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経営理念に共感し、1000万円超のオファーを断って ITベンチャーへの転職を選択したM.Nさん
若手でも市場価値の高いキャリアを獲得できる機会があるIT業界。20代の前半からPLとして活躍してきたM.Nさんもそのひとり。そんな彼が大手コンサルファームからの高額オファーを断ってベンチャーに飛び込んだ理由とは……
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:08.03.17
エンジニアに限らず転職希望者の目的のひとつに、収入のアップがある。自分の公正な対価を求めるのは当然の要求だし、少しでもよい条件を求めるのは自然な期待だ。そして、チャンスと才覚に恵まれたうえに本人の努力が伴えば、若手でも高額な所得が可能なのがIT業界。20代前半から難度の高いプロジェクトをリーダーとして幾つもこなし、30歳のときの転職活動で大手コンサルティングファームから1000万円を超える年俸を提示されたM.Nさんは、その典型例といえるだろう。ところがM.Nさんはそのオファーを断り、約半分の提示額を示したベンチャーを選択した。彼は何を考えて高収入を選択しなかったのだろうか?
Profile Webシステム開発企業 プロジェクトマネジャーM.Nさん(31歳)
新卒で入社したのは中堅SIer。そこでSEどころかPLとして鍛えられ、次に入社した企業ではPM的な立場で活躍したが、理念を見失った経営者に不満と不信感が募り転職を決意。
転職前(ソフトウェア開発企業B社 プロジェクトリーダー・30歳) 転職後(Webシステム開発ベンチャー C社 プロジェクトマネジャー・31歳)
年俸約430万円。ここに相当な額の残業手当が加わっていた。 給与 年俸約500万円。残業がないため実質的な年収は下がったが、1年目なので実績を上げ、それに見合った額を再調整する予定。
9時〜22時(月間の平均勤務時間は250時間)。 勤務時間 9時〜18時(残業はほとんどなし。子供と接する時間が増えた)。
マンションの一室。客先開発が前提で、設備などへの投資はほとんどゼロ。 職場環境 環境が整ったオフィスビル。最新スペックのPCに代表される申し分ない設備。
今回の注目!
年齢が上の社員が多かったが、刺激を受けることはほとんどなかった。飲み会にも参加する意義を感じなかった。 職場の人間関係 平均年齢20代後半ながら、発想が面白い社員や、技術的に優れた社員が多く、雑談でさえも刺激を受ける。
2次請けとして参画した企業や官公庁のシステム開発において、プロジェクトの実質的なマネジャー。 仕事の
中身
Webシステムに特化したプロジェクトのPM。クライアントと要件を定義し、予算を引き出し、Webクリエーターたちをまとめ上げる存在。
上の役職の人間が動かないから、すべて自分が主導しなければならない。 仕事の
進め方
メンバー各自が率先して動く社風。意思の疎通は十分で、PMとしてメンバーたちに負けられないという前向きな意識をもつ。
実質的なPMという立場でありながら、社内では一人の駒として扱われていた。 仕事の
役割
PMとしてプロジェクトというよりは、ひとつの事業を任されている。
転職前編 会社に見切りをつける。
2回目の転職を思い立ったのは、決して膨大な仕事量や深夜残業の連続に嫌気がさしたわけではない。残業だけだったら、新卒入社した中堅SIerのA社のほうがすごかった。入社後1週間の研修を終えて、プログラマとして配属されたプロジェクトでは、まるまる2カ月間もオフィスに泊まり込んだ。机の下で眠る毎日。家に帰れたのは6月に入ってから。まあ、体力には自信があったし、その後にさまざまな業務を押しつけられたけれど、四苦八苦しながら何とかこなしてきた。新卒入社半年後には、上流工程を進める立場にいた。今から思えば無茶苦茶な話だ。経験も実績もない新人に、A社は請け負った大手企業や官公庁のシステム開発の基本設計をさせていたのだから。誰も頼れない。自分がやるしかない。開発手法や業務知識を頭に詰め込み、現場では先方対応とメイクのサポートに追われる毎日だった。でも、それが5年も続けば最終的にどのプロジェクトもこなせるようになったし、自信にもなった。
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仕事に追われる日々の割に収入は伸びない。結婚を転機により良い収入を求めてA社からの転職を考えた。そのときに、声をかけてくれたのがB社の社長だった。以前のプロジェクトで面識があり、自分の顧客対応力を買ってくれて、ぜひウチに来てもらえないかと誘われた。年俸も100万円のアップ。さらに残業代も出すという。そうした好条件も魅力だったが、何より彼に期待されていること。そして会社を一緒に大きくしていこうという経営者としての意欲に心を惹かれた。だからほかからもあった誘いを断り、B社に入った。そして頑張った。教育系企業の財務会計システムや金融系企業の基幹システムの構築にPLとして参画し、そのいずれも成功させた。そのかいあって、B社は飛躍的に成長した。でも、いつしか空虚感が漂い始めた。B社の成長を自分だけの手柄と考えているわけではない。でも、会社の規模が拡大し、大手から随意契約的に依頼が舞い込むようになると、社長の人柄が変わった。現場をまったく見なくなってきたのだ。それどころかコスト削減を現場に要求するようになった。十分に儲かっているのは明白。それなのに、「人数をかけるな」「利益率を上げろ」と言う。揚げ句の果てに、トラブルが起きたら現場をフォローするどころか社内の担当者を罵るばかり。優秀な社員はどんどん辞めていった。残ったのはイエスマンばかり。エンジニアとしての成長を怠り、仕事がほとんどできない役員たちだ。個人的に誘われたこともあって辞めにくかったが、もうついていけない。
転職活動編 高待遇か、やりがいか。
B社を辞める決心がついたところで、転職活動に取り掛かった。プロジェクトリーダーとしてやっていく自信はあった。A社でもB社でも、ほとんどPM的なポジションだった。それでも、もっとマネジメントスキルや経営スキルを磨きたいという希望をもった。

そこで3つの大手転職サイトにエントリーし、リアクションを待った。すると、すぐに面接を受けないかというメールが届いた。そのうち2社は中堅のソフト開発会社。そしてもう1社は、世界的なコンサルティングファームだった。3社とも面接は順調に進んだ。どの会社も仕事内容は今までの延長線上のものだ。前2社から内定をもらう自信はあった。ところが、このコンサルファームからも内定が出るとは思わなかった。しかも提示された年俸は1000万円を軽くオーバーしていた。一瞬、聞き間違えたかと思った。子供が生まれたばかり。収入の倍増はいつにも増してうれしいことだった。
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しかし、コンサルファームでの仕事が本当にやりたいものなのか悩んでしまった。大手の優秀なメンバーに囲まれて、組織の中で自分に与えられた役割を果たす。それがしっくりこなかったのである。では小さければいいのかと言えばそうでもない。後の2社も決定的な選択理由が見えなかった。ひと言で言えば、中小規模なのに経営陣に魅力を感じなかったのだ。

そんなとき、専門学校時代の同級生から、ウチの会社に来てくれないかという誘いを受けた。実は、1年ほど前に、そのITベンチャーであるC社の設立に際して、社長をやらないかと言われていた。そのときは断ったが、もう一度転職先として話を聞いてみようと考えた。既に立ち上がって経営を始めている会社だから、今度は社長をやってほしいという誘いではない。PMとして迎えたいとのことだった。

自分の代わりに社長に就任した人物に会ってみると、大いに驚いた。年下ながら、明確な理念をもって会社を運営する、尊敬に値する経営者だったからだ。特に「大企業になるより、優秀な人材を輩出する企業になりたい」「社員には、ウチで育って、いずれは独立してほしい」といった理想に強く共感し、ぜひとも一緒にやりたいと思った。やはり自分はベンチャーを成功させていくことにやりがいを感じるようだ。立ち上がって1年足らずの企業だけに、スキルにふさわしい額は出せないと言う。それでもよかった。自分で案件を拡大し、利益を出せたら待遇面の交渉をすればいい。例の1000万円超の収入は少し惜しかったが、C社に決めた。
転職後編 ようやく尊敬できる仲間たちに巡り合えた。
まだ入社して日は浅いが、刺激的な毎日を送っている。入社してうれしい誤算が数多く判明した。まずは、PMとして心強いメンバーをもつことができた。自分の下についたメンバーたちの、オープンソースを活用した最新のWebシステム開発に関するスキルは驚くべきレベルだった。彼らを生かせる案件を引き寄せなければならないというプレッシャーは心地いいし、顧客に対しても自信をもって最先端のソリューション提案ができる。

そして、そうした技術力の源泉が、充実した技術教育にあることに気づき、社長の「人材輩出企業になりたい」という理念が机上のものではないことが伝わってくる。近くで一緒に経営を前に進める立場ゆえ、勉強になることも多い。どうやら、1000万円をガマンして見送っただけの会社でありそうだ。この会社に貢献していけば、いずれ自分の独立も視野に入ってくるだろう。年俸1000万円など、そのときに十分に取り返せるに違いない。
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M.Nさんの転職考察 過酷なプロジェクトに意欲的に取り組んだ結果が、理想の転職を引き寄せる。
転職して良かった点
・マネジメントスキルを磨ける環境を手に入れた。
・経営に関する勉強ができる立場になった。
・残業が激減し、子供と接する時間が増えた。
・尊敬できる経営陣とスキルフルな部下に出会った。
転職して悪化した点
・残業がなくなったので、実収入は少し減った。
今回のケースは、M.Nさんが高待遇を断ってベンチャーを選んだ点に目が行きがちだが、参考とすべきなのは、彼の「理想を選択した潔さ」ではない。別に、待遇面を最優先しても何ら間違いではないからだ。転職理由は人それぞれであり、それが複数あっても優先順位の付け方はさまざまだろう。本当に着目すべきなのは、「彼が多くの知人から“ウチに来ないか”と声をかけられる存在であり、公募企業に応募しても“ぜひ”と言われる存在」であることだ。M.Nさんは、難関大学を卒業しているわけではない。大手著名企業で活躍していたわけでもない。中堅SIerに新卒入社した数多くのSEの一人である。だが、彼は過酷なプロジェクトを投げ出さず、持ち前の責任感と前向きな意欲でクリアしてきた。また、プロジェクトにかかわるすべての人とコミュニケーションを取ることをいとわず、むしろ協調して壁に取り組むために人間関係を築く努力を惜しまなかった。そうした一連の前向きさと豊かな人間性が、魅力的な選択肢をもたらしたと言える。参考にすべきポイントは、まさにここである。転職は決して出合い頭的にラッキーな状況に遭遇できるものではない。努力を続けるエンジニアに、ふさわしい未来を引き寄せるものなのだ。
今回の転職ノウハウ:不満が募る環境でも最高のパフォーマンスを心がければ、その意欲と姿勢は転職活動時に大きく評価される。
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