自動車業界が欲しがる技術はソフトから素材まで全分野

企業が求める経験、スキルを業界別に分析する企画の第二弾として、自動車業界の人材ニーズを伝えていく。実は「自分には関係のない業界」という人こそが要チェック。現在、自動車業界では、異業種からの転職を積極的に受け入れているという。

（取材・文／入倉由理子　総研スタッフ／宮みゆき　イラスト／Shu-Thang Grafix）作成日：05.05.11

　スカウトサービスに登録する際には、自らがもつ経験・スキルをスキルシート上でチェックする。企業側は登録している膨大な人材の中から、採用するポジションで必要な経験・スキルで求める人材を検索し、オファーを送信するという仕組みだ。果たして、自動車業界ではどんな経験・スキルで検索する企業が多いのだろうか？

　前提として、自動車業界では「メーカー経験のあるエンジニアであればどこかの会社で必ずニーズがある」といわれるほど採用ニーズが急騰していることを理解しておきたい。その背景には、自動車業界全体が変わらず活況を呈していることはもちろん、小型からSVR車に至るまで、各メーカーで多くの車種が展開され、それぞれモデルチェンジのサイクルも短くなっていることなどがある。

　さらに、自動車も家電と同様、ネット接続が一般化する時代がやってきた。より安全性、利便性を高めるための次世代開発にも積極的で、技術進化のスピードも速い。そうしたアグレッシブな状況から、「自動車業界＝機械系エンジニア」だけではなく、電気・電子、ソフトウェア、通信・ネットワーク、素材、半導体など、幅広いニーズが生まれている。

　まず、自動車のネット接続によりどのようなエンジニアの採用ニーズが生まれるのかを考えてみよう。
　通信衛星から渋滞情報や事故情報などを受信し、最適な道を選択するのは、既に当たり前のように行われている。さらには目的地に向かうまでの道のりで、店やレストラン、花見や紅葉などの情報を受信しガイドする機能が搭載されるのも、それほど遠い将来の話ではない。ネットと自動車の融合による新たな機能、サービス開発に各社がしのぎを削っているといえよう。

　これによって、通信・ネットワーク系エンジニアのニーズが多くなったのはいうまでもない。つい数年前まで、自動車はネットとは無縁だった。つまり、自社内に通信・ネットワーク系エンジニアを抱えておらず、無線LAN、モバイルコミュニケーションの経験をもつエンジニアに熱い視線が注がれているというわけだ。

　また、自動車のネット接続に必要な機器や組み込み型ソフトが搭載されるということであり、自動車業界の採用ニーズは、コンピュータ業界とも大きく重なりつつあるといえるだろう。

■ 通信機器開発経験
■ 組み込みソフトウェア開発経験

　ネット接続以外にも、車は次世代に向けて着実に進化している。例えば、車体へのカメラの搭載がそれである。
　車の後ろにカメラが付き、バックミラーの代わりの機能を果たす。駐車を苦手とする人には、とてもうれしい機能である。さらに車の前のランプの下にもカメラが付いて、車間距離を一定に保ったり、人を避けて走行したりする車も登場しつつある。

　この場合、デジタルカメラの開発を行っていたエンジニアのニーズは、当然生まれる。加えて、撮影した画像の情報を処理し、ブレーキやアクセルといった自動車を動作させる部品と連携させる電気・電子系回路のエンジニアも欠かせない存在となる。
　このように、機械、電気・電子のエンジニアでも、他業種からの採用は確実に増えているのだ。

■ カーオーディオ、
　　デジタルカメラ、コンピュータ
　　などハードウェアの開発経験
■ 電気・電子回路の開発経験

　次世代では、必要とされる素材系エンジニアの幅も広がっている。例えば、次世代の情報を表示するのはカーナビの画面だけではなく、フロントガラスそのものがモニターにできる技術の開発など。店情報や渋滞情報はもちろん、数百ｍ先にいる異物を検知し、その画像を映し出すようになり、フロントガラスは「ガラス」を超え、液晶パネルのような機能をもつ素材で作る必要がある。

　さらに、もともと、車1台に必要とされる部品の数は、約2万点といわれる。こうした機能の複雑化、高度化によって、搭載する部品の数は確実に増える。しかし、その中でも小型化・軽量化を実現しなければならないことから、素材系のエンジニアもますます必要とされるはずである。

　また、環境問題への配慮は、製造業の生命線となりつつあり、ハイブリッド車など環境に優しい車の開発競争も激しさを増している。化石燃料使用の低減に欠かせない燃料電池の開発経験は、すべての自動車会社が欲しがる「超・売れ筋スキル」といえるだろう。

■ 金属工学の基礎知識
■ 高分子化学、有機化学、
　　生化学に関する基礎知識
■ 車両用燃料の基礎知識
■ リチウムイオン電池、
　　燃料電池開発の実務経験

　　これまで述べてきたようなニーズは、カーナビのメーカーや素材メーカー、車の部品メーカーではもちろん、完成車メーカーでも同様のニーズがある。本来であれば、完成車メーカープロジェクトマネジャーはそうした取引先のメーカーの専門家をまとめ、一つの開発プロジェクトをプロデュースする役割を担う。もちろんその役割に変化はないが、全体の仕様を決めるにあたり、これまでのように機械系の知識だけでは到底対応できないほど、車の機能が高度化、複雑化してきている。社内においても、機械系だけでなく、素材、通信・ネットワーク、ソフトウェアに詳しい人材をそろえなければ、部品や素材メーカーとの交渉や、どの会社の商品を使うのがベストなのか、判断すらできない。そこで、自動車以外の他業種の専門知識をもつプロジェクトマネジャーやリーダー人材が必要とされてきているのだ。

　また、若手人材のニーズも高い。現在はまったくの異業種にいても、機械系や化学系、電子系の大学・大学院を卒業・修了している、家電や素材、通信・ネットワーク、ソフトウェア、コンピュータなどの業界での実務経験が2年以上など応募資格のハードルがそれほど高くないケースも多い。つまり、新卒で完成車メーカーへの入社がかなわず、家電や素材、通信・ネットワーク、ソフトウェア、コンピュータなどの業界に就職したという人にとっては、今、大きなチャンスだ。

　車が好き。これまで培ってきた経験・スキルを異業種で生かしたい。そんな人にとって、自動車業界は一つの選択肢であり、そこに飛び込むために越えなければならない垣根は、決して高くなさそうである。

■ 電気・電子工学に関する
　　基礎知識
■ 機械工学、機械力学に関する
　　基礎知識
■ 流体力学の基礎知識

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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ

相変わらず好調でエンジニアが引っ張りだこ、という状態が続く自動車業界。同業界だけでは人材が足らず、家電業界をはじめとしたモノづくり経験のあるエンジニア全域にそのスカウト市場が広がっているようです。クルマ好きのエンジニアのみなさん、ぜひスカウト登録で、憧れの次世代自動車開発に携わるチャンスを探ってみませんか？