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やっぱりエンジニアはオモシロイ!
技術未来人インタビュー
無形価値の考え方が身につけば
日本のエンジニアは世界で十分、戦える
ウルシステムズ株式会社
代表取締役社長
漆原茂氏
UMLやJava、XMLなど先端技術者集団とともに、戦略的ITコンサルティングサービスを提供するウルシステムズ。同社のカリスマエンジニアでもあり、かつ社長でもある漆原茂氏にこれからのIT産業の展望について話を聞いた。
(総研スタッフ/関洋子)作成日:03.05.07
森永卓郎氏
[PROFILE]
●ウルシバラシゲル
1965年生まれ。1987年、東京大学工学部を卒業後、沖電気工業に入社。89〜91年、米スタンフォード大学コンピュータシステム研究所に留学。日本市場におけるTUXEDOを事業立ち上げ、WebLogic上のEJBコンポーネント開発などに携わる。X/Open Transaction Processing Working Groupの主要メンバー。2000年7月、ウルシステムズ設立、現在に至る。
「失われた10年」というマクロ論に騙されていないか?

――漆原さんはこれまでの10年をどんなふうに見ていらっしゃいますか。
漆原:この10年、変化のサイクルはどんどん短くなっているのは間違いありません。しかし世間ではよくいわれている「失われた10年」という表現は本当に正しいかというとそうではない。だれが何を失ったというのかを考えなければならないのです。例えばNTTドコモはこの10年間に独立して生まれた会社です。このドコモのように10年前にはなかったものが生まれ、しかも大きく成長したという例がたくさんある。ステーブルな居場所、つまり1カ所でずっと同じところにいた企業は淘汰され、環境の変化にうまくのれた企業は伸びていった。そういう意味では勝ち組、負け組の2極化の差が大きく広がったといえるでしょう。


森永卓郎氏
――社会の2極化が進んだことで、エンジニアの役割は何か変わったところはあるのでしょうか。
漆原:役割が全く変わらなくてもいい人もたくさんいる半面、違うバリューの提供を求められる人がいます。例えば従来、工場の生産ラインで管理を行っていた人たちが、今、採用がないからといって必要ないかというと、そうではない。コンサルティングというフェーズで彼らは求められているのです。

 例えばプラントエンジニアリングで言えば、彼らはパイプの配管を行うなど、何千億円ものお金を動かしたという実際の業務経験とそこで得たノウハウを持っていたりするからです。それは私たちソフトウェアの世界で生きてきた者にとっては絶対に得られない。

 しかしその彼らが、NETやJavaがはやっているからといってそれに携わろうとすると、ゼロからの出発となり、しかも後発になる。そのうえ、それらの技術が10年たっても残るかというと、それは保証の限りではない。
 ソフトウェアの世界では次々とツールや言語、フレームワークなどが変わっていきます。そこだけとらえて追いかけてしまってはだめなんです。つまり次から次へとくる「デファクト」に踊らされるのではなく、技術をどこに根づかせるかが大事なのです。それは1、2年のレインジで見るのではなく、5〜10年のレインジで見なければならない。きちっと固まった土台の上に根っこを張れば、エンジニアとして生き残ることができるはずです。
これからはソフトエンジニアも「知的財産」で戦う

森永卓郎氏
──ソフトウェアエンジニアの場合、テクノロジースキルはもちろん、ビジネススキルやヒューマンスキルが必要といわれています。これからこの世界で生きていくためにはどのようなスキルが必要だと思われますか。
漆原:私たちソフトウェアの世界は顧客主導型ビジネスです。顧客がわからなければ価値が下がる。だから顧客に理解させるためにも、どこが他社と差があるのか説明しなければなりません。そのためにはコミュニケーション能力が必要です。自分が持っている力をどう顧客に見せられるかが、今後ますます問われる素養になるといえるでしょう。

──読者アンケートをとると、従来よりもストレスが多くなったという声がよく聞かれます。その点についてはどうお考えでしょうか。
漆原:例えばプログラミングなど労働集約的産業は、かつて半導体工場がアジア諸国につくられたように、海外に出ていくでしょう。そこには付加価値がないからです。今はモノで戦うのではなく知的財産で戦う時代です。だから日本のエンジニアは労働集約的ではないところで戦っていかなければならないのです。労働集約産業的なところに携わっているだけでは、評価も得られないし、ストレスも大きくなる。

 知的財産が戦いの場である仕事はプレッシャーが大きい。しかし本来、仕事はプレッシャーが大きいほど面白いはずです。そのような仕事に携わるわけですから、ある程度のストレスは付き物です。しかしその仕事をやり遂げ顧客に認められ、すばらしいという評価を得られれば、やはり何物にも替え難い達成感「Well-Paid」が得られる。もちろんプレッシャー、ストレス、評価は微妙なバランスの上に成り立っているものではありますが・・・。


──エンジニアへの対価という面が変わってきたといえるのでしょうか。
漆原:私自身一人のエンジニアとしてどんな環境を望むかというと、「やりがいのある仕事」「すばらしい顧客」、そして「その仕事を達成できそうな仲間がいる」ことの3つです。やりがいのある仕事とは、先ほども言いましたが顧客が喜んでくれてなおかつビジネスインパクトが大きいもの。例えばプログラムをつくってなんぼの仕事とビジネスを立ち上げて数億円の利益が出たという仕事に携わるのでは、やりがいが全く違う。またビジネスインパクトのある仕事を達成するためには顧客や仲間の存在も重要ですよね。

 うちの会社のエンジニアたちに「いっぱい給料を上げるから皿洗いをしろ」といってもきっとやらない。そういう自信がある。会社に居続ける理由は、お金ではない。「ほかでは経験できない何かがある」からなんですよ。


──「FORTUN」や「Forbes」などで行われている従業員満足度調査などでも、チームワークや信頼感などを重視している企業が上位を占めていたりします。やはり仲間というキーワードは働くうえで今後、ますます重要になるのでしょうか。
漆原:仲間は重要ですね。その仲間とは社内、社外を問わず、本当に困ったときに「こいつのためなら最後までやってやろう」というぐらいの深い信頼感を築けている人のこと。そしてこの仲間をどれだけ多く持てるかによって、携わる仕事の大きさも変わってきます。仲間が少ない人は一人でもできる仕事が多くなる。そうなるとやりがいも少なく、より孤独な状況に陥ってしまいがちです。

世の中に役立つ「オタク」になれればエンジニア人生は楽しい

──これからますますIT産業の未来は明るいでしょうか。
漆原:IT産業の未来は明るいですよ。ITバブルは幻想にすぎなかったのです。ITはしょせん、リアルビジネスを回すツールでしかありません。ITはうまく使うと面白いツールですが、間違えると危険な武器になる。したがって今後はより使う側の力量、提供する側のノウハウも試される。しかしこれからのビジネスにはITは不可欠。したがってITの需要は伸びる一方だといえるでしょう。

 グローバルな視点で見てみると先行する米国、追いかけてくる中国、インドに挟まれた日本のソフトエンジニアは今後、ますますつらい立場に追い込まれるのではと危惧されている点もありますが、日本のエンジニアにも海外のエンジニアにはない優位性はある。日本のエンジニアはマメでまじめです。それに新しい技術の吸収力も早い。ゲームや携帯電話を開発したことを考えても、発想力だって決して劣っていない。

 では何が世界より劣っているかというと、無形価値の考え方です。今後10年間、日本のIT産業全体で考えていかなければならない最重要課題です。しかしこれについてもそれほど心配はしていません。というのもビジネスの中にどう応用するかを考えること、つまり応用技術は本来、日本が最も得意とする分野だからです。


――漆原さんにとって仕事とはなんでしょう。
漆原:仕事の反対語は家族かというとそうではない。仕事は人生そのものです。だれかのために役に立つことを行い、その結果、自分も相手も喜びが得られること。そして自己実現するうえで、自分の価値を試すことなのです。個人の思いを社会にぶつければ、ストレートに自分に返ってくる。だから大事にしているし、楽しい。

 そのためにも、まず「これだけは負けないぞ」というプライドを持ち続けることです。まあいいやと思ってしまうと、そこで終わってしまう。次に顧客志向を身につけることです。評価するのは自分ではなく、顧客だということを決して忘れてはいけない。オタクでいい。でも世界に認められるオタクになること。そうすればエンジニア人生はずっと楽しくなりますよ。
森永卓郎氏

インタビューを終えて
実はこの取材、取材する側が大勢で押し掛けてしまい、多少、固い雰囲気の中で行われてしまいました。でもその雰囲気の中だからこそ(?)、漆原さんの「切れ味の鋭さ」はひしひしと伝わってきました。漆原さん自身も「最近、『切腹』というような『殺』につながるワードが多くてヤバイんだよね」というように、写真から伝わる穏やかそうな外見とは異なり、全くの戦闘系。やりたいことを実現するためにはやはり、「戦闘力」は必要なのでしょう。みなさんは「エンジニアの戦闘力」についてどう思われますか。(総研スタッフ/関洋子)

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