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新製品・新技術の研究開発を志向する若手エンジニアの転職

次世代ITSに特化するデンソーアイティーラボラトリへ

デンソーアイティーラボラトリは自動車関連技術の先行研究を専門に手掛けている。会社の使命は独自の視点での「ITを活用した豊かなカーライフの創造」。研究テーマは無尽蔵だ。そんな同社に、業務ソフト中心の受託開発では飽き足りない若手プログラマが応募した。2次面接をリポートする。
(取材・文/須田忠博 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:07.06.04
デンソーアイティーラボラトリ
応募したエンジニア 企業の面接担当者
宇土敬祐さん
宇土敬祐さん
(当時26歳)
松井 武氏
代表取締役社長
松井 武氏
当時の職種
フリープログラマ
募集職種
ITS次世代ミドルウェア研究開発
業務内容
総合病院向け経営統合データベースシステムの開発。
仕事内容
未来の自動車に必要なナビゲーション機能を考案し、実現させるための技術研究。
職務経歴
大学基礎科学科を卒業後、システム機器・ソフト開発会社で2年9カ月、組み込みからWebアプリケーションまで幅広く担当。その後、フリーランスで受託開発を約1年。
応募資格
C、C++、Javaのプログラミングスキル、新製品・新技術のためのシステム設計経験など。自動車関連での開発経験は問わない。
志望動機
新技術へ果敢に挑戦しようという雰囲気、研究開発を中心に据えた環境に共感した。
募集背景
未来の自動車を決定づけるITS技術には、幅広い分野のソフトウェアが複合活用されるため。
面接の流れ
人事を兼務する技術GMが選考後、応募職種に該当する技術グループで選考する。
技術GM、総務GM、技術グループPMの3人で面接する。所要時間は1時間〜1時間半。
適性試験を行う。所要時間は1時間半程度。
社長と技術GMが面接する。所要時間は2時間弱。
2次面接の翌々日までをめどに連絡する。
【通過率:約4割】

【通過率:約5割】

【通過率:約7割】

Part1
実務経験・志望理由
受託ではなく、研究開発的な仕事がしたいと応募
松井:
 はじめまして。宇土さんですね?
宇土:
 はい、そうです。本日はよろしくお願いします。
松井:
 こちらこそ。【Point1】宇土さんの応募書類は読ませていただきましたが、改めて経歴や志望理由を簡単にご説明ください。
宇土:
 これまで私は基本的にソフト開発を仕事にしてきました。大学卒業後に入社した開発会社は学生時代のアルバイト先で、そこに正社員として3年弱勤務し、退職してからの1年間はフリーでプログラマをしています。今までに開発したものは営業支援システムから経営データベースシステム、Webサーバソフト、占いサイト、IP電話端末組み込みソフト、車載端末ファームウェアに至るまで多種多様です。
 【Point2】もともとプログラミングが好きなのですが、受託開発ではなく、研究開発的な仕事、世の中にない新しい製品を作り出す仕事に就きたいと強く思うようになりました。また、今までは業務系ソフトのほうが多かったのですが、ハード寄りの組み込み系にもっと触れたいという欲求もあります。こうした経緯から御社に応募させていただきました。
松井:
 差し支えなければ、他社への応募状況を聞かせてください。
宇土:
 経験にとらわれず分野を広げて検討しているものですから、御社が最初です。
松井:
 【Point3】宇土さんのような方ですと、出身大学といい、習得技術の幅広さといい、応募先はたくさんありそうに思えるのですが、なぜ真っ先に当社なのですか?
宇土:
 最大のポイントは自分で新しいものを作り出せる環境です。ソフト開発会社はたくさんありますが、大部分は受託開発であって、自社の意思で先行研究ができるところは限られます。それで御社の求人に着目しました。
新しい知識を新たな製品へつなげることに充実感
松井:
 【Point4】宇土さんのソフト開発実績は幅広いですね。最も印象深い仕事はどれですか?
宇土:
 楽しかったという意味では動物占いサイトの構築です。技術的にはDB、Web関連、組み込みと、それぞれ興味深い点があります。
松井:
 こう幅広く仕事をしてきたのには宇土さんの希望も関係しているのですか?
宇土:
 多少はそういう面があります。自分では知らない技術の知識やスキルを、新たに身につけながら結果につなげる形ですね。
松井:
 未知のものを知り、それを使えるようになることに喜びを感じる?
宇土:
 使えるようになることに比重があるのではなく、未知だったものを使って製品へつなげることに充実感を感じます。
松井:
 そういう仕事の仕方の結果として、これほど多くの開発言語を習得できたと?
宇土:
 はい、そうです。
松井:
 【Point5】お客さんの漠然とした希望から出発するような仕事もあるのですか?
宇土:
 はい、割とあります。事前に詳細な仕様書があれば別ですが、複数の現場ユーザーをヒアリングして具体的な方法を提案するケースもしばしばです。
松井:
 複数のユーザーから話を聞くのはどうしてですか?
宇土:
 業務が分かれているのが普通ですし、一方に最適化すると別のところで不適合が起こったりする場合があるからです。全体を見極めることは非常に大切だと思っています。
Point1
[面接官]自己プレゼンでチェックしたいのは、短い時間でいかに要領よく説明できるかという点です。最初の2〜3分の話し方には本人の特徴がおのずと現れてきます。間の取り方やボディアクションにも注目していると、コミュニケーション能力が大体わかるのです。
[応募者]実際の面接では何も準備していませんでしたから、もうボロボロの話し方になってしまい、出だしで「これはダメだな」と思いました。
Point2
[応募者]受け答えの準備はしていなかったものの、志望動機だけはしっかり伝えようとは意識していました。私がやりたいことを知ってもらったうえで採用を決めてもらわないと、入社後に双方が不幸だと考えていたからです。
Point3
[面接官]この質問は一見、志望理由の再確認のように感じられるでしょうが、意図はそれだけではありません。実務経験について聞いた後で突っ込んで聞くための布石です。望んでいる研究開発のスタイルをチェックします。
Point4
[面接官]現時点で習得できている技術スキルの内容とレベルに関しては1次面接で審査を終えています。そのため、2次ではもう少し広い視野から開発業務遂行力や技術吸収力などを探るようにしています。
Point5
[面接官]この質問の意図は、いうまでもなくユーザー視点での提案経験を見るところにあります。コーディングできる言語をたくさんもっているというだけでは、当社にとって魅力的な人材とはいえません。
Part2
クルマへの関心・仕事観

クルマは一般ユーザーが使う身近な存在
松井:
 当社はITSを筆頭に、自動車に関連するソフトの研究開発をしています。クルマ関連ならば制約なしで、研究の自由度は極めて高い。しかしその分、自らテーマを生み出さねばなりません。【Point6】そこで伺いたいのですが、宇土さんはクルマに対してどのような興味をもっていますか?
宇土:
 私は特にクルマのマニアではありません。【Point7】では、クルマに関してどう考えているかというと、若者から高齢者まで広く一般人が利用する身近な存在だと思っています。コンピュータのように情報リテラシーの高い人に偏って利用頻度が高いものではない。
 従って、どんなによくても複雑では使いこなしてもらえません。機能・性能の良さと使いやすさを両立させねばならない。難しいことですが、そこに研究開発のやりがいがあるだろうと想像していますし、チャレンジしたいです。
ソフト・オタクは必要十分ではない
松井:
 宇土さんは根っからのプログラミング好きで、スキルも高そうです。しかし、ソフト・オタクだけでは当社のミッションは遂げられない。内側のソフトが外側に生み出す価値が重要であり、仕事の範囲は内側のソフトのみにとどまらないわけです。
 【Point8】宇土さんは内側をやりたいのか、外側をやりたいのか、それとも両方をやりたいのか。どうでしょうか?
宇土:
 私はソフトにとらわれているわけではありません。必要ならソフトをうまく使うという考え方です。ハードを作ることにも興味があります。分野を制限せずに最適な技術を活用して新しい製品を実現させたいと思っています。
 趣味でも、音楽や文章など「無から有を生み出す」クリエーティブな作業が好きで続けているのですが、もし採用していただけるのであれば、ソフト技術を核に電子工作的な取り組み方法で外側まで携わりたいです。
松井:
 【Point9】当社で働くとしたら、研究開発の成果はどんな人に認めてもらいたいですか?
宇土:
 コンピュータやソフト技術に詳しくない大勢の人から「これはいいね」と言ってもらいたいです。
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松井:
 論文発表とかにはあまり興味がない?
宇土:
 ええ。ごく普通の身近な人に貢献したいです。学会などではなく、リアルに役立ちたいと思っています。
Point6
[面接官] 当社への応募者には熱烈なクルマ好きが割と含まれるのですが、それは採否に関係ありません。重要なのは研究開発者としてクルマをどう考え、何をしたいと思い、何ができるのかです。
Point7
[面接官]この認識は二重丸です。自動車ユーザーの視点で、開発のテーマと実現の形を定めることができ得るからです。好感がもてます。
Point8
[面接官]当社のエンジニアは、各人が強みとするソフト技術を生かして、最終的に「外側の価値」を実現させることを任務とします。従って、この質問は面接の中のどこかで必ずしますし、答えの内容と答え方のニュアンスには大きな関心を払います。
Point9
[面接官]この質問は、本人の価値観をずばり聞くものです。研究開発職の求人というと、「研究のための研究」のような基礎研究ができると誤解する人がいますが、それでは困る。当社では常に「その成果は5年後、10年後、クルマのどんなテレビCMになるか?」が問われます。
Part3
仕事のスタイル
計画を途中で評価するためにはアンテナが必要
松井:
 【Point10】ところで、研究開発には計画というものが必要です。計画の立て方は人さまざまで、例えば1カ月目はこれ、次の1カ月はこれと続けて、それらをまとめた段階で先を考えるという人もいれば、囲碁の布石のようにある程度の範囲に石を置いていき、この辺りは成果にしたいと考える人もいます。宇土さんはどんなタイプですか?
宇土:
 基本的には目標を決めて、おおまかな必要ステップを踏んでいくように計画するほうです。そして、実際にやっていくうちに思った以上にうまくいかないとか、予期しなかった方向ですごいアイデアが出たとか、そういうときには途中で柔軟に計画の内容を変更します。つまり、目標に達するまでの間の計画は臨機応変という感じですね。
松井:
 その場合、計画変更の判断基準はどこに置きますか?
宇土:
 料理に例えると、ステップごとにいくつかのプロトタイプで味見をして可能性を探ります。その評価をするためのアンテナを張っておくことが大切だと思っています。
松井:
 判断を下すアンテナを、計画を立てる時点で準備しておいて、開発実務をした経験はありますか?
宇土:
 新製品のための開発計画を立てて実行した経験はありますが、雲をつかむような状態から長期の研究開発をしたことはありません。具体的にモノを作りながら評価・判断するスタイルばかりです。事前に意図してアンテナを用意しているわけではないのです。
研究開発は異分野エンジニアとの協働
松井:
 クルマに新しい価値を付加するための研究開発にはソフト屋さんにハード屋さん、デザイナーなどが必要で、さらには別の機能と結び付ける必要もあります。非常に大勢の人とかかわる協働作業です。
 そこで伺いたいのですが、【Point11】宇土さんは個人作業のほうが好きですか? それとも、チームを引っ張っていくほうが好きですか?
宇土:
 どちらも好きですし、それぞれよい点があると思います。数人のチームの場合、最初はめちゃくちゃでも、やがて個性が刺激し合って新しいものが生まれるといった状態は仕事に限らず、しばしば起こることです。
【Point12】また、分野が異なるスペシャリストと協働することで私自身が得られるものも大きいですから、そういう作業は望むところです。
松井:
 わかりました。これで面接を終わりますが、私のほうから伝えたいことがあります。
(ここで松井氏は親会社のデンソーとの事業特性上の違いを説明し、求められる組織とエンジニア像の違いに言及した。【Point13】梁山泊のような会社で一人ひとりが扇の要のような役割を果たしながら、多数の研究テーマが同時並行するのがこの会社の理想の姿であること、入社した場合にはそうした働き方をしてほしいと話した)
Point10
[面接官]この質問の意図は研究開発の志向パターンを探るところにあります。研究開発には問題がつきものですから、計画の立て方によって成果の有無と効率が相当違います。人によっては問題発生ごとにどんどん隘路へ入り込んでしまい、目標からそれていくことがあるのです。
[応募者]実際に面接を受けた当時はこの質問の意図を深くは理解できず、もう少しあやふやな答え方をしてしまったと思います。
Point11
[面接官]一匹狼でないと力を発揮しないとか、異質な人間が集まったチームではうまくやれないとか、そういう懸念がある応募者には注意を払います。宇土さんの場合は心配無用でしたが、一応尋ねました。
Point12
[面接官]こういうタイプのエンジニアは当社にとって理想的といえます。自分の専門技術を惜しみなく提供してチームに貢献しようとするエンジニアほど、異分野の技術を吸収でき、その結果としてチームの研究効率が高まるのです。
Point13
[面接官]私は面接中、話題に即して割と長々と話す癖があります。一方的に話しながら応募者の表情を観察するのです。共感する人は顔や眼差し、うなずき方に心の内が現れます。本当に共感した場合には、応募者のほうから突っ込んで質問してきたりもします。
面接官はココを見た!
●柱になる技術力をもち、研究開発に生かせるか。
●社会にインパクトを与えるものを創造したいという、野心があるか。
●他者と共同研究ができるコミュニケーション能力をもっているか。
 技術スキルは開発言語を中心に見るが、複数の言語を習得していればよいというものではない。それをどのように生かしたかという視点から、開発業務の遂行力の総体としてチェックする。研究開発の志向性では、実際のクルマに役立つものを作りたいという情熱の強さを探り、「研究のための研究」を望むタイプは不採用となる。ヒューマンスキルでは、コミュニケーション力を最も重視する。自分の考えを自分の言葉で語れるかどうかで見る。
宇土さんはコレで決めた!
「2回の面接ともダメな回答ばかりで、落ちたと思っていたんです。
しかし、マインドが合っていることは確かめられましたから、
内定の連絡が来たときに入社を迷うことはありませんでした」
 実は、1次面接で落ちたと思い、2次でもまた落ちたと思ったんです。そのくらい、自分で考えるとダメな回答ばかりでした。ただ、マインドの部分では共通しているということははっきりわかりました。世の中にまだないものの創造、いろいろな技術分野の融合といった点ですね。求人広告とホームページに載っていた情報が違っていないことだけは確かめられましたから、内定の連絡が来たときには驚くとともに、入社を迷うことはありませんでした。
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松井氏は社長というよりワガママな研究者を束ねる研究所長といった趣。しかし、なぜか話題が二転三転してしまう。思い出したかのように「そうそう、これは言っておきたいんですよ」などと言い出して、これまでの流れをガラっと変える話題を語り始める……。でも、なぜかそこが魅力的でした。もっとも、原稿をまとめるライターは一苦労でしたけど(笑)。

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