仕事のコミュニケーションが苦手な人の特徴と克服方法【プロが伝授】

「職場のコミュニケーションが苦手」「お客様との会話がかみ合わない」など、仕事シーンでのコミュニケーションになるとうまくいかないと悩む人は少なくありません。プライベートでは問題ないのに、なぜ仕事ではうまくコミュニケーションが取れなくなってしまうのか。仕事をスムーズに進めるための対処法について、コミュニケーション総合研究所代表理事の松橋良紀さんに話を伺いました。

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仕事のコミュニケーションが苦手な人の特徴

仕事をスムーズに進めるためには、周りの人とのコミュニケーションは必要不可欠となります。とはいえ、コミュニケーションの悩みは人それぞれ。「上司がいつも無茶ぶりをしてきてしんどい」「同僚から、情報共有が遅いと指摘される」「会議の場でも、なかなか自分から意見を伝えられない」など、仕事場面でのコミュニケーションの悩みは尽きません。

では、そもそも「仕事のコミュニケーションがうまくいかない」とはどういう状態なのか。多くの場合、「アサーション」がうまくできないことが理由にあります。

コミュニケーションを円滑に進める「アサーション」

アサーションとは、「さわやかな自己主張」という意味で訳されている言葉です。「相手と対等な立場に立ち、自己主張をするためのコミュニケーション方法」を指します。相手の意見や主張を否定して無理やり意見を押し通そうというのではなく、相手の価値観を尊重した上で、自分の意見を言葉にしていくコミュニケーションスキルのことです。

例えば、上司から「明日までにこの資料をまとめておいて」など、無理な仕事をお願いされたとしましょう。アサーションがうまくできると、自己主張しつつも相手との折衷案を探していくことができます。

「今日は残業できないのですが、明日午前中早めでの対応でも間に合うようでしたら、11時までに仕上げます」「今日これから30分は時間が作れるので、そこでできる範囲でも良いですか」など、自分ができる対応の範囲を主張しながら交渉ができます。

しかし、強く言われると断れなくなり、我慢して残業する人は多いです。自己主張を言葉にできないことで不満がたまり、「上司がわかってくれない」「自分にばかり無理を押し付ける」と感じ、関係がギクシャクすることにつながってしまうのです。

では、うまく自己主張ができない理由には何があるのでしょうか。コミュニケーションに対する苦手意識には、「自己肯定感の低さ」が大きく影響しています。

コミュニケーションが苦手な人の背景にある、自己肯定感の低さ

自分の意見を的確に言葉にできず、無理難題も我慢して受け入れてしまう──そのように相手に対して従順的に接する人の多くは自己肯定感が低いです。「自分には価値がない」「自分の意見は重要ではない」という思い込みが邪魔をしてしまうのです。

自己肯定感が低いと、相手の顔色や反応を伺い、「自分がどう思われているのか」に常に関心を割くことになります。“自分が価値のない存在であることがバレないように”と、低く評価されるのを怖がるがゆえに、昇進を断ったり、責任あるポジションに就いたりするのを嫌がる人もいます。

従順的な人とは真逆のタイプとして、反抗的パターンでコミュニケーションを取る人もいます。例えば、マウントをとって勝ち負けにこだわる、周りからの批判や指摘を受け入れずに逆ギレするなどのタイプです。

このタイプは、自分のすごさを相手に見せつけておかなければ「自分が価値ない存在だということがバレしてしまう」という不安があり、常に安心できません。また、態度もこのタイプは威圧的なため、「あの人、苦手です」と敬遠されてしまうことも多いです。

従順的パターンと反抗的パターンは、まったく違う人のように見えますが、実は自己肯定感の低さでは共通しています。

「自分には価値がない」「本当は大した人間ではない」という思い込みが、両極端の反応となっているだけです。相手と対等な立場で自己主張をし合うアサーションのスキルを、うまく使うことができません。必要以上に我慢してしまうか、あるいは必要以上に自分の存在価値を誇示することで、相手をコントロールしようとしてしまうのです。

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仕事のコミュニケーションが苦手だと生じるデメリット

アサーションスキルが足りず、自分の意見をうまく言葉にできないままでいると、仕事上どのようなデメリットが生じてしまうのでしょうか。

オフィスで雑談するビジネスパーソン
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仕事に必要な情報が入らず、チーム内で孤立してしまう

従順的パターンの人は、周りの主張や指示を我慢しながらも受け入れてしまうため、周りも「あの人には丁寧に背景を説明しなくてもいいよ」「理解してくれるから情報を共有はしなくて大丈夫でしょ」と軽く扱われやすいです。

反抗的パターンの人は、周りを力で説得させようと威圧的なコミュニケーションを取るために、周囲が委縮し、報告・連絡・相談を避けるようになります。いずれも仕事上での必要な情報が入ってこないタイプです。

上司から評価を得にくい

仕事を円滑に進めるには、自分の意見や現状を周りに伝え、実現可能な業務量やスケジュールなどをすり合わせていく必要があります。

無理だとわかっていても断れない人は、結果として「キャパシティオーバーで仕事が終わらない」などの事態を招きます。引き受けた仕事ができていないと、低評価につながってしまうでしょう。実は人よりも仕事をこなしているのにも関わらず、理不尽な扱いを受けることが多いのです。

顧客の信頼が得られない

的確なアサーション力は、お客様との仕事においても欠かせません。言うべきことが言えないことで、「求める情報提供がない」と信頼を損ねてしまう可能性もあります。

また、自分のすごさや力を知らしめるような反抗的パターンのコミュニケーションの場合、「自分の話ばかりしている」「こちらの思いを聞いてくれない」と不満につながってしまうでしょう。

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仕事のコミュニケーション苦手を克服する方法

自己肯定感の低さからくる苦手意識は、体に刻み込まれた反応ともいえます。時間とエネルギーが必要ですが、「なぜ自分に自信が持てないのか」「自分には価値がないと感じてしまうのか」という根本的な問いに向き合うことが、苦手を克服する方法の一つでしょう。

自分の性格特性がどうやって形成されたのかを探求していくと、幼少期の出来事までさかのぼることになります。多くの場合で、両親や周りの大人の言動、自分に向けられた言葉や態度などが影響しているため、カウンセラーなどの専門家とともに振り返り、自分の特性を理解していくことをおすすめします。

一方で、明日からでも、周りとスムーズなコミュニケーションを取りたいという方も多いでしょう。そこでおすすめしたいのが、相手のペースに合わせる「ペーシング」です。3つの観点からご紹介します。

言葉のペーシング

相手が使っている言葉をそのまま使います。例えば「先日は、〇〇があってね…」と相手が話せば、こちらも「〇〇があったんですか!」と返します。きちんと話を聞いているという安心感により、心を開いてくれるようになります。

声のペーシング

相手の話すテンポに合わせて相づちを打ったり、同じテンポで話したりします。また相手の声の高さや、声のボリュームに合わせて話すことで、「息が合う」感覚を作り出すことができます。

身体表現(ボディーランゲージ)のペーシング

相手の姿勢や振る舞いを真似ることで、安心感を生み出します。お茶を飲むタイミングを合わせたり、呼吸のリズムを合わせたりするのも効果的です。

ただ、呼吸を合わせると言っても難しいので、私は「あごの動きを合わせる」ことをおすすめしています。相手があごを大きく振るのなら、こちらも振るなど、動きを合わせていくと、自然に呼吸が合い、話すリズムや声のテンポも合っていきます。

相手が「この人とは息が合って、信頼できる」と思ってくれれば、大事な話を自分からしてくれたり、提案に耳を傾けてくれたり、仕事を任せてくれるようになるでしょう。

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まとめ:仕事でのコミュニケーションの苦手意識を克服しよう

自分の根本にある“苦手意識”に向き合うことは、過去の痛みに向き合うことでもあります。大変なプロセスではありますが、「自分には価値がない」という思い込みが消えることで、周りとのコミュニケーションは大きく変化していくでしょう。

コミュニケーションのベースは「聞く」ことにあります。相手の意図や考えを勝手に判断することなく、まずは相手の話を引き出すことが欠かせません。ペーシングのテクニックをうまく活用しながら、毎日のコミュニケーションを克服していってほしいと思っています。

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コミュニケーション総合研究所代表理事 松橋 良紀(まつはし・よしのり)氏

松橋良紀さん一般社団法人日本聴き方協会代表理事。対人関係が激変するコミュニケーション改善の専門家。高校卒業後に青森から上京して営業職に就くが、3年以上も売れずに借金まみれになりクビ寸前になる。30才で心理学を学ぶと、たった1カ月で全国430人中1位の成績に。営業16年間で、約1万件を超える対面営業と多くの社員研修を経験する。2007年にコミュニケーション総合研究所を設立。約30冊で累計45万部を超えるベストセラー作家としても活躍。「コミュニケーションで悩む人をゼロにする!」を合言葉に奮闘中。最新刊『聞き方の一流、二流、三流』の他、『「売れる営業」がやっていること 「売れない営業」がやらかしていること』『仕事ができる人のうまい「頼み方」』『すごい雑談力』など多数執筆

取材・文:田中瑠子 編集:馬場美由紀
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