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米国の金融機関が集まるウォール街の2007年冬のボーナスは、全体で5〜10%の減という予測を、米調査会社オプションズ・グループが発表している。信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)関連で、米金融大手はのきなみ損失処理を出しており、業績との連動性が高い米国企業のボーナス構造からすれば、この程度の減ですんだのはまだ幸いというべきだろうか。 サブプライムローン問題は、米国景気の今後に黄信号をともす要因となっているが、その余波が2007年秋以降、日本にもじわじわと及んでいる。米国経済が減速すれば、日本からの輸出は伸びず、輸出依存型の製造業にはインパクトは大きい。さらに、原油高、材料高も、その恩恵をこうむる企業を生み出す一方で、商品の値上がりが消費マインドの冷え込みにつながり、それが景気全体の足を引っ張る要因ともなりかねない。 こうした懸念のなかで支給された2007年冬のボーナス。景気の動向は、ボーナスにどのように反映されているのだろうか。エンジニアの実感値に絞った、Tech総研恒例のボーナス・アンケート調査を発表しよう。 回答者1000人の2007年冬のボーナス平均額(税込み)は67.2万円となった。ちなみに同じ調査対象の07年夏のボーナスは65.3万円なので、冬の支給額が夏を2.9%上回ったことになる。また同じく前年(2006年)との比較では、06年冬が全体平均で63.6万円であるため、これも前年を5.6%上回ったことになる。これは一般の予想に反してなかなかよい結果といえる。 07年11月ごろに発表された民間調査機関のボーナス予測調査では、たとえばみずほ証券が、一人当たりの平均支給額を前年同期比1.6%減と予測、第一生命経済研究所が0.5%減と予測していた。両社を含む民間調査機関5社による平均予測は前年比0.8%減。これまでプラス成長を続けていたボーナス額が、4年ぶりにマイナスになることが大きく報道されていた。その後、日経新聞がまとめた冬のボーナス調査中間集計では、一人当たりの支給額は前年比0.86%増と微増傾向を示すものの、伸び率は06年冬と比べて低下、また業種によるばらつきも大きいとレポートされていた。 調査対象や調査方法が違うので結果の違いをことさらクローズアップするつもりはないが、今回のTech総研調査のサンプルに限って言えば、エンジニアのボーナスは全体に前年同期よりも増えていることはたしかだ。これは、ひとつにはTech総研調査の対象者が、素材・電気・電子・機械などの好況業種により多く分布していることを示しているのかもしれない。 しかしながら、Tech総研が06年冬に行った調査(集計母数1000人)では、全体の平均が80万円だったから、それに比べると16%という大幅なダウンということになる。 |
DATA1 2007年冬の年代・職種別ボーナス平均額を大公開! |
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全体には前年より増えているように見えるボーナスだが、もちろん個人によっては増えた人も減った人もいる。それを「増えた」「減った」「変わらない」で集計すると、次のような結果になる。 前年(2006年)冬のボーナスと比較すると、IT・通信系の職種では「増えた」が47%、メーカー系(電気・電子・機械系)では54%、メーカー系(素材・医薬品他)では51%となっている。逆に「減った」という回答はそれぞれ、17%、13%、16%となった。全体的には半分程度の人が「増えた」と回答していることになる。 この実感値を2006年にTech総研が行ったボーナス調査の回答と比べてみよう。06年は、「ソフトウェア・ネットワーク関連職種」「ハードウェア関連職種」という職種区分で調査したのでそのまま比較することはできないが、ソフトでは前の年に比べて「増えた」とする回答が58%、ハードでは66%あった。前の年に比べて「減った」とするのは、ソフト・ハードともに10%にすぎなかった。 サンプルが異なるとはいえ、06年と07年の調査を比較してみると、明らかに「増えた」という回答が減り、「減った」という回答が増えていることになる。一見、全体平均の増加傾向と矛盾するようだが、平均の数値のなかに埋もれたバラツキ傾向があるのではないかと推測される。 職種別・年齢別の回答をいくつか拾い出してみると、最も高いのが「30代後半・半導体設計」の101.7万円だ。ついで、同年代の「コンサルタント、アナリスト、プリセールス」の97万円が続く。半導体設計は20代後半の層でも73.8万円と、コンサルタントをおさえてトップに立った。 逆に低いのが、「サービスエンジニア」58.3万円、「システム開発(汎用機系)」60.2万円(いずれも30代後半の平均値)となっている。同じ30代でも職種によってボーナスに倍近い開きが出ていることがわかる。 年齢別に全体をみると、20代前半が45.3万円、同後半が53.5万円、30代前半が62.8万円、同後半が76万円となっている。また、職種別に全体を平均してみると、ボーナスの高いベスト3の職種は「研究、特許、テクニカルマーケティング、品質管理」83.9万円、「通信インフラ設計・構築(キャリア・ISP系)」82万円、「生産技術、プロセス開発」81.1万円。逆にワースト3は、「サービスエンジニア」52.6万円、「システム開発(汎用機系)」58万円、「システム開発(Web・オープン系)」58万円となっている。半導体設計の健闘が目立ち、全体的にハードウェア系職種がソフトウェア系職種を上回る“硬高・柔低”の傾向は、07年も変わらない。 |
DATA2 2006年冬のボーナスとの比べた増減 |
職種を問わず年代別に集計してみると、20代後半が56.9万円、30代前半が64.9万円、同後半が81.9万円、40代前半が96.8万円という数字が出た。20代はそこそこという感じのボーナスも、35歳を過ぎるとバネのようにピンと伸びるという一般的傾向を示している。しかし、このデータからはうかがえないが、実は近年は同期入社・同年代の社員間のボーナス差額が大きく開いていることも事実だ。成果主義の浸透で年齢による平均額があまり意味をもたなくなり、むしろ個人や所属部署の業績の差が、ボーナスにダイレクトに反映される傾向が強まっている。 今回の調査でも「今年の冬のボーナス金額の評価基準で最も影響があったと思われる項目」という設問では、最も多いのが「会社の業績」(47.4%)だが、「個人の業績」を挙げる人も4分の1程度(25.1%)いた。2006年同時期の調査に比べると、会社の業績が5.4ポイント増え、個人の業績が0.8ポイント減っているが、それでも無視できない数字ではある。 |
とはいえ、業績をどう評価し、それを賞与にどれぐらい還元するかは上司や企業トップの判断にかかわるもの。「自分は頑張ったのに、それがボーナスに評価されない」という不満は、この種の調査にはつきものだ。例えば、「会社業績が好調で、株の配当も増配であり、また個人評価も高い水準を獲得したにもかかわらず、前年と比べて変化がなかった」(生産技術・28歳)などの声。この回答者は「仕事内容に比べてボーナス額は50万円程度安い」と不満たらたらだ。 反対に「会社の業績が好調なため、ボーナスも増額になったと思う」(プロセス開発・31歳)という意見のように、個人業績はさておいても、今年のボーナス増額に大満足という声もある。 総じて、ボーナスへの満足度を聞くと、「仕事内容に見合っている」が60%と最も多い。「50万円程度安い」という不満層も33%いるが、例年の調査と比較すると、全体としては満足度は上がっている。 |
このほか、企業特性別のボーナス額のクロス集計では、国内大手企業(平均86.4万円)→外資系企業(同80.6万円)→国内ベンチャー企業(同70.1万円)→国内中小企業(同55万円)という順になった。大手と中小では30万円もの差がついている。産業構造上、この差はやむをえないともいえるが、大手企業の軒並み好決算の報道をみながら、「じっとわが手をみつめる」中小企業のエンジニアの姿が思い浮かぶ。日本のエンジニア全体の活性化のためにも、大手の好景気が中小に波及し、ボーナス支給額の差がもっと縮まることを願わずにはいられない。 |
DATA3 2007年冬のボーナスの決め手は何? | DATA4 2007年冬のボーナス満足度は? | |||
より重要なのは、自分の仕事、会社の業績に対して、このボーナス額が妥当かどうかという「満足度」である。アンケートによれば、回答者の49%がボーナスは「会社の業績」のあらわれ、22%が「個人の業績や成果」のあらわれだと感じている。だとすれば、会社の業績がよいのにボーナスがそこそこでは会社に対する不信感が高まる。同様に、個人の業績がボーナスに反映されていないと徒労感のみ残るという結果になるだろう。 ボーナスの満足度に対する回答では「自分の仕事内容と見合っている」が56%、「自分の仕事内容と比べると50万円程度安い」が35%、「100万円程度」「200万円以上」安いと感じる人もそれぞれ3%いた。「見合っている」という人以上を「満足派」とすれば、満足派対不満派は58対41で、満足傾向がやや高いということになる。この傾向は06年の調査結果とほぼ同様である。 ただ、アンケートの回答欄からいくつかコメントを拾うと、「昨年よりも仕事を多く任されるようになり、成果もあげたが、それに見合ったボーナスではない」(32歳/品質管理系)、「管理職などの上役と比べたときの差が、大きすぎる。彼らの仕事ぶりからすれば、私にもっと支払っても良いと思う」(29歳/プロセス開発)、「今年の業務負荷や業績を考えると少なすぎるし、来年きちんと評価してくれる保証がない」(36歳/生産管理)など不満派の声はいつに増して厳しい。 一方、「見合っている」と回答する人も、「実額は少ないが、他社の動向をみると仕方がない」「会社が儲かっていないからこんなもの」など、自分の業績をきちんと評価してもらっているから「見合っている」と答えたわけではなく、「仕方がない」と諦めている人のほうが多いようだ。 |
さて、ボーナスの使い道だが、マスメディアの観測によれば、「貯蓄」や「生活費の補てん」に回すと答えた人が例年に比べても多く、07年の冬のボーナスは“生活防衛”の傾向が強まっているという。円高、原油高などで景気の先行きに必ずしも安穏としていられなくなったという気分が反映されているというのだ。 エンジニアたちの意識はどうだろうか。使い道のトップは「貯金する」79%、ついで「買い物をする」48%、「ローン返済にあてる」36%、「旅行する」22%となっている(複数回答)。 「今後の不安に備えて、できるだけ消費を避け、貯蓄したい」(38歳/研究職)という声が“生活防衛”意識を象徴しているが、中には「4月の結婚式・披露宴に向けて、無駄使いできないので貯金します」(32歳/システム開発)という目的のある貯金を考える人もいる。 漠然と「全額貯金」とか「使い道は決めていない」という人が多い中で、「住宅ローン繰上げ返済50万円、北海道旅行10万円、冬物買い物10万円」(39歳/運用・監視)、「住宅・車のローンで15万、半年毎のご褒美感覚でふだん買わないものを5万(家族全員分)、食事または温泉などの旅行で5万、小遣い(毎月の補填)に5万」(29歳/生産技術)などと具体的な支出計画が決まっている人もいる。 意外と目立つのは“投資派”。「オーストラリアドルに10万円。残りは予備」(33歳/回路設計)、「投資信託の購入か為替証拠金に追加する。日本株がもっと下に行きそうなら為替へ」(29歳/システム開発)などだ。 住宅を購入していない独身者と、住宅ローンに追われる所帯持ちでボーナスの使い道が変わるのは当然だが、全体としては地味傾向が強く、その一方で、金融投資商品でボーナスを増やそうという「運用」意識が高まっているのが今年の傾向といえる。 |
DATA5 2007年冬のボーナスは何にいくら使う?(※複数回答) |
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