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「スペシャリスト制度」「マネジメント職の自由度」生涯バリバリSEで行こう★技術至上環境へようこそ
IT業界でキャリアアップといえば「マネジメント職」。しかし、経験を重ねても現場で働き続けたい技術志向のSEも多いはず。今回は、技術を極めたいスペシャリストにキャリアパスを用意している企業と、そこで働くエンジニアをご紹介する。
(取材・文/宮尾有希 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:07.08.29
はじめに 「スペシャリスト」志向エンジニアのキャリアアップ最新事情
 IT業界でキャリアアップといえば、プログラマ職をスタートに、システムを設計する上流工程SEを経て、マネジメント職へと至るコースが一般的。そのため、たいていのSEはバリバリ現場の一線にいても、ある年齢になると会社からバックグラウンドでマネジメント職を務めるように指示されてしまうものだ。「自分は技術でいく!」と現場にこだわると、給与テーブルは頭打ち。出世をあきらめて技術を選ぶか? 給料のためしぶしぶマネジメント職に移るのか? 技術志向の人材と、マネジメント向きの人材では、求められる適性がまったく違うというのに、悩ましい選択を突きつけられるエンジニアも数多い。
 そんな風潮が大勢を占めてはいるが、適材適所で人材を有効活用するため、技術志向のエンジニアのためにキャリアパスを用意するIT企業がじわじわと増えつつある。今回はその中から、大手とベンチャー、IT企業2社の事例を紹介したい。
(事例1)富士ソフト:「スペシャリスト制度」で技術志向のSEを支援
富士ソフトは、通信・医療・金融・公共などさまざまな分野にITソリューション技術を提供する大手ソフトウェア開発企業。コンサルティングから開発、構築、サポートまで行う技術力の担い手は、もちろん社員であるエンジニアだ。その富士ソフトが、エンジニアのための環境整備の一環として「スペシャリスト制度」を実施した。どんなエンジニアがそれを活用しているのか、実際に富士ソフトでスペシャリストとして、認定されているエンジニアに話を伺った。
富士ソフトのスペシャリスト制度とは?
「開発経験を重ねても、ずっと現場で技術者として開発を続けたい」――そんな技術志向のエンジニアの声にこたえて、2006年8月から実施されたのが「スペシャリスト制度」。それまでは上位の役職に進むためにはマネジメント職に移行するしかなかったが、この新たな制度によって、マネジメント職と同様の待遇をもつ職階が技術者にも用意された。つまり、スペシャリストとして出世できる道ができたのである。
 募集は年2回。自薦もしくは上司の推薦をもって「認定申請書」と「認定申請レポート」を提出し、応募する。過去の業務実績や、特化している分野の将来性などが吟味され、本当に“スペシャリスト”の名に値するのかが審査されるため、誰もが簡単になれるものではない。ある分野の業務知識に特化している、ある技術に優れている、ある言語を極めているなど、ひと口にスペシャリストといっても分野は幅広い。認定後は専門能力を生かせる案件へ優先的に配属される。会社にとってもエンジニアにとっても適材適所のマッチングが可能な制度だ。なお、年に1回書類を提出し、適性を見直されるため、一度認められたからといって甘えてはいられない。現在の認定者数は215人(2007年8月時点)。
スペシャリスト申請に至るまでの経緯:スペシャリストとしての強みは4年間取り組んだ損保業務
IT事業本部金融システム事業部 山下裕二さん
IT事業本部
Y.Yさん
2003年4月入社。もともと物事の仕組みを考えるのが好きで、仕組みづくりができるシステム開発業界への就職を希望し、富士ソフトに入社。現在は業務知識も豊富な、上流工程からこなすスペシャリストである。
 入社してからずっと、損保会社の明細システムを担当しています。最初の2年間は、いちプログラマとして開発に携わっていました。経験を積むうちに業務知識も深まり、チームリーダーに抜擢され、その後2年間は、SEとして上流工程からかかわる日々。限られたメンバーの中で仕事を完成させるプレッシャーと戦いながら、メンバーのスケジュールを調整し、客先と交渉し……と、初めてのことばかりでしたが、この経験のおかげで、交渉能力とプレゼン能力は飛躍的に向上しましたね。リーダーとして現場でチームをまとめていく自信がつきました。

 次第に損保システム開発が収束に向かっていく中で、せっかく身につけた損保業務の知識をこれからも深めたい、会社のために役立てたいと思うようになりました。そんなとき、去年の6月ごろ、8月からスペシャリスト制度が開始するという話を上司から聞いたんです。業務系SEとして自分のスキルを役立てるにはもってこいの制度だと考え、その上司の推薦もあって、「損保業務システム開発のスペシャリスト」としてスペシャリスト制度に応募しました。
スペシャリスト制度のメリット:スペシャリストは上流工程に携われる。この特典は大きい!
IT事業本部金融システム事業部 山下裕二さん
 スペシャリスト制度に応募することは、6000人以上の社員を擁する会社に対して「ここに、こんな人材がいますよ」と知らせることです。例えば私は、私がどのような損保業務の知識を有していて、それがどのように会社にメリットをもたらすのかを申請のときにアピールしました。そのため、認定後は、次に損保業界からの案件がきたときに、優先的に配属してもらうことができます。損保業務については自分を頼ってくれ、なんでも聞いてくれ、と思っていますから、この特典はうれしいですね。

 スペシャリストに認定されなくても、上司は私の得意なことをわかっているでしょうが、認定後は、次のプロジェクトに行った場合にも、末端のプログラマや、マネジメントとしてではなく、仕様検討などの上流工程にSEとしてかかわることが可能になります。技術者として、現場で上流工程から手がけたいので、これも大きなメリットです。マネジメント職階と同じように給与テーブルが上がっていける道が用意されたことも、モチベーションアップにつながっています。
 今後は、損保だけではなく、金融全般の知識を深め、より広い分野でスペシャリストとなれるよう頑張っていきたいと思います。
(事例2)テックファーム:マネジメント職に自由度を持たせ、技術を磨く道を用意
テックファームは、1998年設立のシステムコンサルティング、ソフトウェア開発企業。社員数は約160人と小規模ながら、特定の業種だけに特化せず、メーカー、不動産、流通、モバイルなど、幅広いベンダーのシステムを、提案から設計、開発、運用に至るまで、ワンストップで手がけている。高い技術力を誇るベンチャー企業は、技術を追求するスペシャリストにどのような道を用意しているのか、副社長とエンジニアに伺った。
(副社長)技術が強みの会社だからスペシャリストに道を用意している
取締役副社長兼CTO 小林正興さん コアテクノロジー事業部 技術担当マネジャー 藤田信之さん
取締役副社長兼CTO
小林正興さん(左)
コアテクノロジー事業部
技術担当マネジャー
藤田信之さん(右)
テックファーム設立メンバーである小林さんと、設立とほぼ同時期に入社した藤田さんは、社員全員にとっての「お手本」でもある存在。エンジニアであることに価値があるという会社のコンセプトを体現する小林さんは、取締役CTOでありながら、現在も技術者として開発に携わっている。藤田さんは立場的にはマネジャーだが「管理するのではなく、高い技術力で引っ張っていく」タイプとして、現場の第一線を走り続けている。
コアテクノロジー事業部 技術担当マネジャー 藤田信之さん
取締役副社長兼CTO 小林正興さん
 私たちテックファームの強みは、さまざまな技術、さまざまなベンダーを活用したシステム構築を請け負うことで培われてきた高い技術力。幅広い業種のシステムのスキームやテクノロジーに精通しているため、その業界特有の慣例や枠組みに縛られない柔軟な発想が可能で、真に効率的かつ最先端のシステムづくりを提案できます。約160人の社員数でそれを実現できているのは、エンジニア一人ひとりが高いスキルをもっているから。当然、スペシャリストの育成にも力を入れています。例えば弊社では、マネジメント職に自由度を与え、幅をもたせています。マネジメント職として成すべきことは決められていますが、達成のしかたはマネジャーが決めていいんです。メンバーの勤怠管理やスケジュールの調整は部下に割り振って任せ、自らは現場の技術者として、高い技術力で全員を導いていく。そんなマネジャーのあり方も認められています。うちの藤田は、その典型ですね。

 エンジニアは本来、好奇心旺盛な人たちです。スペシャリストに適性のある社員には、思う存分、技術を追求することで、会社を引っ張っていってほしい。ただし、エンジニアとして尊敬され続けるには、不断の努力が必要です。マネジメントに進むより、厳しい道かもしれませんよ。
(エンジニア)マネジャーかつスペシャリストとしてチームを牽引
 学生時代、テックファームの社長が以前勤務していたネットベンチャー企業に企画を持ち込み、そのままアルバイト採用されたのがITキャリアの始まりです。そのころから仕組みづくりに興味がありました。例えばプログラムを書くときも、言語の仕組みだけではなく、それが動くプラットフォームや、関連するミドルウェア、ネットワークの仕組みまで把握しないと気がすみません。それも、ただ構造を見るだけではなく、手を動かして、簡単なものでいいから自分で作ってみないと納得できない、根っから技術追求型のエンジニアです。現在はサーバーサイドプログラムを中心に、いろいろな分野で開発をしています。自分の仕事を限定はしません。必要とあれば何でも調べて、対処することで、技術の幅が広がっています。

 4年前から3年ほど、組織のマネジャーを務めたこともあります。現場にかかわりつつマネジメントも行う立場でしたが、技術に特化したいという思いが強く、1年前から技術担当マネジャーという形をとらせてもらいました。現在、職階はマネジメント職ですが、実際はスペシャリストとして、現場で開発と指導に当たっています。この自由度の高さはありがたいですし、会社にもより有効な形で貢献できていると思います。
(条件)スペシャリストであり続ける条件は「好奇心」にあり
 どんどん新しい技術が出てくるIT業界では、今までの常識ややり方があっという間に古くなってしまいます。それをむしろ「楽しい」ととらえて、好奇心をもち、飽きずに技術を向上させていけることが、技術のスペシャリストたる必須条件ではないでしょうか。
 ひとつのことを深めるだけでは、何が起きるかわからない現場で「使える」「頼りになる」スペシャリストにはなれません。複数のプログラム言語がわかること、業務を限定しないこと、そしてミドルウェア、ネットワーク、サーバーなど、専門以外の分野にも好奇心をもつことで、スキルに厚みが出ます。Javaというプログラム言語が書けるだけではスペシャリストでなく、それが動く仕組みまでわかっていてはじめて「Javaができる」といえるのです。スペシャリストとして生きていくなら、専門の「強み」をもっていることは当然ですが、一点集中ではなく、広く深く技術を習得していく好奇心を持ち続けることが必要だと思いますね。
スペシャリストとしてキャリアアップしていく条件とは?
上記でスペシャリスト志向のエンジニアを支援する制度が整っている企業について、その内容を見てきた。そこでIT転職市場の動向に詳しいリクルートエージェント グループマネジャーの北川史郎氏に、最近の動向について聞いてみた。「マネジメント職が好待遇で迎えられる風潮はあるが、大手企業を中心に、スペシャリストを育成する制度を設ける企業も増えてきています」。

その背景には、マネジメントにいくしか出世の道がない会社に嫌気がさして転職していく技術者を少しでも足止めしたいという企業の悲痛な思いが透けて見える。「とくに著しいのが、ITを離れて異業種転職を志す人々の増加。みぞうのIT好景気による人手不足の現在、人材が他分野に流れていくのは業界全体としても痛手になる。スペシャリスト志向の技術者を大切にする制度の広がりは、その対策とも言えます」。スペシャリストを目指す技術者にとって、このIT景気は追い風となりそうだ。なんとも頼もしい話だが、「スペシャリストを目指しながら、途中でくじけてしまう人も多い。スペシャリストとして転職に成功するためには、相当の実力が必要。探求心を失わず、モノづくり志向を貫き通す覚悟と意志をもって技術を磨いてほしいですね」。
まずは自らを磨く努力が必要なのだ。
スペシャリストとしてキャリアアップしていくポイント
まとめ
 マネジメントに進むしかなかったITキャリアパスに、まだ珍しいとはいえ、スペシャリストを育てる制度を採用する企業が出現しているのは、スペシャリスト志向のエンジニアにとっては頼もしい話である。ただし、企業側にその体制が整ったとしても、「マネジメントが苦手だから」という程度の理由でスペシャリストへの道は歩めない。新しい技術への好奇心と不断の努力、そして技術の追求を楽しめる素質。誰もが認めるスペシャリストであり続けることは簡単なものではなさそうだ。
 そのうえで、スペシャリストとしてこれからも現場の第一線で活躍したい「ザ・スペシャリスト」な方は、一度こちらで探してみては?
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山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ 山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ
「スペシャリスト」。今回の企画では何度もこのフレーズを発しましたが、改めてこの言葉を反すうしてみると、いい言葉ですよね。より専門技術の本質を極めたいエンジニアの方は多いと思いますが、こちらで紹介した以外にもそうした志向をもった方を支援してくれる企業は多々あります。ぜひ一度、ITキャリアで探してみてはいかがでしょうか?

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