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ヒットしない新商品、早まる技術サイクル、激化する国際競争……
森永卓郎が語る!年収格差時代を生き抜く技術者の条件
年収格差が叫ばれる現代社会。技術を持っているだけでは評価されず、成果を求められることが多くなってきた。それはなぜなのか?そしてこの厳しい時代を生き残るには、どうしたらいいのか?経済アナリスト・森永卓郎氏が今こそ求められる技術者像を語る。
(文/森永卓郎 取材/総研スタッフ 宮みゆき 撮影/平山諭)作成日:06.06.14
格差社会にエンジニアが求められるものとは
2006年5月20日、東京ドームシティ内プリズムホールで開催された「リクナビNEXT エンジニア適職フェア」。そこで森永卓郎氏による講演セミナー「年収格差時代を生き抜くエンジニアの条件」の一部を再現レポートにしてお届けする。
Profile
経済アナリスト 森永卓郎氏

獨協大学 経済学部 教授
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 客員研究員
「年収300万円時代を生き抜く経済学」の著者。数々のニュースコメンテーターにラジオのパーソナリティーと幅広く活躍する経済アナリスト。東京大学経済学部を卒業後、日本専売公社、日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局などを経て現在に至る。専門分野はマクロ経済、労働経済、教育計画など。ミニカーコレクターとしても有名。
商品の「付加価値」が生み出した価格格差
 格差の拡大が、大きな関心を集めています。確かに小泉内閣の進める構造改革によって、格差が拡大しているのは事実でしょう。しかし、構造改革政策とは無関係に、長期的に続く経済の構造変化もまた、格差拡大をもたらしているのです。

 第一次産業が主流の時代は、生産物に大きな付加価値の差がつきません。例えば、お米を考えてみると、普通のお米とブランド米の価格差はせいぜい2倍程度です。しかも、同じ地域で獲れるお米だったら、価格差はもっと小さいでしょう。ですから、お米を作る人に求められるのは、きちんと土作りをしたり、稲を害虫や病気から守ったり、水を管理したりと、まじめな努力を積み重ねて、収量を確保することです。

   ところが、第二次産業が主流になると付加価値に少し大きな格差がつきます。例えば、自動車だと大衆車と高級スポーツカーでは10倍程度の付加価値の差がついてきます。そこでは、アイデアや感性などが求められるようになるのです。

 第三次産業が主流になると、格差はさらに拡大します。新型自動車の開発で粘土製の模型を作る前段階に「アイデアスケッチ」というものが必要になります。以前、その値段を世界中のデザイン事務所を対象に調べたことがあったのですが、数万円から1000万円を超えるものまで、とても大きな価格差がありました。

 つまり、経済構造がサービス化、知的創造化していくと、付加価値の面からも、自動的に格差は広がる構造になっているのです。技術との関係を考えるために、もう少し具体的に日本経済の構造がどのように変化したのかを、消費面から返っておきましょう

技術トレンドのスピードを上げる「付加価値」の変化
 戦後の高度経済成長の時代は1960年から1975年のたった15年間でした。しかし、その期間に日本の消費構造はとても大きな変化を経験しました。例えば、耐久消費財の普及率をみると、高度経済成長が始まった1960年には、冷蔵庫10.1%、掃除機7.7%、石油ストーブ0.0%、カラーテレビ0.0%でした。ほとんどの家庭に存在しなかったのです。それが高度成長末期の1974年には、それぞれ96.5%、97.6%、89.6%、90.3%と、ほとんどの家庭が持つようになるのですDATA1参照

 なぜ、こんな劇的な普及率の上昇があったのかと言うと、自分の欲しいものを買っていたわけではなく、「隣の家が買うから自分も買う」という横並び消費が行われたからです。
 
DATA1耐久消費財の普及率1960年vs1974年
  この時代は企業にとっては夢の時代でした。なぜなら、トレンドに乗った商品を作れば、みなが横並び消費をしてくれるのですから、必ず売れることが分かっていたからです。技術者も、いかに決められた製品を効率よく作るかだけが課題だったので、ゴールの定まった開発を行えばすみました。

 ところが1975年以降、低成長期に入って、「作れば売れる」という時代は終わりました。しかし消費者は何が欲しいのかを言ってくれません。そこで企業が苦肉の策として編み出したのが、多品種少量生産という仕組みでした。ただ、そこで行われたのは缶ビールの缶の大きさを多様化したり、冷蔵庫の扉の色を増やしたりする、見かけだけの多様化でした。

 そして、2000年以降、私は本当の多様化が始まったのだと思っています。消費者が明確に自分の欲しいもの、個性を主張し始めたのです。その理由は、所得水準が豊かになったこと以外に二つが加わっています。ひとつは、ライフスタイルの多様化です。2005年の国勢調査の結果はまだ公表されていませんが、30歳台前半男性の非婚率は、全国で5割、東京都で6割に達すると見込まれます。既婚者と比べると独身者ははるかに自由なライフスタイルを形成することができます。つまり、多様化が可能になるのです。

 もうひとつの要因はITの進化です。ITの一番大きな機能は膨大な情報の海から瞬時に適合するものを見つけ出すことです。この機能を使って、いまマニアックな嗜好を持つ者同士が結びつき合うようになってきており、それが新しいマーケットを生みだしているのです。

 こうした変化を踏まえると、今後のマーケットは、多様化、細分化が一層進み、しかもそれがどんどん変化していくことになると思われます。そのとき、技術はどう変わるのでしょうか。私は、突然新しい変化が起こるというよりも、(1)技術の成功確率の低下(2)技術の小粒化(3)技術の短命化といういまの技術トレンドが、いままで以上のスピードで進むのだと考えています。

 実際、統計でみても、1960年には付加価値全体の45.3%を占めていた過去10年間に登場した商品の割合が、19990年には5.8%にまで減っていますDATA2参照。 誰もが欲しがる新商品が誕生して経済を牽引するのではなく、既存の商品が多様化することで付加価値が生まれるようになってきているのです。また、ひとつの技術が開発されて、それが市場で利益を生む期間も1950年代以前は21.8年あったのが、1990年以降は3.2年に短縮化していますDATA3参照
 
DATA2付加価値のなかに新製品が占める比率
DATA3技術知識のライフサイクル

10年後のことは秋葉原に聞け
 新しいものを作ってもなかなかヒットしない。ヒットしても、市場規模は小さい。そして、その市場規模の小さい商品も短期間しか利益を生まなくなってしまう。

 そうした時代に技術者はどのように生き残ればよいのでしょうか。私は、変化に柔軟に対応して、次から次へと新しい技術を生み出していくことしかないのだと考えています。

 とは言っても、具体的にどのような分野に今後の市場拡大の機会があるのかは重要です。私は、「10年後のことは秋葉原に聞け」とずっと言ってきました。秋葉原に登場する商品というのは、10年後の日本を支える基幹産業になってきたからです。1960年代、秋葉原は家電の街でした。そして1970年代はオーディオの街、1980年代はパソコンの街、1990年代には文字、映像、音声などが通信回線を介して融合化するマルチメディアの街へと進化しました。そして、それぞれの商品は、その10年後には日本の主力産業に育っていったのです。

 そして、もう一つの特徴は、秋葉原で新商品がブームを迎えているときには、世間からそのブームは、あやしいものと捉えられることが多かったということです。例えば1980年代のパソコンブーム、当時はパソコンといっても16進数のアセンブリ言語を使うボードコンピュータでした。その数字だけの世界に店頭のパソコンを使って没頭しているパソコン少年たちは、世間から冷ややかな目で見られていました。しかし、彼らこそが、いまの日本のIT社会を発展させる原動力の役割を果たした人たちなのです。

 そして2000年代、秋葉原はハードの街からゲームやDVDなどのソフトの街に変貌しています。なかでも、「萌え」と呼ばれるアニメキャラクターを起点とした新しいコンセプトが、さまざまなソフト産業を秋葉原に生み出しています。もちろん、萌えが産業の中心となるとまでは言いませんが、今後の日本の産業構造の変化を占う上で、一つの重要な要素になっていくことは間違いないのではないでしょうか。
 
 淡々と必要な工程をこなしていくような技術開発は、今後途上国でもできるようになります。少なくとも日本の中流層に生き残ろうと思うのであれば、幅広い分野に興味と知識を持ち、遊び心にあふれた新しいものを創造していく能力を持つことが技術者には必要となるでしょう。しかも、それは多様化し、変化していくニーズに対応できる柔軟な能力である必要があります。

 採用担当者に聞くと、いま一番必要な人材は「地頭がいい」人なのだそうです。知識を詰め込んで、頑固一徹で同じやり方を貫く人ではなく、変化に柔軟に対応できる人。そうした人が、知的創造社会に向かうときに、企業側からも求められているのです。

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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
実はこの講演では、森永さんがコレクションされているフィギアや海外でしか購入できないマニアックな嗜好品の数々が披露され、今回のレポートをさらにわかりやすく解説されていました。ニュースステーションで久米さんが吸ったタバコはネットオークションに出したらいくらで売れたのか、落札者はなぜ何倍ものお金を出してそれを買ったのかなどなど。ついついにやけながら聞いてしまう森永さんのお話。秋葉原と技術者の切っても切れない関連性については、また詳しくお話を伺ってみたいと思っています。

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