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ネット界の異端児が語る「ぼくらのキャリア観」
ネットバブル崩壊後、淘汰の激しいネット業界。個人の人脈で情報の輪を繋ぐソーシャルネットサービスなど、新たなビジネスチャンスの萌芽も見えてきた。ネット業界で活躍する20代の若きリーダーたちのキャリア観とはどのようなものなのだろうか。
(取材・文/総研スタッフ 宮みゆき 撮影/平山諭) 作成日:05.02.16
楽天、ソフトバンクの野球界参入など、何かと話題の多いネット業界を、20代の若き経営者たちのネットベンチャーがさらに活気づけている。彼らが現在に至るまでの紆余曲折、幾度かの転職で得たキャリア観、将来のキャリアパスを、「リクナビNEXT エンジニア適職フェア」での公開座談会で語ってもらった。
 
ネット界の異端児たちのプロフィール
田中良和氏 (27歳)
山岸広太郎氏 (28歳)
田中弦氏 (28歳)
 前川孝雄
グリー株式会社
代表取締役社長
 
CNET Japan
前編集長
 
株式会社ネットエイジ
グループ 執行役員
チーフストラテジスト
聞き手・ナビゲーター
Tech総研 編集長
 
ネットバブル崩壊が生んだ新たなキャリアチャンス
 
―― まずは、山岸さんからこれまでの転職経験についてお聞かせください。  
(※以下、敬称略)

 
山岸: 私は99年に新卒で日経BP社に入社し、パソコン誌の編集を担当していましたが、2年目でインターネット事業開発に携わることになりました。当時のITバブルの波に乗り、インターネット事業にかなりの投資をしました。それが、2002年あたりからバブルが崩壊し、インターネット事業への投資を続ける状況じゃなくなってきたんです。僕はインターネットに関わる仕事がやりたかったので、これからどうしようかと思っていたところに、CNETの日本法人立ち上げのオファーが来ました。
   
―― そのオファーというのは、転職活動を始めたことで得られたのですか?
 
山岸: 日経BP社でインターネット事業開発の仕事をしていたときに、ネットベンチャーの集まりによく参加していたんです。狭い業界なので顔つなぎのためと、個人的な知的好奇心からです。ネット業界の人間に興味があって(笑)。そこで、CNET日本法人社長の御手洗氏に、日本法人立ち上げを手伝わないかと声をかけられました。仕事のなかで自然に生まれた縁でしたね。
 
山岸広太郎
<山岸 広太郎氏略歴>
日経BPを経て、2003年1月シーネットネットワークジャパン入社。編集長としてCNET Japan立ち上げに参画。2005年2月よりグリー株式会社入社。転職は今回で2回目。
インターネットに人生をかけている楽天社員が輝いて見えた
―― グリーの田中さんは、どんな転職をご経験されましたか?
 
田中良: 僕は新卒でインターネットサービスプロバイダの仕事に就きました。でも当時は、いつも何か胸にモヤモヤしたものを感じていて……。いい会社だとは思っていたのですが、結局その会社はすぐ辞めて、楽天に転職しました。ただ、こんなに早く転職していいのかと、かなり悩みましたね。
 
―― 田中さんの当時のモヤモヤとは何だったのですか?
 
田中良: 3ヶ月から半年間続いていましたが、何故モヤモヤしてたのか分からない状態でした。何を悩んでいるのかも分からない。でも、自分の目標としていたものと、漠然と当時の仕事が違うと感じてた気がします。そんな時、楽天に入社した友達から、社内の話を聞いたのですが、インターネットに人生をかけて仕事している社員がみな輝いて見えました。そのことが転職のきっかけでした。
 
―― 個人向けのサービスをやりたいと思ったのは、楽天に入ってからですか?
 
田中良: それは楽天に入る前から思っていました。楽天はショッピングなどのEC事業がを中心ですが、私は対個人向けサービスのブログやアフィリエイトなどを担当していました。それらを生かして自分で事業を行いたいと思い、2004年12月にグリー株式会社を設立しました。個人向けサービスのビジネスを行える、自分自身にもより心地よい環境、ポジションを作りたかったからです。
 
田中良和
<田中良和氏略歴>
大手メーカー系ISPを経て、2000年2月に楽天株式会社入社。ユーザ向けサービスの新サービスの立ち上げを担当。2004年12月、グリー株式会社を設立。独立前の転職経験は1回。
孫正義にインパクトを与え、喜んでもらいたい
田中弦
<田中弦氏略歴>
新卒でソフトバンクに入社後、動画配信システムの立ち上げに従事。1999年11月ネットイヤー・グループに転職。ネットビジネスのコンサルタントを経て、2001年10月より経営コンサルティング会社コーポレイトディレクションにて主に通信系クライアントを中心にコンサルティング業務を行う。2004年5月よりネットエイジグループ入社。転職経験は計4回。
―― ネットエイジの田中さんは転職を何度かご経験されていますが、そのなかで得られたエピソードなどお聞かせください。
 
田中弦: 僕は新卒でソフトバンクに入社し、ヤフー(立ち上げは別会社でしたが途中で合併ということになりました)。でストリーミング配信などを行うシステム開発・制作業務を担当していました。当時、孫正義さんと近い位置の部署にいて、いつも彼にどうやったらインパクトを与えられるか、役に立てる存在になれるかといったことばかり考えていました。
ネット業界で後発である世代の僕らが孫さんの役に立つ、もしくはインパクトを与えられるようになるにはどうしたらいいかと思い、ソフトバンクを辞めた後も、同じ気持ちで仕事をしていましたね。
 
―― 孫さんが仕事モチベーションの源になっていたのですね。
会社の中で自分のキャリアモデルが投影できる先輩・上司を見つけることがかなり困難と言われますが、田中さんが孫さんに出会えたことは単なるラッキーだったのでしょうか?
 
田中弦: ソフトバンクに入社しようと思ったのは、学生時代に、孫さんが「アメリカからヤフーをタイムマシン経営で連れてくる」というインタビュー記事を雑誌で読んだことがきっかけです。当時はインターネットに興味のある人以外はヤフーを知らなかった時代だったので、突拍子もないことをいう変な人だなと思いました。でも同時に、自分の目標にしたいと考えるようになり、それでソフトバンクに入社したんです。ささいなきっかけだったとは思いますが、本当にラッキーだったなと思います。孫さんは自分とは異質な人だけど尊敬できるし、彼にインパクトを与えて役に立ちたいと(笑)。
 
安定した高い給与水準を捨てるのは怖かった
―― 山岸さんは転職を通じて自身の相場観や、キャリアに対する自信などが変わっていきましたか?
 
山岸: これまで2つの会社を経験しましたが、年齢の割には給料をもらっていたと思います。これからもその報酬を得る自信がありますし、それだけの価値を生み出する自信もあります。これまでの会社でやってきた実績もありますが、会社を辞めたときにいくつかオファーをもらい、そのことを感じました。
 
山岸広太郎 ただ、決して最初から自信だけがあったわけではなく、初めの転職の時はこの安定した高い給与水準を維持できるかという不安も大きかったです。結局、ネットをやりたいという気持ちが勝ち、CNETに移りましたが、最初の3カ月くらいは仕事が思ったほどうまく行かなくて、毎日、夜2時に寝て4時に起きてしまうという2時間睡眠の日々が続きました。でも、もうそこでがんばるしかないという状況に追い込まれたおかげで、今の道が開けたんだと思います。
自分の選択が100%正しいなんてことは絶対ない
―― 田中さんは、楽天から独立されたばかりですが、いかがですか?
 
田中良: 絶対100%成功する自信があるかと言われると、それはわかりません。ただ、楽天がネットでショッピングモールをはじめようとしたときも、当初は成功するはずがないといわれながら成功を収めました。あれこれ可能性を論じるより、まずは自分がいいと思うことを、できる範囲内でやってみるのが重要だと思っています。

転職するときに周りの言うことだけを聞いていたら何もできないし、自分と違うものや経験していないものに対して他人はだいたい否定的なものです。自信があるからやるのではなく、やりたいとこをまずはやってみる。やってみないとわからないからやるという感じです。
田中良和
「仕事の量」が「質と信用」に転換する
―― ネットエイジの田中さんは、4回の転職経験を経てキャリアに対する自信はどう変わりましたか?
 
田中弦: 私も自信がそんなにあるわけではないですね。全然違う仕事のコンサルティング会社に転職したときも、不安でいっぱいでした。アイディアを考えることが得意だと思っていた自信がもろくも崩れさるくらい、2時間しか寝ないで作ったパワーポイントもぼろくそにけなされましたね。
そのとき先輩に言われたのが「とにかく量をこなして覚えろ、量をこなすことが仕事の質を変えるから」ということでした。それで、この先輩に認めてもらえれば、その先のお客さんにもきっと受け入れてもらえるから頑張ろう、そのために一生懸命仕事をこなそう、そのことがきっと僕の信用にも繋がっていくんだと思って頑張りました。
 
田中弦
―― なぜそんなにがむしゃらになれるのか不思議なのですが、その源泉は何ですか?
 
田中弦: 単純にお客さんや先輩が喜ぶ顔を見たいといった気持ちです。相手が感動したときの顔を見るがうれしいという「奉仕」の喜びなのでしょうね。
 
もし一緒に働くとしたらどんな仲間と働きたい?
 
編集長 前川孝雄
―― では、次にもし転職するとしたらどんな会社で働きたいですか?
 
山岸: 組織力があって、平均年齢が若い会社で働きたいですね。優秀で若い仲間たちが創る会社は成長力があり、エネルギーも感じます。そういう会社では自身の成長も実感できますから。
ベンチャーは、任される責任範囲の広さから労働時間も長く、プライベートや新しい知見を生み出す時間の捻出が困難といわれますが、たしかに新しいことを勉強する余裕がなくなるのは事実です。ただ仕事をこなしているだけは改善しないので、 他の人に振り分けたり、朝の時間を利用したり、工夫して時間を作り出す努力をしています。
 
田中良: 楽天では活気があふれ、雰囲気もよく成長している会社ならではの幸せがありました。
ある日「コミュニティサービスを作るからよろしくね」って言われたことがあります。「何を作るんですか?」って聞いたら、「それは田中君が考えるんだよ」って(笑)。それから必死でプログラムを勉強しました。自分はエンジニアじゃないのに、サイト構築っていうひとつのチャンスを手に入れていたんです。成長している会社でないとそのチャンスもありません。仕事を押しつけられものだとか、与えられるのを待つものだと思ったらだめですね。それを野球の打席に立てるチャンスにたとえると分かりやすいかもしれません。

 
田中弦: 成熟期を迎えている会社でも、成長している会社でも、会社のビジョン、目標に向かって全員の熱意が向かっている組織が好きです。そのような組織でしたら、どんなことがあってもそこに一丸となって突き進んでやり遂げる達成感もあります。役割を職種だけで切り分けるだけでなく、できることをやればいい。それが実現できる会社に行きたいですね。エンジニアが企画を立てて、自ら売り込んでもいいと思ってます。
 
―― 変化の速いネット業界ですが、みなさんの5年後、10年後のキャリアビジョンをお聞かせください

山岸: ビジネスをやるために、専門性の軸だけでは人脈面、金銭面でも弱い。好きなことできる自由を手に入れるために決定権を持つポジションで働きたい。そのためのマネジメント能力を磨きたいと思います。
 
写真
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田中良: 1年後も何をやっているかわからないですね。だから10年後もわからない。崖を登ったその先の意味を考えて登るかを選ぶのではなく、とりあえず崖を登らなければその先は分からない。登ったら突然視野が広がり、登る前には想像できなかった次が見えてくるんじゃないかと思ってます。

つまり、長期的なビジョンも重要ですが、目先の課題を1つ1つやることで視野を広げて考えたい。お金のことも考えつつ 自分のやりたいことをつきつめていきたいです。誰かに価値を提供するには、まずはやれる事を相手にわからせないとそれは単なるわがままになります。困難な崖をひとつひとつ乗り越えることで、それを伝えていきたいと思います。

 
田中弦: 経営をするという立場になると、みんなを食べさせていかなきゃという責任を感じます。今後は、自分がこれまで培った知識や経験などを、伝承していくことで、後輩や組織を育てていきたい。
チームでやればつらくないですし、そのつらさや楽しさもチームであれば共有できますし、人を育てることで、自身の仕事範囲を広げることも可能ですから。
 
エンジニアへのメッセージ
山  岸: 転職を悩んだときによく浮かぶのが、「今の会社の待遇がいいから辞めないほうがいいんじゃないか」ということです。ですが、それが果たして永続性のある待遇なのかを考えて、今やりたいことをできる環境で、自分のできる能力を身につけることが大切なのではないかと思います。
 
田中良: インターネット業界でよく聞く言葉に「何かを得るためには、今いるところを去らなければならない」というのがあります。どこかを去ることは、何かを失うようでのは怖いことですが、どこかに出発したいのであれば、必ず必要なことなのです。
 
田中弦: 転職は得るものも、失うものも大きいですが、環境を変えて経験を重ねていかないと成長しないこともあります。田中(良)氏も言っていましたが、高い崖は越えたらきっと必ず楽しいはずですから。
 
編集長 前川孝雄
 
対談を終えて

対談前に抱いていた私の期待は、大きく裏切られました。
IT業界の次代を担う彼らの自己に対する自信の源泉は何なのか?。それを紐解くことで、将来のキャリアを模索する読者の方々への示唆が生まれると踏んでいました。
ところが、3人が3人とも口を揃えて「自信はない」と。むしろ挑戦することの不安や恐怖への感受性の鋭さは、尋常ではありませんでした。
「不安だからこそ、怖いからこそ、挑まずにはいられない。その不安を潰したら、また新たな不安が現れ、全身全霊を傾けていく」。もともと明確なキャリアビジョンとそこに至る地図を持たれていたわけでもありません。その挑戦を繰り返すなかで、知らず知らず自分の立ち位置を築かれたように感じました。
そして、不安に挑むことのなかでも、始めの第一歩こそが、最大の難関であることも教えていただいた気がします。
                                       Tech総研 編集長 前川孝雄

 
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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る

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  宮みゆき(総研スタッフ)からメッセージ  
宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
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今回の対談は、2005年1月末に行われたリクルートのエンジニア適職フェアで特別セミナーとして行われたものです。新たなネットサービス創りのために果敢に「挑戦」を繰り返している彼らは、「怖いもの知らず」なわけではなく失敗を恐れないだけ。何事もやってみなければ結果はわからない。当たり前なのですが、結構大切なことに気づかされました。
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