反映されることもサポートエンジニアならではの醍醐味だと思います。社会に貢献できる、誇りのもてる仕事に携われるところもやりがいになります。
その3 周囲に優秀なエンジニアがいる環境 「連帯感」
 さらにもうひとつ、周囲に優秀なエンジニアがいて、困っているときは必ず、協力してくれる風土も当社の魅力。本当に働きやすい環境です。
Case2.インターネットイニシアティブ(IIJ) 良いアイデアはどんどん取り入れる“インターネットの社風”が働きがいを生み出す
インターネットを支えている仕事への誇り
「この会社で働いていることを、胸を張って言えるという設問に「Yes」と答えた割合は約85%、というデータがあります」と、管理本部人事部採用・研修チームマネージャーの満田理夫氏は明かす。「インターネットを支えているのは自分たちだという自負がある。そしてそういう仕事に誇りをもてる。だからこそ“働きがいがある会社”ということにつながるのでしょう」(満田氏)
 多くのネット企業とは異なり、インターネットイニシアティブ(IIJ)が提供するのはそのインフラ。しかもそのインフラ自体は進化し続けている。「当社の従業員の6割がエンジニア。彼らにとってこの点は非常に魅力的なポイントのはず」と満田氏。
 インターネットを立ち上げた企業だけに、「社風もインターネットなんです」と満田氏は語る。社風がインターネットとはどういう社風なのか。
「自由に発言できて、その意見が良ければ取り入れようという柔軟性があることです。インターネットそのものが、世界中の技術と知恵を集めて整備され日々進化していますが、それと同じ風土なのだと感じます」(満田氏)
 技術開発やクライアント企業への提案について、日々新しいアイデアを議論するのはもちろんだが、時には、人事制度や研修制度に対する提案が人事部に直接届き、その提案をもとにして制度が改正されることもあるという。「人事部に対して意見を言うなんて、普通の会社では怖くてできないですよね(笑)。意見を自由に言える当社ならではの現象でしょう」(満田氏)
満田理夫氏
株式会社インターネットイニシアティブ
管理本部 人事部 採用・研修チーム
マネージャー
満田理夫氏
自由にやりたいことをやれる環境
 この自由に意見を言える雰囲気をつくっているのが、鈴木幸一社長の存在だ。業界のカリスマとして知られる鈴木社長だが、社内ではいたってフランク。「4年前までは社長自ら、全従業員と面談をしていた」と満田氏は言う。多忙な社長だが、仕事の合間に各フロアを回って社員に声を掛けたり、部署単位でランチに誘ったりなど、社長と直に話ができる機会が頻繁にあるという。
「やりたいことをやらせてあげよう、というのも社長の考え。社長は、社員一人ひとりの適性とモチベーションについて、いつも気を配っています」と満田氏。社員の意欲的な取り組みが革新的な技術の誕生につながる。3年前から開催している新事業創出コンテストはその代表例だ。
「今後は、個々のキャリアビジョンをサポートする仕組みを作っていきたい。そうすればさらに自分のやりたい仕事ができる環境が整備されると思うのです」(満田氏)
 働きがいは制度や仕組みありきではない。IIJのケースはそれを物語っている。
古賀康則さん
大学院修了後2002年4月、IIJに入社。メール配信システムの開発に参加するとともに、「IIJmio」のシンプルDNSサービスの開発に携わる。その後、同社製ルータ「SEILシリーズ」を採用したSMFサービスの開発に携わり、現在はその後継サービスIIJ SMF sxサービスの開発リーダーを務める。
Engineer's Voice1 古賀康則さん SEIL事業部 アプリケーション開発部
その1 自分で考えて仕事ができる 「信頼」
 当社での働き方のスタイルは、人から言われたことをするのではなく、自分で考えたことをどんどん実践していくというもの。私が担当しているSMFサービスは、自社製ルータを採用した当社の中でもまったくの新しいサービスのため、決められたことはほとんどありませんでした。携わった当初はドキュメントも少なく、自分で勝手に「私がつくります」と宣言してつくりました。このように宣言して自発的に物事を進めていくことに対して、誰も止めるようなことはありません。各エンジニアに与えられる裁量も大きいのです。人に言われたことではなく自ら実践して取り組むからこそ、生きた経験として自分の中に蓄積されていく。だから仕事を通して成長を実感できるんだと思います。
 将来の目標は、いつか自分で新しいサービスを立ち上げること。手を挙げればそんなチャンスも得られます。
その2 事業や社会に貢献できる 「誇り」「連帯感」
 お客様の声が営業からフィードバックされることもモチベーションアップにつながります。私たちのサービスが事業に貢献できているんだと実感できるからです。また同時に自分たちがつくったものがちゃんと動き、お客様のビジネスを支えていることも感じられます。事業や社会に貢献できていることを実感できる瞬間は、エンジニアの醍醐味です。
その3 上流から下流まで携われる 「誇り」
 サービスの設計からプログラムの細かい部分までというように、上流から下流まで携われるところも、やりがいにつながっています。
 システムにはトラブルがつきものです。そんなときはすみからすみまでわかっていないと、正確なトラブルシュートはできません。自分が上流から下流まで携わり、一から作り込んでいるからこそ、いざというときに、要所をピンポイントで押さえてトラブルシュートできる。このような携わり方ができる仕事内容に満足しています。
Part3 働きがいのある会社の見分け方
 これまで見てきたように、働きがいのある会社は福利厚生やオフィス環境などの衛生要因ではなく、GPTWのいう5つのディメンションを満たしていた。しかしいちばん重要なのは、「会社と信頼関係を築けるかどうかです」とGPTWジャパンの斎藤氏は力強く語る。つまり働きがいのある会社とは、「マネジメントを信頼できる会社」であるということだ。働きがいのある会社かどうかを見分けるポイントは、マネジメントが信頼できるかどうかなのだ。
 もちろんGPTWの「働きがいのある会社」ランキングに登場した会社に転職するというのも手ではあろう。しかしこの調査に参加したのは創業3年以上、従業員500人以上の94社。500人以下の中小企業の中にも、働きがいのある会社はたくさんあるはずだ。その際に役立つのが先のポイントだ。では信頼できる相手かどうかをどうやって判断するか。
「まずは面接の際に、疑問に思っていることを質問してみることでしょう。正直に回答する会社かどうかが重要です。また社内を見せてもらうこともお勧めします。さらには実際に働いている人たちと話す機会をつくることができれば、さらに正確な判断ができるはずです」(斎藤氏)
「マネジメントを信頼できるかどうか」──働きがいが得られていない人は、今一度この点を振り返ってみよう。もし信頼できていないのであれば、今が転職タイミングなのかもしれない。
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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ 関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
働きがいって何だろう。この特集を進めるにあたり、自分自身を振り返ってみました。私の働きがいとは自分の記事に、皆さんからのご意見をいただけることだと気付きました。もちろん、Tech総研という媒体への信頼もある。皆さんもこの機会に、自身の働きがいについて振り返ってみてはいかがでしょう。

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