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エンジニアとしての内なる心の声にしたがって あえて厳しい環境に身を置くことを決意したT.Iさん
強力な製品を持つ外資系ベンダー。プリセールスでアジア・パシフィック地区1位の実績と評価。着実に上がる待遇。均衡のとれたワーク・ライフバランス。そんな理想の環境を捨てて転職したT.Iさん。そこにはどんな理由があったのだろうか。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:08.02.18
エンジニアの転職理由は、エンジニアの数だけあると言っても過言ではない。そして、キャリアや年齢によっても、それは変移する。ここに紹介するT.Iさんは、3年前に理想的な転職を果たし、社内の評価も、待遇も、新たなスキルも、本人の予想を超えて手に入れることができた。それなのにT.Iさんは先ごろ転職を決意した。
彼には堪え難い不満があったわけではない。むしろ、今も前職はよい思い出として記憶に残っている。実際、現職のほうが仕事上のストレスは少なくはないそうだ。彼があえて厳しい環境を選んで転職しなければならなかった理由を見ていこう。
Profile 外資系大手総合IT企業 プリセールスT.Iさん(31歳)
大学院で宇宙物理を専攻。新卒で入社したのは大手外資系SIerだったが、過労で体をこわして退社。1社を挟んで外資系ベンダーに入社し、順調に業績も評価も待遇も上がったが、転職を決意。
転職前(外資系SOAパッケージベンダーD社 プリセールス・31歳) 転職後(外資系大手総合IT企業E社 プリセールス・31歳)
年収約730万円。毎年、着実にアップしていた。 給与 年収約1100万円。転職で思わぬ自分の市場価値に驚いた。
9時〜18時(残業はほとんどなかった) 勤務時間 9時〜19時半(残業が多少増えただけ)
中規模の企業であるせいか、アットホームな雰囲気。 職場環境 世界的な大企業だけに刺激的な雰囲気。福利厚生制度やファシリティは充実。
今回の注目!
とても良好。家族同士でクリスマスパーティーをした。 職場の人間関係 実力主義の社風を反映し、仕事では常に結果が求められ、実力を発揮することで一目置かれる。
小さなプロジェクトが多く、営業とコンビを組んで自社製品を客先に提案。 仕事の
中身
大規模なプロジェクトが多く、数名以上のチームを組んで自社製品を提案。
自分でスケジューリング。進捗報告さえすれば、自分責任で自在に動くことが可能。 仕事の
進め方
上司から割り当てられた業務をこなす。
自社プロダクトのプリセールスを、自分の裁量でこなす。 仕事の
役割
組織的な動きが求められるプリセールス。
転職前編 このまま順風満帆でいいのだろうか
大学院を出て就職したのは外資系大手SIerのA社。SEとしてキャリアをスタートさせたが、2年で辞めざるを得なくなってしまった。残業が月に最大300時間にも及ぶ過酷な勤務環境だったこともあり、過労で体をこわしてしまったからである。通信大手の顧客に対し、インフラ系から全般的にシステム開発を提案するプロジェクトはやりがいがあったが、体がついていかなかった。これを機に、ワーク・ライフバランスの重要性を強く認識するようになった。

A社退職後は、派遣会社からレコード会社B社の社内情報システム構築プロジェクトに参加した。ここでネットワークエンジニアとして、ファイアーウォールやシスコのルーターに関する技術など、貴重なスキルを獲得することができた。

B社のプロジェクトでは技術的な向上心を満たすことができ、周囲との関係もよかったことから、派遣期間の満了後も、このままほかのプロジェクトに派遣されてもいいかと考えた。何といっても次の仕事を探してきてくれるので、気楽である。でも、自分のキャリア形成を派遣会社のコントロール下に置かれることに「これでいいのか」という疑問を感じた。そこで技術的に高いものをもっていそうなプロダクトベンダーに絞って転職活動を進め、結果的に2社が候補に挙がった。
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そのうちの1社であるC社からは、なんと1200万円という年俸を提示された。もうひとつの外資系パッケージベンダーD社はその半分以下の500万円。でも、迷わずD社を選択した。C社では月に休みが2回ほどしか取れないと聞いたからである。前に一度体をこわしている身である。ワーク・ライフバランスを最優先させたのは言うまでもない。

こうして入社したD社。選択は間違っていなかったことを後に何度も感じた。仕事内容は脚光を浴び始めたSOAソリューションのためのプロダクトのプリセールス。営業とコンビを組んで、自社のソフトウェアプロダクトを提案していくのだが、日本法人の規模が小さいこともあり、何でもひとりに任された。こなさなければならない業務は多かったが、裁量も大幅に与えられ、自分なりに好きに仕事を進めることができたので、仕事をスムーズに進められた。この働き方は自分には合っていたらしく、毎日定時に帰宅していたにもかかわらず、何とプリセールスとしてアジア・パシフィック地区で1位の成績を収めることができた。評価も待遇も急上昇する。上司や同僚から称賛されることも多く、年収は1年で230万円も上がった。

おまけにアットホームな社風で居心地は本当によかった。ある日、このままずっと勤めてもいいなと思った瞬間、何かが心に引っかかる違和感が襲ってきた。
転職活動編 自分の市場価値の高さに驚く
何の不満もないはずの日々。だが、違和感はますます大きくなり、その実態が明らかになってきた。心に引っ掛かっていたのは、「それでキャリアアップは終わりなのか、小さくまとまって満足なのか」という、切実な向上心だったのだ。

この向上心は、すぐに大手ベンダーで力試しがしたいという気持ちと、将来にわたった上昇志向のキャリアパスを歩みたいという気持ちが具体性を帯びてきた。そして、キャリアの最後にビジネスコンサルタントになるという目標が見えてきた。

こうなれば、転職だ。複数の人材紹介会社にアクセスしたところ、すぐに対応してくれた。そして、エージェント各社から1社ずつ、計4社へ書類を提出することになった。4社中3社は世界的なビジネス規模を誇るIT企業。もう1社も世界的に独自技術が注目される有望ITベンチャーだ。

数日後、立て続けにすべてのエージェントから書類審査に通ったとの連絡が入った。そして4社とも面接を受けることにした。いずれもとんとん拍子に話が進む。1週間のうちに2回ずつの面接を受けたところ、全社から採用のオファーが出た。
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驚いたのは提示された年俸である。どの企業も1000万円を超えていたのだ。SOA関連の技術スキルと前職で1位を獲得した実績が高く評価されたようだ。自分の市場価値を知っただけでも、転職活動は無駄ではなかった。

贅沢ともいえる会社選びをしなければならない。大手で自分の力を試したいという意欲から、ベンチャーにまずお断りの意思を示した。その次に選ぶ基準は二つ。将来につながるキャリアパスが描けるか。そしてワーク・ライフバランスが取れる企業か、である。前者に関しては面接で仕事内容や事業方針を深く聞いて判断することにした。後者に関しては大手3社には知人が在籍していたので、そのツテで探りを入れた。その結果、最も規模の大きいE社のお世話になることにした。
転職後編 刺激的な環境で向上心にさらに火がついた
E社に入社したところ、想像どおりの環境だった。ひと言で言えば社内がコンペティティブ。世界有数の企業だけに、優秀なエンジニアやセールスが社内にぞろぞろいる。英語なんてできて当たり前。できない社員がいると思ったら、世界的に見てもその分野でトップレベルのエンジニアだったりした。自分よりデキる社員が少なくないことを肌で感じられる。今までのようなぬるま湯とは違い、彼ら彼女らとの競争に勝っていかなければならない。加えて、ひとつの案件のスケールが大きいことも目を見張った。顧客は日本を代表するような企業ばかりだし、提案するソリューションの先進度は高く、契約金額の単位も以前よりひとけた多い。

すぐに、今回の転職が正解であったことを確信した。この世界を知らなければ井の中の蛙だっただろう。久しぶりにエンジニアとして心地よい緊張感を得られた。自分を伸ばす危機感と言い換えられるかもしれない。ここでなら、刺激が枯渇することはなさそうだ。しばらくは向上心を満たし続けるだろう。同じSOAプロダクトのプリセールスといっても、提案内容の規模と奥行きが違う。顧客の業務に対して、より踏み込んだ提案が求められる。いま、ビジネスコンサルタントに向けて、キャリアアップの歯車が回り出したことを感じている。
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T.Iさんの転職考察 現状に満足せず高い向上意欲を維持し続けることが、より市場価値を高める
転職して良かった点
・よりビジネスプロセスにかかわる提案が可能になった。
・ワーク・ライフバランスを保ちつつ給与が期待以上に増えた。
・メンバーマネジメントの比重が増えた。
転職して悪化した点
・自分ひとりで仕事をコントロールできなくなった。
・権限の幅が狭まり、時には不本意な業務もしなければならない。
多くの読者は、T.Iさんをひと握りの優秀なエリートと思うかもしれない。確かにエンジニアに必要な理数系のセンスと頭のよさは感じられた。また、新しいテクノロジーの獲得に向けた努力や勉強も嫌いではないようだ。だが、何より彼を市場価値の高いハイスキルのエンジニアに押し上げたのは、自分をもっと高めたいと欲する向上心にほかならない。それは年齢とともに現状に満足を覚え、薄れてくるものだが、彼は30歳を超えても一貫して持ち続けた。現状に満足する自分を、最も恐れたのだろう。この向上心についての真摯な姿勢は、技術領域を問わず誰もが参考になるのではないだろうか。
今回の転職ノウハウ:現在が満足できる環境であっても、向上心があるうちは新しい可能性を開くことができる。
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