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ITエンジニアの理想会社ランキングで、必ずトップクラスにランクインする日本IBM。その憧れ企業が、本格的に中途採用戦線に復帰する。背景にあるのは、顧客企業の旺盛なシステム投資需要。果たして日本IBMは、どんな即戦力を求めているのか。金融関連の採用を中心にその背景に迫る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき)作成日:07.04.25
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メーカーからサービス事業へのシフトを進める日本IBM。金融をはじめとするシステムのニーズ拡大を受けて、アプリケーション開発技術者を中心に他職種を含め100名を超える大規模中途採用を再開した。これだけの規模の採用は5年ぶりだ。 | |
日本アイ・ビーエム株式会社 浦川 伸一氏
「金融業界の再編などで、金融系の業務アプリケーション開発や再構築案件が殺到している。当社はプライム・コントラクターとしてプロジェクト全体を仕切るケースが多い。だが、チームを率いるITスペシャリストやPMの数が足りず、仕事を請けきれないという事態さえ現場では生じている」 ただ、日本IBMの場合、その求人意欲には、単に足下の需要を乗り切りたいという理由だけでなく、より長期的な企業戦略が反映されている。米IBMがルイス・ガースナーCEOの下で、事業転換を進めたのは90年代半ばのこと。メインフレームを中心としたハードウェア依存を脱し、事業構造をソフトウェア/サービス事業を中核としたものへと大胆に転換したのだ。2003年にはハードディスク事業を、05年にはパソコン事業さえも売却し、ハードからソフト/サービスへの転換の方向はさらに加速された。 日本法人でも、ソフト/サービス事業へのシフトは急務だったが、まずは約2万人の社員の技術転換、職種転換による有効活用でそれに臨んだ。しかしそれも一巡してきており、昨今の製造、流通、金融業の需要の盛り上がりに社内調達だけではもはや対応できなくなってきている。 今回の募集のメインターゲットは、ITスペシャリストとPM(プロジェクト・マネージャー)だ。日本IBMでいうITスペシャリストとは、同社のAS(アプリケーション・サービス)事業部門で、個々のSI案件を担いながら、アプリケーション開発をリードする中核エンジニアのこと。その職務範囲には要件定義、設計、開発、テスト、保守に至るまでの全ライフサイクルが含まれる。(※図1参照) 「アプリケーション開発を上流から下流に至るまで幅広く担当してもらう。単なるコーディング作業ではなく、顧客のニーズを論理化して整理し、システムの形に仕上げることが重要。感覚ではなく明確な言葉でシステムを定義することが求められる。金融系のシステム構築では、以前はよく見られたスクラッチからの開発、大規模・長期開発は陰を潜め、パッケージ化、ソリューション化、工期の短期化が進んでいる。幅広い技術やソリューションの知識、スピードや変化への対応力も、これまで以上に重要だ」と、浦川氏はITスペシャリストの要件を語る。
もう一つのPM職種だが、同社におけるPMは、IITスペシャリストやITアーキテクトと同列の専門職という位置づけ。それだけに高いスキルと経験が求められる。 開発のやり方そのものがIBMはほかとは異なる。グローバルな開発手法と開発環境。IBMへの転職者はまずこれに慣れる必要がある。 これまでは国内の協力会社と共同で開発することが多かったが、近年は、世界170カ国で事業展開するという特長を生かしたグローバル開発への移行が進んでいる。例えば日本顧客の案件を、日本、中国、インド、ベトナムの各国IBM法人が共同で開発するというスタイル。開発メソッドは世界共通。時差と国境を越えて適切な人材リソースと高品位なスキルを一点に集中できるメリットがある。IBMではこれを「グローバル・デリバリー体制」と呼ぶ。
「プロジェクトメンバーのうち、半数は上海で仕事をしているという例もある。海外を下請けとして使うオフショア開発ではなく、あくまでもグローバル規模での Co-Work(共同作業)。それだけに、日本だけで通用する自己流の手法は通じない。海外に指示を出す場合も、向こうのエンジニアはロジカルに説明しないと決して納得しない。中国への指示は日本語で行うことも多いが、仕様書の日本語が曖昧だとすぐにクレームが飛んでくる」
これらIBMグループとしての Co-Work は、大和研究所のR&D部隊や、コンサルティングサービス事業に特化したIBCS(IBMビジネスコンサルティングサービス)との間でも行われる。世界に認められたコンサルタント集団や先端技術の専門家集団との協業は、これまでのビジネス経験を一新するような新たな体験をエンジニアにもたらすはずだ。 |
外資と日本企業の良さがミックスした企業とは日本IBMの社風についてよく言われること。転職者たちはその風土をどのように受け止めたのだろうか。 |
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日本アイ・ビー・エム株式会社 宇津 拓郎氏 銀行系システム子会社で、デリバティブシステム開発などに関わる。2000年7月、日本IBMに転職。顧客情報系、リテール支援システムなどを経て、現在のプロジェクトに。大学は新聞学科でもともとはマスコミ志望。在学中に1年間の米国語学留学経験あり。37歳。 銀行合併に伴うシステム統合の一環として、法人向けインターネットバンキングシステムの再構築案件に取り組んでいます。双方の銀行のお客様に移行の負荷がかからないようにしながら、機能を補完しつつ、混乱なく統合を完遂するために、いまが一番大事なときです。協力会社を含めると総勢100人超のプロジェクト。私は業務アプリケーション開発チームのリーダーの一人。ほかに、基盤開発、DB開発、アーキテクトなどの各チームが動いています。 もともと、今のお客様とは違う都銀のシステム子会社にいて、IBMのスタッフとも4年ほど一緒にシステム開発にあたった経験があります。システム発注側から受注側に移ったわけです。プロジェクトマネジメント系の職種を目指すのでしたら、前職のままでよかったのかもしれませんが、当時の私には業務アプリ開発者という職種に強いこだわりがありました。スペシャリストとして自分を磨くというキャリアパスを考えたとき、より多くの選択肢を得ることができる環境を望んだのが転職の理由です。 IBMとしても、以前は銀行システムといっても自社で手がけるのはインフラ構築が中心で、業務アプリ開発は、その多くが、ビジネスパートナーとの協業でした。ソフト/サービス事業の強化という方針転換で、自社にも業務アプリ開発ノウハウの蓄積を推進することが必要になり、銀行業務のシステム開発経験のある私のような人材が求められたのでしょう。 以前から、IBMの技術者には「自分のミッションを明確に意識した責任感の強い人たちだ」という印象がありました。まあ、良いところ悪いところを含めて、IBMの内部事情にはある程度理解していたので、転職後のイメージのギャップは感じませんでしたね。 転職早々、前職で共同開発していたIBMのスタッフと社内で出会い、「今日から、お客様と呼ばなくてもいいんですね」と言われました。IBMのスタッフとして迎え入れられたという意味だと思い、嬉しかったのを覚えています。 IBMは大きな会社ですから、エンジニアだけでもさまざまな専門領域をもつスペシャリストがいます。それだけエンジニアとしての選択肢が広いということになります。自分から望めば、キャリアを磨くためのツールや環境はいくらでもあります。私はその中で、アプリケーションの開発方法論や品質管理などを専門領域にすえたITスペシャリストを目指していこうと考えています。これからもお客様の成功のために全力を尽くすことに変わりありませんが、加えてより広い視点で技術の専門性を深めていきたいと思います。キャリア形成の道が誰にも開かれ、しかもそれがクリアに見えているところが、エンジニアにとって最良の環境だと思います。 |
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日本アイ・ビー・エム株式会社 川田 博美氏 農業機械エンジン設計→自動車メーカー→外資系CADソフトベンダー開発を経て、2003年10月入社。自動車メーカー時代に5年間のアメリカ赴任経験あり。「常にお客様の観点で考えSIの技術で対応する」がモットー。44歳。 開発プロセスの革新というテーマで、製造業のお客様を中心にシステム構築案件を担っています。日本の製造業は国内拠点の優位性を保つために、何年にもわたって製造プロセスの再構築を重ねてきました。しかし、局所最適化は進んでも全体最適化に成功している企業はそう多くはありません。私は、CADプロセスとデータ管理を自分のコア技術としながら、より全体最適を意識した統合的な製造プロセスの構築に寄与していきたいと考えています。 国内・外資も含めこれまで3つの企業を経験していますから、客観的な立場から日本IBMの良さを理解しているつもりです。その意味で、IBMは外資らしい合理性と同時に、チームワークなど日本企業の良さを併せ持つ「ハイブリッド」企業だと思います。 全国各地に点在する事業所・サテライトオフィスを自由に使いながら、オンデマンド・スタイルで仕事をしています。オフィスに自分の固定のデスクはありませんが、どこでも仕事や会議ができるというほうが私にとっては楽。私たちITスペシャリストは、自分の机にへばりつくのではなく、時間を上手にやりくりした分を、お客様先での提案活動に使うべきだという意識がありますから。 IBMの開発技術は間違いなく世界有数。ただ、製造業の実務経験者が少ないのが難点で、それをカバーするために、私のような人間を採用したのだと思います。金融関係のプロジェクトでも、同様に業務知識をもつ人が今求められているはずです。 IBMの良さとして教育研修体制を挙げる人は多く、私もその通りだと思いますが、待っているだけでは誰も教育してくれないのも事実。自分で手を挙げて、勉強する時間を自分で確保することが重要なのです。「自ら求めるものが成長する」というのは、ふだんのビジネスはもちろん、社内異動、昇進、休暇の取り方などすべてにわたってIBMの社風といえるものだと思います。 直営保養施設など福利厚生の充実ぶりは意外でした。長時間勤務社員の健康チェックなどもありますし、今後はメタボリック診断も始まります。「腹まわりを自分でチェックせよ」ということでしょうか、この前は健保組合からメジャーがプレゼントされました。会社が手取り足取りしてくれるのではなく、自己管理・自己啓発が原則という、これもその表れの一つかもしれません。 |
中途採用のエンジニアは、IBMでどのように遇され、その後、どのようなキャリアパスを選択できるのか。人事担当の嶺村富士雄氏がIBMの専門職制度を中心に人事施策を語る。 | |
日本アイ・ビーエム株式会社 嶺村 富士雄氏 日本IBMへ入社したエンジニアは、通常はまず「ITエンジニア」という名称で呼ばれることになる。入社後3〜5年を経て、社内審査に合格すると、「スペシャリスト」に昇進。さらにその後経験を積み、10年前後で社内審査を受け、承認されると「主任」の肩書がつく。その先のキャリアパスは、管理職系の「ライン専門職」と技術専門職の「プロフェッショナル」に別れる。さらにその上にあるのが、「技術理事」「IBMフェロー」だ。こうした専門職体系は、全社員共通の職務等級(BAND)と連動している(※図2参照)。 スペシャリストにはITスペシャリストだけでなく、ITアーキテクト、プロダクト・スペシャリスト、プロダクト・マネージャー、研修スペシャリストなどの分類がある。技術系以外の職種にもスペシャリスト→プロフェッショナルの道が開かれている。中途採用エンジニアは通常、BAND6〜7からスタート。まれにBAND8の待遇で入社する人もいる。スペシャリストになるまで、新入社員は3〜5年を要するが、中途採用では前職での経験を評価され、この年月を短縮することができる。 こうした専門職制度(プロフェッショナル制度)の導入は1991年。事業構造がハード指向からソフト/サービス指向に転換するのに伴い、サービス分野での人材を正しく育成し、評価するために設けられたものだ。育成・認定の基準は全世界共通。単に技術スキルだけではなく、顧客企業のビジネスにどのように価値をもたらしたか、後輩の指導にどのように取り組んだかなどの視点も重視される。とりわけ「プロフェッショナル」では、3年に一度の認定見直し作業が行われ、場合によっては認定が取り消されることもある。 「専門職制度は技術とビジネスの変化に応じてたえず見直されていますが、これからは一つの専門領域ではなく、複数の専門領域が必要になることはたしか。ITスペシャリストであると同時にITアーキテクトでもあるというような、マルチなスペシャリティを持つ人も増えてきます」というのは、人事担当の嶺村富士雄氏だ。
人事評価が人事部ではなく、すべてライン・マネージャーによって行われるのもIBMならでは。スペシャリストの評価はその上のライン専門職が行う。ライン専門職自体もつねに上級専門職によって評価される。 透明性確保の一環として、2005年からは部下による上司の評価を含む、マネジャー・フィードバック調査も始まった。調査項目には「あなたの上司はあなたのキャリア形成をサポートしてくれているか」などの質問も含まれる。万一ここでの評点が低いと、それは上司自身の次期の改善目標に組み入れられてしまうから、うかうかできない。
すべてのITエンジニアには、新卒・中途を問わずメンター(社内助言者)が付き、キャリア形成をサポートする。その一方で、他の部門からのニーズに応えて社内転職を希望する部下に、上司はNOとは言えない仕組みもある。いずれも公平かつ機会平等な人事施策を通して、個人のキャリアアップを促すとともに、社内をたえず活性化させるのが狙いだ。 |
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