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世界一に挑むエンジニアの現場 これが最小・最大・最速の技術だ!
(写真提供/(財)鉄道総合技術研究所)
何かを「作る」ことこそ、エンジニアの仕事。であればこそ、これまでの殻を打ち破る、
「ナンバーワン」「オンリーワン」のものを「創り出す」のは究極の理想。
そんな「最小・最大・最速」を生み出したR&Dの現場を訪ねた。
(文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの) 作成日:04.03.03
 
"Best""Most"へのさまざまな道のり
 
    「より大きく」「より小さく」「より速く」「より〜」……これらは常に追い求められる技術テーマ。工業製品の広告を見ても「世界最軽量」「超薄型」などのうたい文句は、最も目を引くポイントでもある。
 こうした「より〜」は、もちろん、従来の技術の延長線上でコツコツと改良を積み重ねて得られることもある。それとは違って、従来の技術に限界が見え、思いもよらなかった新しい技術やアイデアで突破口が開かれることもある。
 国内外、さまざまな企業や研究機関がしのぎを削る開発競争のなか、ここ日本でもいくつもの「世界最高」が生み出されていく。それらはどのようなアイデア、どのような努力で誕生してきたのだろうか。

 
Part1「最小」の技術 約8.9g――空飛ぶマイクロロボット「μFR」(セイコーエプソン)
http://www.epson.co.jp/osirase/2003/031117.htm

空間を機能化するマイクロロボット
   手のひらにちょこんとのっかる、小さな小さな「ロボット」。そこで目を引くのは、何といっても、上部の大きな二重反転式のローター(回転翼)。
 その大きさは、高さ約70mm、ローターの直径が約130mm。“小さい”だけなら、今の世の中にはさらに極小のロボットもある。しかし、「空を飛ぶ」――もちろん、単に浮かび上がるだけでなく、きちんと空中で姿勢制御を行う機能をもったものでは世界最小。それが、(株)セイコーエプソンが2003年11月に発表した、「μFR(マイクロ・フライング・ロボット)」である。
世界最高のパワーウエートレシオ(出力重量比)を持つ2つの超薄型超音波モーターでローターを回して浮上。BT(ブルートゥース)による無線通信ユニットや姿勢センサーを搭載、重心移動によって空中での姿勢制御を行う。
「動力源は新開発の超音波アクチュエーター。通常の磁力モーターとは違い、超音波の振動によって動く超薄型モーターで、小さなところで有利。しかし、これがちゃんと動いて、ちゃんと力を発揮するかどうか。それが難しかった」
 と「μFR」の生みの親、同社ビジネス開拓企画部グループリーダー、宮澤修氏は語る。
 
究極の目標は「トンボ」
 
     もともとセイコーエプソンは、マイクロメカトロニクス技術をベースに、1993年には「世界最小のマイクロロボット」としてギネスブックに登録された、体積1cm3の「ムッシュ」を開発・発売した実績をもつ。

「ロボットは『人ができないことをする』ところに意味があると考えています。例えば、人が行けない狭いところや高いところにも行けることですね」(宮澤氏)。
「μFR」開発のきっかけは、「ムッシュ」の技術をさらに発展させ、平面だけでなく、空間で何かさせる――例えば空間に「目」をもたせるなど、空間の機能化の可能性を拓くところにあったという。

「私が、特に小型の飛行体としての理想と思っているのがトンボ。あれだけの大きさで、滑空やホバリング(空中停止)ができるなど、機動性は抜群。人に危害を加えない“小ささ”で、風まかせになってしまわない“大きさ”をもつというバランスの点でも、目標にしたいものです。
 今後の問題はエネルギー源ですね。将来は、小型の燃料電池などが実現できれば、何時間でも自律的に活動できる飛行ロボットも作ってみたいと思っています」(宮澤氏)
 
 
こんな「最小」技術も!    
100万分の1g 世界最小の歯車(樹研工業)
  極小の樹脂製歯車メーカーとして世界で高い評価を受ける(株)樹研工業が、100万分の1g、直径0.149mmの歯車を製作。これまで世界最小だった、同社の10万分の1gの歯車をさらに1ケタ縮小、名づけて「パウダーギア」。
http://www.juken.com/
 
直径0.85インチ 超小型ハードディスク(東芝)
  (株)東芝は今年1月、直径が0.85インチ(2.2cm)の超小型ハードディスクを公開。モバイル機器搭載用途がターゲット。現行の超小型HDD主力の1.8インチ型の約4分の1の面積。他社製1インチ型よりもひと回り小さい。
http://www.toshiba.co.jp/
about/press/2004_01/
pr_j0801.htm
 
直径約85nm 世界最小の温度計(物質・材料研究機構 物質研究所)
  同研究所の超微細構造研究グループディレクター、板東義雄氏が発明した「カーボンナノ温度計」はギネスブックにも「世界最小の温度計」として掲載。直径約85nmのカーボンナノチューブの中の液体ガリウムが温度変化を示す。
http://www.nanonet.go.jp/
japanese/mailmag/2003/
019a.html
 

Part2「最大」の技術 1TB――大容量・高速光ディスク、駆動装置(オプトウエア)
http://www.optware.co.jp/tech.htm

データの3次元的記録で、限界を突破
   デジタル世界の記憶装置は、ますます大容量化の道をひたすらに歩んでいる。そんな「大容量」の外部記憶装置(ストレージ)の現在の代表選手といえば光ディスクだが、従来のものの容量は、最大でも20〜50GB(ギガバイト)。しかし、小さく見積もってもその20倍以上という、1TB(テラバイト)を超す新しい光ディスク装置、「HVD(Holographic Versatile Disc)」を開発しているのが、ホログラム技術をベースに設立されたベンチャー企業、(株)オプトウエアである。
世界最大容量を目指す超高速光ディスクシステム「HVD (Holographic Versatile Disc)」のディスク。従来のCD、DVDの資産を有効に利用するため、直径は12cmを採用している。
 それにしてもなぜ、突然ここまでケタ違いの容量が可能になるのだろうか。
「通常の光ディスクはデータをビット単位で平面上に配置するだけ。配置を細かくしても、そこにはおのずと限界があります。それに対して、ホログラフィック記録は、デジタル情報をあらかじめ2次元化して1枚のページデータとし、それを一度に体積的、すなわち3次元的に記録するわけです」(同社代表取締役社長兼CEO 青木芳夫氏)
 
「世界にないものを作るのが最高の喜び」
 
     実はこの技術、次世代のストレージとして、既に提唱以来約40年、海外でも日本でも研究が行われてきたにもかかわらず、実用化に至っていなかったものでもある。

「大容量のデータ蓄積ができることだけは、はっきりしていた。しかし問題は、ホログラムの読み書きに、信号光と参照光の2方向の光を当て、干渉縞を作らねばならなかった点。このため光学系は複雑になり、しかもストレージとして重要なサーボ情報やアドレス情報をディスク上にのせることができませんでした」(青木氏)
 それを解決したのが、同社独自の「偏光コリニアホログラム記録再生方式」とよばれるもの。信号光と参照光を同軸配置することで光学系を簡素化し、さらにサーボやアドレスの技術は従来の光ディスクのものを応用できるようにしたのである。「HVD」は、まずは放送局・医療などの業務用分野でのアーカイブ用途などで、2005年夏にまずは容量200GBで商品化の予定である。

 実は青木社長は、かつてソニーに在籍、MOの世界初の商品化に成功した実績の持ち主。
「世界にこれまでなかったものを作るというのは、エンジニアにとって最高の喜び。そんな開発に、エンジニア人生のうちに2度もかかわることができた私は幸せ者です」
 
 
こんな「最大」技術も!  
対角51cm(20型) アモルファスシリコンTFT駆動による世界最大有機ELディスプレイ(インターナショナル ディスプレイ テクノロジー)
  インターナショナル・ディスプレイ・テクノロジー(株)(台湾CMO社と日本IBMの出資による合弁会社)がスイス、米国、日本のIBM基礎研究所、およびCMOとの共同で開発。2003年3月発表。
http://www.idtech.co.jp/ja/news/press/
20030312.html
 
30cm×10cm 世界最大級の超電導膜(産業技術総合研究所)
  2003年5月、産総研の物質プロセス研究部門無機固体化学グループ、熊谷俊弥研究グループ長、真部高明主任研究員らは、世界最大級(30cm×10cm)の酸化物高温超電導体(YBa2Cu3O7)膜の作製に成功と発表。
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/
pr2003/pr20030508/pr20030508.html
 

Part3「最速」の技術 581km/h――リニアモーターカーの有人走行(鉄道総合技術研究所、JR東海)
http://www.rtri.or.jp/press/h15/dec02_2.pdf

従来の鉄道の常識を破る“浮上式”
   子供のころ、車や、飛行機や、鉄道などの乗り物に心ときめかせていた、という人は多いはず。なかでも、圧倒的なスピードを発揮する車種・機種は、ますます人気の的。
 さて、特に鉄道の中で“速い”といえば、私たち日本人にとっては新幹線だが、その速度は(営業運転で)時速300kmほど。昨年12月2日、その約2倍、有人走行で時速581kmの記録を打ち立てたのが、JR東海と(財)鉄道総合技術研究所によって次世代の新幹線として開発・実験が行われている、リニアモーターカー(山梨リニア実験線)である。
2003年12月2日、有人走行最高速を記録した瞬間。このときの編成は3両、13時28分、13時54分の2回、時速581kmを記録した。レールとの摩擦を生まない浮上式であればこそ実現できた「時速500km以上」である。
 1997年の山梨実験線での走行試験開始以降、99年4月に有人走行で時速552kmを達成してギネスブックに認定されたのをはじめ、今回の記録の前月(2003年11月)に有人走行で時速570km、無人走行で時速579kmと記録を更新、そしてさらに今回の時速581kmと記録を伸ばしてきた。もちろんこれは、リニアモーターカーとして現時点での世界最速である。
 
「東京−大阪を1時間で!」
 
    「もともと中央新幹線として予定されているリニアですが、この中央新幹線の営業距離が、東京−大阪間、およそ500kmと想定されています。われわれの希望としては、この2大都市を1時間で結びたい。そこで、営業運転時速500kmを実現するため、その技術の安全性・信頼性なども確立する意味で、当初、時速550kmを目標に開発を進めてきたんです」(鉄道総合技術研究所 浮上式鉄道開発本部計画部計画課長 武藤雅威氏)

 当初の時速550kmという目標は前述のように実験開始早々に達成できたが、その後の研究により、より効率のいい変電設備ができ、車両の細かな改良もなされたことから、記録更新の気運が高まってきた。それが、今回の「時速581km」につながったという。

「超電導磁石という新しい技術を、常に動的環境で使うというのはリニアだけ。しかし、速度の目標はクリアし、安定性、信頼性、耐久性という面でも、累積走行距離が33万km以上にもなるこれまでの実験で、ほぼ確認できていると思います。けれど、常に挑戦を繰り返すことが、リニアを組み上げるための個々の技術をより進歩させることになる。中央新幹線実現には建設コストなどまだ課題は多いのですが、いつか、これを営業線として実現したいですね」(武藤氏)
 
 
こんな「最速」技術も!  
400km/h 最速の電気自動車「Eliica(エリーカ)」(慶應義塾大学電気自動車研究室)
  環境情報学部の清水浩教授を中心とした研究グループが、時速312kmを記録した「KAZ(カズ)」の後継モデルとして開発。2003年11月の東京モーターショーに出品、2004年春の走行テストで電気自動車の最高時速400kmを目指す。
http://www.keio.ac.jp/news/031105_2.html
 
48Tflops 最速の天文シミュレーション用超並列計算機「GRAPE-6」(東京大学大学院理学系研究科)
  2003年3月完成。48Tflops (1秒間に48兆回演算)のピーク性能は、汎用計算機として世界最高の計算速度「地球シミュレータ」(海洋科学技術研究所)の40Tflops を上回り、天文シミュレーション専用ながら、世界最高速の計算機。
http://grape.astron.s.u-tokyo.ac.jp/pub/people/
makino/press/2002-symposium.html
 

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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
 他者との競争に勝利した者が「世界一」の称号を手にし、惜しくも敗れた者は首位奪回を目指す。その繰り返しによって技術は進歩していく。……そう考えることもできます。しかし、3つの「世界最高」に競争相手の影は薄く、「ライバルは自分自身」「目指すのは自分の描く理想」という共通性が感じられました。
 これと決めた仕事だからこそ発揮できる「自分に厳しくなれる力」が、技術の限界を打ち破っていくのかもしれません。

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