サービス残業は当たり前じゃない?違法となる理由・減らす対策を解説

残業したのに残業代が支払われない。これってビジネス社会では当たり前のこと?――そんなふうにモヤモヤしているビジネスパーソンもいるのではないでしょうか。「サービス残業」の定義や違法性、サービス残業を減らす方法、サービス残業を当たり前にしない対策について、社会保険労務士・岡佳伸さん監修のもと解説します。

サービス残業するビジネスパーソン
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サービス残業とは?

サービス残業とは「賃金不払残業」を指します。法定労働時間は1日8時間・週40時間と定められており、それを超える労働については割増賃金が支払われます。法定労働時間を超えているにも関わらず割増賃金が支払われない労働を俗称として「サービス残業」といいます。略して「サビ残」と呼ばれることもあります。

サービス残業が違法となる理由

サービス残業は、「労働基準法違反」に該当します。時間外労働に対する割増賃金の未払いは、労働基準法37条に違反する行為です。使用者が違反した場合、労働基準法第119条に基づき、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。

サービス残業に陥りやすい要因

サービス残業に陥りやすい要因として、企業側が人件費を抑制するため、意図的に従業員に時間外労働を求めるケースが多く見られます。

一方、意図的でなくても、勤怠管理の機能が不十分で、従業員の勤務実態を把握できていないケースも多々あります。

また、上司や同僚に気を使って残業したり、残業を申請しづらい雰囲気があったりと、職場の風土も要因の一つとなっています。

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サービス残業の実態

厚生労働省は毎年、賃金不払が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果を公表しています。

令和4年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は以下のとおりです。

  • 件数/2万531 件
  • 調査対象労働者数/17万9643 人
  • 金額/121億2316 万円
  • 調査期間(令和4年1月から令和4年12月まで)

出典:厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)

サービス残業の件数は平成30年頃にピークに達し、過労死が問題視されたことから徐々に減少していきました。近年の「働き方改革」の取り組みに伴い、以前より減っています。しかしながら、勤務時間を虚偽申告し、サービス残業が行われている事例はまだまだ見られます。

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サービス残業を減らす方法

現状、サービス残業を強いられている人がサービス残業を減らすためには、どのように対処すればいいのか。いくつかの方法をお伝えしますので、ご自身の状況に合わせて行動してみてはいかがでしょうか。

残業の必要性を確認する

終業時間が近くなってから業務の指示を受けた場合、サービス残業で対応している方も多いと思います。

このような場合、指示を受けた際に「これは今日やらなければならない仕事でしょうか」「今日中にこの仕事を終わらせようとすると時間外労働になりますが、よろしいでしょうか」と確認をとる習慣をつけましょう。

そうすれば上司もサービス残業の発生を認識し、「明日でかまわない」「○日に間に合わせればいい」といったように回避を図ってくれる可能性があります。

人事部・経営層に相談する

上司からサービス残業を強要され、断ることが難しい状況であれば、人事部、あるいはさらに上の上長や経営層に相談しましょう。現場の業務遂行を最優先で考える直属上司と比較すると、法令順守に対する意識が高いと考えられますので、改善に向けて動いてもらえることが期待できます。

組合・労働基準監督署に相談する

人事部や上長に相談しても改善の姿勢が見られない場合、労働組合があれば、組合に相談するのも一つの手です。同じ悩みを持つ従業員と団結して会社側との交渉に臨めば、改善される可能性があります。

それでも解決できない場合は、労働基準監督署の労働基準監督官や労働局や労働基準監督署内に設置されている労働局の総合労働相談コーナーに相談しましょう。この場合、サービス残業の実態を示す証拠を提出する必要があります。勤怠記録、残業時間の記録を残しておきましょう。

サービス残業を当たり前にしないための対策

サービス残業は、職場の習慣によって常態化してしまうこともあれば予防することもできます。サービス残業をして当たり前の空気を作らないように、以下の行動を心がけてください。

勤怠の記録を正確につける

会社の勤怠管理が不十分である場合、自身で始業・終業時刻を正確に記録しておきましょう。そのうえで、時間外労働が発生しそうなときには上司に申請し、業務スケジュールの調整を相談してください。

なお、夕方以降の残業ではなく、始業時間より早く出社して仕事を始めた場合も、時間外労働の申告の必要があります。従業員が自主的に働いたとしても、労働時間の規定違反となれば会社は罰則を受ける可能性がありますので注意が必要です。

サービス残業を疑われるような行動はなるべく避けましょう。例えば、「満員電車を避けるため朝早く出勤する」「夜、飲み会に参加するまでの時間を会社で潰す」といったこともあると思います。

業務を行わない状態で会社のオフィスにいるとしても、「この時間は個人の勉強にあてていた」など、履歴を残しておくことが重要です。

残業申請は、時間の見積もりに余裕を持たせる

例えば、上司から急ぎの仕事を依頼されたとき、「どれくらいかかるか」と聞かれ、「1時間もあればできると思います」と答えたものの、実際には2時間かかってしまったということもありがちです。この場合、予測を超えた時間がサービス残業となってしまうケースもあるでしょう。

業務にかかる時間を見積もる際には「最短」ではなく、ある程度の余裕を持たせた方が労働時間超過の削減・予防につながります。特に時間外労働に際して事前申請が必要な職場であれば、余裕を持って申請するようにしましょう。

普段から「自分はこの作業にどれくらいの時間がかかるのか」を意識して計測し、把握しておくことをおすすめします。

社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡佳伸氏社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 岡 佳伸氏

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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